DESTINY TIME RIMIX
〜戦況混迷〜
















色々な想いがある。

戦う事でしか、伝えられない想いがある。

少なくてもこの世界においては、それが正論と化している。








…皆が望んでいるのは、それ以外の選択肢を見出す事なのに。

時代がそうさせたのか、世界がそうさせたのか。

その答えは、誰も知らない。
















―――【 入 り 乱 れ し 戦 場 】―――
〜FULL CAST〜















全てを語り終え、クラウは大きく息を吐いた。
一同は、無言の内に全てを受け止めた。
今来た三人が、全て『もう一つの賢人会議Another Seer's Guild)』に所属していた者達であること。
全ての真実を知っての上で、いざ、『もう一つの賢人会議』に反旗を繰り出そうとしていた事。
青い髪の女性…クラウの家族の仇が『もう一つの賢人会議』であること。
イントルーダーがここの魔法士として生み出された事。それも、マザーコアとして生み出された事。
故に、イントルーダーが脱走を決意して、今に至るという事。
シャロンの脳内には『堕天使の呼び声コール・オブ・ルシファー』という能力が隠されていて、それが覚醒してあのように豹変したということ。
そして…ノーテュエル・クライアントも、ゼイネスト・サーバも死んだという事。
「…………嘘だろ」
最初にその言葉を発したのは、ブリードだった。
ノーテュエルも、ゼイネストも死んだ。
その事が、ブリードとミリルに大きなダメージを与えていた。
ノーテュエルに関しては、過去に起こったあの戦いのせいで、で正直に言うとあまりいい記憶が無い。
だが、後にゼイネストから事情を聞いて、ノーテュエルの脳内には『狂いし君への厄災バーサーカーディザスター』という、圧倒的な戦闘能力を得る代わりに自我を失い暴走する能力が埋め込まれていた事、
ゼイネストの作り上げたプログラムにより、ノーテュエルは『狂いし君への厄災』から解放されたという事。
そこまでが、あの時説明された内容だった。
しかし、ゼイネストにまで『狂いし君への厄災』のような能力が埋め込まれていた事までは、説明されていなかった。
「…確かに、ありゃあ凄かったな…」
額を押さえたブリードの脳内に、死闘前のあの二人の会話の中で、最も印象に残った場面が画かれる。










『…やれやれ、だんまりか…そういやさ……お前と本気で殺しあうのって、これで何十回目だっけ?』
『がああああぁぁぁぁぁぁぁああああっぁあぁぁ!!!!!!!!!!!!』










はたから見れば眼を疑いたくもなる光景。
だけどそれでいて、どこか言いようの無い気持ちにさせられる悲しい戦い。
それを思い出したブリードは、無意識の内に口を開いていた。
「そういやあの時言ってたな…『お前と本気で殺しあうのって、これで何十回目だっけ?』って。
 正直、ノーテュエルの『狂いし君への厄災』の暴走の根源となる殺戮衝動を発散させるためだけのものだと思っていた。
 …だけど違ったのか。ゼイネストに隠されていた…えーと、『デトネイターアウェイク』だったか?」
「『殺戮者の起動デストロイヤー・アウェイク』…まあ、初めて聞いて覚えられる人は少ないでしょうけどね」
クラウ、即答。
「分かった。んじゃその分の『殺戮者の起動』の殺戮衝動も合わせての意味だったのか…」
ありのままを受け止めたブリードの様子も、そして口にした言葉も妙に冷静だった。
その実、心の底では取り乱したい気持ちで一杯だった。
いや、そうであったからこそ、逆に冷静に考える事も出来たのかもしれないと言えるのかもしれない。
「あの二人に同一系列の能力が入っていた聞いてなかった…って顔だな。  ま、一言で言うなら、初めて出会った人間にそこまで話す義理は無い、ということか」
ブリードは黙って頷いた。
イントルーダーの言っていることは当然の理屈だろう。またいつかどこかで会うとも分からぬ人間に全部話す馬鹿正直は居ない。
この世界において情報漏洩が如何に愚行かなんて、ブリードはいやというほど分かっている。
「…そして今、シャロンってのは、その二人とは、とっても仲が良かったんだな…」
「そう…シャロンにいっつも一緒にいてくれた、かけがえの無い仲間だったのよ。
 だけど、シャロンはその二人を一度に失ったのよ」
レシュレイの問いに、クラウは声音を変えずに答える。
心の底では悲しんでいるのは間違いないのだが、それを表に出さない。
感情に流されず、あくまでも説明役としての仕事を全うする心算つもりらしい。
「…酷い」
消え入るような声でミリルが呟いた。
「どうして…どうしてシャロンちゃんが、そんな思いをしなくちゃいけないの?」
一呼吸置いて、今にも泣きそうな声で続き。
「…でも、どうしてそんな能力が埋め込まれたんですか?」
「…純粋なる戦闘能力の強化だ…それも、性格を犠牲にするタイプのな」
根本にあたる事柄を問うたセリシアに対してイントルーダーが答えた。
「…そんなの酷すぎる…それじゃまるで、初めからマザーコア用に生み出された魔法士とどう違うの…」
その言葉を口に出したと同時に、両腕で震える肩を抱いたのはミリル。
マザーコアにされるという事は、心も感情も全て失って、ただの物言わぬ動力源と化す事に他ならない。
『狂いし君への厄災』や『殺戮者の起動』、そして『堕天使の呼び声』。
これらは物言わぬ動力源と化す訳では無いにしろ、自我を制御出来ないという点では共通している。
そして、そのマザーコアにされかけた経験を持つミリルにとって、それは十二分な恐怖に値する。
「…それと今分かるのは、今の三つのプログラムを埋め込んだ奴が不明だって事だ。
 ノーテュエル達を作った科学者の名はヴォーレーン・イストリー。これは分かっている。
 だが、この男はそういう事をする人間じゃなかった…と、俺が盗み見たデータベースに書いてあったな」
淡々と告げるイントルーダー。
「不明…っていうのはまさか…」
「…お察しの通り、書いていなかった。としか言いようが無い。嘘でも何でもなく。だ。
 もし知っていればそいつを探し出したい気持ちで一杯だし、ここまでする必要があったのか?という疑問もあるしな。
 …いずれにしろ、分からない以上、これから地道に探し出していくしかないのさ。
 ま、その前にここをどうやって切り抜けるか、だが…」
ふう、というため息と共に、レシュレイの問いに答えたイントルーダーは天へと視線を逸らした。
それを見て、話が一通り終わったことを理解した、それまでこの会話に参加していなかった者が口を開いた。
それは、三人組の最後の生き残りである――――。








