FINAL JUDGMENT
〜一人の『新たな騎士』〜


















青年は、第三次世界大戦が終結したその時に、確かな意思を持って生きていた。

否、生き延びる事が出来たと言ったほうが正しいのかもしれない。

第三次世界大戦が終結する一年ほど前から前線へと送られて死闘を演じ、常に死と隣り合わせの日々が終わった時、青年は心の底から、深い深いため息を吐いた。

世界に残されたシティが七つになった時、青年は大戦中の功績を買われ、シティ・メルボルンの軍隊に所属することが出来た。

正直、シティであればどこでも良かった。

ただ、生き延びる為の住居さえ手に入ればそれで良かった。

最早戦いに疲れきっていた、当時『少年』だった青年はそう思っていた。












―――だけどそれは、青年の戦いが終わりを告げたという事とは同義にはならなかった。












青年は、今も戦っている。

軍人として、シティに反旗を翻す者達を『取り押さえる』という任務に就いている。

力を持たない弱き人々を助ける為に、彼はひたすら戦ってきた。













多くの人が、多くの魔法士が死んだあの大戦から十年、人類はシティに頼りきって生きてきた。

情報制御理論を活用することによって維持されるドーム型の積層都市。完全な自給自足が可能だが、システムの根幹である『マザーコア』の耐用の期限が迫っており、各シティはマザーコアの維持に全力を注いでいる。 

また、少量のエネルギーや食料の為に、あちこちで紛争が起きているという事実に関しても、シティの殆どの人達は知らない。

何も知らずに安穏と生きれて、そして、力を手にする事が出来なかった人々。

そんな人々の為に、人ならざる力を持ち、そして、マザーコアとして犠牲になっていく魔法士。

そして、青年もまた『魔法士』だ。

だが青年は、生まれた時から、力の無いものを救いたいという意思が強かった。

弱き者達の剣に、盾になりたいという願望の持ち主だった。

それは立派な正義感の成せる業であり、何者にも否定することの出来ない信念。






…だけどその為に、今のこの世界では、仲間が、魔法士が犠牲になっていく。

マザーコアという、シティを運営させる為の道具にされて、願いを叶える事も出来ず、自由を手にする事も出来ずに死んでいく。

だからと言って、魔法士の味方をすれば、今度は人間達が犠牲になる。シティ無しでは、力の無い弱い人々は生きられない。

どちらかが助かればどちらかが犠牲になる。

両方が助かるようなとても都合のいい答えなんて、この世界では絶対にありえない。

何度も思考し、何度も悩んで、

「……」

―――どの答えが正解なのか、はっきりと言い切ることなんて出来るわけが無かった。











『賢人会議』の襲撃事件から、おおよそ三週間以上が経過している。

今の日時は『西暦2198年10月31日』で、時刻はというと『午後三時二分』だ。

腕時計の類を持たない青年がその時間を知る事が出来た理由は、ひとつしかない。

青年の脳内に埋め込まれた生態コンピュータ―――『I−ブレイン』の成せる技である。

I-ブレインは、Informational-Brainの略であり、魔法士の脳に埋め込まれた魔法を行使するための一連の人工器官の総称。

『情報の海』を書き換えるコンピュータであり、名前どおりの『魔法』のような現象を体現させる事を可能とする。










本来であれば青年はシティ・メルボルン内部の軍に所属する軍人ではあるが、今は一時的に軍には所属せずに独自で行動している。

『賢人会議』の脱出事件の際に、とある事情から戦いに参戦できなかった為に、少しばかりの謹慎処分を喰らったのだ。

だが、メルボルンの軍の連中は、銀髪の青年を解雇する事はほぼない。

何故なら、銀髪の青年はかなりの実績を持つ一流の『特殊な』騎士。

彼を解雇する事は、シティ・メルボルンの軍の連中にとって何一つプラスにはなりえない。

その為に、この謹慎処分の時間を利用して、他のシティの様子も見に行こうと思ったのだった。













…そして今、青年はちょっとしたハプニングに見舞われていた。












――とりあえず言っておくが、この世界でプラントの外に一歩でも出たら戦場だという事を忘れてなどいなかった。

シティに住めない物達の中には、犯罪行為に走る者も少なくない。

そういった者達はハイエナのように群れを作り、シティの外に出たりするシティの住民を襲って金目の物を奪い、生きる為に換金して金にして食料を買ったりするのが大半である。

故にシティの外に出る時には、細心の注意を払うようにという警報が軍から出されているほどである。

だが、まさかこうもすぐにこうなるとは思いもしていなかった。

だから、少しだけ反応が遅れた。それだけの筈だ。

しかし、その『少し』が命取りとなり、結果、周囲には沢山の人間という人間でサークルが作られ、蟻の這い出る隙間も無いほどの人間の壁が作成された。

周囲を取り巻くのは、下品なうすら笑いを浮かべている、がらの悪そうな男達。

手に持っているのはシャムシールなどの倭刀や、重量感のある斧。背中にしょっているのは何かが入っているであろう筒。着ている物はそれぞれだが、全体の雰囲気を通して言えるのは『不潔』という一言。

で、ここから導き出される答えは一つ。

―――どう考えても強盗…どちらかというと夜盗の類である。或いは、スラム街で集団で動いてヤクを売ったり悪事を働いたりする人間の類と言ってもいいかもしれない。

中には数名ほどだがI−ブレインの反応も見られる為に、この夜盗は人間と魔法士の構成だという事が理解できた。割合的には9:1くらいで。

「――全く、どうしてこうなるのかな…」

そして今、目の前の現実に辟易した後に額に手を当て、青年はため息をついた。

銀髪の短めの髪に、銀色のマント。

腰には鞘に収められた剣があり、その柄はまるで十字架のような形をしている。

着ているのは、青系の色を基調にした服に、あちこちに銀色を基調としたプレートが取り付けられており、まさに中世の『騎士』をモチーフにしたような格好である。

そして、瞳の色は緑色と青色の異色瞳オッドアイ)

