赤い羽根
「うーん。このままではいかんな。能力テストなら成績は上位なのだが、いくらなんでも戦績が悪すぎる。というより、殺すことが出来ないって感じだな。うちらは一応防衛軍だが、特務はそんなことを言っていられない。殲滅、暗殺なんでもするのだ。こんなことでは、特務に置いとけない。常務のほうへ異動になるぞ」 「常務ってことは、あの子の魔法士能力は…」 「封印ということになるな。常務の場合はデータの開示義務があるし。はぁ、他の区画と違って軍部は機密が多いというのに」 「それで、どうなるのでしょうか」 「あぁ、そうだったな。これが最後通牒となるのかな。ここに行ってもらう」 「これ、殲滅戦ですよね。しかも他シティと合同の。」 「そうだ、炎使いが少ないらしくてな。他にも何人か出すことになっている。まぁ一応護衛用の人材だ。崩壊には人形使いを使うらしい。実地試験といったところだろう。」 「分かりました。それではアリアに伝えてきます」 △ 「アリア、今回も失敗したらしいね」 「すみません」 「うーん。すみませんじゃなくてさ。どうにかならない?諜報の任務がちゃんと終わってもさ、自分の情報さらしているのじゃ意味無いのよ」 「ごめんなさい」 「謝り方を変えればいいってことじゃ。もういい。次の任務だ。夕食を食いながら話す。手伝え」 「はい、母さん」 「それで本題に入るのだけどね」 夕食のナポリタンを食べながら話す。(ちなみにナポリに行っても本場のナポリタンは食えない。) 「この地図見てくれる」 「あ、シティ・オスロ」 「へぇ、よく知っているね」 「うん、つい最近テレビでやっていた。オスロって元々ノーベル平和賞の表彰をする場所で、だからいま難民の避難所になっているのでしょ?」 「そのテレビ、他にも何か言ってなかった?」 「いや、何も」 「そう、やっぱり。あの事は伏せられているわけね。その話には裏があってね。その難民を養うために必要ということで、周囲のプラント接収しているのよ」 「それでも、必要ならしょうがないじゃない」 「それならよかったのだけどね。次は、これ見て」 シティ・オスロの年間のエネルギー供給量と支出量のグラフを見せる。 「これ、全然つりあってない。供給量が多すぎる」 「そういうこと。それでね、うちの特務が調べてみたところ、研究内容も難民を使った人体実験だったみたいで。しかも研究所を分散しているから、簡単にいかないらしいわけ。そこで、何個かのシティと共同で崩壊させることに決まったのよ。それで、アリアはうちのところの人形遣い、幸谷の護衛で行ってくるようにって」 「護衛?しかも、幸谷って。あの?」 「そう、あの幸谷だよ。あんたとは逆の意味で問題児の。まぁ、あんたにとっては楽かも知んないけど」 「そう…だね」 「あれ、なんか幸谷と有ったの?会ったことないよね?」 「い、いや別に何もないけど」 “そう、母さんは知らない。私は人が殺したくないわけじゃなくて、周りで人が死なれたくないということを…” △ シティ・オスロ、外設難民用避難町。ここに、アリアと幸谷はいた。ここに二人がいるのは、親をなくした子供が難民としてシティ・オスロに入るという作戦のためである。 「はぁ、やっと着いたぜ。なんで、シティに入るだけでこんな回りくどいことすんだよ。ちょっと門番殺して入ればいいじゃないか」 「そういう物騒なこと言わないで、幸谷。それに、今回侵入するのは私たちだけじゃないのだから、警戒させてもだめでしょ」 「アリアだっけ、お前はいつから俺の保護者になった。俺は、一人でいいって言ったのに。それにてめぇは人が殺せないのだろう。そんなやつが護衛でも意味無い。特務にいるのだって親が上層部にいるからだろ」 「私だって模擬戦なら負けない。今からでもやってみる!」 「けっ、そんなことできるわけねぇだろ。めんどくせぇ」 そんなことをしていると一人のおばさんが来た。 「あらあら、姉弟喧嘩?仲良くしなきゃだめでしょ。それより親御さんはどこにいるの?話しておきたいことがあるのだけど」 「それが、親は亡くなってしまって。ここまで二人で来たのです」 「そうだったの。思い出したくないこと聞いてごめんなさいね。ああ、そうだ今、炊き出しやっているから来なさいよ」 「はい、ありがとうございます」 アリアと幸谷は炊き出しをもらって、人の少ないところに座る。 「いただきます」 アリアが一口食べてみる。 「うわぁ、おいしい。これ、日本では豚汁って言うのだよね。って幸谷何やっているの」 「分解。毒が入っていると困る」 「分解ってそんなことしたら味がなくなっちゃうじゃない。それに他の人も食べているのだから毒はありえないでしょう」 「魔法士だけに効果のある薬があるかもしれない」 「どこまでネガティブなのよ。親はどんな教育しているのかしら?」 「親は関係ない。ちっ、今日は疲れた。寝る」 豚汁(分解ver)を飲み干し、茶碗をそのままにしてテントに入る。 「茶碗返さないと。