「――――そろそろいいの?」










――――――血のように紅い翼を持つ、堕天使ルシファー)シャロンだった。
「ああ、いいとも。
 …まあ、こちらは六人、あんたらは二人…人数上ではこっちが圧倒的に有利だがどうするんだ?エクイテス」
挑発的な口調で、状況を告げつつ返答したのはイントルーダー。
成程成程言うとおり。人数的な差は歴然ではないか。
えて六人ともそれなりの実力を…否、一部は『それなり』という言葉だけではとても表しきれない戦闘能力を保持しているのだ。
「減らず口を…まあいい、これで俺はレシュレイ達との戦いに専念できる」
が、イントルーダーの話と、今置かれた状況を理解しても尚、エクイテスは冷や汗一つかいていなかった。
寧ろ、今のはイントルーダーの言葉を無視しての発言ととれる。
レシュレイ達との戦いと言っているが『達』とは一体何人なのか…。
「何!?それはどういう…」
「…よーするに、私はこの四人の相手をしてなさいってことでしょ。エクイテス」
思わず聞き返したブリードの言葉を遮ってそれを口にして、シャロンはずい、と一歩前に出る。
「その通りだ。
 …それにシャロン、今のお前と戦えば、俺とて無事では済まないだろう…。
 否、下手をすれば負けるな…だから、今だけは停戦協定だ」
「待てこら、勝手に話を進めるんじゃね…」
殺気を纏った紅い翼が飛来して、左足を一歩踏み出したブリードの右肩ぎりぎりを掠めた。
「駄目だよ。エクイテスの邪魔をしちゃ…それに、私としては、相手は多いほうが面白いもん。だから…来て」
「…シャロンちゃん」
「…無駄よ。もう、シャロンじゃないもの」
「酷いの。それ」
呆然とするミリルに対して現実を突きつけたクラウの言葉に、シャロンは笑顔でそんなことを言ってのけた。
「…ほんとのシャロンなら、そんな酷薄な笑みなんて浮べないわよ」
「そうだったね…でも、それは弱い私の話。
 今の私は強いから。
 あの時みたいに、何も出来ない役立たずなんかじゃない
 …だから」
その声に自信を込めて、シャロンは言い放った。








「たとえ四人相手でも勝てる、そんな気がするの」








その言葉に、シャロンの悩みが集約されていた。
何も出来ない、弱い自分が大嫌い。という悩みが。







――――そう、
私はいつも見ている事しか出来ていなかった。
ノーテュエルとゼイネストを救えなかった。
そのくせ、恋愛感情だけは立派に成長していた。
そんな弱い私が嫌だった。



だから、力が欲しかった。
戦える力が欲しかった。
誰にも負けない、かつ、大切な人を守れる力が欲しかった。











――――だから、『堕天使の呼び声』は、私の希望にぴったりの能力。






―――その代償に、いかなる犠牲が待ち受けていても構わない。
私の大好きな二人は居ないのに。 そんな事をしても二人が喜ばないって、分かりきっていた筈なのに。
だけど、そんな事を言っていられない。
体がうずうずするの。
誰かを殺したくてたまらないの。
もう、戻る事なんて出来ないみたい。
私がこうなったのは誰のせい?
いいえ、誰のせいでもない…全ては世界が悪いのだから。
そう考えると、自然と口元に笑みが浮かぶの。






――――ああ、そうだったんだ。
その瞬間に、私は気がついたんだと思う。












―――――私は―――――――あの時から、ゼイネストとノーテュエルが死んだ時から、世界を滅ぼしたかったんだ――――。











「言ってくれるなシャロン、だが自惚れるな…そしてエクイテス、最初からコレが狙いだったのか?」
イントルーダーは怒りを隠さずに、今までシャロンに向けていた視線を方向を変えてエクイテスを睨みつけた。
「…正直、予測はしていた。但しそれは、イントルーダー…お前が絶対にここに戻ってくるという事をな。
 だが、実際にシャロンが来るかどうかまでは分からなかった」
「それでも、結果的には賭けは貴方の勝ちだと言う訳か」
「そうなるな」
「シャロンが俺達の相手をすると言っている以上、この手で貴方を殺せないのが残念だ…。
 貴方は貴方の戦いたい二人と戦い、戦いの中で果てる道を選んだか…。
 ならば俺に出来る事はもう何も無いという事になるのか。
 だから…レシュレイ、セリシア…酷だろうが頼む…エクイテスの望みを叶えてやってくれ」
数秒ほど迷うように目を瞑り思案したレシュレイは、目を見開き確かに言った。
「ああ…俺達が戦いたくなくても、エクイテス…いや、兄さんは俺達に殺される事を望んでいる。
 それも、本気を出した戦いの中で…だ。
 もう説得も出来ないみたいだし…仕方ないけど…兄さんを倒すしかないんだろ!」
次に、レシュレイに続いてセリシアが口を開いた。
「…はい、分かり…ました」
そして、その声は震えていた。
「セリシア!?」
イントルーダーの『エクイテス殺害依頼』を正面から受け止めたセリシアの様子を見て、ラジエルトは驚愕する。
レシュレイならともかく、誰よりも他者を傷つける事を嫌うセリシアの口から放たれた、思いもよらぬ一言。
ラジエルトがその真意を確認する前に、
「じゃあ、貴方達四人はこっちなの…と、その前に」
「え!?」
「ミリル!!」
唖然とするミリルと、叫ぶブリード。
だが、ブリードの叫びが届く前に、ミリルの肢体はシャロンの紅い翼に絡めとられる。
「な、何をするんですか!?」
翼から逃れようと必死でもがくミリル。
「戦場を変えるの。ついてこなかったらどうなるかは…分かっているわよね?」
ブリードに視線を向けてシャロンは残酷な言葉を発する。
そしてその翼にミリルを絡め取ったまま移動を開始する。
「…そんなもん当たり前じゃねぇかよ!!くっそ!」
くっ、という声を漏らして、ブリードが駆け出す。
「…古典的だか有効な手段だな」
「言ってる場合!?」
イントルーダーとクラウがその後に続いた。
これにより、エクイテスとシャロンの思惑通りに、見事に戦力が分担される。
互いが互いと戦いたい相手達とだけ戦える、調整された戦況。
ちなみにレシュレイもシャロンの方に向かおうとしたが、エクイテスに立ちふさがれて失敗した。
さらにその場合、下手するとセリシア一人でエクイテスの相手をする事になってしまう。
故に、いず)れにしろ無理な注文だったといえるだろう。
「俺達の戦場はこっちだ…さて、戦闘前の決意発表を続けてくれ。それが終わるまで待ってやる」
この状況にあっても常に紳士的な振る舞いを見せるエクイテス。敵ながら、そして兄ながら人間が出来ている。
だから、そのエクイテスの言葉を信じて、セリシアは続けた。
「父さん…私、戦います…いつまでもレシュレイ一人に辛い思いはさせられないんです…。
 あの時、私は逃げていました。
 現実から、逃げていたんです。
 本当は、私は前を見なくちゃいけなかったんです!
 レシュレイ一人に全てを背負わせて逃げていてはいけなかったんです!!
 だから、今までレシュレイ一人だけに罪も痛みも背負わせてしまったんです!!
 この戦いの中で決めたんです…罪も痛みも、二人で背負って生きて行こうって!!」
しゃくりあげながら、かろうじて言葉になっている台詞で、万感の思いを込めて告げた。
言い終えた瞬間、ぽろぽろぽろぽろ、と、セリシアの青くて綺麗な瞳から次々と涙が流れ出す。
それを見て何かを口にしようとレシュレイだが、敢えて口を紡ぐ。
その代わり、ポケットから取り出した綺麗なハンカチでセリシアの涙を優しく拭う。
レシュレイのその行動から、ラジエルトはレシュレイが『セリシアが戦う事を承認している』事を一瞬で理解した。
普段のレシュレイなら絶対に『セリシアに戦わせるなんて出来ない!!』とか言って真っ先に止めている筈だ。 
「…本当に…本当に、それでいいのか?」
念には念を入れて、もう一度聞き返すラジエルト。
「はい」
泣き止んで、凛とした表情と声音でセリシアは返事を返す。
「…すまない。こんな世界になってしまったばかりに!!」
額に手をやり、俯くラジエルト。
どうしてセリシアにまで戦わせなくてはならないのか。と。
確かに戦闘用の能力は持たせた。
但し、それはあくまでも敵から彼女自身の身を守れるようにと思ってやったことだ。
決して自ら戦いに望ませるために作った能力ではない。
だけど今、セリシアは戦う事を決意した。
なら――。
「父さん…こんな世界だからこそ、俺達は生み出されたんだろ。
 だから、俺達には今があるんだろ。
 そして、俺達は今、嫌でも兄さんを超えていかなくてはならないんだろう。
 …だから俺達は、生きる為に、自分が生きた証を確認する為に戦うんだ。そのために必要なものは、もう分かるだろ」
レシュレイの言葉が、何かを言おうとしたラジエルトの背中を押す。
ラジエルトは息を整え、心の準備を整え、今、その言葉を口にする。
「…本当はこんな戦いなんて止めたいけど、もう無理みたいだ。
 だから、二人とも。行って来い。
 そしてエクイテス。俺はお前の意思を尊重する…」
「そうだ。
 俺の脳内に仕組まれた『地獄の神のお祝いにヘル・ゴッド・オブ・エデン)』もまた、『狂いし君への厄災』などと同系列の能力だ。
 そして、『狂いし君への厄災』などとの相違点は、解除用のプログラムが見つからなかったというただ一点のみ。
 これがどういうことか分かるだろう…俺は、もう少しで自我が崩壊するってことだ」
「本当に…ですか?」
沈黙を破ってセリシアが問うた。
「本当に、もう駄目なんですか?」
「もう手遅れだ。I−ブレインが告げていている…後僅か、だとな。
 だが、俺は下等な殺人者になどなるのはまっぴら御免だ!
 非常な願いだと分かっている!!だが頼む…殺してくれ!!俺が俺でいられる内に!!
 …俺の、『弟』と『妹』にあたる二人の手で!!」
今はっきりと、エクイテスは告げた。