間違ってもカラーコンタクトなど使用していない。この瞳の色は製作者によって設定されたものであり、れっきとした生まれついてのものなのだ。

…まさかこの格好のせいで金目の物を持っているように思われているのかもしれない…と思っているその間にもI−ブレインを起動して、

(『身体能力制御』『運動能力制御』発動。運動速度を三十倍に、知覚速度を六十倍に定義)

一瞬で戦闘準備を終える。もちろん、周囲への配慮も怠らない。

今のところ、あちらに動きは無いようだ。

運動速度と知覚速度の差はおおよそ一対二。

そして、この程度の相手に『自己領域』を使うまでもないと、青年はそう判断した―――少なくとも、今の段階では。

能力の発動を確認し、腰にかけてある一本の剣に手をかける。青年の能力を活かせば、ひとたび動いて一閃を放つことにより、悪くても十人は斬れる。

そこまで考えたとき、先頭のリーダー格らしき男がずい、と一歩踏み出し、

「この状況を見りゃ、俺が次に何て言うかは分かるよな!!」

…ある意味ではオリジナリティがあるにはあったが、青年にはその先に続く台詞を口にするつもりはなかった。

まだ『身ぐるみまとめて置いてきな!!』などという、あまりにも原始的過ぎる台詞を言われない分マシではあるのだが、本質的にはほとんど変わらない。

これが戦争後の教育の行き届き不足の代償かという事を改めて理解し、さらにため息一つ追加。

とりあえず、生きてきて何度目になるか分からない言葉で返答。

「…嫌だと言った…」

刹那、風を切る音。

最後まで言う前に、どこからか投擲斧フランシスカ)が飛来する。

斧としての形状の都合上、速度はそれなりだが軌道が丸分かりな為に回避は簡単だった。そう、投擲斧は刃の数が一つしかないために、日本の『忍者』という者が使う『棒手裏剣』などと同様に決まりきった動きしか出来ず、軌道変換が効かない。

少し動いただけであっさりと回避すると、後ろのほうで「ぐわぁっ!!」という声がした。

続いて、かなり嫌な音と共に、血と脳漿と肉塊諸々があっちこっちに飛び散る。周りからも「うわっ」「あぶねっ」などといった声が聞こえた。

その声の理由は説明するまでも無いだろう。こいつらは所詮夜盗。故にチームワークは仮初め。

いくら仲間が死のうが自分だけ助かればいい――そういう奴らの集まりだ。

今のやつらとて、自分に被害が来なかったことに対する安堵感の方が強いだろう。

力を合わせての友情とは程遠い。そして、その統率の取れてない連携は烏合の衆よりも酷い。

おそらく周りの部下達も、いつリーダーを殺して、自分がリーダーに成り代わろうかという機会を伺っているに違いない。

…反吐が出る。

苛立ちとむかつきを押し隠して、青年は口を開いた。

「人の話を聞くつもりも無いとは…仕方が無いですね」

「へっ、この大量の人数を相手に、お前みたいな細身の坊ちゃんが、それも一人でどう戦うんだかな!!」

刹那、青年は悟った。

(…こいつらは、完全に自分達が優位に立っていると思っているのか)

自惚れるな愚か者。

確かに、数の暴力というものは、それだけで戦況を動かすだけの力はある。

だが、それが必ずでは無いという事を思い知るがいい。

「…なら、仕方がありませんね…。
 降りかかる火の粉は払わねばなりませんし」

「おーおー、キザな台詞言ってくれんじゃねぇの兄ちゃん…じゃあ死ねっ!!

刹那、近くに居た大男が斧を振りかざし襲い掛かる。

同時に、青年はその緑色と青色の異色瞳を瞑り、既に戦闘態勢に入っていたI−ブレインを本格的に起動させた。

ぶん、と、物体が力を得て動くことにより発生する空気を歪ませる音と共に、振り下ろされる斧は呆れるほどゆっくりな速度で青年へと向かう。

―――次の瞬間、血飛沫が舞った。

だが、その血飛沫は青年のものではなく、斧を振り回した大男の物だった。

「ぐあ」という小さな声を上げた大男は、大男の斧を持つ手を振り下ろす前に、かつ、青年のレイピアによって肉体が完全に切断されたと認識する前に、心臓を貫かれて絶命していた。

その服の下には、寒さと攻撃の両方を防ぐ防護スーツの姿が見えた。

「まだっ!!」

その身体がどしんという音と共に地面に横たわる前に、青年の抜き身の剣が二人目を鮮血に染める。

その圧倒的な速さに、夜盗達は何が起こったのか分からなかった。

青年は一旦足を止めて、夜盗達を睨みつける。

その時になって、初めて青年の剣の形状が明らかになった。

「…レイピアだとぉ!!」

夜盗の一人が叫んだ。

刹那、夜盗達の視線が青年の武器に集中する。

青年が鞘から抜いたその剣の形状は――中世時代に貴族などが腰に下げていたレイピアという剣だった。

レイピアとは、細身で先端の鋭く尖った刺突用の片手剣である。十六〜十七世紀頃のヨーロッパで、主に護身あるいは決闘の際の武器として用いられたものだ。

青年の持つそれの幅はおおよそ二センチ弱、全長は百三十センチほど。だが、心なしか先端が少し丸くなっているように見える。

しかし、世間一般のレイピアは重量は1.5キロほどあり、見た目よりも重いという弱点がある。

多くの場合、装飾を施した柄や、手の甲を覆う湾曲した金属板などが取り付けられているのだが、青年の持つそれはそのようなモノは一切取り付けられていない。おそらく、そのお陰で軽量化に成功しているのだろう。

余談だが、レイピアはしばしばフルーレと混同される。が、レイピアは細身ではあっても基本的には両刃であるため、刃を落として主に練習用に使われていたフルーレとは異なる。

