FINAL JUDGMENT
―豪快な隊商―






















脳内時計が『午前七時三十七分』を告げ、早朝六時半頃から読書に励んでいた青年は、今まで読んでいた本にしおりを挟んで本をぱたんと閉じて、すくっと立ち上がった。

読書を開始してから一時間ほど経ったので、そろそろ朝食を作ろうと思いたったのだ。

台所へと向かい、フライパンやら何やらの調理器具を取り出し、朝食作成に入った。










机の上に置かれた本には『ユーモアのある日常会話』と記されていた。










【 + + + + + 】







朝食を終え、プラントによって温度の調整された建物―――正式名称を『街』という。

何時なくなるか分からない不安定な街に名前などつけて何になる―――という考えから、この『街』には名前なんて無い。

玄関から一歩外に出たら目の前に映るものは、ここ一週間全く変わらないくたびれた灰色の町並みだ。

バラックよりは遥かにマシな建物が乱雑に並び、昼間でもやや薄暗い大通りを、街灯の白々とした光が申し訳程度に照らしている。

何時ものように商店街へと向かい、これまた見慣れた街並みを歩いていると―――、












「おや、いつもお世話になってるあんたじゃない。
 なーに、まーたアルテナちゃんの顔でも見に来たの?」











…ここ数日間で聞きなれた声が耳に入り、青年は顔をしかめた。













―――時は2198年10月27日。
その日、青年―――デスヴィン・セルクシェンドが聞いた他人の第一声は、にやにや、と、ちょっと意地悪めいた笑みを浮かべた雑貨屋の店主、宇都宮恭子からの素敵なご挨拶だった。











「…だから、どうしてあなたは俺とあの子を勝手に結びつける。俺はあの子の事なんて何にも考えてないと言っているだろうに」

一つのため息と共にデスヴィンは告げる。

アルテナというのは、この雑貨屋の看板娘で、とある理由からゴスロリ服でお仕事をしている少女の事だ。

当然ながら男性達の目を釘付けにしているし、デスヴィンも最初にあの服を見た時は本当に驚いた。

で、それからこの雑貨屋の店主と知り合いになり、何故かアルテナの事で冷やかされるのが日課になりつつあった。

どうにもこの店主は、自分とアルテナに何らかの関係を求めているように思える。理由を問いただそうとしてもはぐらかされてしまう為に、明確な答えなど未だに掴めていない。

何より、こうも毎回店先で冷やかされては、いつか、周囲にも要らない誤解を招きかねないという懸念もあるのだ。主にストーカーとかいう類の連中に。下手すれば闇討ちもありえるだろう。

まあ、そうなったら返り討ちにしてやればいいだけの話なのだが。

「別に―。
 ただ、見た目朴念仁なヤツをからかうのが好きなだけ」

で、いつものように惚けた口調で恭子は言ってのける。

これは決してわざとではなく、この恭子という人物の人柄だと分かっているのだがどうしても慣れない。こういうタイプの人間と相性がよろしくないのかもしれないかもな、と、デスヴィンの脳裏に一つの疑問が浮かんだが、考えるだけ空しいので頭を振って考えを打ち消した。

「十分に理由として成り立っているぞ」

ある種の確信犯か、などの言葉を踏まえて激しくツッコみたいところだが、ツッコんだらツッコんだでその後に数倍の規模のしっぺ返しをされそうな予感がしたので、敢えてその程度で止めておいた。

見た感じでは恭子はれっきとした人間で、魔法士であるデスヴィンとは違い、外見年齢のままの人生を歩んできたはずだ。

こういう人のよさそうなタイプは、えてして外部からの攻撃を柔軟に受け流し、キッツイ仕返しをしてくるタイプが殆どだ。

恭子の実年齢は分からないし、性別上聞くのも戸惑われるが、少なくとも実年齢が十歳のデスヴィンでは、彼女に勝つのは色々な意味で不可能であろう。

そこまでの考えに至る事が出来たのは、たった三ヶ月とはいえ第三次世界大戦を生き延びた者としての勘の成せる業か、人間としての部分が発する警報なのかは―――デスヴィン本人にも分からない。

「…で、最初にアルテ…あの子がどうのこうの言っていたが、その当人が居ないのはどういう事だ」

今度はデスヴィンが、店先にいない少女の事を話に出す。

尚、先日の会話で、デスヴィンはアルテナの事を終始『君』と呼んでいた。

それに対してアルテナは自分の事を『デスヴィンさん』と呼んでくれた。

だが、この街に来たばかりのデスヴィンが、彼女の事を馴れ馴れしく名前呼び、或いはさん付けするのは躊躇われた為に、終始『君』と呼んでいたのだ。

で、デスヴィンのその発言を聞いた恭子は、目を細めて口元に手を当てて、

「む、今、アルテナちゃんの事を正式な名前で呼びかけたわね。これは怪しいわ…」

考え込むような仕草で、うーんうーんとわざとらしく考え込む恭子。

持ち前の鋭い観察眼の成せる業なのか、デスヴィンのうっかり発言を聞き逃さなかったようだ。

それを見たデスヴィンの表情に苦いものが走る。主に『しまった。この人にいい餌を与えてどうするんだ―――』といった感情、つまりは墓穴を掘ったという考えから。

「そういえば、この前はお休みの日で、あたしはずっと家にいてゴロゴロしてたのよね。
 で、アルテナちゃんにも会ってない訳だから、この二人が何らかの形で進展があってもなんら不思議じゃないし―――」