エクイテスは心の中で慟哭していた。
幾多の戦場で戦い続けたが、未だに無敗を誇る自分の人生。
それが今、ここで終わるだろう。





しかし、俺は名も知らぬ誰かの手で殺されるなどとはまっぴら御免だ!!
出来る事なら、自分が死んだ後にも覚えてくれているであろう者の手にかかって死のう!!
見ているか!『地獄の神のお祝いに』を仕込んだ何処の誰とも知らぬ存在よ!
これが俺の生き様だ!!
これが『エクイテス・アインデュート』の生き様だ!!
この生き様を、何処からか見て、そして畏怖するがいい!恐れおののくがいい!










「…にい…さん…」
決戦を目の前にして、途切れ途切れのセリシアの言葉。
無理も無い。口ではあれだけ言えても、いざ実行するのは遥かに難しい。
何せこれからレシュレイとセリシアは、自分の兄とも言うべき存在…エクイテスと戦い、彼を倒さなくてはいけないのだ。
だが先ほどの言葉とて、惰性や状況に流され、ただその場の展開から告げた言葉ではない。
エクイテスを止めるのが不可能だと分かってしまった。
現実を見据え、そして未来へ進むことを決めた今、放たれるのはたった一言。
それだけで、全ては十分だ。
「ああ…最初で最後の兄さんの願い、叶えてあげよう!!」
レシュレイの瞳の端に、涙が一滴光っていたのを、セリシアは見逃さなかった。











そしてここに、戦いの火蓋が切られた。
複雑で色々でやりきれない思いをいっぱい含んだ戦い。
だけどレシュレイ達には、退く事など許されない。
今この時に、未来への切符を手にするために。












+ + + + + +












「んー、ここでいいかな」
天井も壁も強化カーボンで作られた研究室らしきところでシャロンは止まり、ミリルを解放する。
「く、苦しかった…」
強化カーボンの地面へと下ろされたミリルはけほけほと咳き込む。結構きつく束縛されていたらしい。
そしてその後に続いて来るのはブリード・イントルーダー・クラウ。
いずれも表情に緊張感を漂わせている…まあ当然。
それを確認した上で、シャロンは言い放った。










