DESTINY TIME RIMIX
〜最強と最狂と最凶〜























人が戦いを捨てられないのは、今に始まった事じゃない。


元より人は戦う生き物だ。


その歴史に終わりを告げるときがいつ来るかなどとは分かるわけが無い。


だけど、それでも、この場において幾つもの戦いが展開される―――――。









貴方達は勝利の先に何を求めるの?




















―――【 さ あ 殺 し あ い ま し ょ う か 】―――
〜THE KUTAU&INTORUDER&SHARON〜

















「『堕天使の呼び声コール・オブ・ルシファー』…これが私の本当の能力…」
「…『堕天使の呼び声』…まさか、『狂いし君への厄災バーサーカーディザスター』や『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』と同じ系列の能力…」
「クラウ、正解」
シャロンのその声に最早絶望は無い。
今あるのは、ありのままの現実を受け止めた堕天使の姿。
正に流血山河を具現化したような存在。
この後に何が起こるのかは、想像するのは容易だろう。
「どうして…」
「ん?」
「どうしてこうなるのよ!!
 そもそも、これも発動条件が殺戮衝動だったら、シャロンには戦闘用の能力が備わっていない筈よ!!
 だから、殺戮衝動を抑えきれないで、他の二人より先に発動していたはずよ!!」
クラウは動揺を隠し切れない。
それもその筈だ。
シャロンの『堕天使の呼び声』が『狂いし君への厄災』や『殺戮者の起動』と同じ発動条件であったなら、とうの昔に『堕天使の呼び声』がその牙を剥いている筈だ。
「殺戮衝動だからだ…」
「え!?」
クラウの疑問に答えるかのように横から回答を口にしたのはイントルーダー。
「殺戮衝動だったなら、戦う事で発散する事も出来ただろう。
 だが、シャロンの『堕天使の呼び声』の発動条件は、殺戮衝動なんかじゃない。
 そして…今の出来事から見て『堕天使の呼び声』の発動条件の憶測がついた…」
ここで一区切り。その後、イントルーダーはすっかり重くなった口を開く。
「…それは、『もう一つの賢人会議Another Seer's Guild)』に離反する言動だろうな。
 さっき、シャロンは『もう一つの賢人会議』に対して明らかな宣戦布告をした。
 そしてその後にこうなったとあれば、これしか考えられない」
「だけど…それじゃあノーテュエル達が生存していた時にはどうして発動しなかったの!?
 あの二人だって『もう一つの賢人会議』…その頃は『賢人会議Seer's Guild)』と思っていた組織でしょうけど…。
 『賢人会議』に対して悪く言ったり「倒してやる」とかいったりした可能性だって十分にあるじゃない!!」
「…そこが『堕天使の呼び声』の恐ろしいところなんだよ。
 …『賢人会議』じゃ駄目なんだ…きちんと『もう一つの賢人会議』を嫌悪しなければいけないんだ!!
 だから今まで発動せずに済んだんだ!!」
最後の方は悔しげに拳を握り締めて、叫ぶように声を上げた。
そこまで言われ、クラウは初めて重要な点に気づく。
そうだ。
真実を知らない頃、シャロン達が憎んでいたのは『賢人会議』であり『もう一つの賢人会議』が偽った名称にすぎない。
そして今は『もう一つの賢人会議』という真名を知ったために、『堕天使の呼び声』の発動条件を満たした事になる。
…だけど、それでも分からない。
どうしてシャロンだけ、発動条件が違うのか。
少し考えて…すぐに結論にたどり着いた。
シャロンの製造年月日は確か―――。
「ノーテュエル達の一年後…」
そう、
ノーテュエル・ゼイネストとシャロンには一年の差がある。
その一年の間に、新たな能力が作られたと考えれば、つじつまが合う――何故シャロンだけ発動形式を変えたのかまでは分からないが。
ましてや、ただでさえ高い科学力を持つ『もう一つの賢人会議』だ。むしろその可能性を失念するというほうが無理というもの。
――――ちなみに、ヒナの『自動戦闘状態オートバトルモード)』のプロトタイプである能力が『堕天使の呼び声』であるということを、クラウとイントルーダーが知るのは後の話である。
「でも…それならどうして…」
「まだ分からない事があるのか!?」
さっきから疑問ばかり浮べるクラウに対し、イントルーダーは少しイラついた口調で返答を返す。
どうやら質問攻めは苦手のようだ。
「…これで最後…だったら、どうして私達と出会った時に『堕天使の呼び声』は発動しなかったの?
 あの時に事実を知ったなら…その場で『堕天使の呼び声』が発動していてもおかしくないのに!!」
「あ、それか…」
イントルーダーは一瞬だけ考えて…すぐに答えを出す。
「…多分だが、あの時はまだ、シャロンには『もう一つの賢人会議』を本気で滅ぼすって気が無かったんじゃないのか?
 お世辞にも自分が生まれた故郷だ。誰だって故郷に攻め入る時は迷うさ。
 自分の道がそれで正しいのか―――とな。
 だから、俺達と会ったばっかりのシャロンは、きっとまだ迷っていたんだと思う。
 だけど、俺達の身の上を聞いたりしているうちに、考えが変わって来たんだ。
 そして今、シャロンはついに『もう一つの賢人会議』を本気で滅ぼすって気になったから発動した…だと俺は推測する」
「見事な推論なの…そして当たりみたい」
いつもの口調でシャロンが言う。
しかし、今のこの状況でいつもの口調で喋られても、目の前の堕天使がシャロンの皮をかぶった偽者に見えて仕方がなかった。
故にクラウは即座に身構える。
シャロンの攻撃がどんなものか分からぬ以上、警戒を怠らないに越した事は無い。
「事実が分かったなら、お喋りは終わり。
 かかってきなさい二人とも。
 …跡形も無く消し去ってあげるから…」
今までのシャロンの口からは、決して発せられる事の無かった残酷な言葉にして殺人宣言。
(攻撃感知)
刹那、クラウとイントルーダーのI−ブレインが警告を発した。
同時に、巻き起こった空を切り裂くような鋭い音と共に、六枚の巨大な紅い翼が二人目掛けて襲いかかってきた。





















