DESTINY TIME RIMIX
〜隣り合うは死。頼りになるのは己のみ〜


















これでいいのか?なんて疑問はいらない。

ここまで来てしまったなら、後戻りも出来ない。











目覚めよ、我が意思よ、我が武器よ―――――――。
















―――【 目 覚 め る 禁 忌 】―――
〜THE RESHUREI&SERISIA&EXITES&RAZIERUT〜






















レシュレイとセリシア、そして対峙するエクイテスとの戦いは佳境を迎えていた。
『光の彼方』により飛び交う銀の光と、漆黒の剣の閃きと、己の肉体を活かした格闘技の輪舞が所狭しと暴れまわる。
エクイテスが放った蹴りの一撃を、左腕を『盾』に変化させて渾身の力で受け止める。
だが完全には防げず、じ〜んとした痺れがレシュレイの左腕を襲う。
痛覚を遮断しているにかかわらず、だ。
エクイテスの一撃の重さにがくん、と足が沈み込みそうになる。
すかさず、体重をかけた蹴りの一撃を放ちエクイテスは追撃をかけるが、僅かながらレシュレイの方が反応が早かったようで、蹴りの一撃は空を蹴った。
蹴りにより発生した風が舞ったが、速度がいまいちだったようで、俗に言うかまいたち現象は起こらなかった、
すかさずエクイテスの脳天に『漆黒の剣ソードオブシャドウ』の一撃を叩き込んだが、返ってきたのは岩を叩いたような感覚とじ〜んとした痺れ。
この戦いにおいて響くのは剣戟音などではない。寧ろ打撃音ばかりだ。
それも拳や蹴りによる物と、武器で斬れないものを殴ったかのような鈍い音。
まさに膠着状態と呼ぶに相応しい戦い――だが、
「…くそ、硬すぎる。『もう一つの賢人会議Another Seer's Guild)』最強の名は伊達じゃないってことか…」
「…いつまで、この戦いは続くんですか?」
息も途切れ途切れになった二人。
肉体とI−ブレインの両方の疲労により、戦闘開始直後に比べるとその運動能力が下がっている。
「二人ともどうした!
 その程度では、この俺に傷一つつけられんぞ!!」
二人とは対照的に、未だに致命的な外傷の一つも無く動いているエクイテス。
その顔に浮かんでいるのは間違いなく余裕。
当然と言えば当然だろう。
何せ、エクイテスの攻撃でレシュレイやセリシアにダメージが通る事はあっても、その逆は無いのだから。
だが、これでは自分の望みを叶えることは出来ない。
頭の中でそれが分かっていても、エクイテスは戦う。
戦いの中でこそ見い出せる、彼が最も心地よく感じる瞬間。
血沸き肉踊る戦いこそが、エクイテスの最大の楽しみであるが故のこと。
だがもうじき、『地獄の神のお祝いにヘル・ゴッド・オブ・エデン)』により自我を失い暴走してしまう事が決定されているのも事実。
そうなれば有無を言わさず、ただ殺戮のみを楽しむ下等な存在へと陥れられてしまう。
そうなるくらいなら死んだほうが遥かにマシだ。
だからこれが、エクイテスの最後の戦いとなるだろう。
最後の祭りを存分に楽しむために手加減無しで目の前の相手に挑む。そのためにエクイテスはこの舞台を用意した。
そして、役者はとうに揃っていて劇を演じている。
後は、最後の締めくくりを待つのみ。
―――と、そこで思いついた。
エクイテス側には、レシュレイとセリシアがどんな能力を保持しているのかという情報がある。
だが、その逆はおぼろげにしか伝わっていない。
フェアにする為に、敢えて己の能力の正体を告げるべく、エクイテスは口を開いた。
「―――ところで、気にならないのか?」
「…何がだ」
切れ気味の息で返答するレシュレイ。
「この俺が、どうしてここまでの防御性能を持っているのかっていうことに」
「…それは「『超強化絶対的装甲プロディフェンシヴ)』のせいじゃないんですか?」
これはセリシアの口から出た言葉。
「いや、違う。
 そもそも「『超強化絶対的装甲』とて、俺の基本性能から誕生した能力に過ぎない。
 俺の能力は『騎士』だが、実はそれ以外にも基盤としてとある能力が埋め込まれている。
まあ、いわば能力の合成というやつか」
「なっ…何故今更そんな事を明かす!?」
ここに来てさらなる問題発言。
「そもそもレシュレイ、どうしてお前が『真なる龍使い』として成功したか分かるか?」
「それは、父さんの科学者としての腕前で――」
「それもあるだろう…だがな、一番の原因は―――」
「待て!それ以上は…」
届くはずの無い手を伸ばし、ラジエルトは静止しろと言いたげの表情で訴える
だが、エクイテスはそれを聞き入れなかった。









「…俺もまた『龍使い』に近い能力の持ち主だからだ」










世界が、止まった。
いきな り告げられた新たな事実に、レシュレイとセリシアの動きが止まり、ラジエルトは頭を抱える。
しかし、一秒後には二人とも現実に復帰。何と言おうが、今は戦闘中なのだ。
ぼうっとなどしていられない。


―――何より、言われて見れば納得がいく。
『龍使い』は情報構造体攻撃への耐性が非常に高い防御重視型の魔法士で、さらに、自己の肉体の強度を上げることが可能だ。
つまり、『超強化絶対的装甲』は―――『龍使い』の能力そのものではないか。



「『黒の水』も何も使えない。元より使う必要も無い。
 『痛覚遮断』は無いが、そんなもの、あっても無くても変わらんからな。
 己の肉体防御の強化のみに成功した俺が居たからこそ、レシュレイのその能力も成功に終わったというわけだ。
 すなわち、レシュレイのみが持つ『遺伝子改変型I−ブレイン』の開発がな。


 ――さて、おしゃべりは終わりだ。









 ―――――早く、来い」














―――その時、レシュレイとセリシアの二人には、戦闘意欲満々のエクイテスの姿が、とても大きく見えた。
まるで、超えられない壁のように。
















「………」
I−ブレインが備わっているわけでもないのに、思考にノイズが走るような感覚を覚える。
テストの最中に、後一歩で答えが出掛かっているところまで来て答えが出ないような、そんな感覚。
ラジエルトは、悩んでいた。
頭を抱えて、悩んでいた。
このままでは、レシュレイとセリシア、二人の負けは確定だ。
――エクイテスはやはり強い。流石は俺が最初に作った魔法士だ。科学者名利に尽きるとはこの事か。
だが同時に、ラジエルトは心のどこかで納得してしまっていて、。
(――って、俺は何を考えている!)
首を振り、この状況下にあって相応しくない、今の己の考えを打ち消した。
結果、その納得は一瞬の内に消えうせ、その意識は現実へと引き戻される。
ラジエルトは考える。
ここでレシュレイとセリシアに助言すれば、エクイテスに対抗出来る切り札を発動させて、勝利を掴むことができるだろう。
そしてエクイテスの望むモノ――其れ即ち安らかな死を与えることも出来る。
しかしそれでは三人の勝負にならない。
エクイテスはレシュレイとセリシア二人との戦いを望んだのだ。
そこに自分が介入しては三人の勝負ではなくなってしまう。
かといって、このままではレシュレイとセリシアの敗北は目に見えている。
エクイテスはラジエルトが精魂込めて作り上げた最初の魔法士だ。
その戦闘能力設定は後に生み出された二人…レシュレイとセリシアにも受け継がれている。
よって、戦闘能力という面ではどちらもひけを取らない。
だが、戦闘能力がそのまま結果に直結するとは限らない。
実際、エクイテスの能力は凶悪すぎた。
あらゆる攻撃を弾き返す絶対防御は、重火器の類は元より、今の二人の攻撃でも絶対に破れない。












―――そう、『今の二人』なら、だ。














それでも、戦うしか道はない。
故に、戦闘が再開された。

「ふん!!」
「当たるものかっ!!」
エクイテスの放った踵落しをぎりぎりで回避したレシュレイは、エクイテスからの追撃に備えそのまま右方向に飛びすさる。
続いて、エクイテスの放った踵落としが爆音と共に強化カーボンの地面を打ち砕き、辺りに砂煙が舞い、一時的にエクイテス周辺の視界が悪くなる。
さらに、エクイテスは右腕を振るって裏拳を放つ。
当たりはしなかったからいいものの、
(これでは手の出しようが無い…やむを得ないが、しばらく様子見といくか…)
そのままレシュレイはエクイテスとの距離を離す。
いつエクイテスが砂煙を利用して不意を打ってくるかが分からないからだ。I−ブレインは攻撃を感知してくれるが、エクイテスの攻撃手段までは感知してくれない。
そのまま現実時間にして一秒が経過。
刹那、砂煙の一部が陽炎のようにちょっとだけ揺らめいて―――、
「そこから来たかっ!」
左拳を構えて飛び掛ってきたエクイテスの攻撃を、レシュレイは入れ替わるように前方向に疾走して回避する。
その際にエクイテスの鼻の頭に一撃を見舞ったが、やはりノーダメージだ。
そのままエクイテスはレシュレイの後方の壁に拳を突きつけた。
再度湧き上がる砂煙。
視界を悪くして、攻撃の出所を迷わせる、先と同じ隠れ蓑。
だが、エクイテスは今度は隠れなかった。そのまま砂煙の中から脱出しレシュレイへと疾走を開始する。
「そうくるか!」
「毎度毎度、そうそう同じ手は使えないと思っただけだ」
たちまちのうちに、レシュレイへと接近するエクイテス。
「くっ!!なら!」
無論レシュレイも距離を離す。エクイテスの間合いで戦うのは絶対に避けなくてはならないからだ。
何より、レシュレイの能力ならエクイテスの攻撃範囲外から攻撃出来る。
その為に「エクイテスに攻撃できなくてレシュレイが攻撃できる間合い」を常に確保しなくてはならない。
だがその為に、レシュレイはエクイテスの考えた作戦に気づかなかった。
(物体の接近を感知)
「え!?」
それまで『光の彼方』を構えて、攻撃の機会を見つけるためにレシュレイとエクイテスの動きを目とI−ブレインで追っていたセリシアだが、突如、そのI-ブレインが警告を発した。
セリシアは周りを見回すが、それらしいものが見当たらないことに疑念を覚える。
そう、物体は前方ではなく、後方から襲い掛かってきていたのだ。
セリシアが前方に物体を確認している間に、砂煙の中から瓦礫と化した強化カーボンの壁だったものが襲いかかってきていたのだ。
それも先ほどとは違って、真正面からではなく真後ろから。
予測外の出来事に、一瞬だけレシュレイとセリシア、両者の反応が遅れた。
そしてその『一瞬の遅れ』が命取りとなる事くらい、これまでの幾多の戦闘で学んできた筈だった。
だけどそれでも、時に反応できない時だってある。