「始めましょうなの」













――――こちらの戦場でも、戦闘開始のゴングが鳴った。










 
「…くっ、なんだこいつの『情報』は?」
「内側に…物凄い潜在意識を感じます…」
開幕直後から、ブリードとミリルはシャロンの持つその圧倒的な潜在意識に少なからず戦慄する。
「これがシャロンの潜在能力なの!?凄すぎるわ、この情報…」
「ああ、これはちと拙いかもな…」
表面上は平静を保ってはいるが、その心の内では動揺と焦りを隠せないクラウとイントルーダー。
『天使』が持つ『内側に秘められたまま攻撃として使われない部分』
天樹錬がフィアに最初に出会った時に感じたといわれる、魔法士としての潜在能力。
それがもし攻撃面に使われたらどうなるか!?
答えは一つ――――ありえないほどの破壊力へと変貌する!!!
正に反転、正に表裏一体とはよく言ったものだ。
―――冗談じゃない。
四人の心のなかに共通して浮かんだのはそんな言葉。
「…だけどおかしいわよ!『天使』にはフィードバックがあるんじゃなかったの!?」
クラウが叫ぶ。
言われて見れば確かにその通りだ。
『天使』である以上は『同調能力者』のカテゴリに分けられる。よって、相手を攻撃したらシャロン自身にもその痛みがフィードバックとして残されてしまうはずだ。
ましてや相手を殺すような攻撃なんかしたら、それこそしばらくは脳内に響く激痛に動く事すら出来ないのではないのであろうか?
「…多分、研究に研究を重ねてフィードバックを削除したんじゃないのか?ここの科学力ならそれ位出来てもおかしくはないだろう」
だが、クラウの疑問に対してイントルーダーが即答したお陰で、答えはあっさりと出てしまった。
それも認めたくない方向に。
「冗談でも怖いことを悠長に言わないでっ!!」
思い描いていた不安を見事に当てられて反射的に叫ぶクラウ。
「…だが、それでも尚、おかしい点がある」
「何が?」
急に考えこんだイントルーダーを見て不思議に思ったクラウは聞き返した。
「シャロンは『天使』のはずなのに、『同調能力』を使ってこない。
 …おかしくないか?そもそも、俺達を倒すんなら、まず真っ先に『同調能力』でこっちを支配してからゆっくりと攻めればいいのに。
 それをしないであの紅い翼による攻撃しかしてこない…これはまさか」
「あ」
クラウ・ブリード・ミリル三者の声がハモる。
そうだ。
『天使』というか『同調能力者』の持ち味であるはずの『同調能力』。
相手の情報を内から支配する、ある意味での最強の能力。
…最も、ここにいるメンツの中では『対同調能力者ガードオファ)』を持つブリードには全くと言っていいほど効果を表さないのだが。
シャロンは一度ブリード達と出会っているから、ブリードの能力について知っていてもなんら不思議はない。
だが、それでもブリード以外の三人には『同調能力』が効く筈だ。
それでも、『同調能力』は来ない。
…ということは、考えられる可能性は二つ。
一つは…あえて『同調能力』を使わないという事。
そしてもう一つは、シャロンの『同調能力』は、相手を支配下に置けないタイプの『同調能力』であるということ――!!
イントルーダーの口を通してそれを聞いたクラウは、即座に結論を出す。
「…多分、後者の考えが正解だわ」
「何故、そう思う?」
「だっても何故も何も、私は今まで幾度もノーテュエル達と戦ってきたのよ。
 それでいておかしいと思ったのよ。
 だって、シャロンは私に対して何もしなかったし、された事も無かった。  もし、シャロンが『天使』であるなら、『同調能力』でも使って私の動きを制約すればノーテュエル達が大幅に有利になるのよ。
 だけどシャロンは、それを一度たりとも使ってこなかった。それで今、改めて確信したわ…」
ここでクラウは一呼吸置いて続けた。
「シャロンの『天使』の能力は、フィードバックを削除した代わりに、相手を自分の支配化に置けないのよ。
 治癒能力に特化していたから、相手の肉体情報を書き換える事には特化しているわ。
 だけどその反面、相手の精神状態までを制御できる能力面に置いては…おそらく三流以下ね」
「…正解です。流石クラウなの」
その言葉がシャロンの口から静かに告げられた。
言葉の内容的には褒めている心算なのだろうが、ちっとも褒めているようには聞こえない。
「…だけど、それでも貴方達は私にどうやって勝つの?あはは」
刹那、空を切る音と共に、圧倒的な質量と切れ味を持つ紅い翼が襲い掛かった。
「おわっ!あっぶねぇっ!」
「きゃあ!なんですかそれぇっ!!」
「そうきたか!」
「ぬるいわよ!」
ブリード・ミリル・イントルーダー・クラウの、四人それぞれの違う台詞。
その後、共通して取るのは回避行動。というか、これ以外に選択肢が無い。
「こっの…やってくれんじゃねぇか!!」
次の瞬間には、ブリードがI−ブレインに命令を送っていた。
『氷使いクールダスター)』常駐。『氷下の調べセルシウス)』発動。運動係数を八、知覚係数を三十二に設定。並列処理を開始。『舞い踊る吹雪スノウロンド)』発動)
ブリードの額の裏側にシステムメッセージが表示され、世界が急激に速度を減じる。
運動速度と知覚速度の比率は錬と同じく一対四。
自分の体までスピードを失ってしまったような錯覚。肌にまとわりつく空気がひどく重く感じられる。
だが、こんなのはもう慣れっこだ。
ブリードとてつい先日まではシティ・モスクワのエリートと言うべき地位に就いていたのだから。
同時に、『舞い踊る吹雪』発動により、ブリードの周りに絶対零度の無数の結晶が出現。
絶対零度の無数の結晶はブリードの周りをたゆたうようにワルツを踊り、マスターであるブリードからの命令を待っている。
ブリードが一つ命令を下せば、絶対零度の無数の結晶達はブリードが望む姿にその形状を変え、シャロンに襲い掛かる。
目を奪われる美しさと、それとは裏腹に極悪な破壊力を兼ね備えたブリードの奥義の一つ。
この絶対零度の無数の結晶から放たれた攻撃を回避できたものは、ブリードが覚えている限りでは殆ど存在しない。
この能力があったからこそ、ブリードはシティ・モスクワの最強の『氷使い』だと呼ばれていたのだ。
シャロンにとっては初めて見るこの能力。故に、攻撃されなければその能力の正体を掴めない。
(『舞い踊る吹雪』―――――――『形状変化フォルムチェンジ)』――――『番号code)――――フリーズランサー)』発動)
「避けれるもんなら避けてみなっ!!」
その隙を突いたブリードはお返しとばかりに、現実時間にして一秒足らずで具現化した、論理回路を刻みこんだ無数の氷の槍を飛ばした。
(高密度高威力の攻撃情報感知)
シャロンのI−ブレインが警告を放つ。
「そんな氷じゃ、水も凍らないよ!!」
無論、シャロンは紅い翼を振るい、無数の氷の槍の殆どを打ち砕く。
だが、数本ほど振るい落とせなかった氷の槍があった。
気がつけば、ブリードはいつのまにか『数本ほど振るい落とせなかった氷の槍』の真後ろに走って追いついていて、その中の一本の端っこを手に持っているではないか。
そのままブリードは手に取った『槍』をシャロンの心臓目掛けて突き出す!
「取った!!」
ブリードの繰り出した『槍』は、確かにシャロンを仕留めたはずだった。
だが、シャロンからは、攻撃を当てたという実感というか感覚が返って来なかった。
というか、シャロンの姿事態がその場から消えていた。
おかしい。確かに今、ブリードの持っていた氷の槍は、シャロンの心臓を確かに貫いたはずなのに。
「何っ!」
仕留めきったと思った相手がいない事にやっと気づいて焦るブリード。
反射的にあちこちを振り向くが、シャロンの姿は一向に見当たらない。
無論、ブリード以外の三人もあちこちを探しているが、その姿が見当たらない。
「どこを攻撃しているの?」
「そこだ!!」
ぼそりと、淡々とした声でシャロンが呟いたのと、イントルーダーがシャロンの居る方向を指差したのはコンマ一秒のズレすら無かった。
刹那、二人の指摘があってやっとその声に気づいたブリードが振り向いて―――、
 








「――ここ」









 
ぽん、と肩を叩かれた。
「――っ!!?」
ブリードは弾けるように後方に跳躍。
一挙動で『氷剣ヴォーパルブレード)』を生成して、すかさず構え直してそこで着地する。
先ほどまで自分が立っていた位置、そこからほんの少しずれていたところに、シャロンは無傷で立っていた。
「驚いた?」
堕天使が、酷薄な笑みを浮べる。
シャロンは優雅にそこで深く腰を折り曲げて緩やかに深々とこちらに礼をする。
その細かさと言動が結びつかず、よりいっそうの違和感が四人の中に生まれた。
「なんのつもりかしら?」
言葉を発したのはクラウだった。
シャロンの能力は『天使』のはずだ。
なのに何故、今みたいな擬似空間転移が出来るのか?
仮に本物の空間転移だったとしても、魔法士である以上は絶対に『情報制御』は感知できる。
この場に置いて圧倒的な状況認識力を持つ『管理者』であるイントルーダー。
カテゴリ的には『騎士』であり『情報の海』の乱れに対し人一倍以上も敏感なクラウ。
そんな化け物じみた認識力と把握力を持つ二人ですらも認識不能なシャロンの擬似空間転移。
一体シャロンには、後どれ位の秘密と能力が隠されているのか…考えたくも無い。
あらゆる能力が規格外。
規格外で出来ているような魔法士の中でも、郡を抜いての規格外。
…めちゃくちゃにも程がある。
再度、四人の心が一つに繋がった。
そんな中シャロンが先ほどのクラウの問いに答える。
「これが『ある種の同調能力の最終系』よ。厳密には『同調能力』とある能力とを合体させたコラボレーションとも言うべきかしら」
「…」
時が止まった。
四人の時が止まった。
シャロンの言っている事が理解できない。
『ある種の同調能力の最終系』とは一体…?
誰も言葉を発しない静寂の空間。
だが次の瞬間には、その疑問の回答がシャロンの口から告げられる。
「そうね…シティ・モスクワの魔法士だったそこの二人なら分かるんじゃないの?」
「…何をだ」
反論したのはブリード。
『量子力学』
「…え?」
その言葉の意味が一瞬理解出来ずに、ブリードとミリルは唖然とする。
『量子力学』の言葉の意味を思い出すのに数秒ほどかかる。
そしてブリードとミリル、二人の口から出た言葉は―――、