恭子は恭子で、ぶつぶつとなにやら呟いている。しかもその内容がいい感じに正解に近いのは気のせいではないだろう。

おそらくデスヴィンに対してカマをかけている―――と察知し、デスヴィンは敢えて店先にある雑貨に目を通すという行動によって対抗する。

と、そんな中、

「おはようございます」

恭子の背後から声がかかった。

全く違う行動をとっていた二人が同時に振り向くと、いつものゴスロリ服に身を包んだ十九、二十ほどの少女が立っていた。

手に持っているのは小さめのボストンバッグで、その容姿はすれ違う人が思わず振り向いてしまうほどの美人である。

無論、その少女は、二人にとって見覚えがある人物であるのは言うまでも無い。

「おーおー、来た来た。おはようアルテナちゃん」

と、恭子は言い、

「…と、おはよう」

と、デスヴィンが続いた。

「はい、二人ともおはようございます」

そして、もう一度挨拶を返してきた少女の名は―――アルテナ・ワールディ―ン。

「ちょうど良かったわ〜。今、アルテナちゃんの話をしてたのよ」

にやり、と意味ありげな笑みを浮かべる恭子。

「え?
 や、やだ…一体、何の話してたんですか?」

ぽっ、と少しばかり頬を赤らめながら、それでも何とか平静を保とうとする。

(…自分の話題だけで照れる?どういう事だ?)

そんなアルテナを見て、真っ先にデスヴィンが思った事がそれだった。

―――ここだけの話、長い事戦いに生きてきたデスヴィンには、そういった感情がいまいち理解できないのである。

が、そんな間にも恭子の話は続く。

「ううん、まだ何にも。
 ところでアルテナちゃん、昨日の休みはどうだった?」

「え?
 ええ、お陰で疲れが取れました。やっぱり、週休二日のローテーションは必要です」

と、アルテナは笑顔で答える。

その返答の内容には、少なくとも、昨日のデスヴィンの事には触れていない。

そう、昨日、デスヴィンはアルテナと共に街を回ったのだ。

その中で、この街の人々がここに居る経緯や、デスヴィンがここに来た経緯を、一部を改ざんしてアルテナに説明した。

さらに、アルテナがゴスロリ服を着る理由なども明らかになった。

I−ブレインを使えば、その言葉を一字一句間違えることなく思い出す事が出来る。

「で、この男とは何か進展でもあったの?」

…思い出そうとした矢先に、恭子がとんでもない事を口走ってくれた。

「えっ!?」

唐突な質問に、アルテナの反応が一瞬遅れた。

その不自然な『間』を逃さなかった恭子の顔に、例えて言うならば『人の弱みを握った時の顔』が浮かぶ。

「…やっぱり、何かあったワケね」

「え?ええ?ち、違いますって!」

「必死になって否定するところが怪しいわね〜」

「あ、あたしは普通に過ごしてましたよ」

「どうだかね〜。だって、アルテナちゃんの慌てようが普通じゃないんだもの」

「そ、そりゃいきなり進展がどうのこうのと言われたら、誰だって戸惑いますよ!!」

「ええ〜?普通は知らん顔すると思うけど」

「だって、それをやったら今度は『ムキになるところが怪しい』とか言われそうな気がするんだもの」

「あら鋭いわねー」

店先で妙な押し問答が展開される。

こういう時に下手に第三者が割り込むとただ事では済まないと分かっている為に、最初の方ではデスヴィンは完璧に傍観を決め込んでいた。

…だが、押し問答は一向に終わる兆しすら見せず、このままこの二人を放っておくわけにもいかなかったので、デスヴィンは助け船を出してみることにした。

ほぼ会話の中に割り込むような形で、デスヴィンは堂々と告げた。

「…そうだな。俺は昨日、この子と出会っていた」

「な―――っ!!」

「ええっ!?」

鶴の一声、とでも形容するべきか、恭子は目の色を変えて、アルテナは驚愕の表情のまま、デスヴィンの方を振り向いた。

「…ちょっとあんた、それ、冗談にもならないわよ」

「で、デスヴィンさんっ!!何言ってるんですか!!」

デスヴィンの予想と違い、冷静に事態を対処しようとする恭子。

どうやら恭子は『口より先に手が動く』タイプの人間ではないらしく、デスヴィンとしてはてっきり怒りをあらわにして掴みかかってくるかもしれないと思ったが、どうやらその心配は杞憂だったようだ。

で、アルテナはというと、デスヴィンの予想通りにわたわたと慌てふためいている。

「―――だが、その時に俺がした話は、おそらくあなたが予想しているものとは違うものだ。
 簡潔に言わせてもらうと、俺がここに来る事になった経緯といったところだな。
 話さなければいけないと思ったんだ。今となっては、俺もまたここの街の住民だからな」

そのまま淡々と事実を述べるデスヴィン。

来るなら来い、と思った。

嘘などついていないのだから、この後の質問攻めに対してもある程度なら対応できる…そんな自信が、デスヴィンの心の中に確かにあった。

「…まさか、冗談抜きで本当の事なのかい?」

「一片の嘘偽りも無く本当なの、恭子さん」

恭子の問いかけに対し、迷いの無い瞳でアルテナが口を開く。

「その時に、あたしも言いました。
 あたしが何の為に、こういう格好をしているのかっていう理由も話しました。
 だけどそれは、決して一時の気の迷いなんかじゃありません。
 全てはあたしの意思で行った事で、誰にも強要なんてされてません」

