白紅の花
2184年2月14日08:00 日本で言うヴァレンタイン。日本では女の子たちが勇気を出す日。 そして男の子たちは喜んだり悲しんだりする日である。 しかし、この日が元々聖ウァレンティヌスが殉職した日であると知る者も、 ましてやこの話、ローマ教会が異教徒の排除しつつ祝日等の変更による混乱を起こさないための創作であるという説までであることを知る人は少ない。 ちなみにチョコレートを渡すのは日本のチョコレート会社が言い出した日本の風習である。
“ピンポーン” 「はい、どちらさまでしょう」 「シュルツです。ジュリアはいますか」 「あっシュルツ兄ちゃんだ」 「え、ダイアンちょっと待ちなさい」 そんなこと言われたくらいで止まる子供はいない。当たり前のようにドアを開ける。 「お兄ちゃん。おはよう」 「おう。ダイアンか、朝から元気だな」 「そうでもないよ。ちょっと寒い」 「それは部屋着のままだからだろ。これでも着てろ」 自分のコートを渡す。 「うわー、大きい」 コートの下部分が地面に付きそうなくらいである。 「もう、ダイアンそのままで出ない。外は寒いよ。ってそのコートは?」 「お兄ちゃんから借りた」 「え、それじゃぁシュルツが寒いじゃない。早くこれ着て」 「いや、ジュリアそこでダイアンの物を渡されても。小さすぎる」 「お姉ちゃん、変なの」 「え、あれ、そうよね。何してるのかしら」 ジュリアは顔を赤くしながら自分が持っている上着をダイアンに渡し、ダイアンはコートをシュルツに返した。 「そういえば、親御さんは?挨拶しときたかったんだけど」 「ああ、両親は早く帰りたいからって。就業開始時刻を早めたんだって。家に帰った時にはもう居るかもしれないけど」 「それなら、その時に挨拶しようかな」 「そういえば。母さんが夕食いっしょにどうって言ってたけど」 「今日はちょっと。姉さんが帰ってくるみたいで、だから家族で食べに行くことになっていて」 「え、シェリル姉さん帰ってくるの?会えるかな」 「あー、多分明日は日曜だし、教会にいくと思うからその時なら」 「やった。かなり久しぶりだよね。去年は帰ってこられなかったみたいだし。」 「そうだね、俺も最後に会ったのはいつだろう?でも、来年には戻ってこられるらしいよ。本部勤務が終わって、こちらに帰ってくるらしいから。義兄さんはまた格差がって嘆いてた。」 「もうこのままやめて主夫になっちゃえばいいのにね」 「そうもいかないみたいだよ。なんか義兄さん、新しい使い方を見つけたんだって。えーと、なんだっけ、あの、かなり話題になった理論」 「情報制御理論?」 「そうそれ、それで空間制御の研究をしてるって言ってた。」 「そういえば、父さんたちもそんなこと言ってた気がする。」 「あのぅ、お姉ちゃんたち。もうすぐバスの時間だよ」 「え、やば。荷物ある?走るよ」 「大丈夫準備は出来ている」 バス停まで走る。
先に着くのはジュリア、シュルツは後から追いつく。 どうにか間に合ったようだ。ジュリアがバスを止めてもらっている。 「シュルツ荷物ありがとう」 「おう、よかった間に合って」 「そうだね。二人ともが荷物持っていたら、間に合って無かったかも」 「俺もそう思う」 バスは山を下りて近くの町まで着く。ビルが乱立しているせいか、ビル風が強い。 「うわ。サムーい。風も強いし」 「そうだな、しかも曇り空だし。どうせなら雪とか降ってくれねぇかな」 「まぁ、そういっても大気制御衛星があるから、天気は決まっているんだけどね。いつもはありがたいけどこういう時はロマンが無いわ」 「確かにって、そういえば今日マフラーは?お気に入りだった。椿のやつ」 「ああ、あれ。昨日女の子に会ってね。アリアちゃんって言うんだけど、寒そうな格好していたから、あげちゃった」 「あげちゃったって。またかよ。でも椿のマフラーだけはあげたこと無かったじゃん。」 「そうなんだけど。本当に寒そうな格好だったから。だって、マフラーも手袋も、コートでさえ着ていなかったんだよ。でも私その時2つ持っていたのが手袋しかなくてさ。いくらなんでもコートをあげるわけにはいかないし」 「普通、手袋でさえ二つ持っているやつはいないだろ。でもそのアリアちゃんだっけ、よくそんな格好で寒くないな」 「手袋は元々ダイアンのために買ったやつなんだけどね。あと、そういわれてみると、アリアちゃんに近づいたときなんか暖かかったような」 「ただの偶然だろう、どっかの家からの暖気とか」 「まぁ、多分そんなことだと思うよ」 「まずは買い物に行こうか。マフラー、新しいの買ってやるよ」 「ラッキー」
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「なんでこんなに荷物があるんだ。今日は買い物の予定はあってもこんなに多くなかったはずじゃ」 「そんな事言ったって。楽しみにしてた映画が、まさか映画館が改装中だったなんて。この気持ちは買い物でもして気を晴らさないと」 「それでもこれは多いだろう。っていうか買い始めたときから俺に持たせる気満々だったし」 「そういうこと言わない。男の子は女の子のために、荷物を持つ。これは世界共通」 「その理屈、絶対おかしい」 「でも、いろいろ言っていても最終的には持ってくれるのでしょ」 「まぁ、そうだけど」 「あれ、雪。雪が振ってるよ。シュルツ」 「んなわけ無いだろ。今日の予定は…。うそ、降ってる」 「明日には積もるかな?」 「どうだろう?でも、この量なら積もるかもな。おっと降りる場所だ。行くよ」