「…イリュージョンNo.17」
「…イルさん」



「名前だけなら知っているわ。あらゆる攻撃を受けても立ち止まらずに前に進むのみ。シティ・モスクワの『幻影』と名高き魔法士…でしょ」
クラウがそれに便乗するように答えた。
ブリードもミリルも、彼に――イリュージョンNo.17に会ったことだけはある。
気さくで陽気でおちゃらけてばかりいるが、仲間想いで常に他者の事に気を配り、自分より他者を優先する少年。
そして彼は今頃、シティ・メルボルンでとある作戦に参加しているはずだ。
「正解なの。そして私がさっき言った言葉は…ここまで言っちゃえばもう分かるよね。ふふ、元シティ・モスクワ所属のお二人さん」
屈託の無い笑みに似合わぬ挑発的な口調。
「え!?いや、ちょっと待ってよ!」
「そ、それって…」
現実を理解できずに…いや、頭が理解を拒んでいるのだろう。
当然かもしれない。何せ、それを認めてしまえば…。
「…こんなところで現実逃避なんてやっても仕方がないでしょ…素直に現実を認めなさいよ」
だが、苦々しげな顔でクラウはそれだけを言った。
おそらく、彼女自身もまた、目の前の出来事を理解したくなんてないのだろう。
だけど今、異常現象は目の前で起きている。
信じたくないなどという子供の理屈など通じるわけが無い。とうの昔に賽は投げられているのだ。
そんな中、異常現象の発端であるシャロンが口を開いた。
「んー、とりあえず種明かしさせてもらうね。
 これはね『干渉不能の掟ロストルール・イリュージョナル)』って言って、他者に対して干渉が出来ない反面、自分に対してだけはほぼ自由に能力を書き換えられる能力なの。
 つまり、この世のあらゆる攻撃を文字通り素通りさせて完全回避出来るってこと。
 『堕天使の呼び声』の製作者が何らかの手段でイリュージョンNo17の能力の原理を見抜いて、それを元にして作り上げた…ってこの能力が教えてくれたなの。
 ただ、まだ私の腕不足のせいで、完全回避を展開できるのは現実時間にして三秒も出来ないみたい。
 だから、あなた達に勝ち目の無い戦いって訳じゃないみたい。
 …どう、少しは安心したでしょ?」
「おかげさまで…ね」
シャロンの説明に皮肉で返すクラウ。
シャロンの能力の正体が分かったところで、打開策が見つかったわけではない。
あらゆる物理系攻撃を無効化する未知ともとれる能力『量子力学』が相手なのだから…。
シャロン自身に言われるまで気付かなかったシャロンの能力の正体と、I-ブレインが返してくる警告。
それら二つにより、ブリードの心に焦りが生まれる。
こんな相手に本当に勝てるのか?と思えてしまうほどの恐れおののくべき存在が目の前にいることを改めて認知する。
今の戦闘ですら、本当に俺はあんなのの攻撃を回避できたのか!?とさえ思ってしまう程だ。













どうやらこの戦いは、思った以上にずっと長引きそうだ。
そんな予感が、四人の頭の中から離れなかった。





















―――【 こ れ が 彼 女 の 力 な の か 】―――
〜THE RON&SHUBEEL&HINA〜















『極限粒子移動サタンディストーション)』発動)
 脳内に表示されたそのメッセージと共に論の体はその場から掻き消え、次の瞬間には論の体がヒナの目の前へとワープしたかのように現れる。
 ヒナの前に立ち塞がり、騎士刀『菊一文字』を盾にして『真紅の鞭スカーレットビュート)』の攻撃を耐え切った論は無傷だった。
論の背後から「あ…ありがとう」という声が聞こえた。
その声は恐怖に震えていた。
当然だ。今まで幾度も彼女を傷つけたその攻撃が、Iーブレインが起動していない状態で襲いかかってきていたのだから。

「…やはりね」
 そして、この事態を招いた張本人…シュベール・エルステードが、何かを確信したかのように頷いて言葉を続ける。

「…論…あなた、まさか『熱量を自在に操れる』の!?」
未知の能力の原理を知っても尚、シュベールは驚きを隠せない。
シュベールのI−ブレインが告げた結果は『圧倒的に微弱な熱量の高速移動』だった。
熱反応が消えてそしてまた別の位置へと移行したのではなく、熱反応はちゃんと存在していたのだ。
「熱量を自在に操る…まあ、正解ってとこだな」
ここで一区切りする論。
能力の原理がばれている以上、隠しても無意味だということを理解したが故の行動。
「まあ…その後に『原子分解と再構築の法則』が抜けているけどな」
それだけでシュベールは理解したらしく、論に睨み付けるような視線を送る。
「…熱量を下げて尚、論自身の肉体を一旦情報解体して分子化してからさらに再構築したっていうの!?
 …呆れたというか見事というか…とんでも無い能力ね…。
 科学力に限界は無いっていうのは、案外本当なのかもしれないわね」
「危なくなったらヒナを盾にするお前の方が余程とんでもないと思うが、勝てばどうでもいいのか?
 それでも騎士か?あるいは卑怯も戦法の内とか言ってのたまう気か?」
皮肉をたっぷりに込めた台詞が、論の口から流れ出るように紡がれた。
「我ながらそれは同感…正々堂々も何も無かったわね」
シュベールはふう、と軽くため息を衝いて、
「だから、ここで公言しとくわ…もうヒナを人質に取るのはやめとくわ」
「信じられないな」
論、即答。
そもそも、信じろってのが無理な話だ。
今の話でもし信じた奴がいたら鼻で笑ってやるところだ…馬鹿正直、と。
「…無理も無いけどね、まあいいわ。それはこれからの戦いの中で証明すればいいだけの事」
「…ヒナ、念のため、いつでも逃げれる準備をしておいてくれ」
「は、はい…」
論のその声を聞いて、ヒナは自分が安全だと判断した位置まで下がる。
「…こっちは、これでいいか。さて、シュベール…」
「なに?」
一瞬の間を置いて論は言う。
全てを射抜くような鋭い目つきと共に、
「…殺すっ」
それも、殺気を纏った声で。
「…言ってなさい」
シュベールには悪びれた様子は無い。
このままでは、口ではああ言っているものの、いつまたヒナを人質に取るか分からない。
故に、望まれるのは早期決着。
脳内でそう判断した論は、騎士刀『菊一文字』を正面に構えて立ち上がる。
「さて、続きと行こうじゃないか」
「もちろん。まだまだ輪舞は終わらないわよ、論」
それだけで十分だった。