Lucifer Sharon












―――【 最 早 退 路 は 無 し 】―――
〜THE RESHUREI&SERISIA&BUREED&MIRIL&EXITES〜

















「…一つだけ、聞かせてくれ」
「何だ?」
無駄とは分かっていても、レシュレイはエクイテスに問うた。
エクイテスの方もまんざらではないらしく、質問に答えるくらいの余裕はあるらしい。
「もうすぐ消える命だというのに、どうしてそこまでして戦うんだ?」
「くだらない質問だ…今ここで、そんな事を聞いて何になる」
「あなたの人生が本当にそれでいいのかと思っただけだ…兄さん」
「…何をしてもどうせ滅びる命なら、自分のやりたい事をやってから死ぬのが一番だろう。
 …だから俺は決めた!!世界が俺達を受け入れないというのなら、この壊れた世界に復讐してやろうと、精一杯あがいてやろうとな!!
 この命が尽きるまで!!」
「それは詭弁だ!!!あなたの生きる理由はあなたにしか見つけられない物。生きる意味など探せばいいんじゃないか!!」
「言うだけなら簡単だ…だが、ある意味それが一番の正解とも呼べる答えだったんだろうな。
 …だが、俺達はもう遅すぎたんだ!!
 地獄の神のお祝いにヘル・ゴッド・オブ・エデン)はもう止められない!!
 元より止める術など存在しない!!
 行くぞ!!ラジエルトの作りし魔法士よ!!そして、この戦いに選ばれた者達よ!!」
言うな否や、大地を蹴る轟音と共にエクイテスが駆け出した。
その一歩が踏み出されるたびに強化カーボンの床が軋み、微振動を引き起こす。
そして肝心のその速度は通常の二十五倍ほど。
「…あまり早くないんじゃないですか?」
…そして不幸にも、根が正直者のミリルがそれをうっかりと口にしてしまった。
正直者は馬鹿を見る。今のミリルが正にそれ。
エクイテスの口元に、笑みが浮かんだ。
「ああそうだ。俺は確かに遅いさ…だがな、その代わりに利点もあるのさ」
「拙い!!ミリル、逃げろ!!」
その意味をいち早く察知したブリードが叫んだ。
「言われなくてもそうします!!」
刹那、嫌な予感を察知したミリルは現在出せる最大速度でエクイテスの攻撃範囲とを離脱して後方へと下がる。
その直後に、今までミリルが居た場所をエクイテスの拳が文字通りに『砕いた』
「…え?」
その光景にミリルの顔から血の気が引く。
強化カーボンで出来たはずの床が、あっさりと陥没したではないか。
「何ですかそれぇ!!」
ブリードが注意を促してくれなければ、今頃は間違いなく絶命していた自分の姿を想像して、ミリルの顔は思いっきり青ざめる。
「喰らったら終わりだ!!最小の注意を払え!!」
指揮官のように全員に言い聞かせるレシュレイ。
無論、レシュレイとてその顔にありありと浮かんだ不安は隠せていない。
いくらレシュレイが『真なる龍使いドラゴンブレード)』だと言っても、あんな一撃を喰らえばただでは済まないだろう。
『真なる龍使い』の根本的構造とて、普通の人間のそれを超えてはいないのだから。
「言われなくてもそうします!」
本日二度目のこのセリフ。
但し最初に言ったのはミリルで、二回目に言ったのがセリシアだという違いがあるだけ。
レシュレイの忠告を聞いて、エクイテスとの距離を離すべく後退するセリシア。
「…そう来るか…ならば!!」
そう言うとエクイテスは口元に笑みを浮かべて、あろう事か、自らがたった今砕いた強化カーボンの床に空いた大穴に飛び込んだ。
エクイテスの予想外の攻撃に、一瞬だけ沈黙が訪れる。
だが、次の瞬間には全員が我に返り、I−ブレインの感知能力を上げてエクイテスからの攻撃を警戒する。
「…これって、まさか…」
どこかで見た攻撃かもしれない。と思ったセリシアが思わずその言葉を口にして、
「…不意打ちが来るぞ!!」
その後の展開を独自の考えて予測したブリードが、味方全員に注意を促す。
間違いない。この後、かなりの高い確率でエクイテスはどこかの壁を突き破って不意打ちをしてくるに違いない。
昔読んだ漫画に、壁にその姿を潜ませて相手の死角から攻撃していた漫画があった記憶がある。
…ブリードがシティ・モスクワに在住していた頃に、暇つぶしにデータベースを漁って見つけたものだったのだが。
エクイテスからの攻撃が何処から来るか分からぬ以上、細心の注意を払う必要がある。
そのまま続く沈黙。
誰も動かずに、誰も喋らない。
瞬間、地響きのような音がして…ミリルの足元の強化カーボンが砂煙を上げて砕け散った。
そこにぽっかりと空いたのは巨大な穴。
さらに、その穴の中からの攻撃反応をI−ブレインが察知した。
「下ですかぁっ!?」
素早くその場から離れようとしてミリルは足を動かした。
常識から考えれば、テレビとかなら後ろから壁を破って不意打ちをしてくるのが殆どだから、今回もきっと同じケースだと読んでいたミリルは、予期せぬエクイテスの不意打ちに完全に反応が遅れた。
エクイテスは『下から強化カーボンの床を突き破って出現した』のだ。
ほぼ反射的にエクイテスの攻撃範囲内から逃げようと足を動かすミリル。
だが、遅い!!
「おおああああああっ!!!」
エクイテスは鬼神のような表情でミリル目掛けて真っ直ぐに駆けている!!
運の悪い事に、ミリルの能力はあくまでも『風使いトルネーダー)』。