レイピアによる剣術の基本は、相手を突くことである。むしろレイピアの原型エストックは日本の鎧通しのように鎧ごと貫いたとか。

しかし今、青年はレイピアで相手を『斬った』のだ。

確かにレイピアは両刃の剣。斬るという用途に使うことは不可能ではない。因みに、『斬る』という目的に最も向いている武器は『日本刀』らしい。

だが、それにしては今の切れ味は異常すぎる。ましてや、斬られた二人は寒さと攻撃の両方を防ぐ防護スーツを着ていたのにも関わらずに絶命したのだ。

さらに、レイピアは鎧の隙間から攻撃する事は出来ない。

日本の江戸期の素肌剣法と同じ。鎧を着ない戦いを前提として使用する武器である。

それだけ、青年の持つレイピアが特殊かつ異常な仕様だということが理解できた。

「…さて、お前達に残された選択肢は二つ。
 このまま去るか、僕に倒されるか―――だ」

刹那の間を置いて戦場に響くのは、少し高めの少年の声。

だが、野党達の中に、前者の答えを選択するものは―――、

「お、おいらは投降する!!こんなところで死んでたまるか!!」

…居た。野党達の群れの後ろのほうに。

大柄で顔つきも悪い為、青年にしてみれば、それはかなり意外な行動だった。おそらく、見た目の割には臆病者なんだろうな、と判断。

次の瞬間、男が一歩を踏み出した直後、

「馬鹿者がぁ!!」

「へっ?」

隣の男の持つ槍に頭を貫かれて、情けない悲鳴と共に絶命した。

「なっ!!」

思わず、青年は叫んだ。

だが、心の中ではその行動に納得すらしていた。

仲間である筈の人間を容赦なく殺す。それは、裏切りを絶対に許さない組織的なもの。

或いは『裏切り者は全て殺せ』という類の鉄の掟かもしれない。

「ったく阿呆が…」

寝返ろうとした男を殺した男が、めんどくさそうにつぶやいた。

「今の男は、お前達の仲間ではなかったのか?」

「ああ、仲間だったさ。
 …だがな、こういったグループの中には少なからずとも掟ってもんがある。
 んで、今のがまさにそれだ…裏切り者には死、あるのみ、ってやつよ」

青年の言葉に、男はさも当たり前のように答えた。

「…そうか、死、あるのみか。
 …なら、シティに対する危険因子であるお前達にも死、あるのみ…という事になるのかな」

「おうよ。
 これまで、結構な数の人間を殺して生きてきた俺達だ。
 法とか秩序とか言うクソめんどくせえモンの基に考えれば、俺達の立場ってのは『悪』に見えるんだろうな。
 …だが、それがどうした!!」

怒気を孕んだ声で、リーダー格の男が叫び、そして続けた。

「下らねぇんだよ!
 シティってのは、人間を救う為の施設なんだろ!
 んじゃ、何で受け入れる人数を制限するんだかな!!
 そのくせ、てめぇら軍の人間を確保する事は決して忘れてないしよ!!」

「…それは」

一瞬、青年は返答に詰まる。

「だから俺達はこの道を歩んだ!
 シティが俺達の事を認めないなら、何をしてでも生き延びてやる!
 それは人間が持つ当たり前の本能的行動で、生きたいと思う事に罪なんてねぇ筈だ!!
 そして何より―――世界が俺達をそうさせたんだ!!」

青年は少しの間俯いて、言葉を紡いだ。

「お前達の言う事にも確かに一理はある…。
 だがそれでも、僕はシティに殉ずる身として…それを見逃す訳にはいかない!!」

「―――上等、俺達には正義ぶった御託なんざいらねぇんだよ!!
 欲しいのはただ―――安穏たる生活だけだ!!」

叫びと同時に、右左から同時に男達が飛び掛る。

その手に握られたのは、ぼろぼろで手入れもされていない騎士剣。おそらく、軍に所属する騎士を見つけた時に集団で襲い掛かり、奪ったものなのだろう。

「――見えている」

だが、青年は動じる事無くレイピアを振りかざし、左右から襲い掛かってきた二人組を苦もなく葬り去る。

「――次はどいつだ!!」

レイピアを構えたまま、青年は凛とした声で叫んだ。

「…こいつ、殺る気だ!!」

「うろたえるな!!おい!!ノイズメーカーだ!!ノイズメーカーを出せ!!」

「へ、へい!!」

動揺するリーダー格の男の命令で、部下の一人が腰に下げていた大きな袋から、黒い大きな塊を取り出そうとして、

「甘いっ!」

「あわびゅ!」

一瞬で間合いを詰めた青年に、脳天から一撃を叩き込まれて絶命する。

続けて、追撃を受ける前に安全な位置へと後退を試みる。

正直、夜盗達は強くは無い。が、数が多いだけに少しだけ厄介だ。

加えて、まだどんな物を隠し持っているかが分からないので、ここは一旦様子見に入る事にする。

もしも、シティに対して何かの仕掛けをしていたとすると、恐ろしい事になるからだ。

(しかし、愚か過ぎる…)

心の中で、青年は哀れんだ。

ノイズメーカーという名前を聞いて、それを阻止しようとしない魔法士がどこにいるだろうか。

さらに、切り札の存在をそうやって容易く口に出すなど――。

「―――!!」

背後から気配を察知して、一閃。

「へぶぁ!!」

斧を構えて飛び掛ってきた夜盗の体が二分割されて、絶命する。

だが、その『振り向いた一瞬』に、

「…なっ!!」

うなじからちくり、と音がした。

(I−ブレイン、機能低下)

前頭葉に埋めこまれたI−ブレインから、そんな反応が確かに返ってきた。

振り返れば、小柄な男が青年のうなじに何かを刺したのが確認された。

その小柄な男からは魔法士の反応が返ってきた。それも『騎士』のものだ。

『身体能力制御』を用いて瞬間的に自己の速度を上昇させて、青年へと突貫したのだろう。

さらに、その反応は青年にとってはとても聞きなれたもの。

対魔法士用の必須アイテムといえる…ノイズメーカーの反応だ。

同時に、男達が先ほどのでかいノイズメーカーを見せた理由も理解できた。

最初にノイズメーカーを見せ付ける事で、うなじに突き刺すタイプのノイズメーカーを持っているという事を隠す為のカモフラージュにしていたのだろう。

今まで誰もやってこなかった手法だけに、判断が遅れた。

そこまで考えていると、『騎士』が『騎士剣』を振り下ろした。

刹那、うろたえる事無くレイピアを振るい、『騎士』の刃が届く前に青年は『騎士』を斬り捨てる。至近距離で斬り捨てた為に返り血が返って来て、青年のマントや鎧を紅に染めるが、そんな事で動転する青年ではなかった。