―――今がまさに、その時だった。



















湧き上がる砂煙の中、明らかな殺意を持った物体がセリシア目掛けて飛来したのを、レシュレイはその瞳とI−ブレインの反応からしっかりと確認して、
















エクイテスに背を向けて駆け出して何かを叫ぼうとしながら走り出して、間に合わないと分かっていながらも諦めきれずに思いっきり手を伸ばして――――――――、



















…間に合わなかった。



















―――とても、嫌な音がした。



















「あ…」
突如として背中を襲った重すぎる衝撃に、数瞬ほど息が詰まる。
『痛覚遮断』を持たぬセリシアが、それほど大きくないサイズとはいえ瓦礫と化した強化カーボンの壁だったものが背中に命中したらどうなるか。
その結果など、最早言うまでも無い。
背中に受けた重すぎる衝撃が少女の軽い体を前方へと吹っ飛ばす。先刻の再来。
自分を突き飛ばしたのが一体何なのかという事を、咄嗟に理解できなかった。
今まで握り締めていた『光の彼方』が、ぽろりとその小さな手から何事も無かったかのように落ちた。
次の瞬間には、セリシアの意思に関わらず、視界がジェットコースターに乗っているかのように自然的かつ、なめらかに流れていく。
風に乗っているかのように後ろへとたなびくように流れる桃色の髪。
そして眼前に迫る、白くて大きな壁のようなもの。
否、それは間違いなく―――。
「――っ!!!」
「それ」に―――強化カーボンの白い壁に気づき、セリシアは反射的に息を呑んだ。
それが示す事をその瞬間にやっと理解出来たセリシアは、少ない時間で何とか身を守ろうと頭の中で必死で考えて、手元に『光の彼方』が無いことに気がついて、
「…なら、こうするまでです!!」
きっ、と目の前の壁を睨みつけたその直後、両手を顔の前に持ってきて交差させての防御の姿勢。
そのまま空中で器用に体を回転させて、強化カーボンの壁に足の裏が垂直にぶつかる様に調整して目を瞑る。
次の瞬間に襲い掛かったのは、足の裏への衝撃。
じ〜んという慣れない感覚にも恐れずに強化カーボンの壁へとセリシアは足をつけて、次の瞬間には壁を蹴って地面へと無事に着地する。
ちなみにレシュレイは駆け出した直後からエクイテスの追撃に遭い、その追撃の回避に全力を注いでいたためにセリシアを助けに行く事が出来なかった。
その様子を見届けたエクイテスは、レシュレイへの追撃の手を止めて口を開いた。
「セリシア、武器を取れ。丸腰を相手に戦うのは俺の主義に反する」
「え…あ、はい!」
こんな時でも相も変わらず正々堂々なエクイテス。お陰でセリシアは危なげなく『光の彼方』を回収する事が出来た。
「すまない…俺が気がついてれば!!」
エクイテスが追撃の手を止めたその一瞬の間にセリシアの元へと駆けつけるレシュレイ。
見ればセリシアの背中は赤く腫れあがり、ところどころから血が流れている。
白い肌に刻まれた赤い傷跡がとても痛々しい。
「…ううん、私が気づいていれば良かっただけ…なんだから…」
「だけど!」
「いいから…まだ、戦いは終わってないんですから」
それでも、セリシアは笑顔でレシュレイに微笑みかける。
一目見ただけで簡単に気づける強がり。
『痛覚遮断』が無いが為に、背中を襲う激痛を隠せるはずが無いのにもかかわらず笑顔を崩さない少女。
「…ッ!」
だからレシュレイは、それ以上は言及しなかった。
エクイテスの方を振り向くと、エクイテスは『どこからでも来い』とでも言いたげに戦闘再開を待っている。
だけど、二人は動けない。
否応無しに理解出来ることとして、状況は一向に変わっていないということが挙げられ、それを分かっているからだ。
先ほどから優位に立っているのは明らかにエクイテス。
一応言っておくと、レシュレイとセリシアが後手に回っている訳ではない。エクイテスの能力が規格外なのだ。
レシュレイとセリシアは何発当ててもダメージにならない。
反してエクイテスは、一発さえ当てれば一気に逆転出来る。
この圧倒的な差は、今のままでは埋めようが無かった。
 
















「…これしか、ないのかよ…」
レシュレイ・セリシア・エクイテスの三人が戦闘を繰り広げている間にも、ラジエルトの中で、理性と知性と計画性が肩を組んで思考していた。
その三者が、同一の答えを述べた。
もう、耐え切れなかった。
これ以上、自分が作り出した魔法士同士で殺し合い、傷つけあうのを少しでも早く終わらせなくてはいけないと思った。
途中で止められないなら、一刻でも早く終わらせるしかない。
「レシュレイ!セリシア!」
だから、叫んだ。
言ってしまえば戻れないという事など、理解しきっていた。
この事を告げ終えた時、エクイテスは今度こそ完全に勝機を失うだろう。
いや、エクイテスが勝利しても得られるものなど何も無いし、当のエクイテスとて最早未来の無い身にある。
ならば助けるのは―――未来のある方だ。
分かっている。
命に差別なんて無い。どちらも自分が作り上げた大切な子供達。
だけど時は来てしまった。
どちらか片方を斬り捨てなくてはいけない時が来てしまっていて、だけど自分はただそれから目を逸らしていただけで――――。
「此の世に及んで助言か…だが、今更そんな事をして何になる?」
「…分からないか、お前を…エクイテスを作ったのは俺だ…、
 そして俺は、いつかこういう日が来てしまうんじゃないかと考えていた…。
 いつか、お前達が出会ってしまうんじゃないかと思っていた。
 だから、レシュレイには、お前を倒せる要因と言うべきものを教えておいた」
その言葉を聞いて、エクイテスの口元に初めて、ほんの少しの焦りが浮かぶ。
それとは反対に、レシュレイはその顔に僅かながらの希望を見出したような顔をして口を開く。
「…まさか、それって、父さんが『どうしても敵わなそうな相手に出会ったら使え』っていっていた…例の…」
脳内に留めておいたが、今の今まで一度たりとも使う事が無く、ラジエルトに『俺が使えって言うまで、絶対に使うんじゃねぇぞ』とまで言われていた能力。
そして今、この場において目の前の魔法士―――エクイテス・アインデュートを倒すための手段であったという事が発覚したその能力。
「…ああ、そうだ」
重い口を開いて、ラジエルトは告げる。
本当ならば告げたくないと言う気持ちが、その口調から聞いて取れた。
「…俺が作り上げた対物理情報特殊鉄壁体…分かりやすく言えば特殊強化装甲の持ち主…つまり、『騎士』に『龍使い』に近い能力を付加した魔法士に対してでもダメージを与えられる能力だ…」
だが、それを聞いたレシュレイの顔は暗い。
気がつけば、次の瞬簡にレシュレイは言い返していた。
「偉そうな事を言った割には、父さんも他の人間と違わないのか…!?
 結局、俺達が戦うための兵器として生み出された事には変わりないじゃないか…。
 何故だ!?
 父さんは何のために俺達を作り上げたんだ!?
 戦うために俺達を作った訳じゃないって言ってたじゃないか!!」
叫んだ後に、レシュレイは鋭い視線でラジエルトを睨みつける。
セリシアもまた、衝撃を隠せないままその場に立ち尽くす。
ラジエルトは言っていた。
戦わせる為に二人を生み出したわけではないと。
だが、今のラジエルトの言葉はそれを打ち消すものに等しい。
それは矛盾。
それは疑念。