――――戦闘が再開された。












―――論の能力の正体は、論自身の体を構成する皮膚などの元素配列を分子レベルにまで変換して移動した後に再度実体化して攻撃するというもの。
だが、生命活動を続ける以上、常に熱量というものを纏うはず。
だから、熱量を完全に消しての行動など、生物学的にも物理学的にも出来るわけがない。
たとえ物理法則すら読み解くI−ブレインを持ち、慣性の法則すら無視する魔法士だとしても、だ。
だが、論は熱量を破棄したわけではない。
熱量は確かにある。但し、それは非常に微弱な形で。
そう、周りの熱量よりも論自身の熱量を圧倒的に小さくすれば、周りの熱量の大きさから論の熱量を見えなくする事が出来る。
これにより、少なくとも視覚面で論の姿を感知する事は出来なくなる。
さらに、強大な熱量を持つ攻撃…つまりこの場合、シュベールが『真紅の鞭』を振り回している事だ。
攻撃という事は動くという事だから、少なからず熱量が発生する。
その時こそがシュベールに攻め入るチャンス。
シュベールの攻撃で発生する熱量のお陰で十二分なカモフラージュを行える。
そして、論の熱量を『真紅の鞭』が生み出す熱量以下に設定すれば、熱量で論の気配を悟られる事がない。
『真紅の鞭』の熱量がでかすぎて、論の熱量が隠れる形になるのだ。
そうすれば、シュベールにとっては論が完全に消えたかのように思える。
これが、論の時空移動の正体。
初見で見破るのはまず不可能と言われる長距離移動能力。







―――だったのだが―――――。






「…同じ技は二度は通じない、か!」
飛来する攻撃を舌打ちしながら回避しつつ、論は攻撃の機会を伺っていた。
…『極限粒子移動サタン』の仕組みを見抜いたシュベールには、いかに論と言えども二撃目をそう簡単に叩き込める状況ではなくなった。
論がいくら『極限粒子移動サタン』でシュベールの虚を突いたつもりでも、シュベールにはそれが簡単に見切られてしまうのだ。
無音の一瞬、論の姿が掻き消える。
その後、シュベールの背後に出現。
前もって準備されていたかのように繰り出される『真紅の鞭』の一撃。
その光景を視界の端に入れながら返す刀で虚空を一閃。そしてすぐに後退。
シュベールの『真紅の鞭』の恐ろしさは既に理解できている。
触れるもの全てを切り裂く破壊の象徴。圧倒的なリーチによる戦況制御。
シュベール自身の領域テリトリー)に幅広く陣取ることの出来る武器。
元より、戦場では自身の領域を多く取れる方が有利になるのは周知の事実。
加えて、攻撃の多種多様性。
あらゆる方向、全方向三百六十度から繰り出す事の可能なオールレンジ攻撃。
いつ来るか分からぬ極死の一撃。全ての攻撃は予測不可能。
その気になればいつでも繰り出せる回避不能な攻撃。
それに対抗する術は非常に数少ない。
分かっているのは…今よりもさらに速い攻撃を繰り出さなくてはならない事。
さらに手数も増やさなければならない。
…となれば、論が取るべき手は一つ。
シュベールとの死闘が始まってから一度も手をつけていないもう片方の騎士刀に手をかけて、一気に引き抜く。
すらり、この戦いにおいて、論が持つもう一本の刀がついに抜かれた。
論の左手にあるその刀は、まるで一滴の血も吸っていないように、白銀と呼ぶに相応しい輝きを持っている日本刀。
(騎士刀『雨の群雲』デバイス確認。脳内容量を一時的に追加)
単純な論理だが、騎士刀が二本あれば、単純に獲物が二つ増えたことなる。
故に、一本では成せない技も、二刀流ならば発動できる。
だが、欠点もある。デバイスを増やした事により、I−ブレインへの負担が騎士刀一本の時と比較すると倍以上に増えるのだ。
しかし、この場においてはそんな悠長な事は言っていられない―――――。
(並列処理を開始。『熱力学第三法則のサタンインファーノ)』常駐)
(並列処理を開始。『抗える時の調べのサタンマイ・ワールド)』常駐継続)

騎士刀を二つ装備したことにより、論の脳内容量が一時的に大幅に上昇する。
これにより、普段なら容量不足になるはずのスペックを持つ能力を並列処理可能になる。
『菊一文字』には、全てを焼き尽くす炎の能力である『熱力学第三法則のサタン』。
『雨の群雲』には、論の能力を最大限に引き出すための能力である『抗える時の調べのサタン』。
言うならば今の論は、補助魔法を最大限にかけた状態において強力な技を繰りだすとでも言えばいいのだろうか。
『菊一文字』と『雨の群雲』と名づけられた二つの刀が、シュベール目掛けて駆け出した論の手により同時に振り下ろされる。
「二刀流とはね…面白い…面白いわ、論!!」
シュベールはそれを真っ向から受け止めた。
『真紅の鞭』が縦横無尽、変幻自在、千変万化の動きを披露して、論の放つ華麗で流麗で綺麗な剣戟を払いのける。
熾烈で激烈で猛烈な威力のぶつかり合い。
非常識な能力を持つ魔法士を倒せるのは、同じように非常識な能力を持つ魔法士だけ。
論が取るべき手段は『真紅の鞭』を使う暇も与えない「速さ」で勝負。
シュベールが取るべき手段は、論の攻撃を全て回避した上で致命の一撃を叩き込む「技」で勝負。
論の数千もの攻撃の中の一撃が『真紅の鞭』によって流され、強化カーボン製の地面を穿って穴を開ける。
すかさず姿勢を戻してシュベールの攻撃をぎりぎりで退ける論。その時間差おおよそ六ナノセカント秒。
その後も続くシュベールの攻撃と論の攻撃の入り乱れ。
まさに一進一退の戦い。
響いたであろう数千の音は、常人には一つに集約したようにしか聞こえない。
「ちっ!!!」
舌打ちを伴って論の体躯が横っ飛びに跳躍、そこに一瞬の遅れをもって『真紅の鞭』の一撃が飛来した。
(…くそっ!読みきれない!!)
刹那的に 『刹那未来予測サタンワールド』を用いてシュベールの攻撃を見切ろうとしていたが、どうやら事態はそれよりもさらにさらに深刻らしい。
シュベールの攻撃が読みきれない。
『刹那未来予測サタン』は基本的に『五秒先の未来を予測する』能力だ。
だが、相手があまりにも強い場合は、その『予測できる未来の時間』が減少する。
おそらく今のシュベール相手に予測できる未来の時間は…一秒足らず!!
(…なら、発動していてもしていなくても殆ど代わらないな)
故に、『刹那未来予測サタン』に回していた脳内容量は他の能力に回す。
(『刹那未来予測サタン』終了。『極限粒子移動サタン』発動)
刹那の間を置いて、論の姿がまたも掻き消える。
「緩い!!」
当然、シュベールが『次に論の現れる場所』を予測できないわけはない。
どうやら、シュベールは一度見た攻撃に対する反応が非常に鋭いらしく、迷うことなく真上を見上げる。
予想正解。出現した論の姿はそこにある。
シュベールの頭上に出現した論は、先ほど地面を砕いた一撃を解き放つ。
ただし、『熱力学第三法則のサタン』のおまけつき、かつ空振りで。
結果、『熱力学第三法則のサタン』で生み出された具現化した炎だけが飛翔し、対峙しているシュベールへと降り注ぐ。
だが、こと遠距離にかけてはシュベールの方が有利なのは周知の事実!!
「…その程度であたしが敗れるかっ!!」
『真紅の鞭』が嵐の如き乱舞を繰り広げ、結果、論の『熱力学第三法則のサタン』で放たれた炎は健闘空しく完全にかき消される。
(…やはり、オレの炎じゃ駄目か)
シュベールが遠距離に特化している事は理解できていて、故に他の遠距離攻撃に対しての対策を練っているとは思ってはいた。
が、ここまで歯が立たないとは思ってもいなかった。
お互いがお互いに、一切の致命傷すら与えられてない死闘。
先ほどの論の一撃など、致命傷とは程遠い。
シュベールとて『騎士』だ。『痛覚遮断』くらい所持しているに決まっている。
両者が両者ともお互いの手の内を理解できた以上、勝負の明暗を分けるのは戦略しかない。
いかに相手の裏をかくか、いかに相手を出し抜くか。
無数に存在する選択肢同士のせめぎ合いにして読みあいにして次は無い死闘遊戯。
無論、読み間違えれば待つのは死だ。
…だがこの戦い、正直に言えば論が不利だ。リーチ差もさることながら、シュベールの攻防一体の『真紅の鞭』による戦法には隙が無い。
さらに、どこにいてもシュベールの攻撃範囲内であるという事実が、シュベールの優位に拍車をかけている。
常に攻撃の危機にさらされるこの状況。I−ブレインの攻撃感知能力に全てを託すしかない。
その間にも論の頭の中では、一つの仮説と作戦と戦略が頭の中で肩を組んで並んでいる。
幾度目になるか分からないシュベールの攻撃をすんでのところで回避したその時に、その三者が一つの答えを生み出した。
いくらシュベールが遠距離攻撃に優れていたとしても、超長距離からの攻撃、それも、物理としての属性を持たない攻撃なら防げるだろうか?
『物理』ではなく『熱量』という攻撃属性ではどうなるだろうか。
…やるしかない。
論は終われない。
何度も言うが、この戦いは負けられない。
こうしている間にもI−ブレインは刻一刻と疲労する。
I−ブレインは永久機関などとは間違っても言えない。
ならば今こそ放とう。
錬達との戦い以降、隠し通していた切り札の一つを。