騎士みたいな『自己領域』は当然持ち合わせておらず、『身体能力制御』でも、上昇できる速度は他の魔法士に比べてかなり低い。
元々が遠距離攻撃を主体とする魔法士なので、接近戦が弱いのは当然の理屈だ。
常に相手との距離を開けて、少しずつだが相手を削っていく…それが、ミリル・リメイルドの戦い方。
故に、接近して致命の一撃を叩きこむというエクイテスの戦闘スタイルはミリルとは対極の位置を示すもの!!
間合いに入られた以上、接近戦でミリルが勝てる要素が無い。
故に選択肢はおのずと『逃げ』に集約される。
『逃げ』に徹するミリルと『追い』に徹するエクイテス。
「きゃあああああああっ!!!」
…結果、ミリルが逃げるのが、僅かに遅かった。
エクイテスのその太い腕がミリルに振り下ろされた。
だが、その目的は腕や手による打撃目的ではない!!
がしり、と、エクイテスはミリルの首根っこをつかんだ。
そのままミリルは宙吊りにされる。足をばたばたさせると床を蹴る感覚が返って来ない。
「いやああぁ!!私、猫じゃない!!」
今まで喰らった事の無い攻撃にうろたえてしまい、パニックに陥って何が何だかよく分からない言葉を発してしまったミリル。
だが、本当の恐怖はそこからだった。
「ううおおおおっ!!!」
「し、視界がっ!!!目が回る〜!」
雄たけびにも等しい猛々しい叫び声をあげたエクイテスは、そのままミリルを掴んだままその腕を思いっきり振り上げて…振り下ろした。
振り回された側のミリルは、一気に回った世界に対して判断力が追いつかない。
「やめろおおおおっ!!」
エクイテスが行った攻撃の意味を完全に理解したブリードが全力で駆ける。
氷の攻撃は下手をするとミリルに被弾する危険を秘めているために、持ち前の加速力で近づくしか道は無い!!
 数千の足音が一つの足音にしか聞こえないほどの速度で、何とかミリルが地面に叩きつけられる前にブリードはエクイテスのところまでたどり着き、
(『氷剣ヴォーパルブレード)』)
刹那の速度で具現化した『氷剣』でエクイテスに斬りかかった。
神速で振り下ろされた氷の剣は、確かにエクイテスの心臓がある場所に当たった。
だが、それだけだった。
刹那、氷の剣にひびが入り、気持ちのいい音と共に剣先から粉々に砕け散った。
きらきらと輝く凍れる水素結晶が星の瞬きのような最後を見せ、そのまま自然蒸発して空気へと戻っていく。
「っんな馬鹿な!!!」
マジかよ!とブリードは思った。
強化カーボンすら切断する『氷剣』が、エクイテスには通用しない。
その間にも、時は進んでいた。
ブリードがはっ、という声と共に我に返った時には、既に手遅れ。
刹那、どんっ、という、とても鈍い音。
強いて言うなら、焼肉用の肉を専用の金槌で殴ったかのような音。
その音は、ミリルが強化カーボンの床に背中を思いっきり打ち付けられた音だった。
「か…は…」
反動で二回ほど小刻みにバウンドしたミリルは、動く事すらままならなかった。
口の中に広がる鉄の味。
喉の奥から血が逆流する。
下手をすればどこかの骨が折れたかもしれない…と思ったが、I−ブレインを通してのメディカルチェックでは、骨には異常は無いとの事。
だが、結果的にはかなりの肉体的ダメージを負った事には変わりない。
「…兄さんの持つ能力は…圧倒的な破壊力と防御力だと!!」
先ほどのエクイテスの強化カーボンの床を素手で打ち砕いた破壊力。
そしてブリードの『氷剣』すらあっさりと無効化したエクイテスの防御力を目の当たりにしたレシュレイが叫んだ。
そう、ちょっと考えれば分かる事。
基本的に、動きの遅い者のパターン二つある。
一つは、『身体能力制御』のスペック不足などの理由で最大速度に制限がかかっているパターン。
そしてもう一つは…圧倒的な破壊力と防御力を持つが故に、機動力が犠牲になっているというパターン。
力士が速度に対し全くもって無頓着なのと同じ原理。
あるいは、外面を完全に鎧で包んだ中世の重騎士等がこれに該当する。
そして間違いなくエクイテスは…後者!!
『もう一つの賢人会議』最強の魔法士エクイテス・アインデュート。
その能力は、全てを破壊する肉体的破壊力と、あらゆる攻撃を弾き返す完全なる防御力。
超強化絶対的装甲プロディフェンシヴ)―――だ」
その能力の真名を言い放つエクイテス。
わざわざ自身の能力を晒すという事は、自らに対して絶対的自信を持つものの証。
弱者の強がりや思い上がりとは世界そのものが違う、本当の実力者であるが故の発言。
エクイテスのその声は、この場に高々に響いた。










「う――」
視界の隅でちらつく銀色。
自分の体が自分の体じゃ無いような感覚。
仰向けになった体勢から見上げれる一面の強化カーボン。
自分の周りに浮遊する銀色が砕かれた強化カーボンの欠片だと分かり、
体に、ずきり、という激しい痛みが走る。
 









「――ミリルッ!!!おい!!目を覚ませミリル!!」










気が狂ったように叫ぶブリードの声が遠く聞こえる。
ほんの数メートル先でレシュレイ達と戦闘を繰り広げているはずの敵の存在も、今のミリルの知覚には遠いものだった。
視界が、霞んでゆく。
意識が澱むのを止めきる事ができない。
刹那、











 

ぱん!!