レシュレイとセリシアの心の中に生まれた二つの感情。
…一秒ほど間を置いて、ラジエルトの口が開いた。
「それについては否定しないさ…。
 お前達を魔法士と生み出したのには、やはり科学者としての好奇心があった。それは事実だ」
「ッ…なら!!」
「だけど、俺は今まで一度もお前達を兵器として扱ったことは無かった。そうだろ…」
レシュレイの葛藤を遮ってラジエルトは続けた。
「…それは、そうだけど…」
レシュレイが生まれてから今までの、ラジエルトの行動を思い出す。
確かにそうだ。
情報収集などの任務は言い渡されたが、人を殺して来いなどといった命令は一度たりとも受けた事が無かった。
「…今だから言おう…お前達の名前は、本来なら後々に生まれてくるはずの子供につけるものだったんだ…」
「え…」
突然告げられた新たな事実に驚きの声をあげるセリシア。
「な…」
レシュレイもまた驚きを隠せない。
「だけど、セレニアは死んでしまった…。
 だから俺は、俺とセレニアの子供に付けるべき名前をお前達にあげたんだ…もう、この夢は敵わなかったから…」
「私達は…その、父さんの子供達の代わりだから…ですか」
おそるおそる、といった感じで、セリシアはその問いを口に出す。
「ああ、最初はそうだった。
 だが、俺は言ったよな。復讐なんて空しいって気づいたって。だから、お前達に戦わせるのをやめたんだ。
 でも、それまでは戦闘用の魔法士として作ったから、戦闘用の能力があるのは仕方の無い事なんだ。
 何より、今の世界情勢は知っているだろ。この世界で戦わずに生きるのはほぼ不可能だって事をさ」
ラジエルトの発言に反論する者はいない。
言葉にいちいち道理が走っているために、反論しようともその糸口が見つからないのだ。
「そして今、お前達は存在している。俺の血のつながった子供ではなく、別々の魔法士として…。
 だから、そんな下らない事を気にするな…最初に言っただろ。お前達二人はそれぞれが一個人として存在しているって…」
それを聴いた瞬間、ああそうか、とレシュレイは思った。
この人が、やたらと俺達の仲を祝福しようとしていたのはそういうことだったんだ。と。
そう思うと、さっきまであった苛立ちが自然としぼんでいくような感覚をレシュレイは感じた。
もちろん、最初は自分達が戦闘用に生み出された魔法士だっていう事実を完全に納得したというわけではない。
だけど、もしそうでなかったら、この世にレシュレイ・ゲートウェイという魔法士が生まれる事は無かった。
ほんの少し、思考プログラムが違えば、それは最早レシュレイではない別の魔法士だっただろう。
なら、感謝しよう。
この世界に、レシュレイというたった一人しかいない魔法士を生み出してくれた事を。
目を閉じ、レシュレイは言葉を紡ぐ。
「…レシュレイ・ゲートウェイというこの名前は、俺の大切な名前だ。
 父さんがレシュレイと名づけてくれたから、俺はレシュレイなんだ」
「私もです…私はセリシア・ピアツーピア…それ以外の名前は無いんです」
セリシアもまた、レシュレイと同じ答えを導き出したのだろう。その口から出たのは非難などではなく感謝そのものだった。
「…お前…達」
「…そいつには俺も同感だな…この俺の名…エクイテス・アインデュート…。
 俺はこの名前に対して嫌悪した事は無い…。
 こうでなければ、俺はエクイテスとして生まれる事はなかった。
 ここだけは感謝するぞ、ラジエルト」
そして、ラジエルトが最初に作り上げた魔法士からの、一応の感謝の言葉。
自分が作り上げた三人の魔法士達の口から感謝の言葉を聞き、
「全くお前達は…製作者に似ずに人間が出来てるなっ!」
額に手を当てて空を仰ぎながら、ラジエルトは乾いた笑いと共にそれを言い放った。
「…嬉しい…ぜ」
ぽつりと、その言葉を続けて、ラジエルトが両目を右手で覆い隠した。
「…父さん、泣いているのか?」
「違う、目から汗が流れたんだ!」
ひねりも何もない反応。
ラジエルトなりの照れ隠しと言ってしまえばそれまでだが、彼もまた一人の『親』である。
子の前で素直に涙は見せられないということだろう。
「…どうやら、この一方的な状況を打破する何かを隠し持っていたようだな。
 それでこそ勝負と言うもの。かかってくるがいい、何でもいいから使うがいい!!
 お前達の持っている最高の力を相手にしてこそ、俺の戦いを楽しもうという意思が高鳴るものなのだから!!
 そしてお前達こそが、俺のこの意思を超えてくれると信じているぞ!!」
エクイテスのその叫びが意味するものは、最早明確だろう。
最高の力を使ってこい。
そして俺を超えてゆけ。
つまりは、そういう事だ。
それなら遠慮は出来ない。
遠慮するのは寧ろ無礼にすら当たるのではないのだろうか。
「もう…この戦いに終止符を打とう…エクイテス…いや、兄さん!!
「来い!!」








―――最終局面が、今、幕を開ける。










レシュレイが目を瞑り、脳内に『今まで画いた事の無いイメージ』を抽象的に創生する。
神を殺したという汚名を着せられたと言われるこの武器の名を借りて、目の前の『もう一つの賢人会議』の最強の魔法士を倒せる可能性をもつ非常に数少ない攻撃の一つが目覚める。















(限界突破―――――――『神殺しの剣ダインスレイヴ』起動)

















刹那、レシュレイの右腕が肩から先より消滅したかのように見えた。
だが、実際には消滅したわけではない。
次の瞬間には、レシュレイの左腕が白銀の巨大な剣へと変形していた。
真なる龍使いドラゴンブレード)』の弱点は、能力のベースが『龍使い』である以上、その弱点もおのずとして踏襲せざるを得ないという点にある。
―――すなわち、『実現可能な攻撃範囲に限界がある』という点だ。
もう一つの『運動能力』については、ラジエルトが『運動能力制御』のプログラムをつけてくれたお陰で解消しているものの、レシュレイの肉体を構成する細胞の数は有限で、質量保存の法則を乗り越える事は出来ていないために、レシュレイの細胞の数を勝手に増やすのは不可能。
逆もまた然り。
例えば、腕を伸ばすならその代わりとなる細胞を身体の他の部分のどこかから持ってこなければならないということだ。
故にレシュレイは『右腕に使ってる細胞』を『神殺しの剣』の為に全て左腕に回したのだ。
つまりが、消えた右腕の細胞は一時的にだが『神殺しの剣』に使われるということ。
刃渡りはおおよそ一メートル以上で、その様は西洋の騎士団の使う剣に酷似している。
『神殺しの剣』と名づけられたその剣が、レシュレイの隠し持っていた切り札だった。
「―――これが、兄さん、貴方を絶つ剣だということだ!」
そして今、声高らかにその剣の名を告げた。










「『神殺しの剣ダインスレイヴ』!!」












「…左腕に使う細胞を全て右腕に回したか!!
 そして『神殺しの剣』とは…いいセンスをしている…。
 ―――で、その剣で俺のこの肉体を『情報解体』でもする気か?
 残念ながら『情報解体』には大いなる欠点があるという事を忘れたわけではないだろう?」
「――その通りだ。兄さん。
 元より、『龍使い』には、『情報解体』は備わっていない。
 だから、俺がこれから使うのは『情報解体』なんかじゃない」
不敵な笑みを浮かべ、レシュレイは眼前の兄を見据える。
そう、『神殺しの剣』が行うのは『情報解体』ではない。元より『情報解体』は『騎士』の特権であり、それ以外の魔法士には使用することが出来ないのだから。
勿論、レシュレイはそれを知っている。
そして今、エクイテスの装甲は、最早人間のそれとは呼べない硬さを持っている。
『騎士』に『龍使い』の性能という、全く新しいタイプの魔法士。
だが、それでもエクイテスが魔法士であるが故に、生きているが故に、付け込める隙があるという事には変わりはないのだ。
だからと言って『情報解体』無しであのダイアモンドにも匹敵する装甲を斬る事など出来るわけが無い。
―――但しそれは、普通の騎士剣等なら、だ。
魔法士の肉体を斬る事と、ダイアモンドにも匹敵する装甲の両方を斬る術。
そして、今ならそれが出来る。







――――欠点は純粋かつ唯一つ。









―――I−ブレインへ非常に大きい負荷がかかり、その疲労率も絶大な事―――。












刹那、先ほどまで五十パーセント程度だったレシュレイのI−ブレインの疲労率が、一気に八十パーセントという数値を弾き出した。










「ぐああああぁぁぁぁああああぁぁぁ!!」
戦場に『真なる龍使い』の絶叫が響き渡った。
今まで感じたことのない脳への疲労感と狂うほどの痛み。
『真なる龍使い』の痛覚遮断でも防ぎきれない…元よりこれはI−ブレインへのダメージであり肉体的ダメージではないのだから、防げるわけも無い。
これが強すぎる力を持つが故の反動なのか。
否、そんな簡単な言葉で片付けられるような代物ではない。
下手すれば絶命しかねないほどの圧倒的な力。
得るものは絶対的破壊力。代償は自らの命。
ハイリスクハイリターンとはこの事か。と、一瞬だけ考えた。
「がっ…くぁ」
脳に絶えず鳴り響く警告とエラー報告の連続で、頭が割れそうなほどの頭痛がひっきりなしに襲い掛かる。
だが、それでも、レシュレイは歯を食いしばって目の前の『神殺しの剣』を見つめる。
もとより自分の処理能力を遥かに超える演算―――とまではいかないが、脳に対して圧倒的な負荷を課していることには変わりないのだ。
そして、その負荷は今までの中でも最高峰。
「――――っ」
脳に走る処理オチのエラー報告と、本来ならば『龍使い』には無縁の筈の激痛という感覚に顔を歪め、しかし目は見開いたまま、レシュレイは次なる命令を下す。
(『神殺しの剣』…本来の肉体強化の限界を突破、警告を無視して戦闘モードへ移行)
左足を一歩、前へと踏み出す。
「がっ!!」
動くだけで、脳に激痛が走り、新たなエラーの数々が襲い掛かる。
幾度と無く意識が飛びそうになり、気を抜けば、気づかぬ間にその場に倒れ付してしまいそうだ。
身体が鉛を着けられているかのように、重い。









――――だが、












―――それでも、守りたいものがあって、守りたい人が居るのだから――――!!


















――――『真なる龍使いドラゴンブレード』レシュレイ・ゲートウェイは…大切な人の為に…戦う!!


