最初から最後まで、自信に満ちた声でアルテナは言い切った。

それは、彼女の意思の強さを如実に表しているようだった。

「…ふうん…それにしても」

「うおーっす」

…考え込むような仕草で言おうとした恭子の言葉は、背後から聞こえた声に中断させられた。
















デスヴィンが背後を振り向き、恭子とアルテナが声のした方に顔を向ける。

その先に見えたのは、デスヴィンにとってはついこの前に見たばかりの顔だった。

「よおっ、デスヴィンじゃねーか」

きらーん、と白い歯が光るほどの人なつっこい笑顔で、白い髪の少年は右手を振ってご挨拶をした。また、その隣には銀髪の少女が並んで歩いている。

ついでに、この前会ったばっかりなのにいきなり呼び捨てとはどういう事か、とも思ったが、敢えて聞かないでおく。

「…ここは日本の国だ。白人が何故ここに居る?まさかホームスティという奴か?」

…ここ数日間、独学で勉強して覚えた『冗談』とやらを早速使ってみる。今朝読んだ『ユーモアのある日常会話』という本の内容から抜粋したもので、早朝のちょっとした冗談に使えるとかどうとか。

朝一での勉強はやはり頭に入るようで、I−ブレインの補助など無くても十分に覚えていた。

「…あんた、いつそんな発言方法覚えたんだい?」

で、その事態を目の当たりにした恭子は唖然としてしまっている。

彼女は普段のデスヴィンに対し『クソ真面目な朴念仁』という認識を持っているという話は以前に聞いたことがあったので、今がチャンスだと思い、それが覆されるような事態を起こしてみた。その結果、恭子は案の定、今の状況を把握しきれないという状態に陥ったようだ。

因みにデスヴィンからしてみれば、普段からかわれているしっぺ返しという意味も含まれているのだけれど。

「人とうまくやるためには、ちょっとした冗談も言えたほうがいいって言ったのはあなただろ」

「いやまあそうなんだけどね…でも、いきなり言われるとやっぱりイメージが狂うわけよ」

「一体どんなイメージだ」

「んー、俺から言わせてもらえば…冗談でもマジギレしそうな馬鹿正直熱血漢」

横から白髪の少年が口を挟んだ。

「…たった一回会っただけで、随分と生意気な口を聞く奴だな…ブリード・レイジ」

「お、覚えてくれてたのか。嬉しい事で。
 つーか、俺がホームスティならデスヴィンもそうなるんじゃないのか?そっちだって如何見ても日本人じゃないだろ」

その笑顔を崩さないまま、先ほど言われた冗談への切り返しと共にやけに馴れ馴れしく絡んでくる。一週間と少し前くらいに焼き鳥の件でたった一回出会ったばかりだというのに、だ。

こういうタイプはえてして、良く言えば人なつこい、悪く言えば馴れ馴れしい―――という部類の人間に入る。

だが、ブリードのそれはどちらかと言うと前者の類に入るだろう。今こそおちゃらけているものの、その瞳の奥底には強い意思が垣間見られる。

そういう意思を持つ人間は、やる時には絶対に真面目になれる人間だという事を、様々な人間と出会い、そして別れを繰り返してきたデスヴィンはこれまでの人生で理解している。

が、今それを指摘した所で無意味であろうから、とりあえず皮肉を込めて返答しておく。

「そんな飄々とした性格の奴くらい、覚えるのは容易い」

「ひっでー。せめて『明るさを振りまく』とかにしてくれよ」

「…ブリード、いい加減にしなさいー」

ここに来て初めて、銀髪の少女が口を開いた。

気のせいかその口先がちょっと尖っている。どうやら、あまりにも馴れ馴れしいブリードの態度にちょっと辟易したらしい。

「ああ、御免、ミリル。ちょいと調子に乗りすぎたぜ」

先ほどまでの馴れ馴れしさから一変し、キリッとした真面目な表情に戻るブリード。

ミリルと呼ばれた少女はデスヴィンの方へと向きなおり、

「えーと、デスヴィン…さん、でいいの?」

「ああ、それでいい。
 それと、君の名前はミリル・リメイルドで正しかったかな?」

「はい!それで正解です!」

大きな声に『うれしい』という感情を込めた一声の後に、

「じゃあ改めて…ごめんなさいねデスヴィンさん。ブリードは普段はこんなお調子者じゃなくて、根はすっごく真面目な人なんですけど、ここ最近になってから、こういう傾向が目立つようになっちゃって…」