「―――いたいっ!!!」
右頬に熱さと痛みを感じた。
だがしかし、それによって意識は完璧に覚醒。
そして即座に状況を理解。
今の音は――ブリードの平手打ちの音。
反射的に「なんでぶつんですか!!」と言い返そうとした。
が、即座にブリードがミリルを起こすためにはたいてくれたのだと理解して、その言葉を喉の奥に飲み込んだ。
そうだ。
のうのうと眠っていらる状況ではない。
起きなくてはいけない。
目の前の事実から逃げないために。
戦いはまだ続いているんだから―――。
くらくらする頭で、ミリルは起き上がった。
「あぐ!!」
ずきり、という激しい痛みが背中からした。ミリルはそれを歯を食いしばって耐える。
先ほどエクイテスに思いっきり投げられた時のダメージだろう。
しかし幸いにも、再び、骨に異常は無いという反応がI−ブレインから返ってきた。
だから、起きれる。
「…大丈夫…だよな」
「はい…ちょっと頬と背中が痛いですけど」
「う…」
前者が自分のせいであるために、ブリードの心にちょっとばかりの罪悪感がこみ上げる。
「でも、今はそんな事気にして―――」















 

ドゴンッ!!!














「!!」
「!!」
ミリルの声はその轟音にかき消された。
その時、戦場に居た者全てがそちらを向く。
それと同時に、また別の場所の強化カーボンの壁にヒビが入る。








「新手か!?」
真っ先に反応してヒビの入った強化カーボンの壁を見据えるレシュレイ。
エクイテスも攻撃の手を休める。
「…どうやら、来たらしいな…ということは、ついに目覚めたのか…『堕天使ルシファー)』」
「…『堕天使』!?」
エクイテスの発したその言葉の意味が分からずに一瞬の間だけ唖然とする四人。
刹那、ヒビの入った壁が大きな音を立てて崩れて、しばしの間立ち込めた砂煙が消えた時に、その中から魔法士の反応を察知できた。
人数的には…三人。
「もう逃げられないです。二人とも。追いかけっこはもうお終い。すぐに楽にしてあげる」
茶髪のポニーテールの紅い翼の少女が冷酷な声でそれを告げた。
「くそっ!!!これがあのシャロンの戦闘能力なのか!!」
黒衣のマントを羽織った紫の髪の男が、プッ、と血の混じった唾を吐き捨てながら叫ぶ。
みれば全身には擦り傷と切り傷が、どれも浅いものではあるがついている。
「…ここまでやるなんて…」
最後の一人は、青色のロングヘアの女性。こちらもかなり擦り傷と切り傷を負っている。
もうもうと上がる砂煙と共に現れたのは、レシュレイとセリシアが一度も会ったことのない三人だった。
だが、ブリードとミリルの反応は違った。
「…シャロン?」
唖然としながらその名を呼んだ。
姿が思いっきり違えど、目の前の紅い翼の少女は、見間違えようもなくシティ・モスクワでのノーテュエルとの戦いの時に出会ったシャロン・ベルセリウスだった。
「…なんで、シャロンちゃんが?」
次に出たのはミリルの言葉。
「…シャロン、だよな。あれは…」
続いてブリードが反応した。
だが、仮にもエクイテスとの戦闘中なのにその口調は上の空。
戦闘を行う者としてはあまりに無防備な状態だ。
しかしエクイテスからの追撃は来ない。エクイテスもまた、シャロンに視線を注いでいる。
言葉にしがたい感想がブリードとミリルの心の中に生まれる。
髪の毛の色は確かに茶髪。
そしてポニーテールも健在。
だが、前にシティ・モスクワで出会った時とは圧倒的に雰囲気が違いすぎる!!
なんだ、この禍々しい空気は!!
その時、やっとブリードとミリルに気がついたシャロンが口を開けた。
「あ…そこの二人…白い髪の方がブリードで、銀髪の子がミリルって言うんだったよね。
 久しぶり。私の事覚えてる?」
…あの時のシャロンとは口調が全然違う。ブリードとミリルは一瞬でそれを悟る。
「やっぱりシャロンなのか!?だけど何だよ、その紅い翼は…!!」
「これ?私の本当の能力」
「……」
問いをぶつけたのはブリード。
素っ気なく答えたのはシャロン。
何も言えずに震えるミリル。その白い手はブリードの服の端をしっかりと掴んでいる。
その傍らで、黒衣を纏った男とエクイテスの視線が交差していた。
「帰ってきたか、クラウ・ソラスにイントルーダー」
「ああ、貴方を倒すためにな」
「減らず口を」