“ピンポーン” 「どちらさん?」 「あ、ダイアン。私、ジュリアだけど開けてくれる?」 「お姉ちゃんだ」 “ガチャ” 「お帰り、どうだった?お姉ちゃん」 「どうもこうも無いわよ。映画館、改装中でやってなかったのよ。もう信じられない」 「あ、だからあんな状況なんだ」 シュルツがいっぱい荷物を持っているところを見る。 「俺のほうは気にしなくていいぞ」 「そういえば、親は?連絡来た?」 「ううん、もうあってもいいくらいの時間なんだけど。遅くなるのかな?」 「みたいよ、どうするシュルツ」 「シュルツ兄ちゃん、遊ぼうよ」 「うーん、そうしたいのは山々なんだけどね」 時計を見る 「今日は、無理そうだな。明日、お祈りの後で遊んでやるよ」 「やったー」 「いいの?」 「あー、これだけの荷物、持たされるよりわな」 「ごめん」 「そういうわけで。また明日な」 「うん。またね」 「じゃぁね〜」
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「ザビアロワ少尉、作戦は確認したか?」 「うん、ばっちりだよ。お母さん」 「おい。任務中は大佐と呼べ。少尉」 「すみませんでした。大佐。」 「分かればよろしい。では気をつけてな」 「はい」 今回、ザビアロワの任務はある研究所の研究データを奪取し破壊することである。この研究所はザビアロフの所属する組織『錬金術の庭』に敵対しているシティの研究所であり情報制御理論の研究をしている。 “うーん、どうしようかな。普通に入ろうとしても不審者に見られるし。この広々とした場所じゃ見つからないように近づくのは無理だし。” 何か案は無いだろうかと空を仰ぎ見る。 “はぁ〜、空も自分の心のように曇り空。もっと晴れて入れば元気になるのに” 「あ、そうか」 自分の妙案につい声を出してしまう。 「この曇り空を雪に変えて、吹雪にしちゃえばいいんだ」 天才だ、と感じながら。準備を始める。これだけ雲があれば後は、これらを冷やして降らす。「そんじゃ、いきますか」 正面玄関から入る。“この研究所、窓がどこにも無い。何を研究している所何だろう?まぁ、まずはメインコンピューターの場所を探さないと” 有機コードで直接I−ブレインにつなげる。パスワードを要求される。これを情報の海から検索をかける。多分これだ。よし、開いた。地図は、これだな。それじゃぁコピーしてっと。後はこの地図と情報の海からの人間の情報を重ね合わせる。これから考えてこの道で動けば人に会わずにメインコンピューターまでいけそうだ。 ちょっと、回り道になったがどうにかメインコンピューターまでたどり着く。よし、もう一度有機コードをつなげて必要そうな研究データをコピーする。グループごとにパスワードを要求される。かなり時間がかかりそうだ。誰も来なければいいんだけど。 コピーが終わるまでに1時間もかかった。しかし、どうにか人が来るまでに終わらせる。もう戻らないと。時限式の爆弾を取り付ける。部屋から出てもと来た道と違う道を通る。こちら側からのほうが今は人が少ない。よしもう少し、この角を右に曲がったら。 “えっ”人が扉も何も無いところから出てくる。このまま通るわけにはいかないな。一度引き返す。やばい、後ろからも、このままだとはさみうちになる。うーん、隠れるところ。どこかに。あっ、見つけた。 「よぅ、お前か、なんかへんな物音がしたから、何か起こったのかと思ったよ」 「あ、すまねぇ。荷物落としちまってよ。」 「気をつけろよ、じゃぁな」 “フゥー、危なかった。ここに通気口があってよかった。他には人が通りそうにもないし今のうちに外に出ておこう” さっき、急に人が出てきたところを確認してみる。しかしただの壁であり人が出入りできるようなところは無かった。 “どうしてだろう、コンピューターが多くて情報の海に乱れがでたのかな。まぁいいか、爆発する前に外に出とかないと。” その後はどうにか人にも会わず、外に出ることができた。 ていうか、未だに雪降ってるし。天気も暇だね。 よいしょっと。ここまでこればつかまることも無いだろう。状況を確認したらあの町に戻ろう。爆発が起きれば情報の海から分かるし。情報制御理論の研究室でも今だに情報の海に対する備えをしていないからすぐに分かって楽だよね。訓練だと基本的に妨害されているから見づらくて。おっと、後もう少しで爆発だ。“5、4、3、2、1、0” ‘ドカン’ よし、これで仕事は終わり。うまく、メインコンピューターだけ破壊できた。敵対組織とはいえ、科学技術の発展を阻害するわけにはいかないしね。えっ、I−ブレインが異常を告げる。 ‘高密度情報制御を感知、広域空間の発現を確認’ “なに、何が起きてるの?”