そう言って、ぺこり、と頭を下げるミリル。

「何、構いはしないさ」

「おっ、寛大だなぁ」

「…最も、度が過ぎなければ、の話だが」

ここに来て、ちょっとドスの効いた声を出したデスヴィン。

「おおっと、怖え怖え」

ブリードは後ずさり、見た目だけで怖がってみせる。その口の端に軽い笑みがあった事から、これも冗談なのだろうけど。

「…うーん、でも、あんたはこういう人と一緒に居たほうがいいんじゃないの?
 カタブツが治りそうな気がするしさ」

と、これは恭子の台詞。否、むしろ提案だろう。それもとんでもない方向性を含んだものだ。

「その前に精神が持ちそうに無い気がするぞ」

「あ、そうかも」

「ひでっ!!俺は精神崩壊剤かよ!!ってかミリルまでそう言うか!!」

返答するデスヴィン、苦笑するミリル、そして拳を振り上げるブリード。

というか精神安定剤ならともかく精神崩壊剤などという薬は聞いた事がない。強いて言うなら其れは寧ろ『麻薬』と言った方が正しいだろう。

「…ふっ…くすくす…」

「…!?」

そこに、小さな笑い声が訪れた。

見れば、今まで大人しく状況を見守ってただけのアルテナが、口元を押さえて小さく笑っていた。

「ど、どうしたんだ?いきなり笑い出して…」

怪訝な顔をするデスヴィンに対し、

「…ううん、デスヴィンさん、この一週間で随分と変わったなぁって思っただけ。
 前みたいな、何者も寄せ付けない雰囲気というようなものが無くなったみたい…」

小さく笑いながらも、アルテナは答えた。

「へぇ、デスヴィンがここに来たばっかりの頃は、どんだけのカタブツだったんだかなー。
 ちょっと見てみたくもなってくるぜ」

ちょいと意地悪な笑みを浮かべるブリード。

「…それはどうでもいいが、お前達…ここに何しに来たんだ?」

で、いい加減にこの流れを中断させるべく、デスヴィンはその言葉を言い放った。

「えーっと、買い物…ってブリード!!そういえば私達、買い物をしに来たんじゃないの!!
 こんなところで…え、えーと『まんざい』やってる場合じゃないよ―!」

デスヴィンの言葉で当初の目的を思い出したミリルがブリードを諭す。

「おおっといっけねぇ!!午前中には戻る予定だったんだっけか!
 今の時間は…『午前十時二分三十一秒』…って、結構ぎりぎりじゃねぇか!!」

「もう!こんなところで時間かけてるからー!
 最初は…えーと、油汚れ用のたわし!!」

「分かった!
 …あーっと、んじゃ、終わったらまた来るからな!首を洗わないで待ってろよ」

『首を洗わないで待っていろ』という言葉がどういう理屈だかは分からないが、兎にも角にもそう言い残した二人は本来の目的を果たすべく、近くにあった99円…もとい、税込み価格含めての『104円ショップ』へと向かっていった。

「…騒がしい奴らだ」

静かになった空気の中、デスヴィンはごちるように呟いた。

…もっとも、時間が時間だけに街にも喧騒が訪れてきたため、これが静かなのかと言われると、正直、返答に困るものがあるのだが。

「ここも雑貨屋なのにねぇ…それに、たわしくらい扱ってるんだけど」

むー、とちょっと不満ありげな顔で恭子が呟く。

「少しでも安く押さえようって思っているんじゃないのかな?」

そんな恭子をフォローするかのように、アルテナがその一言を付け加えた。










「…で、あんたの用事は?」

ブリード達が去ってから三十秒くらいが経過した時、恭子の話の矛先がデスヴィンに向いた。

「ん?ああ…。
 というか、今日、俺がこうなった理由はあなたが話しかけてきた事から始まったんだが」

「記憶に無いわね〜」

「いつまで惚けるつもりだ…まあいいか、今日は特に用事もないし、商売の邪魔をしては悪いから他を回ってみることにするよ。
 そろそろお客も来る頃だろうしな」

「あいよ〜。ご贔屓に〜」

至って能天気な恭子の返事。

「…あ、デスヴィンさん」

踵を返して一歩を踏み出そうとするデスヴィンを、アルテナが呼び止める。

「ん?どうした?」

「えーっと…今日は、また来てくれます?」

「まあ、気が向いたら…な」

「はい、是非ともよろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げるアルテナに別れを告げ、デスヴィンは気の向くままに歩き出した。

後ろから『ほんとに恋人同士みたいじゃ〜ん』『だから違います―っ』という声が聞こえたが、敢えて聞こえない振りをした。














【 + + + + + + + + 】













脳内時計が『午前十時二十五分五十一秒』を告げる。

街を歩くデスヴィンの隣に居たのは、先ほど出会った二人組みだった。
「…何故、俺の行く先々にはお前達が居る?」

「きっとこいつは腐れ縁って奴なんだよ。きっと」

デスヴィンの質問は、、ブリードにあっさりと流された。

「そんなもの、切れるなら切りたいところなんだが。
 …しかし、この前来たばかりだというのに、またここまで足を運んだのか?というか、お前達の住む街とやらは一体どこにあるんだ?」

「あー、それなんだが…ミリル、これ言っていいのか?」

「…なんで私に聞くんですか?」

「いや、一応な…俺の一存で決めれる事じゃねぇし」

「もう、いちいちそんな事で承諾を取らなくてもいいのに…」

「…んじゃ、言ってもいいか。
 俺達の住む街は、服飾や工業製品などの生産に関しては弱いのさ。
 んで、こっちに来ないとそういった類の物が手に入らないって訳。
 ああ、因みに言っておくと、俺の街の場合は確か、食料品の生産に多少は優れていたはずだな」

「成るほど、そんな事情があったのか…。
 しかし、よく頑張るものだな。
 結構近いとはいえ、それでも吹雪の中を横断するのは辛いと思うのだが…」

「…ええ。だけど、仕方がないの。
 私達の街じゃ売ってないものが、ここだと扱われている。それだけで十分な理由になります。
 それに今日は、ヴィド商会が来ているから」