イントルーダーとエクイテスの間に交わされる会話。
「…この状況下だと、そこの黒衣の男と青い髪の貴女は、どちらかというと俺達の味方と考えていいのか?」
「そうね。私と同じような髪の色をしたそこの貴方…ふうん、結構いい男じゃない…先約付きみたいだけど」
 レシュレイの問いに、青色の髪の女性が答える。
『結構いい男じゃない』と言ったその瞬間に、桃色の髪の少女が青髪の女性をきっ、と睨みつけていたために、一瞬で事情を理解できたのだ。
「おい!!な、なんでシャロンがああなっているんだよ!
それに、あの子のそばについていたあの二人…ゼイネストとノーテュエルはどうなったんだよ!!」
「…それについては俺から説明する。そうだな…ブリードにミリル…と言ったか?
 シャロンに会ったって事は、お前達は以前ノーテュエル達に出会ったらしいという事になるんだろうな。
 さて、一つ聞きたい。その時、ノーテュエルはどういう状態になった?
 少なくとも余程の事が無い限り遭遇できているはずだ。最悪の狂戦士バーサーカー)か、残酷なる殺戮者デストロイヤー)のどちらかに!」
ブリードの問いに対し、声を上げて答えたイントルーダー。
「…いやぁ!!」
刹那、過去の忌々しい記憶を思い出し、ミリルが頭を抱えていやいやをする。
それを見て、過去に何か嫌な事があったということを、この場に居る全員が察知する。
レシュレイとセリシアはノーテュエルという者達には一度たりとも会っていない。
ブリードは、とりあえず三人とは出会ったことにはなっているが、『狂戦士と化す前のノーテュエル』には出会っていない。
よって、この中にいる四人の中で狂戦士と化す前のノーテュエルを知っているのは必然的にミリルだけになる。
だからこそ、ミリルは狂戦士と化した時のノーテュエルとのギャップの激しさに驚いた。
普段はお調子者でムード…いや、むしろトラブルメーカーと呼ぶのが相応しく、周りを自分のペースに巻き込む性格。
だけど、そこにいるだけで周囲を明るくしてくれる少女。
だが、狂戦士と化すとその陽気さは微塵も無くなる。
その圧倒的ともいえる残酷さは思い出すと今でも怖い。
生命を危機にさらされたのは忘れられない。
だが、そのお陰でブリードと恋仲になれたことだけは感謝している。
その本質は、全てを破滅の底へと導く最悪の狂戦士。
そして彼女の称号は―――狂戦士ノーテュエル。
「…とりあえず一時休戦だ…そして出会ったんだ…説明してみればどうだ。
 何も知らずに死んでいくよりはマシだろう。
 ああ、なるべく短く完結に。な」
そのままエクイテスはその場にどっかりと腰を下ろした。
刹那、強化カーボンの床が少しへこんだ気がするのは気のせいだと思いたい。
「私も同感。だって、このまま何も知らないで死んでいくのはいくらなんでも可哀相。
 どうせ殺すなら同じだって言われればそこまでだけど、せめての情けってやつ」
「!」
背筋が凍るような発言が、シャロンの口から放たれた。
それに対し過敏な反応を示したのはミリル。
今のシャロンが狂戦士ノーテュエルとの出会いと全く同じ空気を纏っている事に気がついたのであろう。
最も、ミリルはどうしてシャロンがこうなってしまったのかまでは知らない。
だから、その不安は余計に助長される事になる。
「おい!!一体何がどうなっているんだよ!!」
すぐさま我に返り、理解と真実を求めてブリードが叫んだ。
当然だ。ブリード達の知っているシャロンは、あんな口調でもあんな性格でもなかったからだ。
ましてや、紅い翼など生やしてはいなかった。
「…そう…知らなかったのね。無理も無いわ、だって、悲劇が起こったのはシャロンがあなた達と別れてからの事だったんだから…この子の代わりに説明してあげる。
 …落ち着いて、全てを聞いてね。
 あ、その前に…そこの…ええと、そこの黒髪と蒼髪と桃色髪の三人、名前何ていうの?」
青い髪の女性はレシュレイとセリシアとラジエルトに視線を向けて問う。
「レシュレイだ」
「セリシア…です」
「んで、俺はラジエルト」
「…私は聞いた事の無い名前ばかりだけど、ここにいるって事は私達の中の誰かと関係があると思って間違いは無いわね。
 なら聞いて頂戴…この組織が、一体何をやってきたのかということを!!
 そして、どうして今、私達がここにいるのかということも!!!!」