 
「…面白い…面白いぞ、レシュレイ!」
うっとりするほど美しく輝く白銀の剣を目の前にしても、初めてその名を耳にしても、エクイテスの闘志は揺らがない。
当然だ。彼の望みは彼自身を『殺して』くれること。
その望みを叶えてくれる可能性が、やっと全貌を現した。
そして交差する『神殺しの剣』とエクイテスの拳。
――――次の瞬間『神殺しの剣』による一撃が、エクイテスのわき腹を切り裂いた。
「何ッ!!」
ダメージ的にはそれほどでもない。
だが、先ほどとは戦況が明らかに変わったという事を確認するには十分だった。
今まで何者にも切り裂かれる事の無かったエクイテスの皮膚が、今、確かな形で『切り裂かれた』。
だが、I−ブレインの疲労と負荷が激しく、レシュレイには先ほどの戦闘で見られた機動力が無い事も確認できた。
「―――馬鹿なッ!!」
当然の事ながら動揺を隠せないエクイテス。
今の今までこれほどの傷をエクイテスに負わせた相手など居なかった。
負った傷など常にかすり傷程度。
「エクイテスにかすり傷以上のダメージを与える事は不可能」という、何人たりとも踏み入ることの出来なかった絶対不可侵条件が―――、
「破られた―――だと!?」
今、その前提を根本から覆した。
「まだまだ!!」
横薙ぎに放たれた白銀の大剣が、一瞬だけ銀色の軌跡を描いて再びエクイテスへと襲い掛かる!!
「――舐めるなッ!」
怒声と共に目の前で両手の掌を合わせ、真剣白刃取りを成功させるエクイテス。
切り札の名に恥じぬ速度を与えられし白銀の大剣――『神殺しの剣』が、その瞬間だけ受け止められた。
だが次の瞬間、『神殺しの剣』が形状を変える。
エクイテスの白刃取りをされているにもかかわらず、一瞬で刀身を九十度回転させるような形で『神殺しの剣』を再構成する。
「くっ!!馬鹿な!!」
いきなりの事に、エクイテスの反応が遅れた。
掌に走る激しい痛み。
何せ、エクイテスが持っているのは『肉体強化』のみであり『痛覚遮断』は無いのだ。
元より、今の今までダメージとは無縁だったのだから、『痛各遮断』があろうがなかろうが関係なかった。
だが、今は絶対的に状況が違う!
すかさずエクイテスは『神殺しの剣』の刀身から手を離した。
すぐさま距離を置いたために、レシュレイからの反撃が僅かな誤差で届かなかった。
だが、刀身から手を離したものの、エクイテスの掌には赤い線が走り、血が流れている。
後少しでも手を離すのが遅かったら、両手の上半分が切り取られていただろう。
まだ繋がっている己の掌を見つめながら、エクイテスは一瞬だけ呆然として呟いた。
「何と恐ろしい能力だ…一体、何の原理が…」
分からない。
本来、『龍使い』は情報構造体攻撃への耐性が非常に高い防御重視型の魔法士だ。
だがその反面、攻撃手段は自己の肉体による物理的打撃に限られる筈。
しかし、今のレシュレイの破壊力は、明らかに並みの『龍使い』のそれを超えている。
如何に『真なる龍使い』といえども、オリジナルとの相違点は『暴走しない』事くらいしかない。
『龍使い』は身体組織の制御に特化された魔法士で、体組織の構成情報を変化させる事で肉体の強度を上げ、武器として戦う事を可能とする。
そう――肉体の強度を上げて・・・・・・・・・戦うのだ。
「まさか…」
…そこまで考えれば、自ずと答えは出るだろう。
はっとした様子で、エクイテスは顔を上げて叫ぶ。
「…肉体を変化させて、剣の精度を最大限にまで上昇させたのか!!」
「…正解だよ、兄さん!!」
今こうしている間にも脳内を襲うエラーと激痛を押し殺し、レシュレイが叫んだ。
『騎士』でありながら、物理的にも情報的にも圧倒的な防御性能を持つエクイテス。
『龍使い』にも匹敵、あるいは凌駕するこの防御性能にダメージを与える手段は限られる。
防御係数を零になどといったそういった系列の能力ならそれも不可能ではないのだが、少なくともそれには『天使』の系列の能力が必要だ。
この場に『天使』は居ないし、目の前の二人が『天使』に値する能力を持っているとは考えがたい。
何より、ラジエルトは『騎士』に『龍使い』の性能をプラスした魔法士の作成に取り掛かり成功した。その結果がエクイテスだ。
故に、『天使』の『同調能力』は一切合切効かないのだ。
なら、どうするか。
―――答えは唯単純だ。その防御力を超える攻撃力の所持をすればいい。
だが、通常の『龍使い』が己の身体を強化出来る度合いには限界がある。故に、『龍使い』が如何に本気を出そうとも、その程度の破壊力はエクイテスの装甲に弾かれる。
『龍使い』では、エクイテスの装甲を破る事ができない。
…そう、出来ないのは、普通の『龍使い』なら―――だ。
『龍使い』の最終進化系―――真なる龍使いドラゴンブレードレシュレイなら―――それが出来る。
『龍使い』の肉体の限界を遥かに超え、さらにリミッターを解除する事により、如何なる装甲をも断ち切る剣を生成出来る―――それが『神殺しの剣』の正体。
だが、同時に、そこに致命的な欠点を抱える事になる。
より硬く、より鋭く硬質化させるということは、それだけI−ブレインに大きな負荷を強いる事になる。
限界などとうの昔にすっとばされているだろう。
全身が警報を放っている。
だが、そのリスクを背負っても尚放たれる一撃は―――エクイテスの皮膚装甲の防御力を上回っている。
すなわち、エクイテスにとって、この白銀の大剣の一撃は『喰らえないもの』であるという事だ。
「こんな、こんな事が起こりえるのかっ!!」
「エクイテス…最初に言った筈だ」
ラジエルトの静かな声。
「俺は、お前とレシュレイやセリシアが出会ってしまうということを、ずっと懸念していたんだ。
 そして、俺は考えていた。
 万が一、兄弟同士で戦う事を避けられなかったという最悪の事態が起こったらどうするか?と。
 故に、俺は考えた。
 お前が―――エクイテスが敵に回った時、レシュレイ達が太刀打ちできなければ全てが終わる。
 だから、お前の防御力を上回る剣の作成の方法をレシュレイに教えたんだ。
 ――――そして、さっき言っただろ。
 『どうしても敵わなそうな相手に出会ったら使え』と。
 名前こそ伏せていたが―――それは」
「俺の事だろ」
「――さすが、話が早いな。
 …だが――」
「だが?」
次の瞬間、握り拳を作りラジエルトは叫んだ。
「…出来るんなら、こんな事態、来なければいいと思っていた!
 『神殺しの剣』なんて、使わないでそのまま忘れ去られてくれればいいと思っていた!!
 だけど…これが現実なんだっ…畜生!!」
「………」
誰も、何も言えなかった。
ラジエルトの気持ちを分かってしまったからだ。


万が一の可能性―――レシュレイ達がエクイテスと敵対した時の事。
それを懸念したラジエルトが作成した能力――『神殺しの剣』。
それを作成した時のラジエルトの気持ちは、如何な物だっただろうか。
兄弟の仲を引き裂くような武器を作ってしまった事は間違いない。
だが、それでも不安だった。
そして今、その不安と懸念は現実と化してしまった。
だから、もう後戻りは出来ない。
この場に居る者達は、もう、それを分かっている。


「終わらせる…と貴方は言ったな…覚悟は出来ているか?兄さん!!」
「そんなもの、最初から出来ているっ!!」
「なら…話は早いっ!!!」
言うや否や、レシュレイは飛翔する。
刹那、『神殺しの剣』が直線、螺旋、月閃、曲線と様々な軌道を描き、百分の一秒単位の差をつけてエクイテスへと襲い掛かった。
並の人間ならば、反応すら出来ずに死に至る攻撃だ。
だが、迎え撃つエクイテスもまた常人ではない。
刹那の見切りでレシュレイの剣戟の軌道を解析し、致命傷を避けて回避行動を行う。
頭や胴体といった致命傷となる箇所への攻撃こそ避けられたものの、攻撃を防ぐために盾として動かしていた右腕の殆どがぼろぼろになった。
次の瞬間にはレシュレイが『神殺しの剣』を構えてエクイテスの元へと駆ける。
脚力と慣性の法則に身を任せて、体ごとぶつかってゆくような牙突零式。
しかしそれはエクイテスが器用に体を動かして回避したことによって、誰も居ない空間を斬る。
レシュレイ自身の速度低下が無ければ、確実にヒットしていたであろう一撃だった。
その瞬間だけ無防備となったレシュレイの背中にエクイテスは動く左手で渾身の一撃を叩き込もうとするが、突如飛来した銀の閃光によって攻撃を中断せざるを得なかった。
マスターであるレシュレイのI−ブレインからの命令と意思によってその形状を一時的に変化させた『神殺しの剣』が、普通の剣の形状からは描くことのないはずの曲線を描いてレシュレイの死角をカバーしたのだ。
「やるな…それでこそ我が弟…そして、俺を殺してくれる者よ!」
口元に浮かんだニヒルな笑み。
こんな危機的状況にあっても、自らの命が危機に陥っていても尚、エクイテスはその闘志と自信と戦うという意思を捨てない。
本当の戦士だけがなせる、命を掛けた戦いの中で見せる態度。
「兄さんもな…」
ぜぇぜぇ、と息を切らしながらレシュレイが口を開く。
だが、その状態はどう見てもこれ以上の長期戦を行えそうな状態ではなかった。
先ほどの戦闘により受けた傷が原因なのではない。
『神殺しの剣』による異常なまでのI−ブレインへの負荷が、レシュレイの消耗をより早くしているのだ。
このままでは、折角掴んだ勝利への道が閉ざされる。
直感と本能と状況把握能力の三要素によってそれを理解したレシュレイは、再び攻撃を繰り出さんと『神殺しの剣』を大きく振りかぶり斬りかからんとして、
「させるか!!!」
エクイテスのI−ブレインが限界まで身体速度を上昇させる。
元より速度上昇の類の能力には恵まれていないものの、それでも無理難題をI−ブレインに押し付けて駆ける。
無理な命令と情報の負荷により、ブチ、という聞きたくない音と共に、エクイテスの左肩口から鮮血が弾けた。
その身に走る激痛に顔を歪め、しかし目は見開いたまま、エクイテスは歯を食いしばって目の前のレシュレイを睨み付ける。
今まで痛みらしい痛みを感じていなかったこの身体に、この戦いだけで幾つもの痛みが刷り込まれた。
だが、それがどうした。
これでいい。
俺はこのまま死に行けばいい。
もし俺に勝てなければ、目の前にいる二人は、この先の戦いではきっと生きていけないのだから。
…兄らしい事なんて、何一つしてやれなかった。
そして、もうじきエクイテスはエクイテスではなくなってしまう。
自我を失った自分が何をしでかすかは分からないからその前に止めて欲しい。それがエクイテスの望み。
―――だからこれが、最初で最後の贈り物。
「戦いの経験」という、贈り物というにはあまりにも語弊のある贈り物。
…こんな贈り物しか出来ない俺を、どうか許してくれ。
圧倒的とも言えるエクイテスの執念が、先ほど鮮血が弾けたばかりのその左肩を動かす。
…否、厳密に言えば、動かすのは左拳だ。
「おおおぁ――――っ」
エクイテスはI−ブレインに、そして自らの肉体に次なる命令を下す。
狙うは今この瞬間だけ無防備になっているレシュレイの腹部だ。
そしてそれに反比例させて左腕の身体速度を上昇。
シャドーボクシングのように前かがみになったエクイテスの身体から繰り出されるのは、加減とは無縁の拳の一撃だ。