「ヴィド商会?聞いた事の無い名前だな?」

「…あれ?デスヴィンはヴィド商会の事は知らないのか?
 だったら来てみろよ。リーダーのヴィドって人が結構面白いぞ」

「いや、面白い面白くないの問題ではなくてだな…」

「…ええと、ヴィド商会って言うのは一種のキャラバンですよ」

どう対応していいか分からなくなったデスヴィンに、ミリルがフォローを入れてくれた。

「それで、日本列島から西南アジア…」

「…違う、東南アジアだ」

「あう、間違えた…」

自信満々で説明を始めたものの、しょっぱなから間違えたところをブリードに指摘されて、見る見る間に落ち込むミリル。

「あー、やっちまった…」

後頭部をぽりぽり、とがむしゃらに掻きながら、ため息がちにブリードが呟く。

「…どういう事だ?」

「…ミリルの為にもあんまり深くは詮索して欲しくないんだけど…まああれだ。
 ミリルは自分の発言に対してミスや勘違いが多い事を非常に気にしやすいタイプなんだよ」

「成程な。お前と違ってデリケートという訳だ」

「…一言多いっての!!
 ―――ま、その続きは俺が言うから、ミリルもそう落ち込むなって」

「お願いします…」

先ほどと比べると明らかに元気が無い声だ。

すっかり気落ちしてしまった今のミリルの状態を諺で示すと『青菜に塩』が相応しいものだろう。

「あー、んじゃ続きと行くぞ。
 ヴィド商会ってのは、日本列島から東南アジア、東ユーラシア大陸の辺りを巡回している大規模な隊商のキャラバンだ。
 俺達やデスヴィンが住むような小さな街は世界のあっちこっちに存在するけど、一つ一つの街の生産力はばらばらで品目も安定していないのが現状なんだ。
 例えるなら、この街は服飾や工業製品などの生産に関しては強いが、肝心の、生きる為にもっとも必要な食料が殆ど生み出せないっていう弱点がある。つまり、他所からの助けが無けりゃ餓死しちまうってワケ。
 で、こことは逆に食糧生産に特化した街もあるんだが、そういうところだと逆に服飾や工業製品の類がてんでダメって事さ」

「…確かに、いくつもの街を歩んできたが、売られているものはまばらだったな。
 中にはアンティークドールなどを生み出すのに特化した街があったくらいだからな…で、つまるところ、その偏った生産能力の物流を繋ぐのがヴィド商会の役目…という事か」

「ご名答」

…一応、デスヴィンとて十年の時を生きてきたので、ブリードの言う事の大半などとうの昔に知っている。特に、街それぞれのお台所事情なんかは、だ。

だが、それを表に出すと余計な過去まで説明せざるを得なかったので、敢えて途中から納得するような形をとっていた…という訳だ。

どうせこの二人と一緒に居るのは一時だけだ。と思っているこの身、そこまで深入りするつもりは無い。

人との繋がりは確かに必要ではあるが、出会う人全てに己をさらけ出す必要などどこにも無いのだから。

だが、イルからの話により、ブリードとミリルが魔法士であるという事を、デスヴィンは知っている。それだけで、この二人に関しては一般の他人とは少し違う立場になるのだが…。

(だが、まだ早い)

脳内でそう結論付けを行い、イルの事については今のところは伏せておくことにした。

この二人の過去をデスヴィンが知るよしはないし、イル云々の話になると、この二人の過去の話に、如いては何らかの形で『これから』へともつれ込む可能性もあるかもしれない。

脳内ではそう考えながらも、口はきちんと動かす。

「で、そのヴィド商会ってのはどのくらいのペースでここに来るんだ?」

「んー、だいたい一ヶ月おきに訪れるらしいぜ。
 食料品の類を売りさばいて、服飾や工業製品を買い上げて、またどっかの街へと旅立つとかな…とまあ、そういうわけだ」

「…で、そのヴィドさんって人は、白人の大柄な人なんですけど、とても人懐こいのですよ。ブリード以上に」

何とか落ち込み状態から回復したミリルが、横から割り込む形で口を開いた。

「最後だけ余計だっ!」

素早く反応するブリード。どうやら、人懐こさでヴィドとやらと比べられるのは嫌らしい。

「きゃー、ブリードが怒ったー」

「このっ、待てっ!」

さっきまでの真面目な話をしていた時の雰囲気はどこへやら、おふざけをいり交えて、二人が追いかけっこを始めた。

話が脱線したのは問題だが、それよりも、つかず離れずのペースで追いかけっこをする二人の姿を見て、デスヴィンの顔に苦笑が浮かんだ。

年相応なその行動は、既に大人となってしまったデスヴィンには二度と得られないものだから。













「…で、これがヴィド商会か」

おふざけをやめたブリードとミリルに案内されて、デスヴィンは町外れの広場の入り口に向かう事になった。

五十メートル四方ほどの空間には、小さな家ほどの大きさのコンテナが規則正しく並べられて簡易的な商店街を形成し、その隙間を縫うように建てられた屋台には鮭や肉の匂いにつられた客が、昼間からたむろしている。

