■■デクノボー様■■

 蒼穹の天、真紅の地〜賢人たちと虚無と鍵〜



 膨大な資料を読みあさり、時折コーヒーを飲んで、今度は作戦を練る。
 前線の皆は忘れがちだけど、一番大変なのは参謀役だ。
 計画に必要なことを全て考え、実行し、作戦開始からはオペレートと分析を続ける。戦うだとか傷を負うだとかそうゆう事とは別次元で、疲れる。
 そして休む間も無く次の作戦へ向けて資料を集める――正直言ってきつい。
「今度議長にでも掛け合ってみようかな・・・・・・」
 天樹真昼はそんなことを呟きながら、膨大な量の資料やら複雑極まりない計算式などが表示されたディスプレイを離れ、
「サクラ、起きてる?」
 植木鉢で囲まれた机に突っ伏す、黒髪の少女の肩を叩いた。
 しかし、返答は無い。
 もう一度、今度は肩を揺さぶった。ぐらんぐらんと、少女の頭が揺れて、長い髪が真昼の手にかかる。
「しょーがないね、セラを呼んでこないと」
 と、そこへ銀色の髪をした少年がやってきた。
「真昼さん、おはようございます」
「おはよー、ディー」
 ディーは机に突っ伏すサクラを見て、まさか、と疑いの顔で、
「また悪戯したんですか?サクラは真昼さんのおもちゃじゃないですよ?」
「ディー、読者の皆さんが誤解するような言い回しをしないでね」
 真昼はさらりとそういうと、立体映像のディスプレイを引っ張ってきて、キーボードを叩き始めた。ちなみに、どんな誤解を招くのかはご想像にお任せする。
「セラを起こしてきてくれないかな?」
「え、あぁはい。ですけど何で・・・・・・」
「いいから早く」
「は、はい・・・・・・」
 真昼に急かされて、訳も聞けないまま部屋を出たディーは、真昼がセラに何の用なのか考えながら、セラの部屋に向かった。
 セラの部屋は確かこの突き当たり・・・・・・

 ん?
 まてよ・・・・・・セラは寝てるんだよね・・・・・・それでセラを起こすには部屋に入らないと無理だよね・・・・・・

 セラの部屋に入る。
 +セラは寝ている。
 =セラはパジャマ。(+αつき)
「――!!!」
 一瞬、パジャマ姿のセラが脳裏をよぎった。顔がどんどん火照っていく。
(どっどっどうしよう、起こしに行くのはちょっとまずい気がするし・・・・・・でも真昼さんの頼みだし・・・・・・)
 考えれば考えるほど、頭の中がヒートアップしていく。セラのパジャマ姿なんて想像しただけで頭の中が灼熱地獄なのに、その上寝顔なんて見ちゃったら・・・・・・
「・・・・・・仕方ない・・・・・・」
 なるべく顔を見ないようにすれば・・・・・・。
 まるで爆弾を解体するときのようにそろそろと手を伸ばし、ドアノブを掴む。
 ごくり、と唾を飲み込んで、ゆっくりとドアノブを捻る。
 ガチャリと音を立てて、ドアが開く。
「・・・・・・ディーくん?」
 目の前に、いた。水色チェックのパジャマ姿のセラが。
「せっセラ!?」
 当たり前のことに悲鳴を上げるディーを、セラは不思議そうな目で見て、ゴシゴシと目を擦った。
「・・・・・・どうかしたんですか?」
 可愛らしく首をかしげるセラを見て、ディーは顔が赤くなるのを感じた。
「あ、あの・・・・・・真昼さんが呼んで来いって・・・・・・」
「そうですか」
 さらりと言ってたんすの引き出しを開けるセラを、いつの間にか食い入るように見つめている自分に気付いて、慌ててセラから目を逸らした。
「ディーくん」
 いきなり名前を呼ばれたディーは驚いて、びくっと身を震わせた。そして、ぎこちなさ100%で、ゆっくりと視線を向けた。
「な、何・・・・・・?」
「着替えられないので、部屋から出てください」
 途端に、ディーは某人食い鳩の数倍顔を赤くして、その場から飛びのいて、ドアの方へ走り出した。
「ごっごめん!すぐ出てくから!!」
 もうすでにセラの顔などまともに見れる状態じゃなく、それだけ言い残して部屋を飛び出した。
「・・・・・・ディーくん」
 部屋から足を一歩踏み出したとき、後ろからセラの可愛らしい声が綺麗に響いて、ディーの足が止まった。
「こっちを向いてください」
 セラの声が頭の中で何度も反響して、ディーは恐る恐る振り向いた。
 とても可愛らしく、着替えを抱いているセラがいた。
 その青い瞳から、ディーは目が離せなくなってしまった。
「・・・・・・部屋の外で待ってて欲しい、です」
 ディーは無言で頷くと、ゆっくりと部屋の外に出た。
 部屋のドアを閉めて、壁にもたれかかる。未だに顔が火照っていて、熱い。呆然とした顔で天井を見上げていたら、不意に言葉がこぼれた。
「可愛い・・・・・・」
 それしか考えられなかった。