片や、『神殺しの剣』による死への一撃。



片や、渾身の力を込めた拳の一撃。









―――次の瞬間に両者はぶつかり合い、












…刹那、鈍い音がした。














二つの攻撃がクロスするように交差したと思った次の瞬間に、鈍い音と共にレシュレイの身体が後方へと物凄い速度で吹っ飛んでいった。
そのままレシュレイは背後の強化カーボンの壁に叩きつけられて、強化カーボンの壁に大穴を穿つ。
「…間に合ったか」
息も絶え絶えにエクイテスは言い放つ。
無論エクイテスとて無事ではない。『神殺しの剣』の刃は見事にエクイテスの額に一筋の赤い線を引いていた。
エクイテスの攻撃が僅かに、本当に僅かに早く当たった事で、すんでのところでI−ブレインまで届かなかったのだ。
もし一瞬でも遅れていたら、エクイテスは敗北し、大地にひれ伏していた。
視界が赤に染まる、額に引かれた一筋の赤い線からかなりの血が流れているのだ。
だが、レシュレイのダメージはエクイテス以上に高い。
それでも、レシュレイは決して下を向かずに、視線だけでもエクイテスに向ける。
…決着は、近い。
さぁ、幕といこう。
次の一撃で、全てを終わらせるのだから…。












「…ねぇ、お父さん」
主戦場より少し離れたその場所で、セリシアは独白するかのようにラジエルトに問うた。
「…何だ」
「さっき『レシュレイには、お前を倒せる要因と言うべきものを教えておいた』って言いましたよね。
 …あれって、ずっと前に私に『本当に危なくなったら使え』って言っていたあの能力と…殆ど一緒の意味じゃないんですか?」
それを聞いたラジエルトは、何処か遠くを見るような目でふう、とため息を衝いた。
もう隠しても意味が無い。という事を悟ったかのような、そんな瞳をしていた。
「…ここまで来て嘘言っても仕方がないからな…ありのままを告げさせてもらう……」
ここで一区切りして、
「セリシアの問いは…正解だ。言いたいのは災厄を薙ぐ剣レーヴァテイン)の事だろ。
 …しかし、アレは破壊力が高すぎる。
 その圧倒的破壊力故に、I−ブレインにかかる負担も普段使っている『身体能力制御』などとは比べ物にすらならないんだ…だから『災厄を薙ぐ剣』を使えばお前とてただではすまない。
 おそらくレシュレイも『神殺しの剣』発動時に多大な痛みを味わったはずだ」
「そんな…」
「だが、それでもあいつは戦う事をやめない。
 あいつはお前を…って、セリシア…泣いてるのか?」
言いかけてラシエルトは口を紡ぎ、即座に疑問へと切り替える。
少女の瞳の端に、一滴の涙が光っている事に気づいたからだ。
「何で…どうしてレシュレイ…一緒に戦おうって、罪も痛みも全て背負って行こうって…あの時に言ったのに…」
そして、その瞳にみるみるうちに涙が溜まる。
自分が戦わせてもらえないから悲しいのではない。
大好きな人と同じ場所に居られないのが悲しいのだ。
それを察知したラジエルトは、己の考えではあるが、おそらくレシュレイが思っているであろう事をこれまでの経験から考えて口にした。
「んー、これは俺の経験とレシュレイの性格から判断しての推論なんだがな…。
 レシュレイは口でこそ『一緒に戦おう』とは言っていたが、あいつの…レシュレイの性格から考えればこうなるだろうな。
 ――『セリシアに再び人を殺させるわけにはいかない』ってな」
「…それで、レシュレイは知っているの?
 私の『災厄を薙ぐ剣』の事…」
「…いや、それを思ったからこそ、レシュレイには『災厄を薙ぐ剣』の事だけは伏せておいたんだ。
 もし知っていたら…多分、お前を気絶させてでも止めようとしていただろうな。
 そして今、レシュレイは、エクイテスを殺すのは自分の役目だって決め込んでいる。
 ―――ま、頭では分かっているんだろうけど、まだレシュレイの感情が納得していないんだろ。
 お前に人を斬らせるという事は、お前をまたあの時の苦しみへと誘うことに他ならない。
 セリシアの気持ちは本当に嬉しかったとは思っているんだろうが、やっぱり心のどこかでお前に人を斬らせたくないっていう感情があるんだろう…」
あの時とは、間違いなく一年以上前に引き起こしてしまった大量虐殺事件。
セリシアにとって一生忘れる事の出来ない傷。
そして、今セリシアがやろうとしている事は、その傷を再び開くことに他ならない。
だが、たとえそうだとしてもやり遂げたい事がある!
「だけど、それで初めてレシュレイと同じ場所に立てるんです。
 …もちろん、こ、怖くないって言えば嘘になります…あの時、大勢の人を殺した時の事は…今でも忘れていません。
 でも、それでも私は…」
「それ以上はもう言うな」
震える声で語られるセリシアの話を途中で遮るラジエルト。
「大切な人の為に、敢えて再びその手を血で濡らすか。
 …もう一度だけ聞くが、覚悟は決まっているんだろう?」
セリシアは無言で頷く。
ラジエルトの口からは再び、ふう、というため息。
「それがお前の選んだ道であれば、俺には止める心算は無い。
 お前の気持ちは分かっている…だから、行ってこい!!」
そこまで聞けばもう十分だ。
この二人のお互いを思う気持ちは間違いなく本物だ。
だからこそお互いを庇い、お互いが傷つかないように行動する。見ていてもどかしいまでのすれ違い。
ふと、思い出す。
――昔のラジエルト自身とセレニアもそうだった。と。
お互いが譲り合ってばっかりで進展の無い関係。
そのくせ、覚悟を決めたラジエルトがいざ行動に出たら、セレニアもまた覚悟を決めていて、そのせいでぎくしゃくになってしまって衝突しまくった覚えもある。
殆どの場合においてどちらかが譲ればそれで済むのに、お互いが譲ったり庇ったりしているからこんな事になる。
―――全く、こんなところまで似なくていいのに。
この戦いが終わったら、人はいつまでもお前の中のままではないという事を、レシュレイにも教えなくてはいけないなと思った。
「はい!!」
ラジエルトに励まされ、セリシアは『光の彼方』を真正面に構えて目を瞑った。
 













北欧神話に登場した武器の名を冠した最終兵器の発動の為に、脳内に『今まで画いた事の無いイメージ』を抽象的に創生する。
I−ブレインが今まで動かした事の無い、禁忌とも呼ぶべき能力の目覚めを告げる。

















(封印解除―――『災厄を薙ぐ剣レーヴァテイン)』起動)



















セリシアのI−ブレインが確かにそれを告げたのを、はっきりと確認した。


















戦局は、先ほどとは遥かに変わっていた。
優位に立っていた筈のエクイテスが劣位に立ち、レシュレイはその逆の立場へと位置づけを変えていた。
だが、身体の事を考慮すると、このままレシュレイが押し切るのは到底無理な話であろう。
(くそっ…)
時間が経つ度におぞましいまでの速度でレシュレイの負担は増す。
腹部から嘔吐感がこみ上げる。
おそらく、痛みこそないものの、先ほどの一撃で内臓をやられた。
――――急がなくては、いけない。
このままでは冗談でも何でもなく本当にレシュレイ自身の体がもたない。
強制停止寸前のI−ブレインにそれでも喝を入れ、レシュレイは痛みを押し殺して立ち上が――ろうとして力が抜けた。そのままレシュレイは強化カーボンの床に膝をつく。
(馬鹿野郎っ…立て、立つんだ!!)
言葉一つを発言したり考えたりする度に、激しい痛みと疲労感がレシュレイを襲う。
心の中でいくら叫んでも、身体が言うことを効かない。
「…ついに体力が底を尽きた…か?」
しかし、エクイテスはまだ動ける。
「ま…だまだ…だ!!」
虚勢にしかならない叫びをあげ、強化カーボンの地面に『神殺しの剣』を突き刺し、支えとして立ち上がろうとする。
だが、身体は動いてはくれない。
鉛でも背負っているかのように身体が重い。
ごぷ、という音と共に、口の中に溢れる鉄の味。
「…残念だ、お前なら、きっと殺してくれると思っていたんだがな―――」
そんな中、失望した表情を浮かべたエクイテスの姿が段々と近づいてきて――、










ザシュゥ!!!!