―――クラウの説明が始まった。













―――【 焦 燥 】―――
〜THE RON&SHUBEEL&HINA〜














(I−ブレイン起動。『刹那未来予測サタンワールド』簡易常駐。
演算効率依然として変わらず…運動係数変化ハーシェル』並行起動。
運動係数を二十五倍、知覚係数を八十倍に定義)
 I−ブレイン起動と同時に、正面のシュベールを見据える。
『刹那未来予測サタン』―――その能力は、近接空間内の全物質の座標、運動量を初期値とした五秒先までの未来を確率で予測するニュートン力学的未来予測。
これにより、今の論は現実時間にして五秒先の未来のなかで「最も可能性が高いもの」を見ることが出来る。
同時に並行処理した『運動係数変化』は、起動と同時にI−ブレインの動作状態を変更して体内における物理法則を改変する能力。
これが無くては、いくら未来を垣間見ようと、それの未来を変えることは出来ない。
よって、論にはシュベールの攻撃がある程度は先読みできる。
だが、それも全ては確率でしかない。確率ゆえに外れる事もあるので気休め程度にしかならないが、無いよりはマシだ。
絶え間なく飛びかうシュベールの『真紅の鞭スカーレットビュート)』に、負けじとI−ブレインの稼働率を上げ、騎士刀『菊一文字』を振り回す論。
だが、慌てることはない。
そもそもこういう状況において、慌てることこそがご法度である。
慌てれば冷静な判断が出来なくなるし、何よりも判断を見謝ってしまって、本来なら成功したであろう事柄だって失敗してしまう事だってある。
故に論は常に冷静に、頭の中をクリアな思考で埋めつくして行動を開始する!!
数瞬の間に飛び交うは真紅の閃光と白金の銀光。
黒のコートがマスターである論の動きをトレースするかのように戦場を舞う。
論の叫びと共に騎士刀『菊一文字』が残像すら見えぬ速さで振り回された。
凄まじき速さで迫り来るその斬撃はまさに死への片道切符。
『騎士』ですら並の腕前であれば認識できないような領域の攻撃だったが、その刃は己を果たせず真紅の鞭に払われた。
続いて背後から攻撃感知。
その瞬間に、論はI−ブレインに一喝。
(攻撃を全力回避)
論の命令に呼応し、I−ブレインが唸りをあげる。
一瞬にして命令は伝播し、論は体を動かして背後からの攻撃を回避。
だが、その刹那に『真紅の鞭』はまるで論の行動を先読みしていたかのように既に論の移動終了位置の目前にまで迫っていた。
現れるのは、回避位置まで駆ける論の最も隙が大きくなる、足元。
だが、論は一顧だにせず、その場で止まる。
(『擬似生命躍動サタンファントム・ハック』起動)
刹那、論の背後にある無生物であるはずの強化カーボンで作られた壁が生物的な動きを得る。
刹那の時を置いて、壁は巨大な握り拳を作り上げ、シュベール目掛けて襲い掛かる。
「『人形使い』の『ゴースト・ハック』ね…」
シュベールが憎々しげに呟く。
だが、
(『真紅の鞭』情報解体・情報分析発動)
刹那の間を置いて『真紅の鞭』が、生物的な動きを得た強化カーボンで作られた壁が繰り出した巨大な握り拳の論理構造を完全に破壊する。
これまで幾多の魔法士の『情報』を打ち砕いた『真紅の鞭』。
その中に記録されている論理構造のパターンは多種多様。
「破壊されたか…」
一瞬だがシュベールに敬意の念を覚える論。
もちろん『擬似生命躍動サタン』如きがシュベールに大打撃を与えられるなどとは思っていない。あくまでも牽制程度の信頼。
次の瞬間には、論は騎士刀『菊一文字』を両手でしっかりと持って、大地を蹴り跳躍する。
同時に再度『擬似生命躍動サタン』を起動させる。
先程と同様に生物的な動きを得た強化カーボンで作られた壁が繰り出した巨大な握り拳が現世に呼び出され、論はそれを壁にして飛翔する。
刹那、論の体は十五メートルの距離を飛翔しすでにシュベールの真上にあった。
薙ぎ、突き、払い、斬り上げ。下降しながらの一秒の千分の一にも満たぬ四連携攻撃がことごとく『真紅の鞭』に受け止められた。
騎士刀『菊一文字』が一瞬の間に銀光を反射したときには、論の体は既にシュベールの正面にあり、次なる攻撃の態勢に入っている。
かすかに体を引き、体ごとぶつけるように音速の突きを繰り出す。
だが、その前に『真紅の鞭』が先に論目掛けて攻撃を仕掛けていた。
論の頬に一筋の線が走り、うっすらと血が凍る。
「ち」
反射的に論は一旦距離を置く。
(…やってくれるな)
頬に走った血を拭いつつも、論は眼前のシュベールに対しての警戒を怠らない。
シュベールも迂闊な攻撃は隙を生み出すことを知っているらしく攻撃を仕掛けてこない。
千変万化、変幻自在の動きを誇る『真紅の鞭』の攻撃は、論の予想を超えていた。
シティ・メルボルンでのあの戦いで、シュベールが本気を出していなかったのも納得した。
そもそも、真に相応しい武器を持ってこそ、戦士は力を発揮するもの。
(…全く、それにしても、随分と攻めにくい武器だ…)
正直、よくヒナがこんな化け物を相手に戦っていたと思う。
この戦いが終わったら…などと思っている矢先に―――、
「戦闘中にぼうっとしている場合かしら!!」
シュベールから更なる攻撃が繰り出される。距離的に論の反撃が間に合わない事を確信しての攻撃。
(『擬似生命躍動サタン』起動)
再び、生物的な動きを得た強化カーボンで作られた壁が繰り出した巨大な握り拳を繰り出す。
もちろん破壊されるが、論が逃げ切るだけの時間は稼げた。
一進一退。
どちらかが致命的な一撃を叩き込めば全てが終わる戦闘。
故に両者共に攻撃を喰らう事は許されない。
だが、論は負けられない。
いくらシュベールが遠距離系とはいえ不利などと言っている場合ではない。
そう、リーチの差など不利のうちにも入らない。
心の中で苦笑する。
そう、何も今始まったことでもない。
むしろ『不利な相手との戦い』すら『いつものこと』。
生まれたときから体験してきた、遠距離戦法を得意とする魔法士との戦いの回数は数知れず。
その相手も、炎使いや人形使いなど様々だった。
中には、予測不能の攻撃を仕掛けて来る輩も大勢いた。
当然、楽な戦いなど無かった。
論の人生は、常に死と隣り合わせだった。
頼りになるのは、誰よりも死にたくないが故の意地と、何者にも真似できないはずのこの能力。
だが、お世辞にも人の枠を越えることのないこの体。
人間に耐え切る事など出来ないレヴェルの攻撃を喰らえば、いくら論でもあっけなく死ぬだろう。
常時、神経をすり減らして奇襲に備える。相手の攻撃手段は多種多様。
だが、それでも論は死ねない。
守るべき少女がすぐそこにいるのだから―――――――!!!!!