臨時の市とはいえ、その盛り上がりは凄かった。

最前列は食料を買いあさる人達でたちまちのうちに埋まってしまい、後から来た者が立ちいれる隙間など無いに等しい。

まさに、ただならぬ娯楽に町中が沸き立っているようだった。

「…ま、そういう事だ。
 んで、俺達は買い物をするけどよ、デスヴィンはどうするんだ?」

「どうすると言われてもな…」

うーん、と考えようとすると、

「あ!ちょっと!!そこのあんた!!」

…後ろからいきなり呼び止められた。

振り向いた先に居たのは、やはりというかなんというか、最早説明する必要すらない、雑貨屋の店主だった。

手を上下に振って『来い』のジェスチャーを送っている。

「…とりあえず、向かうしかないな」

「ああ、逝ってこい」

「行ってらっしゃいませ」

「ブリード、お前今、絶対に違う意味で言っただろう」

「うおっと、バレちまったか…ちょっとした出来心で言ってみたかっただけなんだ」

「全く…まあいい、それじゃあな」

「はい、頑張ってきてください」

後頭部に手を当てて苦笑するブリードと、至って普通な笑顔を見せたミリルに見送られ、デスヴィンは早足で雑貨屋の主のいる方向へと向かっていった。













デスヴィンが到着してから数十分が経過。

雑貨屋の中にある客間では、雑貨屋の主人によるトークが繰り出されていた。

「…とまあ、そういう訳なのよヴィドさん」

この一ヶ月のてん末を話し終えた恭子は、コップに注いだ水を一口飲んだ。それほどの長話ではなかったので、その水にまだ十分な冷たさは残っている。

「おやおや、相変わらず楽しい事で」

ヴィドの節くれ立った指がコップを掴む。

「それにしても、ここは何時来ても賑わっているな。先ほど寄った街とは偉い違いだ」

「希望を失ったら終わりだからね。例え未来が見えなくても、顔まで暗くするわけにはいかないって事」

神妙な顔つきで恭子は告げる。

「ま、心理だな。
 ところで恭子さんよ、見慣れない顔が居るみたいだが、この街の新入りか?」

コップの水を飲み干して、先ほどから黙って椅子に腰掛けている男の方へと視線を向けるヴィド。

「そう、最近ここに越してきたデスヴィンって男。
 朴念仁だけど根はいい男みたいよ」

「……」

「ちょっと―、何か言ったら?」

不満を含んだ恭子の声を聞いてもデスヴィンは一言も喋らない。

しかし脳内では恭子をぎゃふんと言わせる事が出来る答えを探している。考え無しに迂闊な事を喋ったら負けだと今までの経験が告げているからだ。

尚、恭子の話の内容は『何月何日に○○があった〜』といった感じのものが箇条書きのように説明されたものだった。

「デスヴィンさん。恭子おばさんとしては一応褒めているんだと思いますよ」

「…そうか」

いつものゴスロリ服でお水のお代わりを持ってきたアルテナがそう付け足すと、デスヴィンはやっと口を開いた。

恭子と違ってアルテナに対してなら素直に答える事が出来るという事は、他ならぬデスヴィンが一番良く知っている。というより、理由は分からないが、何故か彼女の問いに対してスルーする事を、心の奥底で無意識のうちに否定している自分がいるのだ。

で、ここに来て初めてデスヴィンが口を開いた事に対し、面白くないのが一名ほど居るわけである。

「むか。
 なーんであたしだと無反応で、アルテナちゃんだと反応するのよ」

「んー、まあ確かに、反応するならこういう可愛い子の声に反応したいよなぁ。男としてよ」

「ヴィドさんまでそう言うか―――!!」

拳を振り上げ、が―――っ、と口を開けて立ち上がる恭子。

「…か、可愛い女の子って…そんな冗談…」

で、ヴィドのいきなりの発言に顔を真っ赤にしてしまったアルテナは、もごもごとした発音になってしまったものの何とかそこまで言い切った。

「…まんざら冗談でもないと思うが」

そこに、何の意図も無く素直な発言を繰り出すデスヴィン。

「―――っ!!
 お、お水はここに置いておくからっ!!」

かたん!!という音と共に木製のお盆をテーブルの上に置いたアルテナは、そのまま台所のある方向へと走り去ってしまった。

デスヴィンの発言と同時に刹那的にアルテナの顔色が急に赤くなったのだが、デスヴィンにはその理由が分からず考え込んでしまう。

「…おい、そこの色魔」

アルテナが去ってからたっぷり五秒が経過したその時、ヴィドがそんな言葉を口にした。

「誰が色魔だ」

デスヴィンとしては不本意な言われ方なので反論しておく。

「…あんた、女殺しの才能あるわよ」

「あなたまでそう言うか…しかし、今の言葉には本当に他意など無かったのだが…」

「……」

「……」

そんなデスヴィンの発言に、二人はため息をついて黙りこくってしまった。

「…俺が、何かしたか?」

頭に疑問符を浮かべるデスヴィン。

「…いや、この調子だと…ううん、何でもないわ」

テーブルにうなだれた恭子は、その姿勢のままそう発言した。

「…ははは、まあアレだ。お前さん、もうちょっと女心に詳しくなれ…。
 さて、アルテナちゃんがあっちに行っちゃったから…さっきから話そうと思った事を話すにはいい機会かな」

『さっきから〜』のところで真摯な口調になるヴィド。

「ん?どうしたのよヴィドさん」

「…ちょいとよろしくない噂を聞いたんだ。それも恭子さん、あんたが無視できないほどの」

「…穏やかじゃないわね。続けてよ」

少しずつだが険悪な空気が流れ込んでくるのを、恭子とデスヴィンは察知した。

「あの看板娘…アルテナちゃんか。
 実はあの子には隠れたファンが居るらしいが、そいつの行動はファンの域をとうに越したものになってしまってるらしい。
 この前、物陰で煙草を吸いながらも常に雑貨屋の方を…詳しくはアルテナちゃんの方ばかりを見ていた人物が居たみたいなんだ」

「何だって!?通報か何か無かったのかい!?」

ヴィドの発言に、血相を変えて恭子が叫ぶ。

今のヴィドの話が本当ならば、それは所謂ストーカーという人種で間違いないだろう。

「いや、それがな。
 そいつはその日以外には目撃されなかったから、そのまま何らかの偶然か、可愛い子の顔を見ながら煙草を吸いたかったのだろうってところで止まっちまったんだ。現行犯でもない奴を逮捕なんて出来ないわけだしな」