その後も続けざまに様々な方向から男達が襲い掛かって来たが、その全てを返り討ちにする。

だが、本来の速度を出せない青年では、殺傷力も機動力も大幅に落ちる。

「…なるほど、二重、三重と手を打っていたわけか…」

それでも、青年の顔からは冷静さが消えない。

レイピアを振るって、群れる男達を捌きながらも、そんな言葉を口にした。

「ま、よくあるだろ―――『肉を切らせて骨を絶つ』ってな!!」

その言葉が聞こえたらしく、リーダー格の男が胸を張って答えた。

恐らく、奇襲が成功してノイズメーカーの取り付けに成功したために、状況的に有利になると踏んだために、心の中に余裕が生まれたが故の自信だろう。

確かにそれは間違っていない。ノイズメーカーがあれば、魔法士の戦闘能力は激減する。

――だがそれは『普通の魔法士』である場合だという事を忘れてはならない。現に黒沢祐一クラスの魔法士なら、ノイズメーカーの中でもそれなりに戦えるからだ。

そして、青年とて魔法士。ノイズメーカーに対する対策なんて、とうの昔に練っている。

「捨て駒を用いて、全体の勝利へと繋げるとは…正に『戦争』のあり方。
 だけど、それだけじゃ僕には勝てない」

この状況に陥らされても青年は動じず、隙を見て懐から何かを取りだす。

それは黒い正方形のような形をしており、その中の一面には小さな穴が開いている。

「ノイズメーカーの型番は…と、これですか」

青年がその黒い物体をうなじへと近づけると、かちり、と音がした。

「…お返しといきましょう」

ひゅっ、とレイピアを振りかざし、青年は苦痛の色一つ見せずに立ち上がった。

そして次の瞬間には疾走を開始し、今正に青年目掛けて一撃をくらわさんとする男に一撃を見舞う。

その後は無理をせず、先ほどまで居た場所まで戻る。

この状況下で無理に立ち位置を変える必要は無い。下手に相手に近いと、思わぬ攻撃を喰らう可能性もゼロではないからだ。

「て、てめぇ!!ノイズメーカーを効かせたっていうのに何で動けるんだ!!」

予測すらしていない光景を目の前にして、リーダー格の男のその顔が青ざめている。

無理もない。対魔法士用の必須アイテムとして名高いノイズメーカーを使っても尚、青年の機動力は一切衰えていないのだから。

「…まさか、ノイズメーカーを無効化出来る魔法士か!?」

強盗達の誰かが、これ以上なく青ざめた顔でそう言った。

「…生憎と、そんな便利な能力は持ち合わせていない。
 だから、これを使わせてもらってる」

そう言って、青年は自分のうなじを指差す。するとそこには、小型の見慣れぬ機械がうなじに刺さっていた。

「アンチノイズメーカー…早い話が、特定のノイズメーカーの妨害波長を無効化する機械ですよ」

「な…そんな高性能なモン、実践投入されたって話は聞かないぞ!!」

すると青年は、ふん、と鼻を鳴らして、

「当然だ、僕が…厳密には、僕を作った科学者が独自に作り上げたものだから」

そんな事を、あっさりと言ってのけた。

続けて、一呼吸置いた後に、青年は凛とした口調で叫んだ。













「そして、何より…。
 君達は――戦う相手を間違えた…『聖騎士』の所以をお教えしよう!!」














「――させっかよ!
 野郎共!!『フォーメーション『S』だっ!」

「応っ!!!」

青年のその声に対し、リーダー格の男が即座に反応して部下に命令を下す。

リーダー格の男の命令に対し、部下達が一斉に反応する。

一致団結しなければ青年を倒せないと踏んだのだろう。普段は中の悪いもの同士でも、こういう時に限っては協力するという実に典型的なパターンだ。

青年の周りを囲っていた男達は、背中にしょっていた筒の中から、黒を基調とした長い物が出てきた。

男達は慣れた手つきでそれを構えると、青年に向かって一斉に照準を定める。

一瞬、青年の目つきが鋭くなり、

「――スナイパーライフルの一斉射撃という手で来ましたかっ!!!」

何が起こったかを即座に理解した。

「撃て――――――――っ!!!!!!!!!!」

リーダー格の男の叫びと共に、銃の引き金が一斉に引かれた。

三百六十度全方向から放たれたのは、絶対なる殺意をまとった攻撃。

その弾はおそらく鉛製。だが、それだけの強度があれば人を殺すのには十分な威力と殺傷力を持っている。

無論、青年はただの人間ではない『魔法士』なのだが、その基本的身体構造は人間となんら変わらない。












「はははっ!!かわせるならかわしてみやがれ!!」

「ま、その前に、蜂の巣一丁上がり…ってなるだろうけどなぁ!!」

「おらおらおらおらおらおらおらっ!!!」

狙撃手スナイパー)一人一人の個性がよく出た台詞と共に、銃が乱射される。













―――だが、彼らはここで最大の間違いを犯した。

そもそも、知らなかったとはいえ、青年相手に銃器の類を使用してはいけなかったのである。













銃弾が迫ってこようとも、青年に動揺などは微塵も見受けられなかった。

むしろ、とても冷静な瞳で銃弾を見据えている。

その間にも脳内ではI−ブレインが起動し、この場を切り抜けるのに相応しい能力の使用許可を発令。

そして、銃弾が青年に着弾するおおよそ0.4秒ほど前には、青年のI−ブレインの起動は終わっている。

故に、銃弾を目視する事が出来ている。

すなわち――――青年にとって都合のいい空間を作り出せる『自己領域』の発動が完成しているということだ。











「さっきも言っただろう。
 ―――君達は、戦う相手を間違えた―――と」











きっ、と目を見開いた青年は地面を強く蹴飛ばし――その瞬間、青年の姿が掻き消えたかのように見えた。











無数にも等しい銃声が一斉に巻き起こったその数秒後に、事態が急変した。

大小様々なサイズのスナイパーライフルを用いて三百六十度全方向から放たれた無数の攻撃は、その一本たりとも青年に命中することは無かった。