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研究所内 「何だ、この爆発音」 「受付に問い合わせてみますか?」 「いや、これだけの音だ。多分館内放送があるだろう」 ‘ヴィー、ヴィー、ヴィー’ 「えっ、緊急放送」 ‘先ほど、メインコンピューターにて爆発が起きました。現在、消火および復旧に尽力しておりますのでこれからの放送に注意してください’ 「そうは言ってもな。うちら、コンピューター技師だし、行かないといけないよな?」 「当たり前じゃないですか。ほらこれ持って、行きますよ」 「おっと、ああ二酸化炭素消火器か。って俺らが消火するのかよ」 「多分誰かいるとは思いますけど。すぐに行ったほうがいいですから。お手伝いです」 「はい、はい。お前の奉仕精神に付き合ってから、いいことないんだぞ」 「そんな事言わない。行きますよ」
メインコンピューター室 「大丈夫ですか?」 「ああ、技研の、ありがとうございます。爆破元はあの区域だと思われます。延焼が広くて他の消火で手一杯なんです」 「おいおい、あの辺が使ってるのって。制御じゃ」 「ですよね。あれ壊れないですよね」 「まさか、な」 ‘警告、2501番が発動しました。空間制御回路に異常。修復に入ります’ 「やばい。おいこちらに来い、延焼がどうのこうのなんて話じゃねぇ」 「どうしたんですか?」 「簡単に言うとよ、この部分には空間制御用の回路があるのだけどそれが壊れちまって、新たに回路を探し出しているんだ。」 「はぁ、探しているだけですよね。それのどこが大変なんですか?」 「探しているだけならいいんだけどよ。その間どんどんデータを消していくし、見つからないと今の研究所の100倍の大きさのものが出てくる。そうしたら、俺らお陀仏だぞ」 「それは、困ります。自分に出来ることありませんか?と言ってもあまりパソコンできないのですが」 「なら、このケーブルを向こうのサーバーにまでつなげてこい。あちらにも同じ回路を使っている部分があるはずだ。おい、そっちのサーバーで受け入れられるか?」 「それが、こっちのほうは、ハッキングでデータのほうがボロボロでうまく回らないかもしれないです。消去が出来なくなってるんですよ」 「一応つなげてみろ。うまく出来ればラッキーだ。」 「やっぱりだめです。エラーが出っ放しでこのままだと本当にやばいですよ。今にも次の警告が出てきそうで」 ‘警告、2501番の作業を停止。2541番を緊急起動、後30分後には制御が解除されます。全員非難してください’ 「くそ、無理だったか。このままいても、もう意味が無い脱出するぞ。町にまで行けばどうにかなる」 「はい」 こうして、研究所の全ての人員が非難した。しかし、その道はザビアロワ少尉のほうとは逆側でザビアロワ少尉はそのことに気づかなかった。
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そして30分たった後のザビアロワ少尉はというと、情報の海が荒れていてうまく動けずにいた。そして、動けるようになったと思った瞬間。研究所に異変が起きた。 「な、なにこれ」 研究所の上に研究所より100倍は高い建物が現れる。そしてそれはピサの斜塔になって、そこでは止まらず。地面に伏す。建物は崩壊し、ただの物体となってこちらに襲ってくる。 「ちょ、ちょっと待ってよ。このままじゃ町が」 ザビアロワのいる場所は高台で実際に襲われることは無いが、このままだと物体は町へと流れ込み、町が崩壊する。 「とまれ、止まって、止まってよー」 氷結、氷柱、氷壁何をしても止まらない多大なるエネルギー体は全てを飲み込みながら流れる。 この日から衛星の写真から一つの町が消えた。そして残ったのは、一人の魔法士の鳴き声とその首に巻かれている真っ赤に笑った椿の花だけであった。
言葉の意味
錬金術の庭(アルケミストガーデン)
2000年代前半に作られた研究組織。 この研究組織によって科学水準が50年は早くなったといわれている。 特に材料化学において多大なる貢献をした。 2040年には太陽光発電において変換率86%に到達し、シティ建造の1つの要因となった。 しかし、2100年ごろある理由により世界の国家野中に研究所を置けなくなり、太平洋上に研究島を設立した。 第3次世界大戦時唯一人間を遺伝子状態から完全な人間として作り上げ、特定の年齢に成長させることの出来た機関である。 内部は外交、軍部、医療、研究の4つの大きな区画を持つ
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