もう、勝手に行くんじゃないわよ」 それでも幸谷は戻ってこない。しょうがないのでアリアは二つの茶碗を返しに行く。 そんなこんなで1週間が過ぎてしまった。 △ 作戦当日。爆発音が聞こえる。外からのようだ。軍本体の攻撃のようだ。これにより、シティ・オスロの軍は外部への対応へ割かれる。そして、その隙を見て避難民として進入した魔法士が破壊活動を始めるという作戦であった。 「ほら、あんたたち早く来なさい。避難所まで行くよ」 “うわー、面倒なことになった。対応している暇も無いけど、何も言わずに違うところへもいけないだろうし” 「あ、すみません」 アリアが答えようとした瞬間に横からコンクリートが飛び出してくる。グサ。 「幸谷、何やっているの」 「邪魔者は必要ない。どうせ殺す相手だ」 「だからって、今まで世話してくれた人よ」 「それで?どうせ、自分らには必要の無い援助だろう。まぁ、これからの地獄を見せずにすんだとでも思っとけ。それより自分らの目標は?この辺なのだろ」 「ここから南西へ500Mのところ、ただ道なりで考えればもう少し遠くなるけど」 「道なり?直線で行くぞ」 “情報制御。自己崩壊” 人形遣いにとって一番基本的な技術であり、対物において最大の効果を持っていた攻撃。建造物が対魔法士戦用の建材になるまで、人形遣いは殲滅戦において最大の脅威であった。 間にあったビルが倒れていく。一つ一つ順々に音を立てて崩壊していく。 「だから、幸谷。こんなことしたら目立つ。治安部隊が来るじゃない」 「ふん、それがどうした。くそ、硬いな。近づくぞ。丁度言っていた場所だ。多分情報強化されている」 ‘バババババババババ’ 「ほらやっぱり来た」 “分子運動制御、氷壁。”自分らと弾の間に壁を作る。 「あれは、研究所の私軍だろう。制服が違う。つまり当たりだということだな。近づくぞ」 「近づくって。盾作るのは私なのだから。少しは待ちなさいよ」 “もう、完全にわがままな子供なのだから。援護するほうの気持ちくらい考えられないのかしら” 「おい、アリア早くしろ。200Mまで近づけばどうにかなる」 「はいはい、分かったわよ」 氷壁を少しずつ前進させる。前面に情報制御で氷壁を成長させ手前の情報制御を解除する。1回に出来るのは10cm程度。それを1秒間に20回行う。歩くのには少し速く、走るには遅すぎる。そんなスピードで近づいていく。そして。約2分半。 「なんだ。あれ人形じゃねぇか」 「うん?どういうこと」 「だって、これだけ時間がかかっているのに、動く気配がねぇし。っていうことで。200Mだ。やらせてもらうぞ」 “情報制御、人形” 敵の真下の地面を動かし。倒す。 ‘ガシャン。バラバラ。ドン!’ 「え、何が起きた?」 「なにが起きたじゃないわよ。下が空洞だったのよ。あんたがちゃんと確認しないで人形なんて使うから。大丈夫かしら、下の階にだって味方の魔法士はいるのだから」 アリアは空洞になったところまで走り、覗き込む。 「ちっ。ついでに研究所だって壊せたのだからいいじゃねぇか」 そういいながらもアリアを追いかける幸谷。そして、幸谷は気づく。アリアの背中に赤い虫が 止まっていることを。 「アリア、背中に虫が・・・」 幸谷は自分の間違いに気づく。シティ・オスロには虫や鳥などの人間以外の動物は全て特別に隔離された場所にしか存在しないことを。それなのに存在する赤い虫。いや、赤い点がアリアの背中、左側に移っていく。 “まさか、レーザーサイト” 後ろを振り向く。そこには、スコープを覗く人が。 ‘情報制御、人形’ 狙撃手の地面から螺旋が出て、狙撃手を狙う。しかしそれよりも引き金のほうが早かった。 ‘バシュッ’ 「ね、姉さん!」 銃弾は背中へと飛び込んでいく。 △ 「おい、ザビアロワ大佐」 「はい、何でしょうか准将」 「アリア少尉のI−ブレインの設計は君がやったのだよな」 「えぇ、そうですけど。何かありましたか?」 「いや、ちょっとね。この部分の回路は、どうして入れたのかなと思って」 「どこですか?」 大佐は、ざっと設計図を見る。 「あぁ、これはおまじないですよ」 「元々、演算機関用の回路らしいですけど。これが有るのと無いのとでは演算速度が1桁は違うのよ。ただ、誰が調べてもこの回路は遅くはしても、速くすることはない。だからおまじない」 「なるほど。そこまでは知っているわけか」 「そこまで、そこまでとはどういう意味ですか?」 「少しは落ち着け。えーと。あったこれだ。この論文。これを見てみろ」 准将は大佐に論文を渡す。 「SS-56回路の仕組み」 論文の内容を簡単に説明するとこうなる。 SS-56回路は大気中の空気分子を用い論理回路を作る。その、論理回路が演算を補填するために演算速度が上がる。 「でも、これって真空実験で違うことが証明されましたよね」 「そうそう。それで、ちょっと「庭」でも実験したのだよ。そうしたらさ、この回路情報の海自体に働きかけることが分かった」 「海自体というのは?」 