さらに、この戦法にはとてつもなく大きな欠点がある。

相手を三百六十度の方角からぐるりと一つの円を描いて囲んでいるわけだから、当然、全ての狙撃手の向かい側には誰かが居るという形になる。

この場合、放たれた兆弾が相手に当たらなければ、向かい側にいる狙撃手に弾が当たってしまうのだ。

故に、狙撃手となれるものは、的確に狙いをつけられる腕前と集中力の持ち主のみが抜粋された。

そして彼らは、今まで一度たりとも、唯一人の同士討ちによる死亡者も出さずに済んでいた。

だが、如何に優れた腕前を持つ者といえども、標的が消えてしまっては銃撃を当てることなど不可能である。

故に、一人の狙撃手が放った銃弾は、向かい側に居た仲間の眉間を貫通した。

同時に、その一人の狙撃手にも、向かい側に居た仲間から放たれた弾丸が直撃した。

それらの連鎖により、互いが互いを撃ち殺しあう結果になり、結果、青年をずらりと囲んだ合計二十人ほどの狙撃手達は、弾の一発も当てる事が出来ずに殺しあって全滅した。










気がついた時には、狙撃手全員が撃ち殺しあっていて、全滅していたというありえない構図が広まっていた。

「…おい、これは何のマジックだ」

目の前の事態が信じられずに唖然とした野党達の中にあって、一番先に我に返ったリーダー格の男が、恐る恐る口を開いた。

「分かりません!!
 でも、狙撃手達が全員やられたっていうのは事実です!それも、今まで一人も同士討ちをした事のない者達がです!
 リーダー!もしかしたら俺達は、戦いを挑んではならない相手に戦いを挑んでしまったのかもしれません!!」

リーダー格の男の傍らに居た背の小さな男が、震える声で告げた。

「そんな事よりやつはどこへ行った!!」

「――言われなくとも、僕はここにいます」

男の叫びに対し、青年の声が聞こえた。

だが、いくら周りを見渡そうが、青年の姿を見つける事が出来ない。

男達が青年の姿を散策することおおよそ三秒。

ため息をついた青年は、淡々と答えを告げた。










「どこを見ているのですか…上ですよ」









次の瞬間、夜盗達全員が目を皿のようにして驚く羽目になった。

青年が―――足場も何も必要とせずに、文字通りに空を飛んでいた。











「―――空だとっ!!」

リーダー格の男が叫んだ。

目の前で起こった、人間の体の構造上有り得ない現象。

「バカな…翼も無いのに空を飛ぶなど有り得ねぇ!!」

「重力制御の能力でも所持しているのか!?」

「あんな能力の使い手、この世界に居たのか?」

「待て!Aクラスに値するほどの実力を持つ『騎士』ってのは、『自己領域』ってのが使えて、空に浮かぶ事が出来たとかどうとか!!」

「ぬぁんだと――!!」

野党達の口から出た言葉はさまざまだったが、その中には共通して、青年への畏怖ともいうべき思いが込められていた。

「いや待て、奴は『聖騎士』とか言っていたな。
 …なら話は早い!!野郎共、空に向かって銃を撃て!!
 『聖騎士』だかなんだか知らんが、名前からして『騎士』の系列の能力のはずだ!!
 『騎士』であるなら、空中では足場が無い限りは動けねぇ筈だ!!」

リーダーらしき男が、空にいる青年を見据えて、狙撃手達に正確な命令を下す。

流石はリーダーだけあって状況判断力は的確なようだ。そう、今の理論は正解である。

刹那、リーダーの合図と同時に無数の銃口が上を向き、ほぼ同時に撃ち鳴らされたトリガー音の多重奏と共に、空へと放たれる無数の銃弾。








「―――だから、無駄なんだと言っているでしょう!」









眼下を見据えて、青年はレイピアを構えなおした。











空。

それは、青年にとっての絶対的戦闘領域だ。

『自己領域』にはある程度の『重力制御』も含まれているために、空に留まり続けるのは不可能ではない。

だが基本的に、多くの騎士は空中戦には留まらず専ら地上戦を挑むのが殆どだ。

それは何故かというと、空中では足場が無いために自由に動けない為、場合によっては圧倒的に不利になってしまうからである。特に、空中に居る状態で三百六十度の隙の無い攻撃をされた場合など、騎士剣を嵐のように乱舞させて全ての攻撃を防ぐ―――それくらいしか選択肢が無い。

だが、その相手が人間ならば話が別だ。

人間は、何らかの乗り物などの力を借りなければ飛べない。故に、彼らは青年の『上』を取ることが出来ないし、青年の『自己領域』の範囲内に指一本侵入することすらままならない。

そうなれば、青年が注意を払うべき角度は、三百六十度からおおよそ百二十度くらいに下がる。そうなれば攻撃に対する迎撃は十二分に可能で、たとえ無数の銃弾であろうとも、それが一般世界の速度を超えたものでない限り、青年にとっては脅威とはなりえない。

まさしくもって、人間の視点から見れば『化け物』と形容するに相応しい能力。

だが、これが力だ。

青年が弱き者達を守り、強き者・悪しき者をくじく為に手に入れたであろう力。

…一応、あの中にも数人の魔法士は居るようだが、そいつらは青年に対して一切の攻撃をしてこない。

狙撃手の腕前に賭けているのか、空を飛べるほどの能力を所持していないのか―――は不明だが。

そして『自己領域』の中では、青年にとって最も都合のいい空間が展開される。

先ほどの三百六十度から襲い来る兆弾同様、眼下から襲いくる銃弾がとてつもなくスローモーションに見えるのだ。

そこに青年がレイピアの一撃を叩き込むことにより、銃弾は跳ね返る。跳ね返ってしまえば『自己領域』の領域を抜けて、銃弾は本来の速度を取り戻す。

ところで、地球には万有引力の働きがあり、上に投げたものは必ず下へと落っこちてくる。

それはスナイパーライフルから放たれた銃弾とて例外ではなく、加えて、青年は銃弾を全て弾き返したのだから、銃弾に込められたベクトルの方向は下方向へと『落ちる』わけである。