++++++++++++


 並んで歩いてきた二人を、真昼はうんうんと見比べ、
「ディー、どうしたの? 顔が赤いよ」
 サクラがからかわれているときは冷静なディーも、あんなことがあった後にこれを言われたら、さすがに大慌てで首をぶんぶん振った。
「そ、そんな事無いですよ!!」
 顔を真っ赤にして否定するディー。うん、予想通り。まだ顔の赤いディーはほっといて、真昼はセラを手招きした。セラが近づいてきてから、ディーが未だに呆然としているのを確認して、奥の机で寝ているサクラを指差した。
「うちの議長を起こしてくれない?」
 何かたくらんでいること間違いなしの笑顔で、セラにそう言った。
「・・・・・・真昼さん」
「何?」
 間違いなく、目の前の青年はこの状況を楽しんでる。セラは確信した。
「・・・・・・これ以上、サクラさんで遊ばないでください」
「遊んでないんかいないよ、何をしても起きないから最後の手段ってだけ。僕は人をからかうのは好きだけど苦しめるのは好きじゃないからね」
 セラは、ちょっと顔をしかめて、すやすやと寝息を立てるサクラに近寄った。
 真昼さんにとってこれはからかっているだけなんですか。
「・・・・・・おかあさんは、どうして死んじゃったんですか」
 その言葉は、サクラにとって特別な言葉だった。
「ち、違う! 私は・・・・・・私は!!!」
 数秒の沈黙の後、目に涙を湛えたサクラの悲痛な声が、部屋に響いた。もちろん、ディーには届いていない。
「おはよう、サクラ」
「おはようございます、サクラさん」

 サクラは、何があったのか、よく分からなかった。
 数秒たって、ようやく事態を理解するや、サクラは猛然と真昼に駆け寄り、
「天樹真昼!!貴方は卑怯だ!!!」
 鼓膜が破れんばかりの大声で叫んだ。真昼はそれを察知して耳を塞ぐと、まぁまぁ、とサクラの怒りを手で制した。
「何しても起きてくれないから」
 それより、と続けるはずだったのだが、それは叶わなかった。
 サクラの顔が、今にも泣き出してしまいそうなくらいに歪んでいた。
「さ、サクラ?」
 しどろもどろに、とりあえず少女の名前を呼んでみる。しかし、サクラは真昼から視線を逸らすと、目の辺りをゴシゴシと拭った。
 まさに予想外の展開。前に一度この手を使ったときは、ここまで悲しそうにはしなかった。
 サクラは、そのまま自分の机に突っ伏してしまった。
 それと同時に背後から放たれる視線の矢。
 そして自責の念を具現化したようなオーラ。
「あー・・・・・・えーっと・・・・・・」
 こうなると完全に自分が悪者だ。頭をかいて、この状況をどうにかする方法を考えてみるが、周囲のオーラに押しつぶされそうになってしまい、どうしても集中できない。居心地が悪いどころではない。後ろの二人には睨まれ、目の前の少女は机に突っ伏して自分の事を責め続け・・・・・・
「サクラ、ごめん」
 とうとう、真昼が頭を下げた。サクラは通常ではありえない真昼の態度に、僅かに体をひくつかせた。
「・・・・・・君の事、考えなくて、ごめん」
 サクラは、体を震わせながら立ち上がった。ひぅっと息を吸い込んで、震える声を押さえつけて、どさりと壁に寄りかかった。
「謝るくらいなら・・・・・・はじめからしないで欲しい」
 サクラは目の周りを手で擦って、一つ。
「・・・・・・用件は何だ」
 真昼は、ちょっとだけ安心した様子で、立体映像のディスプレイを目の前に持ってきて、キーボードを叩いた。
「今回の作戦の件」
 そこで一度言葉を切って、二回端末を叩いた。
「データ奪取を君とディーでやってもらいたいんだけど、相手の演算機関を乗っ取ったとしても、こっちからのサポートが利くのがせいぜい十分」
 サクラの前にあったディスプレイに、どこかの施設の見取り図が現れる。
「だから、サクラとディーは別行動で、オペレートはなし。隔壁を開けておくのを十五秒にすれば、僕が先に防衛機構を無力化できる。だから、君たちはとにかく走って、決められた場所を回ってデータを集めて欲しい。進入に四分、奪取に二分、脱出に四分。少しの遅れも許されない。できる?」
 サクラは、ディスプレイを見るのをやめて、端末を叩き始めた。
「・・・・・・進入と脱出に四分は多すぎるな・・・・・・」
 サクラは、キーボードを叩くのをやめると、いつもより腫れぼったい目で、真昼に視線を向けた。
「全て二分ずつで大丈夫だ」