「そのままの意味だよ、現実世界に関係があるのではなく。情報の海自体が直接変化するらしい。そして、この回路は人体に対しても影響が出るらしいのだ」 「人体に影響というのは?まさか、アリスにも!」 「ちょっと、落ち着いて聞いてくれ。人体に影響というのはちょっと意味が違ったな。人体の情報さえも取り込むという言い方のほうがいいか。簡単に言うと人の記憶とかも見られることになる。そのためには別にそれようのプログラムが必要だがな」 「それで?プログラムがなければ何の問題もないのでしょう。そして、実際に演算速度の速くなる理由も証明された。それでいいじゃないですか」 「あぁ。それでいいはずだ。ったんだけどね。医療部のほうから報告があった。死者、いや死にそうな人間の近くにその回路がある場合、回路が誤作動するとのことだ」 「ということは、あの子が人を殺せないのは…」 「性格とかそういう次元の話ではないのかもしれないな。だから、今回幸谷と組ませたのも間違いだったかもしれん。あいつは殺すことを生きる理由にしているところがあるから」 「殺すことが理由?そういえば、幸谷って誰の子なのですか。親を見たことないのですけど」 「あいつは、外部からだよ。後天性魔法師だ。研究施設から逃亡していたところを、我々が保護した。そのまま、軍所属になったのだ。だから、親はいないのだよ。逃亡中は姉がいたらしいがその辺はあまり話したがらないしな」 △ “あれ。何していたんだろう” アリアの目が覚める。 “なんだろう?さっきの夢。姉と弟の楽しい食事だった感じなのに、急に女の子のほうが倒れて。そういえば、あの男の子どこかで……。って、そんな夢のことなんか気にしてないで、今の状況判断をしないと。って重た” アリアの上に幸谷が倒れている。 「何、どうしたのよ。幸谷!」 幸谷の背中から血が出ている。 「起きてよ。起きなさいよ」 アリアの願いが通じたのか、幸谷の目が覚める 「あ、姉さん」 「私はあんたの姉ではない」 「よかった。助かったんだね。よかった」 幸谷はそう言って、また倒れる。その時首からロケットが零れ落ちる。そこに写っていたのは、夢の中で診た女の子 “そうか、あの夢は幸谷の記憶。あれ、目の前が白く。そんな幸谷を助けないといけないのに” そのまま、倒れるアリア。このまま動くことはなかった。 言葉 ナポリタン(現実) スパゲティにトマトケチャップをからめ炒めて作る。代表的な具材はタマネギ、ピーマン、これにハム、ウインナーソーセージ、ベーコン等の加工肉。タバスコと粉チーズを好みでかける食べ方が一般的である。 ナポリタンはトマトケチャップ味のスパゲティ料理。日本の料理(洋食の一種)であり、イタリア料理ではない。起源は、横浜山下町にあるホテルニューグランド第2代総料理長・入江茂忠が最初に考案したとの記録が残っており、現在ではこれが最も有力な説である。(Wikiより) SS-56回路(仮想) 演算速度を上げるために演算機関では広く採用されている回路。特にアフリカにあるシティの核融合炉制御システムには複数搭載され、世界で一番安全な大陸といわれている。ただし、仕組みが不明のため魔法士に使われることは基本的に無い。(仕組みは後に錬金術の庭により解明され、情報の海に直接干渉して演算速度を上げる論理回路を生み出すことがわかった) 元々、演算速度を上げるように開発されたものだが、そのほかに同調能力を発現することが分かった。後に特化され天使を生み出す結果となった。 「あれ、ここどこ?」 「ここは庭の病室だよ。アリアちゃん。それにしてもびっくりしたよ。見回りしていたら二人とも倒れているんだもん。そのせいで何人か逃がしちゃったわよ」 「すみませんでした。あれ、そういえば幸谷は?どうなったんですか」 「大丈夫だと思うよ。手術は何事もなかったし、アリアちゃんが起き上がったし」 「私が?どういう意味ですか」 「あれ知らなかったの?あなたの使っているSS-56回路が幸谷と同調して、あなたは意識を失ったのよ。もし、あのまま幸谷が亡くなっていたらあなたも一緒に死んでたかもね」 「そんな今までそんなこと無かったのに」 「でも、頭が痛くなるときとかはあったでしょ」 「それは少し」 「いつもは一方的に来ていた意思が、今回は答えちゃったんじゃないかな。夢とか見たでしょ」 「はい、それは確かに」 「まぁ、意識が戻ってよかったわ。あなたは怪我とかしているわけじゃないから、そのまま幸谷君のお見舞いに言ってもいいわよ。あ、それと外交部にもお礼言っといたほうがいいわね。わざわざあなたたちのためにワープ港使わせてもらったし」 「分かりました。今までありがとうございます……えっとお名前は?」 「内山、内山 冬美よ」 「ありがとうございました。内山さん」 アリアが病室を出て行く。
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