「待ってヴィドさん。あんた、どこからそんな情報を得たわけ?」

問い詰める恭子に対し、ヴィドは、ふぅ、とため息を一つ漏らした後に、

「…実はな。それの第一発見者が俺なんだよ。
 で、とりあえずそいつの似顔絵を何とか描いて、99円ショップの店長に渡したんだ。『こいつに見覚えないか?』って」

「あー、そういやヴィドさん、あそこの店長とも親しいしねぇ」

「で、ついさっき聞いてみたんだが、どうにもそんな奴は見当たらなかったらしい。あいつがこんな事で嘘をつくはずが無いしな…
 因みに、男は全身を肌色のマントで覆っていたから、顔がよく見えなかったんだよな。
 だが、あの身長と、少しだけだが見えた顔の形は、間違いなく男の筈だと俺は思う」

無精髭でざらざらの顎を撫でながら、ヴィドはううーん、と唸る。

『あいつ』というのは、99円ショップの店長の事だろう。

だが、そこで一つの疑問を覚えたデスヴィンは、少しの『間』を置いてから疑問を口にした。

「…そうだな、その店長の言うことは信じていいだろう」

「んお?何でよ?」

恭子は顔を上げて、肯定の意見を出したデスヴィンの方を振り向く。

「俺が見た限り、そして、実際に買い物をしてみた感じではあの店長は所謂『いい人』だ。とてもそういう事をするとは考えがたい。
 何より、99円ショップはここから近いし、アルテナの顔を見るだけならば、わざわざそんな事をする必要は無い…そうだろ」

その意見は、ここに来てからのデスヴィンの経験により裏づけされている。

99円ショップの店員である眞人(まさと)は、外見年齢はまだ三十以下といったところだが、非常に正義感が強い男で知られているからだ。

「…ん、まあな」

デスヴィンの発言に納得の意を示すヴィド。

「…じゃあ、これからどうするのさ。
 そういう奴が居たって事は、少なからずともまた同じような事が起こらないとも限らないんだよ」

と、これは恭子の台詞。

「…しばらく様子を見るしかあるまい。迂闊な行動はそいつを刺激しかねないからな」

続いてデスヴィンがそう告げて、

「…ま、犯人が特定できない以上、それしか手段が無いんだよなぁ。
 怪しい奴が居たら、次に俺達が出会うまでに覚えておくって事にしとこうな」

ヴィドが下した結論により、この話は一旦終わりを告げた。











会話が終わって部屋の中が静まってからたっぷり三秒が経過した時に、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。