++++++++++++


 ディーとサクラが集合場所にたどり着いたのは、定刻より三十秒ほど前だった。
『・・・・・・予定より早いじゃないか』
 真昼の声が、通信素子を介して響く。夜の闇の中、サクラは油断無くナイフを構え、非常時に備えている。
「早く隔壁を」
『・・・・・・了解』
 昨日の一件の後から、サクラは真昼と会話らしい会話をしなかった。実際は真昼がサクラを避けているのだが、サクラにとってそれはありがたかった。
 隔壁がゆっくりと開きだすのを確認して、サクラとディーは同時に走り出す。まだ半分も開いていない隔壁の間に身を滑らせて、先を急ぐ。
『・・・・・・定刻から三十秒、隔壁を開ける時間を早めるよ」
「了解」
 そうして幾つもの隔壁を通り過ぎて、やっと施設の外に出ると、そこは作り物の夜空の下。ディーは、若干懐かしむように空の月を眺めている。しかしサクラはそんなまがい物には目もくれず、通信素子に話しかける。
「・・・・・・脱出成功、これより帰還する」
『人目につかないようにね』
「了解」
 そういって人気の無い路地を選んで駆け出す。今日は特に走りっぱなしだったから、さすがに疲れが来ている。といってのこのこ歩いているわけにも行かないため、先ほどより少し速度を落として走り続けた。

 少し進んで、全く人気の無い路地にたどり着いてやっと、ここで休憩することになった。
 壁にもたれかかって、荒い息を吐きだす。のどがカラカラだが、あいにく飲み物は持ち合わせていない。戻るまでの辛抱だ、と無理矢理我慢して、ツインテールを結っているリボンを結びなおす。ずっと走っていたために、乱れて取れかかっていたためだ。
「・・・・・・サクラ」
 ディーに通信を切るように言われて、サクラは通信素子を切った。
「何だ」
「昨日の真昼さん・・・・・・気付いた?」
「何をだ」
「だから・・・・・・その・・・・・・」
 しどろもどろになるディーに腹が立ったのか、少し声を低くして、
「言いたいことがあるならはっきり言え」
 ディーはそんなサクラに気おされて、声を小さくした。
「真昼さん、心配してたみたいだよ・・・・・・態度が少し違ったから」
 サクラは、そんなことか、とため息をついた。
「そんな事、とっくに気付いている」
「だったら・・・・・・」
 サクラは壁に寄りかかるのを止め、ディーに向き直った。
「いい薬だ。・・・・・・もう少し、日常の面でも気を遣えるようになってくれるといいが」
 話は終わりだ、と言って背を向ける。結び終えたリボンが闇を舞う。ディーが立ち上がるのを音で確認して、一歩踏み出した。

 その瞬間、一つの銃声と共に、空から一人の男が現れた。
「・・・・・・賢人会議、だよね?」
 その口ぶりは、天樹真昼のそれと酷似していた。
「黒装束、君が賢人会議の、文字通り『議長』なのかな?」
 声色こそ違えど、その柔らかな話し方は本当に同じだった。
「だったら一番強いのは君だよね?」
 サクラは、無意識に投擲ナイフを掴んだ。ディーは、その口ぶりに困惑しているのか、ただ息を呑んで見ているだけだ。