「!!」
「!!」
何の前触れもなく真横から放たれた一撃が、エクイテスの左肩に突き刺さった。




















―――【 混 迷 の 中 に 見 え た 道 】―――
〜THE BUREED&MIRIL&SHARON&KURAU&INTRUDER〜





















鋭い音と共に、多大な質量を持つ紅い翼が視界に入ったと思った時には、ブリードの体は既に吹っ飛んでいた。
「がっ!!」
「ブリードッ!!」
紅い翼の直撃を受けて吹っ飛ばされたブリードは、そのまま成すすべなく強化カーボンの壁に叩きつけられた。
後頭部を叩きつける事こそ免れたものの、強化カーボンの壁に背中から叩きつけられた事には間違いない。
痛覚遮断を所持していなければ、動くことすらままならなかっただろう。
そこにミリルが駆けつけてブリードの肩を抑えて「大丈夫?大丈夫だよね?ね?」と半べそをかきながら心配してくれている。
「…へっ、これくらいでくたばるかよっ!!!」
歯を見せるように笑みを浮かべ、ミリルの小さな手を優しくよけた後、ブリードは立ち上がった。
これくらいなら大丈夫だ。という意思表示。
そんなブリードを見たミリルは胸に手を当ててほっ、と一息つく。
「…まだ終ってねぇぜ、シャロン…」
「うん、元気元気、非常に結構なの。そして惜しいの、実に惜しいの」
左頬に掌を当てて、シャロンはうっすらと笑みを浮かべる。無論、シャロンは全くと言って良いほどダメージを受けていない。
「私の『干渉不能の掟ロストルール・イリュージョナル』の切れる瞬間まで絶え間なく攻撃を叩き込もうっていう発想事態は非常に良かったと思うんだけど、生憎と私だってそう簡単にやられるわけにはいかないの。
 で、それを防ぐためにどうするかっていうと答えは簡単。そうなる前に、攻撃の原因である貴方を攻撃すれば言いだけの話。
 それに、そんなに沢山の攻撃物体を具現化していたら―――」
そこで一呼吸おいて続けた。
「こっちからの攻撃も見えなくなるって、気がつかなかったの?」
「…くそっ!!そういやそうだった!」
ぎり、とブリードは歯噛みする。
今シャロンに言われて初めて気がついた。
攻撃ばかりに意識が行き過ぎて、防御面の事を完全に忘れていた。
攻撃は最大の防御という言葉があるにはあるが、逆に相手に付け込む隙を与えてしまう攻撃は『攻撃』と言えるのだろうか?
答えは「否」だ。それは『攻撃』ではなく寧ろ『捨て身』というべきだろう。
兎にも角にも、完全なブリードのミスだった。








すっ、と右手を前に出し、シャロンは告げた。
「さて、そろそろ終わりにしましょうか」
その言葉と同時に、周囲を凍れるような空気が支配した。
間違いない、シャロンはこの戦いを終らせるべく、次の瞬間に最大限の攻撃を仕掛けてくるつもりだ。






「なあ、皆…」
「…何?」
おそるおそる口を開いたブリードの言葉に反応したのはクラウ。
「出来れば聞きたくない内容なんだけどよ…皆のIーブレインの疲労率…今どんくらいになってる?」
誰もが口に出したくても、言うのを憚られたその言葉。
だがそれでも、各々が自分のI−ブレイン疲労率を告げた。








…そして、その結果は散々たるものだった。








――ブリードが六十五パーセント。
――ミリルが六十一パーセント。
――クラウが六十一パーセント。
――イントルーダーが七十五パーセント。

最低で六十一、最高で七十五パーセント。
I−ブレイン疲労率が五十パーセントを超えただけでもやばいのに、四人ともその数値を遥かに上回っている。
「マジかよ…」
「ふえ…」
「どうやって逆転しろって言うの!?」
「…なんて事だ」
それぞれ、ブリード・ミリル・クラウ・イントールーダーの口から出た言葉。
その事実が、四人に絶望的な現実を無慈悲に認めさせる。


―――そんな中、ぎり、とクラウは奥歯を噛み締めた。
目の前の相手と同じ『無限大の脳内容量を持つ魔法士型インフィニティタイプ』であり、先に生まれて来た筈の自分がここまで苦戦させられる悔しさ。
リーチの短さを、戦法とひらめきでかいくぐって来たこの戦闘経験が全く役に立たない相手。


―――ブリードが拳を握り締めた。
今まで培ってきた戦法や経験の通じない相手。
目の前に広がる、大きすぎる壁。


―――ミリルとイントルーダーは何も言わない。
前者は絶望故に、後者は無力故に。
言うべき言葉が、表すべき行動が無いのだ。


今更気づく。
敵うはずのない相手。最終結果を待たずして先が見える分の悪い戦い。
正に退路も逃げ場も無い、死を大人しく待つしかない戦い。
否、そんなのは最初から『戦い』と言えるのかどうか―――。
何て素敵なアンフェアマッチなのだろうか。
「…こんなところで、終わりたくなんて無い…」
そんな中、悲しみに暮れた声が上がった。
一同は声の主を振り返る。
その声の主はミリルである。目元にうっすらと涙が浮かんでいる。
…何が『終わり』なのかは、最早全てを語るまでも無く理解できる。
言ってしまえば『死』だ。
「くそっ!!こんなところで散れるかよ!!まだだ!まだ何かある筈だ!」
虚勢を張ってのブリードの声。
最後まで希望を捨てずに、この理不尽な戦いに対し抗えるだけ抗わんとする。
だが、それでも一時期の事でしかないことは、誰もが分かっていた。









――――そんな中であっても尚、イントルーダーは考えていた。
目を瞑り、脳内で複雑な思考をめぐらせる。
打つ手がない。
駄目だ。
このままでは俺達は全滅する。
考えろ。
打開の一手を編み出せ。
打つ手が無いならば、新しい選択肢を考えるしかない。
今行える行動は目の前の墜天使を倒すか逃げるか。
しかし、元より逃げるという選択肢は完璧に潰されている。
なら、倒す方法を考えろ。それしか道は無い。
今のI−ブレインの疲労度と、負傷から考えて…。
―――一秒で『絶望』という単語が真っ先に飛び出た。
考えたくも無い答えを告げられ、知らずの内にイントルーダーは顔をうつむかせた。
(駄目だ、こんな状態では……)
目の前の墜天使を倒すことなど……到底出来ない。













―――そう、倒せないのは『こんな状態』すなわち『今のままの状態なら』だ。















脳の中でぐるぐると回り、高速で展開されている思考は打開策を求めて彷徨う。
絶望以外に形容すべき言葉の無いこの状態をひっくり返す手段を講じるべく色々な考えが脳内に浮かんでは消えていく。











考えられるだけの選択肢を考え、その中からいらないものを削除した結果、たった一つ残った答えを脳が告げた。
それは正に、パンドラの箱の中に唯一つ残ったもの――――希望、を告げるもの。









それ即ち―――――、













―――『情報の賢者マネジメント・ウォーロック』の発動。

















――分かっている。
これがどういうことか、分かっている。
成功すれば奇跡的な勝利、失敗すれば完全なる敗北の二者択一。
だが、このまま手をこまねいているくらいなら…一か八かの選択肢に掛けてみる方がいいに決まっている!!







「皆ッ!聞こえているな!」
意を決してイントルーダーは叫んだ。
もう後戻りは出来ないと分かっている。分かっているからこそこの行動に出る。
いきなり告げられたその言葉に、三人が同時に振り向いた。
集中する三人の視線を無視して、言葉を続ける。
「本当なら使いたくなんて無かったんだけどな…今此処で教えてやる…俺が『時空使い』と呼ばれる所以を!!」
「…『時空使い』?なんだ、その聞いたことの無い言葉は?」
いぶかしげに眉を潜めたブリード。
「…い、今更何を言っているんですか?」
唖然としたミリルの口から出たのはそんな言葉。
二人とも、いきなり告げられた言葉に理解が追いつかない。
だが、無理もないだろう。今まで死にものぐるいで戦っていて、そして四人とも虫の息のこの状況下。
そんな時に『時空使い』としての所以などと言われても何が何だかといった感じである。
というかこの状況を打破出来る手があったんならそれなら最初から使えと言いたくなり、
「…最初からそれを言えよって顔してるな」
「当たり前でしょ!でなきゃここまで苦戦してなんていないわよ!」
クラウ、即効で反論。
「…だけど、そういった大事な事をすぐに言わなかったって事は、『それ』に何らかの大きなデメリットがあるってことでしょう。
 貴方が何の考えもなしに、こういう行動を起こすとは思えないからね」
だけど、続けざまに静かな声が告げられた。
「…ああ、その通りなんだ。
 こいつを使えば、俺のI−ブレインは百パーセント機能停止になってしまう本当の切り札だ。
 だから今まで黙っていたんだ。
 もしこれでシャロンを止めるのに失敗したら、俺はお荷物も当然になっちまうしな」
ここで一呼吸置いて続ける。
「…それに、もう、この場を打開するにはそれしかないんだ…。
 このままじゃ俺達四人の墓標が立っちまうし、それよりここまで来てもう戻れなくなったシャロンを野放しにしておけない。
 それこそ世界に出て何をしてかすか分からないし、考えたくもない。
 それに、シャロンに罪を重ねさせる事はさせたくない…だからここでシャロンを止めないといけないんだ…絶対に!
 だから、これで終わらせよう。これでケリをつけよう…この攻撃がおそらく最後のチャンスなんだ。
 故に…耳と知恵と力を貸してくれ!皆!」
懇願するように、イントルーダーは頭を下げた。
「…ここまで乗りかかった船だもの、とにかく、それを使えば勝てる可能性が出てくるんでしょう?
 なら、最後まで付き合うわ!」
最初に同意の意思を表したのはクラウ。
「ま、こんな若い身空で散りたくなんて無いからな!  勝てる可能性があるなら、俺も協力する!!」
続いてブリード。
「…終わらせようよ。こんな、勝者にも敗者にも何も無い戦い」
最後にミリルが同意して、今この場で、イントルーダーに文句を言えるものが居なかった事が確定した。
この状況を打破できるという言葉が持っている魅力がその全て。
まあ、誰だって命は惜しい。
利益目的と言ってしまえばそれまでだが、それは人間として極当たり前の行動原理だと言えるだろう。
もちろん、イントルーダーはそれを分かっていた。







