In case of Fir
日本。
――いいかい、フィア。
神戸市。
――1週間、これ以上は私には無理だ。
町。
――すまない。迎えをよこす。
シティ・ベルリン所属空中戦艦『ジークフリード』。
その中のひときわ大きな部屋に、数台の端末と40本の培養槽が並んでいる。
少女は、一番前の列、左から数えて4番目の培養槽の中にいた。
さっきまで鳴っていた警報は、迎えの人が来た事を示している。研究員たちはさっさと部屋から出ていってしまい、今は少女ひとりだ。
否。正確には、40人いる。だが、『人』ではない。より正確な表現をすると、こうなるだろう。「1人と、39脳」。
ふいに、隣の部屋で爆発音がした。
爆音からしばらくして、誰かが部屋に入ってきた。
培養槽の中の少女は足音のほうを見るが、ガラスが霜に覆われていて影しか見えない。
「ふう、これでよし」
聞こえた声は、意外と高かった。女性かもしれない。
(姉さんたち)
心の中で、39の脳――体を持つことが許されなかった自分の姉妹に話しかける。
「ってことは、どれかが4番だね」
(姉さんたち、お迎えの人がきました)
「……脳?」
「これ、生きてる。――I-ブレイン」
(私は先に行って、姉さんたちが死なないように、がんばります)
足音が近づいてくる。
「ってことは、4番っていうのも……」
少女は目を瞑る。
(姉さんたち。さようなら――いってきます)
そして、目を開く。
大きな、黒い瞳と、目が合った。
同い年くらいの少年だ。驚いた。嬉しい。色々、教えてくれるかもしれない。
にっこりと、微笑みかける。つられたように少年も、微笑を返す。
――よろしくおねがいします。私を、人間にしてください。
衝撃波をイメージする。それを、ガラスにぶつける。
ガラスが真っ二つに割れた。同時に、頭に割れるような痛みが走る。
流れ出す羊水につられて、少女の体が少年のほうに降っていく。
受けとめようと手を広げている少年の姿を見たところで、頭の痛みに耐えられなくなり、少女は気を失った。
一週間が、始まる。
|