「賢人会議の力――本当にシティに宣戦布告できるほどの力なのか、見極めさせてね」
 サクラが投擲ナイフを構えるのと、少年が走り出すのが同時だった。

++++++++++++


 賢人会議。
 その組織のシティへの宣戦布告は、確実に世界を揺るがした。
 シティの現状、魔法士の受けている待遇、そしてマザーコアの主動力。それら全ての事柄は、シティで平和に生きる人々が知らなかったことばかりであった。
「賢人会議、ねぇ・・・・・・」
 黒髪の美少年は、椅子に腰掛けて頬杖をつき、大きく欠伸をした。
「どうかしたか?」
 白に近い緑の髪をした可愛らしい少女が、どう見ても外見とつりあわない言葉遣いで疑問を投げかける。
「・・・・・・面白いことするなぁ、って」
 少年は笑って、紅茶をカップについで、角砂糖を二つ、人工のレモンを一切れ入れて、スプーンでかき混ぜ始めた。
「本当にレモンティーが好きだな、貴方は」
 少女もカップに紅茶をついで、何も入れずに一つすすった。
「・・・・・・一通りデータの改ざんは済んだ。これからどうするつもりだ?」
「どうするもこうするも、僕は基本的に行き当たりばったりだからね。どこかの町でひっそり暮らすもよし、シティで裕福に暮らすもよし。君はどうしたい?フリーナ」
 フリーナ、と呼ばれた少女は、紅茶のカップを置いた。
「・・・・・・ゼフィロス、貴方の行きたいところでいい。どうせ私もその日暮らしの生活だ、連れは多い方がいい。それに・・・・・・」
「『貴方のような強い方が連れなら、尚更困ることは無い』って言いたいんでしょ?」
 ゼフィロスという名の少年はレモンティーを一口飲んで、ひらひらと手を振った。
「じゃあね・・・・・・『賢人会議』に会いに行こう」
 事の起こりはここからだった。

 二人の出会いから一年。
 軍のデータからある種類の項目を、抹消し続ける日々。
 確実に世界を揺るがす、究極の能力。
 全ての物質を、情報を、完全に消去する能力。

 ――『虚無の支配者』にゆったりした日々が訪れ始めた、その矢先だった。
 ただ、ゆったりした日々を捨てたのは、他でもないその少年自身の意思だったが。

++++++++++++

 先手を打ったのはサクラだった。
(呼:電磁気学・電磁場制御・『銃身』)
 目の前の少年に照準を合わせ、一挙動に三つのナイフを放つ。
 放たれたナイフは銃身の中で電磁力により加速され、少年の頭目掛け運動ベクトルを変更され、T・ブレインの知覚速度をもってしても認識が困難なほどの速度で打ち出される。
 しかし少年は身じろぎ一つせずに、柔らかな目でそれを見て、一つを指の間で挟むようにして受け取り、残りの二つをそのナイフの柄で弾いた。
「なっ・・・・・・」
 この知覚速度は騎士の物か、と考えたが違う。騎士剣が無い。単純に肉体の能力で、音速を超える速さのナイフを受け止めた。
 しかも、指二つだけで。
 一瞬、あっけに取られて見ていると、いつの間にか眼前にナイフの鈍い輝きを認め、ぎりぎりのところでそれを避ける。
(呼:運動係数制御・『運動加速』知覚速度・運動速度・五倍)
 運動係数制御を発動、少年の懐に一気に飛び込む。踏み出した一歩と共にかき合わせた外套の裏からナイフを一つ、取り出して柄を握る。少年は五倍に引き延ばされた時間の中、ゆっくりとその場から動いて、少女を受け流そうとする。させじと逆手に構えたナイフを振りぬき、少年の手に浅い切り傷を入れる。少年のその反対側の手にいつの間にか握られたリボルバー式の銃が、こちらの頭を目掛けて火を噴く。論理回路を刻まれて超加速している銃弾を、すんでのところで避けたサクラは、電磁力の銃身を呼び出そうとT・ブレインに命令を送って――
「チェックメイト」
 少年がそう呟くのと、サクラが先程の銃身を消していなかったことに気がついたのは同時で、少年が投げたナイフが銃身に入る軌道であること、その銃身の照準がちょうどサクラの頭の部分だと分かったのも同時だった。
(呼:『仮想精神体制御・生物化』)
 刹那の判断で外套を生物化、飛んできたナイフを受け流す。それでもナイフの威力を殺すことは出来ず、外套が破れ、サクラの頬を鮮血が染める。振り向きざまにナイフを投げようと、体を捻って少年に向き直ると、