つまりがそういう事で、狙撃手が放った全ての銃弾は、そっくりそのまま戻ってきた。

「だああっ!!振ってくるんじゃねぇ!!」

「に…逃げろ―――!!!」

「うおおっ!!死にたくねぇ!!死にたくね…」

だが、狙撃手の行動も無駄に終わる。

ただの人間が圧倒的速度を用いて跳ね返された銃弾から逃げられるはずも無く、銃弾は夜盗達に対して正確に降り注いだ。

「あ!!」

「ぶごぁ!!」

降り注いだ銃弾が、夜盗達の半分近くの命を奪った。圧倒的速度を用いた銃弾に対して背中を向けていたために、殆どの銃弾は頭へと命中してしまった。夜盗達は体こそ特殊な防護スーツで守っていたが、頭までは防護していなかった。結果的に、それが生と死の分かれ目となった。

残りの数割は、逃げ惑う時に、空中から急降下して斬りつけた青年のレイピアによって心臓を一突きされて絶命し、その後も快進撃を続ける青年の一閃により次々と倒れていった。

その時に、青年の口から確かに聞こえた言葉は、「せめて、苦痛を伴わない安らかな死を」――だった。


















縦横無尽に空を、そして戦場を動き回る青年を見て、何故だ。と夜盗のリーダーは思った。

いくら『騎士』と言えども、空中で足場も無しに方向転換できるわけが無い。

そもそも、空を飛べる魔法士の種類は非常に限られる。情報の翼を具現化して、御伽噺のように空を飛ぶ『天使』がその最たる例だろう。『光使い』とやらも重力を制御して空を飛ぶ事が出来たらしいが、現存する『光使い』は世界にたった一人の『女』の筈だ。

となると残る選択肢は『天使』にしかならないのだが、それは有り得ない筈だ。

もし青年が『天使』であれば、飛行中に夜盗達の仲間を斬ったその時に、痛みがフィードバックされるはずである。

だが、青年にそんな様子は一切合財見られなかった。

あるいは、何らかの能力で『見えない空気の足場』を作って、それを蹴って逃げたという説が考えられる。

しかし、それも説としては厳しい。

青年の動きは確かに飛行のそれであり、『何かを蹴ってその反動で飛んだ』とは到底思えない軌道を画いて空を飛んでいたのだ。

…なら、後は何がある?

いや、それよりなにより、そもそも『聖騎士』とは一体何の能力なのか。という疑問が未だに解決されていない。

そう考えている間にも、断末魔の連鎖が耳に入ってくる。

男の部下達が次々と絶命していく断末魔だ。

一部に魔法士が混じっているとはいえ、頼みの綱のノイズメーカーが破壊された今、たかが人間の寄せ集めで青年に敵う訳がなかったと気づいた時には、既に全てが遅すぎたのだ。

魔法士達の攻撃をさらりと回避した青年が放つのは、一閃。

魔法士一人につき、まさに一撃必殺で仕留めている。

「…ありえん!!力が違いすぎる…!!」

また一閃。

「今宵の死闘は、なんと楽しいものか…最後に素晴らしき相手と戦えた…はは!!」

さらに一閃。

「これが『自己領域』の速度なのか!!
 ふ、『身体能力制御』程度しか使えぬ俺の相手ではなかった…」

加えて、雇った魔法士達も、それぞれの辞世の句を残して散っていく。

あの魔法士達は、戦いを生業とする傭兵達だった。

戦う事に快感を覚える戦闘狂で、基本となる能力は『騎士』だそうだ。

だから、それなりの実力もあるだろうと思って、懐に少々響く額で雇った。

だが、それも全ては無意味だった。

今回は完全に相手を間違えた。傭兵達はその能力を発揮する前に青年に瞬殺されてしまったのだから。

そもそも、相手が『自己領域』を持っている以上『身体能力制御』程度の能力しか使えない傭兵達では、最初から勝負の結果が見えていたのだ。

一応、『自己領域』で相手を攻撃する際には青年もまた『自己領域』を一瞬だけ解除しなくてはならないが、青年の『身体能力制御』での上昇値が有り得ないものであるらしく、傭兵の一人が『自己領域』を解除したであろう一瞬の隙を突いたとしても、返り討ちにあわされてしまった程なのだから。

総括すると、自分達が人間である以上は魔法士相手に戦えない。だから、常にターゲットは人間に絞ってきた。

だが、ここ最近あまりにも事がうまく進みすぎて、調子に乗りすぎていたのかもしれない。

最初は青年の事を、この御時世に単独行動する愚か者だと思った。

―――だが違った。愚か者は、自分達の方だった。

自分達如きが決して敵うはずの無い『魔法士』に喧嘩を売ってしまったのだ。

…否、もしかすると『相手は一人だ。なんとかなるだろ』という軽い考えも心のどこかにあったのかもしれない。












…だが、もう考えるのも馬鹿馬鹿しい事だ。

自分達は、道を誤ったのだから―――。












「お前が最後の一人か」

そして今、青年はリーダー格の男の目と鼻の先まで詰め寄っていた。

青年の背後には死屍累々の惨劇の後が残っているのみで、命の息吹など一つも存在していない。

リーダー格の男は直感で感じた―――自分はもう死ぬ、と。

だから、最後に言いたい事だけ言っておくことにした。

辞世の句を伝える相手が男では少々残念だが、何も言わずに、何も残さずにただのたれ死ぬよりは遥かにましだと思ったから。

「…ちっくしょぉ。
 なんで、なんでてめぇみたいな化け物がこんなとこうろついてるんだよ…。
 そんだけの力があれば、俺達と共にこの世界のクソ憎たらしいシティ尊重主義な世の中を変えられるかもしれねぇってのよ!!」

「ならば尚の事、お前達を許すわけにはいかない。
 それに、僕が掲げるのはシティ尊重主義ではない。シティに守る弱い人達に対する絶対的守護…と形容しましょうか」

「…へっ、何のかんの言って、所詮てめぇもシティの犬って事か…んじゃあわからんだろうよ。俺達みたいにシティに受け入れられなかった者達の気持ちなんてよ」

「…それは」

「それなのに、シティの奴らは俺達を悪党として扱う。
 シティのせいで滅んだプラント、その近くに作られた街、そして、殺された人間の数はもうどれくらいになるんだかな。
 てめぇも知ってんだろ。シティが、シティの電力を無断で借りている奴らに対し、制裁の名を借りて何をしてきたのかを」