「なんだかよく分からないけど、私を倒すとか言ってるみたい。
 ふふ…私もなめられたみたいね。
 今の今まで苦戦していて、私にダメージの一つも与えられていないのに何を言うのかな?
 でも、そういうなら最後まで付き合ってあげてもいいよ。
 どうせ最後は絶望に終わるんだもの」
「言ってくれるな堕天使。全てがお前の思うとおりに行くと思うな!!」
罵倒するように口を開いたシャロンに対し、一喝するかのように声高らかにイントルーダーは叫んだ。
―――思い上がるな堕天使、その思い上がりがお前の最大の弱点だ。
――故に、目の前の紅い翼の堕天使を撃破するために付け込める隙が存在する。






四人は輪を画くようにして固まり、ひそひそ声で作戦会議。
シャロンは仕掛けてこない。
それはおそらく、シャロンが自らの勝ちを確定事項だと思っているせいだろう。
だが侮る無かれ。
その思い上がりこそがシャロンの最大の敗因となるだろう。
そして、各々が持つ戦闘能力や技術をどう使えば勝てるのかを模索する。
その内に、光が見えてきたのは気のせいなどではないはずだ。
きっとこれが、団結の力というものなのだろうか。
「作戦は…これでいくぞ」
全てがまとまり、イントルーダーは顔を上げて、力強く告げた。
直後、顔を見合わせた四人は同時に頷いた。













―――そして今、堕天使を相手に、ブリード・ミリル・イントルーダー・クラウの四人の全ての力を合わせた最後の交戦が始まる。
勝利の女神はどちらに微笑むのか。
それを知るのは、全てが終った後のこと。
初めから答えの出ている事柄なぞ存在しないし、答えを知ってしまってはつまらない。
答えの分からない人生だからこそ面白いのだ。





 



――――最終試合のゴングが鳴った。








開幕と同時に、クラウがシャロンの懐へと潜り込むべく、戦場を華麗に飛翔する。
…何のつもり?
シャロンの顔に、哀れみの表情が浮かんだ。
直線的な攻撃の類は全てこの紅い翼によって防がれてしまうというのに、其れでも尚、近づいての接近戦を挑もうというのだ。
はたから見れば自殺行為にしか見えないその行動だが、クラウの戦闘スタイルを考えれば仕方の無い事の一言で済ませられる。
完膚なきまでの接近戦特化型。
それ故に戦法の幅もおのずと狭くなってしまう。
…かといって。やけっぱちの類の攻撃な訳はない。
少なくとも、クラウは非常に聡明な女性だとシャロンは思っている。
そのクラウがこういった行動に走るということは、必ず何らかの『策』があるということだ。
今までの、ノーテュエルとゼイネストが生きていた頃のクラウとの戦いでそれは分かっている。
接近戦しか出来ないが故に、如何にして相手に近づくか、如何にして相手の攻撃を掻い潜るか、クラウは戦闘に置いて常にそれを念頭に置いている。
そして、一度張り付いたら如何にして相手を逃がさないか、クラウの有利状態を維持し続けるかを最大の課題として戦闘に望んでいる。
シャロンとは正反対の戦闘スタイルであるが故に、シャロンにとっては最も警戒すべき相手。
もし懐に潜り込まれれば、一気に敗色が濃くなるからだ。
タイミングを見計らわれて『干渉不能の掟』が切れたところを攻撃された瞬間に勝敗が決するだろう。
故にシャロン側としても、徹底して遠距離戦を挑んでいた。そしてこの戦いにおいて、シャロンは今まで一度もクラウに懐に飛び込まれた覚えは無い。
故に、絶対の自信を持って、口を開く。
「…まさか馬鹿正直に突っ込んでくる訳ではないでしょうしね。貴女はそこまで愚かではなかった筈でしょ」
クラウに言い聞かせるようにそこの部分をあえて口に出す。しかも挑発的に、だ。
そんなシャロンの言葉に構う事無く、クラウは通常のおおよそ五十五倍の速度で一気にシャロンとの距離を詰める。
…考えすぎたかな。
その手口は、やはり今までとなんら変わりがない。
やはりクラウの接近戦法は、基本的にワンパターンだ。
これで空間歪曲や物質質量無効化による瞬間移動なんてものでも兼ね備えていれば話は違ったのだが、それはそれでシャロンとしてはあって欲しくない事なので、これ以上は考えないことにした。
仮に物陰に隠れながら近づいたとしても、I−ブレインが備えている気配察知能力ですぐに感知できる。
その為に、何かに身をやつして近づいても無意味な事くらい、クラウとしても分かっているはずだ。
(別方向より攻撃感知)
刹那、シャロン目掛けて飛来する無数の氷の槍の存在をI−ブレインが感知する。
(さらに別方向より攻撃感知)
続けざまに不可視の攻撃判定の存在を感知。
ほぼ間違いなくミリルの『無限の息吹インペリアル・ブレス』と見て間違いないだろう。
見えないという面では厄介な能力だが、肝心の威力が非常に低いためにそこまで恐れるような能力では無い事をシャロンは理解している。
前方のクラウ、左に位置するブリード、右に位置するミリル、そして後方にいるであろうイントルーダー。
まさに四面楚歌。
並の魔法士ならば、どこぞの虎と狼に囲まれるより辛い状況だ。
―――そう『並の』魔法士なら。
「舐めるなぁ―――――――っ!!」
『並の魔法士』ではない今のシャロンが、その程度で苦戦する要素など無い。
紅い翼を乱暴に振り回し、襲い来る攻撃をことごとく打ち落とす。
だが、打ち落とせていたのはブリードの『フリーズランサー』やミリルの『無限の息吹』が殆どだ。
数という名の暴力を利用しシャロンの攻撃を相殺したのだ。
「数の暴力って言うのは、こういう事を言うのかな?」
シャロンの問いに答える者は誰もいない。
その間にも接近戦を主戦場とするクラウは戦場を縦横無尽に荒れ狂う六枚の紅い翼の間を器用にすり抜けてシャロンへと近づき、
『グラドニック――――」
体に捻りをつけて、右腕をコークスクリューを打つ体制へと構えて、
―――ウェポン!!』
名に恥じぬ威力を持つ一撃を放つ。
触れれば即、破壊だけをもたらす一撃。
だが、『干渉不能の掟』により存在係数を自由自在に変更できるシャロンには、その一撃は当たらない。
「だから無駄だと言っているでしょう!」
「そんな事は分かりきっているわ。
 …ところでいいのかしら?そんな悠長なことを言っていて」 
「何ですって!?」
(背後に攻撃感知)
刹那、シャロンのIーブレインが無機質な音声でそれを告げる。
振り向けば、いつの間にかブリードがシャロンの背後に回りこんでいた。
さらに、時間差を用いて襲い掛かる無数の氷の槍。
水分を含んだ空気さえあれば『槍』は発動できるという事をシャロンはこの戦いの中ですでに理解している。
しかし、その時にはシャロンは既に『干渉不能の掟』により存在係数を変更しているためにブリードの放った攻撃が当たらない。
遅れて、先ほどブリードが放ってあった論理回路を刻みこんだ無数の氷の槍が音速で飛翔する。
但し飛翔する相手はシャロンではなく―――ブリード自身だ。
「しまった!」
そしてブリードに、無数の氷の槍が襲い掛かった。
「あらら!自滅かしら?」
だが、ブリードは何も言わなかった。
まるで諦めたかのように。











―――次の瞬間、大量の氷の槍がブリードに全段直撃した。












「ブリードッ!!!」
ミリルの悲痛な声が戦場に響き渡る。
ブリードが居た位置から湧き上がる水蒸気の硝煙。
絶対零度の氷より出でた氷結のダイアモンドダスト。
その奥からブリードの生命反応という名の情報は返ってこない。
そして時間は止まってはくれない。すぐさまシャロンから紅い翼の一撃がミリル目掛けて飛翔する。
しかし、ミリルは数ナノセカントの時間をかけてそれを回避。
同じような攻撃を何度も放たれたせいで目が慣れてきているのか、最初に比べてかなり楽に回避できるようになってきている。
「ふーん、最初に比べると安定して避けれるようになったじゃないの」
「…私だって、この世界に生きる命です。だから、死にたくないだけなんですっ!!」
「死にたくない…かぁ。
 確かに、普通の人間なら死にたくなんて無いよね。
 でも、それでも死んじゃった人はいるの。
 ―――ミリルちゃんには恨みなんてないけど、私の目的を邪魔するなら容赦は無いの」
シャロンが一瞬だけ浮べた遠い目。
今のミリルの言葉で思い出したものは、明確。
志半ばで死んでいったノーテュエルとゼイネスト。
それを思い出し、シャロンの心に言い知れぬ激情が生まれる。
火に油を注ぐというのはこういうことか。シャロンの攻撃がさらに激しさを増す。
「言いたい事はそれだけかっ!!」
ミリルを庇う為にイントルーダーが横から乱入。
彼の身体を包む黒衣――冥衣ブラックガーヴは、マスターであるイントルーダーの身を守る為に、一ミリの隙間もなくイントルーダーの身体を包んでいた。
次の瞬間には紅い翼がイントルーダーの黒衣を直撃。
しかしイントルーダーは吹っ飛ばされる事無く、『冥衣』の防御性能を活かして紅い翼の攻撃の威力を無効化してシャロンへと近づく。
衝撃の威力を巧く分散した、見事な手法。
刹那、『冥衣』は元のマントの形状に戻り、その先端の一箇所を鋭く尖らせて鋭利な刃を作成した。
シャロンへと襲い掛かる鋭利な刃は、シャロンの目にはひどく遅く見える。
「無駄な事を…」
つい、心の声を外に出してしまった。
だが、イントルーダーはそれを無視。
…無駄な事なんてやめるべきなのに。
シャロンの心の中に浮かび出たその言葉は、間違いなくイントルーダーに対する嘲り。
シャロンの心は舞い上がっていた。
私は如何なる攻撃も無効化する。
対し、私は攻撃し放題。
分かっている筈でしょ。あなた達が敵う理由は無い。
早いとこ終わらせましょう。最早勝敗の決している戦いを。
喰らうはずの無い攻撃が透過したのを確認するまでも無く再び攻撃を開始しようとして、