 少年の銃が、サクラの額に押し当てられた。

「はい、おしまいっと」
 サクラが完全に硬直したのを確かめて、銃を腰の辺りに納め、嘲りを含む笑みで、
「どうする?第二ラウンドでも始める?」
 サクラは何も言えなかった。
 否、言うことがなかった。
 美しいまでの戦術構築、刹那で最も有効な一手を導く判断。利用できる全てのものを120%利用して、戦況を常に有利にする。何一つ無駄な動きが無い。左手を掠めたナイフの一撃だって、よく考えれば単なる陽動だった。突き出されていた左手ではなく、銃を握った右手を切りつければ、こちらにも勝機が見えただろう。
 目の前の少年は、カテゴリーAの魔法士を、たった一つの銃弾とたった一歩の移動とたった二回の攻撃で、いとも容易くねじ伏せてしまった。
 それも、自分からの情報制御を無しで。
「サクラ!」
 ディーが叫んで、騎士剣を抜き放つ。しかし、
「・・・・・・あれ」
 ディーは運動係数制御もせずに、ただ立ち尽くしているだけだった。
「・・・・・・フリーナ、いつの間に『鍵』かけたの?」
 そんな少年の声が闇に響くと、暗い空から一人の少女が降りてきた。
 真っ白な目、真っ白な肌。淡い緑をうっすら含んだ白の髪は腰まで伸びて、綺麗にはためいている。服装は白と緑のワンピースと同じ色の外套、それに白のブーツ。緑白で統一した、いかにも可愛らしくて厳しいお姫様、だった。
「・・・・・・なぜ名前を呼ぶ。私がもともと戦闘に不向きな事くらい分かっているだろう?」
 サクラ自身に似た、軍の人間の、それも上官クラスの人間の言葉遣い。
 しかし、その少女が話すと、どこかの国のきりっとしたお姫様、というイメージだけをより強調させる。逆に、可愛らしい外見は吸い込まれるように消えてしまい、一瞬前よりかなり大人に見える。
「大丈夫、どうせ今ので決まったんだから」
 何をだ、と口にしかけて、自分の置かれている立場を再認識する。今はむやみに口を突っ込まず、話の流れを理解しようとする。
「後で順を追って話すけど、今は後回し。・・・・・・とりあえず、君たちは集合場所へ行くべきなんじゃないの?」
「・・・・・・私たちを逃がすのか?」
 半信半疑で問いかけた。
「僕らはもともと君たちを捕まえようとも、殺そうともしてないよ」
 おかしい。ならばなぜ先程まで、一つ間違えれば死に直結するような攻撃を繰り出してきたのか。サクラは問うた。
「さっきのは、君がこの程度で死ぬような雑魚じゃない、と分かってたからね。シティに宣戦布告するようなヤツが、あんなので簡単に死ぬはずないし。」
 少年はそこで口を切り、一つ息を吐くと、
「僕らは今から、君たち賢人会議についていくことに決めた。っていうか、もともとそのつもりで来た」
「私たちも平凡な生活に飽きが来たところだし、賢人会議の掲げる物に共感した。マザーシステムは、人道を外れた恥ずべき物だ」
「嘘言わない。一週間前までどーでもよさそうにしてたくせに」
「・・・・・・私には貴方を見捨てる、という選択肢があるのをお忘れか?」
「君だって僕なしだとその弾丸作れないでしょ?」
 サクラは絶句した。
 いとも簡単に、しかも負けたのに、これほどの魔法士が仲間になるだと?
 ありえない話。だが、