「…確かにお前の言う事は間違っていない。
 シティの軍の上層部のせいで、数多くの命が費えた。そして、今のシティの体制に問題があるのも確かな事だ。
 しかし、だからといって、賊の道に走るものを、それでも、シティに反旗を翻す者を見逃すわけにはいかないのですよ」

「…は、言ってろや。
 このご時世に俺達にどういう生き方があったか、それを考えてみるんだな!
 殺す事で生きてこれた、その恵まれた環境化で生きてきたくせによ!!」

「ッ!!!」

リーダー格の男のその言葉で、青年の表情が険しくなった。

脳裏に思い出される、忌まわしい記憶。

戦場。

戦い。

赤い血。

一瞬の油断が死へと繋がる、疑いようの無い死地。

常時戦場、安息など無し。

そんな中、生きる為に、シティの為に、刃向かう『敵』達を殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して――――――。

「―――黙れっ!!
 何も知らない癖に、恵まれたなんて口にするなっ!!」

激高した青年は、叫ぶと同時に、自分でも気づかない内にレイピアを振りおろしていた。

その一撃は、男の胴体に斜めの赤い線を描く。

「は―――」という乾いた笑いと共に、男はその顔に嘲りの笑みを浮かべて絶命していった。







ひゅっ、とレイピアを振るい、こびりついた血を払いのける。

白銀の刀身では、血の赤はあまりにも目立ちすぎてしまう。

あらかじめ鞘に巻いてあった白いタオルで血を拭いた後、かちゃ、という音と共にレイピアが鞘へと仕舞われる。

「…本当に、これでいいのかな。
 彼らだって、なりたくてこうなったわけじゃなかったかもしれないのに…」

その口調は、先ほど激高したばかりの人物のものとは思えない。

怒りなど、とっくに収まっていた。

「…静かだな…ああ、僕が静かにさせてしまったんだったかな…どうして、こうなのか」

一人っきりになったこの場所で、青年は誰にともなく呟く。

それは己の行動に対するやるせなさか、それとも、この理不尽で残酷な世界に対する文句なのか―――。










『このご時世に俺達にどういう生き方があったか…』

『恵まれた環境化で…』

男達の言葉は、青年の耳に未だに残っていた。

一部の人間だけが幸せを掴む事が出来るという、公平という言葉の失われた世界。

人類最後の砦である筈のシティが、全ての人々を幸せにする筈のシティが、今では差別の壁を作り上げて、不幸な人を作ってしまっている。

平等という言葉など、飾り以外の何でもない。

不公平―――それが、この世界を一言で表せる言葉だ。

「…く」

両手の拳を握り締めて、青年は俯く。

同時に、目の前に転がす男達の亡骸を見て、

「…人として葬ってあげないと…彼らの命を奪ったのは、他ならないこの僕なんだから…」

近くに小さな建物を見つけて、血にぬれた男達の遺体を全て運んで積み上げて一箇所に纏める。

その後、積み上げられた遺体へとレイピアの切っ先を向けた。

(『白銀の聖光プライムスペクトル)』発動)

刹那、レイピアの切っ先から高温の熱量を持った光の矢が放たれ発火し、炎が男達の遺体を全て火葬し、骨だけを残した。

せめてもの、死者への手向けだった。










雪原に穴を開けて、青年は男達の遺骨を埋めた。

雪と土が混じったもので蓋をして、強化カーボンのプレートに騎士剣を用いて『Good-bye sad people』と彫り、杭を使って地面に固定した。

「…これで、僕がやった事が許されるわけじゃない。
 それでも、僕には進むしかない。止まってなんていられないんだ」

心の中に浮かんだ複雑な思いを口にすると、心の中が少しだけ楽になった。

無論、過ぎてしまった事がそれで変えられる訳なんてない。

だけど、独白でもいいから口に出しておかないと、心が耐えられない。

故に青年は、第三次世界大戦の時も、軍の元での任務を終えた時にも、青年は人のいない所で独白する事があった。それは決まって、命を殺めた時だった。









そして、いつまでもここに留まるわけにはいかない。

第三次世界大戦を生き延びた以上、やるべき事がきっとある。

生きているという事は、何かをしろという事だ。

ただそれだけを信じて、青年は歩き出した。













世界に六つしかないシティの、その中の一つへと向かって。

今の状態を実際に見て知る為にも、大戦中に知り合った旧友に会う為にも。







そして、かつてそこで青年は一人の少女と出会った。

家族を亡くして独りぼっちになってしまい、泣きはらしていた一人の少女。

その少女の姿を見た時、何故か手を指し伸ばさずにはいられなかった。

(…あの子は、今頃どうしているんだろう)

その事を考えると、自分でも知らない内に自然と歩みが速くなった。





















<To Be Contied………>













―【 お ま け の キ ャ ラ ト ー ク 】―












ゼイネスト
「さて、今回もまたこの時間がやってきたわけなんだが…今日は珍しくノーテュエルがいな…」

ノーテュエル
「ええいゼイネスト!この紋所が目に入らぬか―――っ!!












つ (´・ω・`)」

ゼイネスト
「…おい、なんだその紋所は。不覚にも笑ってしまっただろうが。
 そして突然に出てくるんじゃない」





ノーテュエル
「読み終わってからなんだけど、今回出てきた夜盗達の主な外見は、『北斗の拳』のモヒカンどもを参考にしてみるといいらしいわよ」

ゼイネスト
「…随分と唐突な暴露だな。
 そして、死に台詞がやたらと北斗の拳だったのはその為か」

ノーテュエル
「そうでなくても、普通は断末魔の叫びくらい上げるからね。
 …ただ、以前、作者は某Nさんに『WBにふさわしくない表現は避けて下さい』という注意も貰ったみたいなんだけど…」