「失礼しますね」

その声が誰のものなのかは、もう説明の必要も無いだろう。

「いいよー」

恭子の能天気な返事の後に、がちゃ、と扉が開かれる。

その手には、お盆といくつかの茶菓子が乗っていた。

「えーと、お菓子持ってきましたけど…」

その声には、さっきまでの慌てふためいた様子は無い。おそらく、しばらく間を空けた事で落ち着けたのだろう。

「お、ありがとね。
 あ、今日は半日で終わりって事にしておくから、もうあがってもいいよー」

「え?そうなの?」

恭子の突然の発言に、きょとんとして

「おや、珍しいなぁ。土曜日でもないのによ」

「ヴィドさんとこの商会が来てたら、ウチの商品が売れないのなんて分かってんでしょーに」

「はは、そう言われるとなんか俺が余計な事しているみたいに聞こえるけどな」

「…でも、ヴィドさん達が来ないとこの街は続かないからね。感謝してるよ」

「はい、その通りです…それでは、あたしはこれで…」

「おっ、もう行っちゃうのか、おじさん残念だなぁ」

「ヴィドさん、似合わない猫の皮を被らないの。あたしの目算でおおよそ五千枚くらい」

「…多すぎだろ」

「あの、そこで冷静にツッコんでどうするんですか。恭子さんの発言はどう見ても冗談ですよ」

「…む」

「だからあんたは朴念仁なのだぁ!!」

「言ってろ」

「とか言いながら、ほんとは悔しいくせに〜」

あくまで冷めた反応に徹するデスヴィンを、挑発的な口調でからかう恭子。

ヴィドはその様子をただ傍観している。余計な事に首を突っ込むと、自分にまで被害を被る事を分かっているからだ。

「…えっと、楽しい所申し訳ないけど、あたし、そろそろ上がりますね。
 ちょっと、帰ってから洗濯物を干さないといけない事を思い出したので…」

「あ、なら良かったじゃないの。気をつけてね〜」

「ううーん…じゃあ、一ヵ月後にまた会おうじゃないか」

「それじゃあ、また明日」

「はい、では、また会いましょう」

三者三様の挨拶に対し、アルテナは笑顔で別れの挨拶を告げて、裏口から帰っていった。











「…ところでヴィドさん、そろそろ午後の商売を始めるころじゃないの?」

恭子のその言葉に、ヴィドは左腕に巻かれた腕時計を見やり、

「おっと、忘れちまう所だったぜ。そいじゃ、俺はそろそろあっちに戻るぜ」

ヴィドが椅子から立ち上がり、部屋の近くにある勝手口から歩いて出て行った。

横に広いヴィドの体が扉のフレームに引っかかって一瞬出れなくなりそうだったが、ヴィドは器用に身体を動かして無傷での脱出を図った。

ヴィドが居なくなり、部屋にはデスヴィンと恭子の二人が残される。

「…俺も、そろそろ帰るか。
 ブリードやミリルも、そろそろ買い物を終えている頃だろうしな」

「…なんだかんだ言ってあたしから逃げる為の口実を探しているようにも見えるけど、まあいいわ。
 んじゃ、そろそろあたしも久々に部屋の中を片付け…お?」

何かに気づいた恭子が、途中で言葉を止める。

その視線は、テーブルの上に置かれた小包に注がれている。

恭子はすたすたと歩いて右手でその小包を手に取り、空いたほうの左手でぺしん、と額を叩いて、

「ありゃいけない。
 アルテナちゃんにこれを渡すの、すっかり忘れてたわ。
 ちょうどいいわ。ちょっとあんた、アルテナちゃんにこれ届けてきてくれない?」

そう言って、振り向いた恭子は手にした小包をデスヴィンに手渡した。

「…先に聞くが、もしかして断っても断らせないつもりか?」

「ん〜、正解」

「まあ、はなから断る理由もないし、俺が届けてくる」

「それだけ〜?アルテナちゃんに会えるからじゃないの〜?」

「ち、違う!」

「ムキになるのがすっごく怪しい」

「…と、とりあえず、届けてくるからな!!」

ぷい、とそっぽを向いた後につかつかと早足で歩きながら、デスヴィンは勝手口から外へと出た。













デスヴィンが去ったのを確認してから、溜息と共に椅子に腰掛けた恭子は、ただ一言だけ呟いた。

「…素直じゃないねぇ。
 だけど、いい方向に向かっているみたいだし…この調子なら、あの話をしても大丈夫かな」






























<To Be Contied………>















―【 おまけどころじゃない存在感になっちゃってるらしいキャラトーク 】―










ノーテュエル
「先生!!ここだけの話、デスヴィンが鈍すぎる気がします!!」

ゼイネスト
「いきなり核心を突くな。何事かと思っただろ」













ノーテュエル
「さぁーてさてさて、今日は何を話そうか?」

ゼイネスト
「本家キャラがやっと出てきた件について、ってところか?」

ノーテュエル
「あー、そういえばやっとまともに出てきたわよね。
 ってか、それがヴィドさんなのはどういう事なのかと思うけど」

ゼイネスト
「まあ、隊商って事は色んなところで面識があるだろうからな。
 恭子達と知り合っていたとしても不思議はあるまい」

ノーテュエル
「…しかし、やっと本家とのまともな絡みが出てくるなんてね。
 この物語はどこへ行ってるんだか…間違いなく迷走してるわよね」

ゼイネスト
「作者としても引っ込みがつかなくなったようだからな。やれるところまでやってやるって感じだろう」

ノーテュエル
「自業自得って言ったらそれまでかしら」

ゼイネスト
「頼むから、少しは言葉を選んでやれ」

ノーテュエル
「まあ、締め切りなんてものも無いんだし、地道に待ってあげましょうか。
 …つーわけで」

ゼイネスト
(また『ゲスト召還ボタン』か…)

ノーテュエル
「今日はもう寝るわ」

ゼイネスト
「な、なんだって――!!」

ノーテュエル
「…ゼイネスト、それはひょっとしてギャグで言ってるのかしら?」

ゼイネスト
「いや、お前がここまで大人しいと逆に怪しいというか心配する。
 というか、お前まさかノーテュエルの皮を被った偽者じゃあるまいな?」

ノーテュエル
「ざーんねん。私はれっきとした本物よ。
 ここだけとはいえ、出ずっぱりってのも結構きついわ。
 たまには休んでもいいじゃない」

ゼイネスト
「間違ってないけどな」

ノーテュエル
「んじゃ、おやすみ〜。
 あ、落書きと夜這いは断固として断っておくからその心算でね」

ゼイネスト
「はなからその心算もない」

ノーテュエル
「あんたらしい答えをありがとう」







ゼイネスト
「俺も寝るか…普段の疲れは取れるときに取っておきたいからな。
 あ、次回は『剥がれた一つの事実』なので、其処の所をよろしくお願いしたい」























<こっちもTo Be Contied〜>




















(あってもなくてもどうでもいいような)作者のあとがき>





えーと、今回の話もツッコミどころは多いんだろうけど、
キャラトーク要員が疲れちゃったらしいので私が解説しますか。
酷使しすぎた悪寒^^;


今回、ブリード達との再会をやってみたかったんですよ。
朴念仁とお調子者のでこぼこって感じで。
で、それをフォローする周りの人達の事も忘れない。
ミリルとアルテナは似てるようで違うキャラですし…作者の力量不足のせいで分かりづらいかもしれませんが。


さてさて、ヴィドさんが見たストーカーもどきは本当に居るのか!?
それは…多分その内に明かされます。
しかし、この調子だと本家はいつ出てくるのやら…。
計画性が無さ過ぎだろ私。
いや、絶対に出しますけどね。全部とはいかなくても


あ、そういえばここだけの話。
デスヴィンってキャラは、実は私が十四歳の頃に生まれて初めて考えたキャラだったり。
そして今、八年の時を経て物語で動かせてるという…人生ってどうなるか分からないなぁ。



…この文を書いてる今、作者もちょいとした疲労の為に言ってる事が少々おかしいかもしれません。
けど、それではこれで失礼いたします。





○本作執筆中のBGM
『Northern Lights』







<作者様サイト>
Moonlight butterfly


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