「・・・・・・賢人会議の目的を知って、なお協力するというのなら、それだけで貴方たちは賢人会議に入る資格がある」
 サクラはそれだけ言って、ディーを呼んだ。
「後は私たちの参謀が頷けば決定だな」
 白髪の少女は無言で頷き、黒髪の少年は「フリーナに似てるなぁ」と呟いて、闇に紛れるサクラを追った。


++++++++++++


 四人が集合場所に着くまでに、新規加入者のおおよそのステータスを教えられた。
 少女の名はフリーナ・エンデュランスで、少年の名がゼフィランサス。少女のT・ブレインは戦闘に不向きなこと、少年のT・ブレインはかの『幻影No.17』に匹敵するほど、極めて強力で希少なものだということに始まって、フリーナとゼフィロスの出身、経歴、その他今までのことを大方話してくれた。「短時間で説明できることが少ない」との事で、詳しい事柄は天樹真昼と合流してから、となった。
 こちらからも自己紹介をした。サクラとディーの名前、経歴、その他色々からT・ブレインの能力など。一通りそれが済んだところで、やっと集合場所にたどり着いた。
「遅かったねサクラ・・・・・・その人達は?」
「賢人会議の、新しい同胞だ」
 真昼は一瞬目を瞠ったが、すぐに元に戻って、
「そう。・・・・・・僕は天樹真昼。賢人会議の参謀、ってことになってるよ。二人とも、これからよろしく」
 と言って、手を差し伸べた。フリーナは若干ためらったが、ゼフィロスは迷わずそれを握り返し、柔らかい笑みで、
「僕はゼフィランサス。姓はなしで、縮めてゼフィロス。こちらこそ、よろしく」
 それを見たフリーナも、後に続くべきと考えて、
「私はフリーナ・エンデュランス。宜しく願いたい」
 真昼は即席の椅子に腰掛けて、ディーと話をしている、金髪の少女を呼んだ。
「ほらほら、挨拶ぐらいしないと」
 少女は、おずおずと前に出て、スカートの裾を直して、ぺこっと頭を下げた。
「セレスティ・E・クラインです。よろしくお願いします、です」
 セラが頭を上げると、真昼は小さく笑って、二人に向き直った。
「っと、君たちの能力、全部教えてくれないかな?」
 ゼフィロスが、喜んで答えようとしたその矢先、
路地から一発の銃弾が、サクラの鼻先を掠めた。
「っ! 誰だ!!」
 その声と同時に、四方から魔法士と思しき人と、それに続いて軍の一般兵が現れた。
「・・・・・・というわけで、サクラ、ディー。よろしく。僕は色々邪魔してみるから、セラは僕の護衛をお願い。残りの二人は――」
「ねぇ、今回は僕らに任せてくれない?」
 真昼が言い終わらないうちに、ゼフィロスは一言放って、前に進み出た。
「能力を教えるって言ったって、結局実践を見てもらうのが一番早いし、それにこっちの手の内明かさずにいきなり仲間ってのもちょっとおかしいと思うし。いいよね?フリーナ」
「・・・・・・どうせ止めても聞かないのだろう」
 呆れてフリーナはため息をついた。
「はい、決まり。どっちが先に行く?」
 ゼフィロスは意味ありげに、フリーナを見ている。
「・・・・・・私が先にいけ、ということだな?」
「僕は何も言ってないよ」
 悪びれた風もなく、さらりとそういって、椅子に腰掛ける。それを見たフリーナは、一際大きくため息をついて、
「仕方ないな」
 腰の辺りにつけた、二丁の銃を取り出した。
(双銃『蒼閃』とのリンクを確立。論理回路のプロテクト解除。電磁力エネルギー充填・・・・・・完了。弾丸装填数、最大数を確認。速射型弾丸への電磁力付加・・・・・・完了。起動準備完了。双銃『蒼閃』、起動開始)
「――行くぞ、『蒼閃』」
 瞬間、銃声と共に数人の兵士が悲鳴を上げた。



<作者様コメント>

どうも、デクノボーです。

なんだかどんどん話が飛躍しています。

ディーのノロケ話から始まって、真昼の悪戯で泣いちゃったサクラに、

なんだか急がなきゃいけない任務に、『虚無の支配者』。

どんどんワケ分からなくなる展開ですね。

これから大丈夫でしょうか・・・・・・。

それでは、お元気で。

<作者様サイト>
http://plaza.rakuten.co.jp/tyeins/

◆とじる◆