ゼイネスト
「…今回の野党の断末魔はそれに入るんじゃないのか?」

ノーテュエル
「ま、殆どの人は、ここ見ない限りは断末魔の元ネタがなんだか分からないだろうからいいんじゃない?
 もし指摘貰ったら、修正版を出せばいいんだろうし」

ゼイネスト
「おいおい、それでいいのかよ…」

ノーテュエル
「だって、パソコン関係の大手企業だって修正パッチを出す世の中だし、某『星の海』の三作目に至っては発売元が初期ROMの回収を行ったくらいだからいいんじゃないの?」

ゼイネスト
「そういう問題かっ!!」





ゼイネスト
「んで、本編についてだが」

ノーテュエル
「…何か、今回は短かったわね。
 敢えて簡潔にしてみたのかな」

ゼイネスト
「ああ、そうかもしれん。
 だが、今回でついに『聖騎士』がそのベールを脱いだな。
 それにしても、今までに類を見ない能力だった。まさか、空を飛べるとは驚きだ」

ノーテュエル
「これで、告知した中で残る能力は『闇使い』だけか…。
 さてさて、んじゃ話し合いの時間って事で、誰か来ないかなー(ポチッ)」
















…し〜ん。















ゼイネスト
「…どうやら『ゲスト召還ボタン』は不調のようだな」

ノーテュエル
「むき〜!!なんで〜!!」

ゼイネスト
「お前が酷使するから疲れたんだろ」

ノーテュエル
「ボタンが意思と疲労を持ってるって事!?
 んじゃ仕方が無いわ。
 もういい!今回は終わりにしてやるぅ!!」

ゼイネスト
「何故にやけくそになってるんだ」

ノーテュエル
「だって〜、誰も来ないんだものー。
 もっと話そうよ〜。
 死んでからこっち、ここ以外で出番ないから退屈なのよ」

ゼイネスト
「(その唯一の出番で思いっきり活躍しているというのに…)
 ってもなぁ…ん?何だこの煙?」

ノーテュエル
「も、もしかしてゲスト召還ボタンの効果が遅れて発動したの!?
 さぁて、今回は誰が来てくれるのかしらっ!?」











ミリル
「こんにちは〜…って、あ、あなたは―――っ!!」










ゼイネスト
「…おい。
 お前の顔を見た途端、ミリルが毛布かぶって丸くなったのはどういうわけだ」

ノーテュエル
「あ〜、確か私、DTR時代に狂戦士になっちゃってこの子に暴力振るった記憶が…」

ゼイネスト
「おい、お前は何をしているんだ。ていうか暴力って何さらした!!」

ノーテュエル
「し、仕方が無いじゃないのよっ!!
 文句なら私じゃなくて『狂いし君への厄災』に言え―――っ!!
 あ、暴力ってのは純粋な暴力の事ね」

ミリル
「…で、でも、その件は一応解決はしたんですよね。
 だったら、結果よければ全てよしって事にしてもいいかな」

ゼイネスト
「…これは驚いた。
 あれほどの目に会わされたのにそう言えるなんて…君は随分と人がいいな」

ミリル
「うん、周りからは結構そう言われる」

ノーテュエル
「うんうん、いいこといいこと。
 …ていうか、ミリルちゃん、なんか本編と比べて口調が違ってない?
 以前はもっと内気な筈だった気がするけど?」

ミリル
「あ、それはきっと本編で自信がついたから今の発言も出来ると思うな。
 正直、前の私は、ここまで前向きじゃなかったから…」

ゼイネスト
「あー、それは…」

ノーテュエル
「…なんてコメントしたらいいのか…。
 ていうか、そう言うならいい加減に毛布から出てきなさいよー。
 毛布に隠れたままそういう発言されても、ちょっとばかり説得力に欠けるわよ」

ゼイネスト
「酷な事を言うな。それに、今のこの状態はお前が招いたものだから、いわば自業自得だろ」

ノーテュエル
「だから文句はああいう展開にした作者に言いなさいっての!!」









ミリル
「それで、何について話します?」

ノーテュエル
「…ん〜、と言っても、今回は話せるような事があまり無いような…」

ミリル
「…そうですか?
 私としては、シティに住めなかった夜盗さん達がちょっとだけ気の毒に思えました」

ゼイネスト
「まあ、言ってしまえば此れはある種の人種差別だからな。
 そして、あの夜盗のような者達を出してしまう。
 ――下らない。シティ上層部は一体何を考えているのだ」

ノーテュエル
「まあ、どこかの誰かさんのせいで、生きる為に必要なマザーコアがなくなっちゃっているから、受け入れ量が減るのは当然だと思うわけなんだけど」

ゼイネスト
「…一理あるな」

ミリル
「そう考えると、これからどうなっていっちゃうんでしょうね。この物語は」

ゼイネスト
「分からん…だが、これだけは言える」

ノーテュエル
「何よ?」

ゼイネスト
「―――色々な想いが、色々な信念が交錯して、新たな戦いと犠牲を生む…って事だ」

ノーテュエル
「……」

ミリル
「……」

ゼイネスト
「…だけど、ここでこんな事言っていても仕方がないな。
 大人しく続きを待つ―――俺らには、それくらいしか出来ない」

ノーテュエル
「お、いい事言うじゃん。
 んじゃ、そろそろ次回予告のお時間かな」

ミリル
「あ、じゃあ私が。
 次のお話は『未だに分からぬ事ばかり』でお送りいたします」

ノーテュエル
「んじゃね〜〜〜」


















<こっちもTo Be Contied〜>




















(あってもなくてもどうでもいいような)作者のあとがき>







えー、先ず最初に一言。
…この文章をHTML化した時、リアルタイムで風邪ひきました。
皆様もお気をつけくださいませ。


さてさて、やっと『聖騎士』が出せました。
ていうかこの青年は、私の物語で二人目の、一人称が『僕』であるキャラクターなんですよね。(一人目はワイス)
ていうか皆して『俺』『オレ』だからなぁ…。
でも、イルみたいに変に特徴付けをしてもなぁ…。


続いては、しばらく出番の無かったクラウ・イントルーダー組にスポットを当てます。
しかし、クラウはツンデレっぽく書いてるハズなのにツンデレにならないジレンマ^^;
なんとかならんのか。



ではでは、それではこの辺で。







○本作執筆中のお供
ポカリスェット・のど飴・病院の風邪薬(泣)







<作者様サイト>
Moonlight butterfly


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