「…へー、まだ出来るんだ」
シュベールは口元に手を当てて、ただそれだけを言った。
無論、シュベールの心境が穏やかな訳はない。正直、一瞬でも気を抜けば即座に死んでいるだろう。
さらに今、圧倒的な『情報の波』が論の体内から湧き出てきて、今にもシュベール自身を飲み込みそうな津波と化そうとしている。
それでも、シュベールは余裕の笑みを崩していない。
否、余裕に見えるのは表面上のみ。
実際は、神経ピリピリで余裕なんて無いはずだ。
だけど、ただ、それを見せないだけ――――。











今、I−ブレインを最大起動させる。
脳内回路が焼ききれないのは前回の錬達との戦闘で理解している。
だから、今度は自信を持ってこの切り札を繰り出す事ができる。
『そして時の流れは終結へクローズ・オブ・エターナル)』起動。容量不足、現在発動している全能力を強制停止)
発動と同時にI−ブレインが百パーセントの確率で強制終了するこの技は、論が持つ技の中でも最大の威力を持つ切り札。
しかし、ある程度威力を弱めれば、I−ブレインの強制終了を防ぐ事は一応可能だ。
切り札は、最後の最後までとっておくもの。
しかし、まさかの事態を嫌悪しておくのもまた大事。
論が巡るましく、手を動かす。
「…なにそれ?手話?」
わざとおどけたシュベールが茶々を入れたが無視。
論の動きが魔法陣を描いていることに気がつくものはいなかった。
元より『魔法士』が普及しているこの世界だ。
本物の『魔術』の存在があったとしても信じるようなフェミニストが、この場に居合わせているわけが無かっただろう。
故に、刹那の時をおいてシュベールとヒナが驚愕することになる。
周囲に観測された、圧倒的なまでの攻撃情報。
それら全てが天樹論という人物を中心にして集まっている。
論のもう一つの称号にして能力者としてのカテゴリ―――――『魔術師』と名づけられたモノ。
天樹健三が人生の最後の最後に研究していたといわれるモノ。
それこそが究極の魔法士としての頂点に立てるほどの可能性を秘めた、全くもって新しいタイプの魔法士。
子供があこがれた夢ならここにある。
『魔術師』が今、この世界に具現化している。
間違っても武器を投影して贋作を作り上げる能力者ではない。
魔法士としての殻の中では収まりきれない存在にして魔法士『悪魔使い』の最終進化系―――『魔術師』。
周囲が、おぞましい空気に包まれる。
論の体の一部に、摩訶不思議な模様が浮かび上がる。
神話にしか出てきそうにない、複雑な術式を織り込んだ魔術回路。
『魔法士』が物理法則を捻じ曲げるなら、『魔術師』は物理法則に介入し、物理法則を従わせるもの。
そもそも、物理法則を従わせていなければ、こんな現象は起こせない。
論が叫ぶと同時に、その場に居合わせた二人が、今まで感じたことのない感情を感じた。
シュベールが感じ取ったのは不安感・嫌な予感・悪寒・第六感・焦燥・寒気。
ヒナが感じ取ったのは期待・勝利・希望・未来。










「なら見せてやる…魔法士『悪魔使い』の究極進化系…『魔術師』の技を!!」
「『魔術師』!?あれは御伽噺の世界のことじゃなかったの!?非科学的すぎるのにも程があるんじゃなくて!?」
驚愕の表情で最初に叫んだのは、シュベールだった。
…自分自身がその『非科学的』な存在である魔法士であるにもかかわらず。だ。
「ろん…頑張って」
胸の前に手を合わせて期待の眼差しで論を見つめているヒナ。
「…最高の気分よ論。さあ、貴方の力を見せて頂戴!」
だが、シュベールは怯えや恐れや恐怖や畏怖や悪寒といった諸々の感情を感じていないようだ。
まさに戦いを主として生きる戦士。
命のやりとりこそ生きがいとでも言わんばかりの台詞。
シュベールの胸の中では、歓喜という感情がはちきれんばかりに膨れ上がっている事だろう。
「終わりだ。シュベール!!」
論が二つの刀『菊一文字』と『雨の群雲』を、頭上から十字を描くようにクロスさせた。
そしてそのまま、『菊一文字』を横薙ぎに、『雨の群雲』を縦薙ぎに払い、叫ぶ!!!!!
