「ろ…ん」
何とかかすれた声を出すくらいに回復したヒナは、目の前の戦いを見つめる。
元よりノイズメーカーがついているから、魔法士の能力なんてものは一切使えない。
無理に外そうとすれば何が起こるかは―――想像すらしたくない。
だから自分に出来るのは、目の前の黒髪の少年の勝利をただ祈るのみ。
こんな時に、大好きな人の力になってあげられない自分が憎い。
だけど、そんな事を思っても仕方がない。
いくらそう思っても、これまでの過程を覆す事など、塗り替える事など出来るわけが無いから。
過去は振り返るものであり、やり直すものではない。
未来はこれから作るものであり、安易に捨てるべきものではない。
そして、ノイズメーカーがついていても出来ることから始めようと思ったヒナは、だたそれだけを口にした。





「が…ん…ばって…。し…なな…いで…」





両手を胸の前に合わせて、その潤んだ瞳に涙を溜めて、精一杯の願いを込めて。
















…ヒナの声が、聞こえた。
――頑張って。死なないで。
―――もちろんだ!!!
心の中で感謝する。
「…応援のエールが来た以上…そろそろ本気で行かせてもらうぞ!!長引かせるわけにはいかないからな!!」
「今までが本気じゃない!?まあ、そうでしょうね!!
 論、貴方がこの程度の器だったら、勝っても嬉しくなんてないもの!!
 本気の貴方を倒してこその『死闘』なんだから!!」
「言ってくれる!!」
そう、騎士とはより強き者を求めるもの。
厳密に言うと論はカテゴリ的には『魔術師』であり『騎士』では無いのだが、その辺はご愛嬌。
(I−ブレイン、『抗える時の調べのサタンマイ・ワールド)』常駐。容量不足。『擬似生命躍動サタン』強制終了)
「自己領域」をまとった論が、光速度の八十パーセントの速度で飛翔する。
『抗える時の調べのサタン』は、騎士の『自己領域』のコピー。
だが、論ほどの実力の持ち主が使えば、その速度は下手な騎士を凌駕する!!!
同時に、騎士刀『菊一文字』の情報と論の『抗える時の調べのサタン』がリンクした。
結果、論の運動速度を通常の五十九倍に、知覚速度を百二十倍に再定義する。
続けざまに能力を並列起動。脳内に描いた複雑なプログラムを一瞬で処理。
『抗える時の調べのサタン』発動時のみセットで起動できるこの能力・・・・なら、一見反撃のしようの無いこの『真紅の鞭』による攻撃を抜けて反撃に転じる事が出来る筈だ。
さらに、まだ脳内容量に余裕があることを確認した上で、並列処理で『刹那未来予測サタン』を起動して―――――!!!















(並列処理を開始。『極限粒子移動サタンディストーション)起動)


















刹那の時を置いて、論の姿が『掻き消えた』―――。
















「なッ!!」
突然の事態にシュベールは驚愕する。
今まで論の熱量があった箇所から、論の熱量が消えた。
これはつまり、論がどこか別の地点に移動している事を示していると一瞬で理解した。
「論!どこに消えたの!?」
反射的にあたりを見渡すシュベール。
(後方、攻撃感知)
シュベールのI−ブレインに警告。
刹那、いつの間にか背後に回っていた論から騎士刀『菊一文字』による一振りが繰り出される。
「ッ!!」
全力を持ってシュベールは真横に飛んで回避行動を行う。
だが、こと近距離戦においては論の方が遥かに強い!!!
結果、放たれた一撃はシュベールのわき腹の左の方を深く切りさざんだ。
「〜ッ!!」
シュベールがその痛みに顔をしかめる。
『真紅の鞭』の能力を引き出すために『痛覚遮断』を解除していたのが裏目に出た。
左わき腹の出血が激しい。多分、内臓付近までやられてる。
だが、すぐさまI−ブレインに痛覚を無理矢理全て押し付けて体勢を整える。
論との距離はそれなりに離れてはいるが、今の信じられない現象を見た後では、その程度の距離では安心できない。
何より、予想だにしない論の突然の奇襲にシュベールは驚愕した。
今までの優位が覆された瞬間。
『真紅の鞭』による避けようの無い攻撃をかいくぐって来た論。
否、かいくぐったと言うのは正しくない。
そもそもシュベールの攻撃は論には『当たりもしなかった』のだ。
何が起こった!?
論の姿がいきなり掻き消えたかと思ったら、次の瞬間には論の姿はシュベールの背後に出現した。
まさか『量子力学』!?
「うそ…論、どうやったの?」
信じられない光景に、シュベールだけでなくヒナまでもが驚いている。
自分の時には見せてくれなかった論の知られざる能力を目の前にしての驚き。
「仕留め損ねたか…あの距離で回避するとは流石だな」
その一部が血の色に染まった騎士刀『菊一文字』を正眼に構えて、残念そうに論は言う。
「…何をしたの、論!!」
悔しそうに叫ぶシュベール。
「さてな」
「…しらを切るのね」
「当然だろ。敵に塩を送ってたまるか」
「そう…なら、試させてもらうわ」
そういって、その双眸を細めたシュベールは、
「ヒナ…貴女でね!!!」
『真紅の鞭』を持っているその手を思いっきり振り下ろした。
「え!?」
刹那、ヒナ目掛けて『真紅の鞭』が襲い掛かる。
それは完全なる不意打ち。
ノイズメーカーによる能力封印を成されたヒナでは絶対に回避出来ない一撃。
「いやぁぁぁ――――っ!!!」
襲い来る『真紅の鞭』を目の前に、ヒナは頭を抱えて泣き叫んだ。
過去に受けた仕打ちが脳裏に映し出される。
それは思い出したくない、不条理に痛めつけられる辛い日々。
「シュベールッ!!!貴様ァッ!!!!!」
次の瞬間には、その表情に焦りを隠さずに論が駆け出していた。





