―――ざくり、という音と共に痛みを感じた。









「!?」
理解不能。
限りなく理解不能。
今、何が起きた?
今、何故痛みを感じた?
『干渉不能の掟』により、痛みは元より攻撃自体が全て貫通してしまう筈。
そして、制限時間には未だ至っていないはず。
だが、痛みがあるという事は、それすなわち何らかの形で傷を負ったという事。
傷を負ったという事は、シャロンに触れる事が出来たということになる。
刹那、シャロンの背中に悪寒が走った。
見なければいい、と脳は告げていたが、それでもシャロンは見ずにはいられなかった。
おそるおそる視線を逸らし、痛みの走った左腕をその目で見て、
「何…コレ?」
シャロンの左腕を『冥衣』の切っ先が貫通していたのを確認した。
そこからは赤い血が流れていたが、シャロンにとっては汗が流れているようにしか感じなかった。
否、そもそも、今起きているこの現象事態が夢見事のようだ。
絶対にダメージを受ける筈の無いシャロンにダメージが通った。それが全て。
ありえない。という感じの表情で、シャロンは傷口を見つける。
そのままI−ブレインに命令を送る。内容は『干渉不能の掟』の再起動。
だが、I−ブレインから返ってきた答えは、シャロンの予想を遥かに超えたものだった。
(『干渉不能の掟』原因不明の情報障害により発動不可能)
「そんな馬鹿な!!」
たまらずにシャロンは頭を抱えて、声をあげて叫んだ。
ありえない。
ありえない事ばかりが連続して起こっている。
何がどうなっているのか分からない。
だが、こうしていても仕方がないので、とりあえず疑問を整理する事から始める。
「攻撃を…防げなかった!?」
まず第一の疑問はそれだ。
『干渉不能の掟』は、まだ発動していられる制限時間には届いていなかった。
少なくとも、現実時間で後三秒は発動できていたはずだ。
にも関わらず、シャロンはイントルーダーの一撃を喰らった。これは紛れも無い事実。
(まさか…)
不安に駆られたシャロンは、I−ブレインの過去ログを漁ってみる。
すると、今まで記録された事の無いログが残っていた。
(外部デバイスによる情報干渉を確認――――能力名不明unknown。抵抗デバイス作動――無効化)
「ッ!!…そんな事って!」
シャロンの背筋に悪寒が走る。
脳内の抵抗デバイスが無効化された。
すなわち、兎にも角にも非常に拙い事態であることは理解できる。
続いて記されたログの内容も、本来なら在り得る筈の無い内容。
(外部デバイスにより、存在係数、零パーセントから百パーセントに強制変換)
…最初、何を言われたのか分からなかった。
数瞬の間を置いて、ようやく理解できた。
「…存在係数を…強制的に引き上げられた!?」
今の今まで、遭遇する事なんて無いと思っていたその言葉。
だがしかし、その言葉は今確かに此処に在る。
存在係数の強制引き上げ…それが何を意味するかなんて言われなくても分かる。
すなわち、シャロンの誇る無敵状態が失われ、シャロンは普通の人間より少しばかり死ににくくなっただけの存在へと化したという事。
何故!?
何故こうなったの!?
脳内に浮かぶ疑問に答えてくれるものはいない。
ならば、自己解決しか術は無い。
そう考えた刹那、一瞬の間をおいてシャロンは我に返る。
答えなんて最初から出ていたことに気がつく―――そう、今までのたった数秒の時を、ただ混乱していて答えを見失っていただけだ。
こんな事が出来るのは、この場においてたった一人しかいないではないか。
それは『もう一つの賢人会議』の様々な情報を知る事の出来る者。
その人物が、シャロンに一矢報いた時から状況が変わったのだ。
推理論でもなんでもなく、現実的に考えてこれ以外の答えをどうやって出せというのか。
「…イントルーダー、まさかあなた!」
口の端に笑みを貼り付けているその人物の姿を視界に捉え、驚愕の表情でシャロンは叫んだ。
そしてその人物…イントルーダーは声高らかに叫ぶ!
「ああ、そうだシャロン…封じさせてもらったぞ…お前の『干渉不能の掟ロストルール・イリュージョナル』を!!



















<続く>






















―【 お ま け の キ ャ ラ ト ー ク 】―















ノーテュエル
「コ…」
ゼイネスト
「何だ、いつものパターンか」
ノーテュエル
「…のやろー!」
ゼイネスト
「って、何でいきなり俺に殴りかかる!?」
ノーテュエル
「前回、開幕直後に素敵につっこみを入れてくれたから、今回はパターンを変えてみたのよ。後、お返しも兼ねてね」
ゼイネスト
「無駄な事を…」
ワイス
「本当に無駄ですね」
ノーテュエル
「うるさーいっ!!」
ゼイネスト
「よっと!」
ワイス
「って、僕を盾にしないでくださひでぶ!!!
ノーテュエル
「ありゃ」
ワイス
「ありゃ、じゃないでしょうに!!
 …というか、謝礼の一つくらい無いんですか?」
ノーテュエル
「…あー、今回ばっかりは流石に私が悪かったわ…というわけで、ごめんね」
ワイス
「…おお、今回は凄いくらいに素直ですね…思わず感激してしまいましたよ。
 で、それくらい上機嫌って事は、もしかしなくても何かあったんですか?」
ノーテュエル
「あったに決まってるじゃなーい!!
 だってそうでしょ!この驚きの大逆転劇!」
ゼイネスト
「ああ、まさかこんな『奥の手』があったとはな。
 ほんとに『切り札』のあり方とやらを考えされられる瞬間だった」
ノーテュエル
「敵を欺くには先ず味方から…ってやつね。
 シャロンやクラウにも『情報の賢者』の存在を隠していたイントルーダーは、まさに策士の鏡ってとこかしら?」
ワイス
「『干渉不能の掟』を防ぐってありえるんですか?って感じですけどね。
 一体どんなカラクリなのかは、次回で明かされるでしょうけど。
 後は、レシュレイ達の戦況も大きく変化しましたが…ほんとに、これでいいんですかね?」
ゼイネスト
「レシュレイの『神殺しの剣』。
 セリシアの『災厄を薙ぐ剣』。
 この二つがエクイテスを倒せる隠された手段か…ラジエルトの事だからただでは済むまいと思っていたが…これは予想外だったぞ」
ワイス
「でも、レシュレイは後一歩の所でギブアップも等しい状態になってしまっている…。
 という事は、このままなら、最後はセリシアが決めるという流れになりそうですね」
ノーテュエル
「セリシア…またその手を血で染めなくちゃいけないのかな?」
ゼイネスト
「それが戦いだって事を、俺達は知っている。
 だから、セリシアに言える事なんて何も無い。
 彼女は自分の意思で『災厄を薙ぐ剣』を発動させたんだ。
 セリシアが彼女自身の作り上げた『壁』を超えるべき試練なんだろう」
ノーテュエル
「俗に言う『己を越えたくば、己の壁を越えてゆけ』ってやつね。
 確かに、それまでの自分にさよならしないと、新たな自分に会うのは無理な話よね。
 それにしても…あーあ、いつ見てもこの二人は見せ付けてくれるわよね」
ゼイネスト
「嫉妬か?」
ノーテュエル
「ダイレクトに言うなっ!」
ワイス
「はいはい、妬かない妬かない。
 で、話が変わりますが…今回、論達の出番がないのは何故なんでしょうか?」
ノーテュエル
「次回で一気に決着をつける為に、今回は割合したみたいね」
ゼイネスト
「まあ、一話の長さ的にもこれくらいでいいんじゃないのか」
ワイス
「ヒナを助ける時は、一話だけで凄く長かった気がしますが…」
ゼイネスト
「長すぎると飽きるだろ」
ノーテュエル
「あはは、言えてる言えてる」
ワイス
「思ったんですが、回を重ねるごとにここも段々とキャラトークらしくなってきましたね」
ノーテュエル
「言えてる。最初なんて本文とそう大差なかったもんねー」
ゼイネスト
「お前はしょっぱなからナイチチと言われ…」
ノーテュエル
「黙れぇ!!」
ゼイネスト
「おっと危ない!…って、ワイスは逃げたか!」
ワイス
「流石にもう盾にされる訳にはいきませんよ!!」
ノーテュエル
「紅に染まりなさいっ!!炎舞大炎上ミカエル)』―――ッ!!
ゼイネスト
「させるか!!『パニッシャースクライド』!!!
ワイス
「だわーっ!!そこで大技をぶつけ合わないでくださ…」








(…この後、局地的大爆発が起こったため、しばらくお待ちください)









ノーテュエル
「ぜぇ…ぜぇ…今回は引き分けみたいね」
ゼイネスト
「…まっ…たくだ…」
ワイス
「…攻撃の余波がこっちまで来たんですが…あやうく、僕まで巻き添えになる所でしたよ…」
ゼイネスト
「まああれだ。運命共同体」
ワイス
「都合のいい時ばっかりそれですか!!」
ノーテュエル
「…さあ、気を取り直していきましょう!!
 次回はいよいよ決着の時!
 三箇所で行われている戦いの勝者は一体誰になるのか!?
 最後まで見過ごす事の無い様にお願いします!」
ゼイネスト
「次回『決着の時』まで、しばしの別れを」








<こっちのコーナーも続く>









<作者様コメント>







どん底に落ちてからの逆転は、時に先ほどの戦闘での有利不利の立場すら変える可能性があります。
ついに逆転の糸口を見つけた論は、この後どうやってシュベールに立ち向かうのでしょうか?
そして、レシュレイサイドやブリードサイドに勝機は…。
全ては次回で明かされますので、お待ち下さい。





…そして、お忙しいのに文章校正に付き合ってくれたレクイエムさん、ありがとうございました(ペコリ)。




<作者様サイト>
同盟BBSにアドレス載せてるんでどうぞー。ブログですが。


◆とじる◆