『そして時の流れは終結へクローズ・オブ・エターナル)』!!!!」
















刹那、論の目の前に、魔術に精通しているものでも理解不可能な、複雑な魔術回路が出現する。
古の禁呪を髣髴とさせる魔方陣。
クトゥルー神話に登場しそうな、現代文字として認識されない文字が光り輝き、模様が白く浮かび上がる。
刹那、魔方陣から光輝く波動砲が放たれた。
この世にたった一人、世界の何処かに居ると言われる『光使い』の『D3』が放つ荷粒子砲を最大出力で放つような技。その矛先はシュベールを確実に捕らえている。
全てを終焉に導く、射程無制限・直径二メートルの絶対破壊のバーストストリーム。
文字通り光の速さで世界を駆け抜けて目標を消滅させる。第二次世界大戦で使われた原爆に匹敵する破壊力を持つ論の切り札にして最終奥義。
非現実的な能力を持つ魔法士を撃破するために編み出された、非現実的な力。
極限まで進化した科学力が生み出した、破滅と死と終焉への道を紡ぐチカラ。
力を持つが故に力に滅ぼされる…魔法士の死の宿命の一つ。
 









錬達との戦いの時は、フィアの『同超能力』によって威力を削がれた切り札。
だが、これまでの戦いの中ではシュベールは『同超能力』の類の能力を持っている様子は全くと言っていいほど見受けられなかった。
だからこの時、この場に居合わせた三人の内二人…論とヒナは、勝利を確信していた。
















シュベールへと飛翔する光の奔流は、シュベール全てを飲み込んだ。
続いて、『そして時の流れは終結へ』がシュベールを運んでいく形となる。
刹那、爆音が轟いた。
眩しいまでの閃光が辺り一面を光に変える。
同時に『そして時の流れは終結へ』はそのまま強化カーボンの壁に激突し、大量の砂煙をあげた。













 
+ + + + + +












圧倒的な情報の奔流が消え去ってから現実時間で五秒もの間、世界を静寂が支配する。
「…ふう」
耳鳴りがするほど静かな世界の中、論は安堵の息を衝いた。
(I−ブレイン疲労率、八十八パーセント)
『そして時の流れは終結へ』の為に、I−ブレインの疲労率が大幅に上昇してしまったが、I−ブレインの起動続行はもうしばらくは大丈夫そうだ。
とりあえず、傷が浅い内にヒナを治療しなくてはいけない事を思い出す。
そのために、二本の騎士刀を鞘へと閉まって、論はヒナのいる方向へゆっくりと歩み出した。
その先に待ってくれていたヒナも、笑顔で論を迎えてくれている。
いくらなんでも、『そして時の流れは終結へ』を喰らえばシュベールとて絶命しただろう。
そう考えて、完全に安心しきった論は額の汗を拭いながら、一歩、また一歩と歩んで…。


















――――――――突如、何かに気がついたように目を見開いたヒナが叫んだ。
 


















「論、駄目――――!!まだ、まだ終わっていないです―――――っ!!!!」













ヒナにとっては最速で知らせたはずの論の危機。
だけど、それでも遅かった。







(後方、攻撃感知、回避不能)
論のI−ブレインが抑揚の無い声で告げた。
「…馬鹿なっ!!」
舌打ちをしながら後ろへと振り向こうとする。
同時に、確かな攻撃の意思を持って襲い来るソレに気がつき、論はすかさず右手を『菊一文字』へとかけて騎士刀を抜こうとした。
が、論がそれに気づいた時にはもう遅かった。













 

ザシュッ!!














―――――――響いたのは、とても残酷な音。















「な…んだと」
信じられない…という顔で、論の口の端に赤い線が流れた。
喉の奥からじわりと染み出す鉄の味。
背中の辺りが熱い。『痛覚遮断』無しでは耐え切れてないかもしれない。
だがそれでもダメージを受けたのは明確だ。












「あ…」
涙目になって小さくかたかたと震えているヒナの視線は、論の背中に注がれている。
刹那、論も背中を見て確認した。
黒いコートの一部が、赤い血で染まっていたという事は―――――。
















―――『真紅の鞭』の先端が、論の背中を直撃し、貫通こそしていなかったものの…論の背中に鋭い切り傷を残していた。






















〜続く〜


















―【 お ま け の キ ャ ラ ト ー ク 】―













ノーテュエル
「…ねぇ、ゼイネスト」
ゼイネスト
「何だ?」
ノーテュエル
「なんかシャロンがありえない方向へと向かっていっているんだけど、これってどういう仕様なの?」
ゼイネスト
「そういう仕様だ」
ノーテュエル
「そういうことを聞いているんじゃないのよ!
…何よコレ…元のシャロンの性格なんて微塵も残っていないじゃない…」
ゼイネスト
「シャロンの能力は元より戦闘向けではない…。
だから、こうでもしないとシャロンは戦闘用の能力を引き出すことは出来ないと考えて『墜天使の呼び声』を埋め込んだんだ。
…情報の無い、名も知らぬどこかの誰かが」
ノーテュエル
「だから!!何であんたはそんなに冷静なのよ!!少しは慌てて…!!」
ゼイネスト
「慌てたところでどうなるんだ!!」
ノーテュエル
「ゼイネスト…」
ゼイネスト
「俺だってこの出来事が夢だったらどれだけいい事かと思っている!!
 だが、今此処にある現実は紛れもない現実だ!
 だから、悔しくてたまらないんだ!
 だから、歯がゆいんだ!
 ここにいるばかりで、何も出来ない俺達の不甲斐なさ…」
ノーテュエル
「…もういいわよゼイネスト…。
 もう、私達なんかじゃどうにもならない事態まで進行してしまった。
 だから、全ての物語は紡ぎ手によって紡がれるしかないわ」
ゼイネスト
「全くだ。
 …ところで話が変わるが、今回、何気に文章とか見やすくなってないか?」
ノーテュエル
「あ、ほんとだ」
ゼイネスト
「何でも、作者がかのレクイエムさんにアドバイスを頂いて、その意見を取り入れた結果こうなったらしい」
ノーテュエル
「確かに、今まではルビも多すぎたし、一行一行が長すぎたからね…。
 まあ、その話はいいとして…正直、シュベールありえないんだけど…」
ゼイネスト
「論の『そして時の流れは終結へ』すら防ぐってのは反則的だな。
 …普通、誰もがあの段階で決着ついたんじゃないかって思うから、論が油断したのは無理もないだろうが」
ノーテュエル
「反則も何も、『真紅の鞭』だっけ?あんなのあったら黒沢祐一にすら勝てそうな予感がするんだけど」
ゼイネスト
「…確かに否定出来ないな。遠距離から攻撃されまくって何も出来ずに終わる気がする」
ノーテュエル
「あーもう、予測の出来ないことばっかりで頭痛い!…決めた!!もう寝る!起こさないでよ!」
ゼイネスト
「あ!おい!コラ!言うだけ言って勝手に寝るな!
 …仕方ない…今回は俺が占めるか。








 …次回『死闘を謳う詩』お楽しみに」









<こっちのコーナーも続く>









<作者様コメント>




…もう、何も言う事無いですよ。
キャラ達に代弁させるって、楽なのか辛いのかどっちなんだろ?





以上、画龍点せー異でした。


<作者様サイト>
同盟BBSにアドレス載せてるんでどうぞー。


◆とじる◆