を閉じればよみがえる。
そこまで考えると、また泣いてしまいそうな気がして目をつむった。
ぎゅっとまぶたに力をこめてから、そっと目を開く。
息を吐いて、顔をあげる。
『午前7時16分』
I−ブレインで確認してから、ベッドを降りる。
部屋を出ようとして、丸テーブルの上に乗った指輪を手に取る。
指先で論理回路をなぞり、そっと握り締める。
――これからも、がんばろう――
脳裏に浮かび上がった言葉を見て、小さく微笑う。
「がんばるから…。」
――がんばるから…、だから…――
ドアをあけ、廊下に出る。
通りかかる人たちに笑顔で挨拶し、食堂に向かう。
席につくと、ファンメイ用にたっぷりと料理が並んでいた。
「いっただっきまーす!」
元気よく言って、勢いよく食べる。
「ん〜、おいしい♪」
ときおり合成ミルクを飲みながら、皿をあけていく。
「ごちそうさまでしたぁ。」
きちんと手を合わせ、大量の皿を積み重ねて調理場に持っていく。
「ファンメイちゃん、おいしかった?」
「はいっ!いっぱい食べちゃった。」
皿を渡して、食堂を出る。
…その後調理場は、3,40分近く皿洗いでいそがしかったらしい…。
ファンメイは、今度はリチャードの部屋に向かった。
部屋にリチャードはいなかった。まぁ、いつものことだが。
勝手に入り込み、紙の本を読む。読書は検査の時間までの日課になっていた。
部屋にくる人はいなかったので、ファンメイの耳に入るのは静かに本のページをめくる音だけだった。
『午前9時23分』
気がつくと、検査7分前になっていた。
慌てて検査室に向かう。
白衣の研究員と挨拶をかわしてから、検査が始まる。
いろいろな装置が置いてある部屋で、いつも通りに検査が進められてゆく。
ぼんやりとした意識の中、I−ブレインのなかにたくさんの文字列が流れてゆく。
しばらくすると、『終了』の文字が映った。
「機能は、一応正常だよ。」
ファンメイの黒く染まった腕をちらりとみながら、研究員の1人が言った。
「はいっ。ありがとうございました!」
答えて部屋を出る。黒の水のことは気にしないことにして、笑顔を見せる。
軽く会釈して部屋を出ると、そのまますぐにエドのところに向かう。
今日はいつもより早く終わったから、ゆっくり行くことにした。
ふと見た窓の外は、いつもと同じ、鉛色だった……。