〜続く〜




















―【 お ま け の キ ャ ラ ト ー ク 】―















ノーテュエル
「…コラー!!シュベール!!戦闘出来ないヒナ相手に容赦無しかアンタはー!!!」
ゼイネスト
「あれじゃあ論はヒナを助けに動かざるを得ないな…敵ながら見事な動きだ」
ノーテュエル
「感心している場合!?あれじゃヒナは人質も当然の状態じゃない!!
 これじゃ、拙くなったらヒナを盾にするっていう選択肢がシュベールにはある事が明確じゃない!!」
ゼイネスト
「ま、次あたりで『それでは二人の戦いにならない』とか言って論がそれを諭すんだと思うけどな」
ノーテュエル
「論、むしろそれやっちゃいなさい!!卑怯者には天誅を下すべきよ!
 そして、いよいよレシュレイを始めとする殆どの人物が一箇所に集まりました!
 …すっごい作為的な流れかもしれないけど」
ゼイネスト
「それはつっこまないほうがいいと思うが…後、よく考えたら総勢九人の会話が入り乱れるだろこれ…作者大丈夫か?」
ノーテュエル
「大丈夫みたいよ。ちゃんと展開は考えてあるみたい
 …で、今回も見事に活躍した論の『極限粒子移動サタン』!!
 やはり物質界の流れを無視して無敵移動を繰り出すってのは、格闘ゲームでもこっちでも有効みたいです!!」
ゼイネスト
「読まれるとカウンターもらって痛い目を見るけどな。
 メルティブラッドの七夜志貴とかがいい例だ、
 移動技を読まれると、相手によっては一気に四千近く持ってかれたりするし」
ノーテュエル
「…まあ、そういう話はまた別のところで話す事にして。
 んで、今、クラウが私達の事も含めて説明してくれているのよね…。
 まあ、少しでも多くの人に、私達っていう人間が生きていたって事を知っていてもらいたかったから、丁度よかったかも」
ゼイネスト
「…しかし、シャロンの『堕天使の呼び声』は…何て厄介な能力だ…。
 これを仕組んだ奴は、一体どれ程計算高い奴なんだ!?」
ノーテュエル
「少なくともその『仕組んだ奴』の件は、本編でイントルーダーが言っている通りだと思うわ。
 だから父さん…ヴォーレーンでは無いはずよ。
 だって、父さんは確かに『狂いし君への厄災』や『殺戮者の起動』を考案はしたわ。
 だけど、それを私達の脳内に入れてはいなかった筈なんだから…」
ゼイネスト
「その辺は物語が進むにつれて明らかになっていくんだと思いたいな。
 後は…エクイテスだが…ありゃまさに典型的な肉弾戦系だな」
ノーテュエル
「その方がキャラの持つ特性にばらつきがあっていいと思うけどね。
 基本的に皆して武器持ちなんだから、たまには素手系が居てもいいじゃない」
ゼイネスト
「いや、それを差し引いてもあの防御力はありえないだろ…」
ノーテュエル
「確かに…ブリードの『氷剣』ですらノーダメ…。
 仮にクラウとかが攻撃したら、硬すぎて逆にダメージ喰らうんじゃないの?」
ゼイネスト
「じゃあ、エクイテスのアキレス腱を斬るとかはどうだ?
 アキレス腱は如何なる強者にも鍛える事の出来ない、人間の最大の弱点の一つだって聞いた事があるぞ」
ノーテュエル
「人間の弱点かー…でもエクイテスの能力を見る限り、多分アキレス腱にしろ金て…って何言わせようとするのよ!!
ゼイネスト
「お前が勝手に話し進めたんだろうが!!勝手に俺に振るな!!
 …まあ、言葉を選んで金的と言おうとしたのは中々にいい判断だと思うが。
 ちなみに、格闘技での用語の一つにこれがあったはずだ」
ノーテュエル
「はーい、これ以上あんたのキャラが壊れない&脱線しない内に話し進める!!
 つまり、エクイテスには『弱点』と呼べるポイントが無いと思うわね。
 万が一I−ブレインを貫かれそうになったら、額の皮膚を硬くすればいい事だし」
ゼイネスト
「だが、矛盾という言葉があるように、最強の鎧なんてものは存在しない。必ずどこかに弱点があるはずだ
 レシュレイ達がその辺を見切れないと、勝ち目が無いと思うな。
 …あるいは、エクイテスの作成者であるラジエルトがエクイテスの弱点を告げてくれる可能性に賭けるってとこか」
ノーテュエル
「確かにエクイテスの製作者であるラジエルトなら、エクイテスの弱点を知っていてもおかしくないわよね。
 ま、ここでなんだかんだ言っても、既に死んだ私達にはもうどうする事も出来ないけどねー。(泣)
 大人しく傍観者に回るしかないのが悲しいところだわ」
ゼイネスト
「ま、そういうことだ」
ノーテュエル
「んじゃ、次回『戦況混迷』までまたねー」












<こっちのコーナーも続く>











<作者様コメント>








とっくにお気づきかと思いますが、途中に挿絵を入れてみました。
堕天使がどんな奴なのかを絵で示してみたかったので。






そう言っている間にも最早十六話目に突入。
最初はこの辺で終わらせようかとも考えたのですが、
どうにもそう簡単にケリはつかないようです。
真の『悪』と呼べる者が存在しないこの物語に、もうしばらくお付き合い下さるようお願いします。


以上、画龍点せー異でした。


<作者様サイト>
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◆とじる◆