■■こみこみ様■■

悲しみの向こう 蒼空の彼方 〜1〜




――また…1人…ぼっち…――


目が覚めると、白い天井が見えた。
「ん……。」
意識がはっきりしてくると、頬に違和感を感じる。
そっとなでると、指先にあるのは、涙。
「あ……。」
小さくつぶやいて、起き上がる。
壁にかかった鏡をのぞくと、ファンメイの目は真っ赤になっていた。
顔を洗い、歯を磨き、手早く着がえる。
でも、ご飯を食べる気にはなれなくて、整えたベッドの上に座る。
ハァッ。
ため息をつき、今何時かを確認する。
『午前6時47分』
I−ブレインを一瞬疑う。
ねぼすけのファンメイがこんな時間に起きるなんて、普通ならありえない。
でも。
「…またあの夢、見ちゃったしなぁ…。」
つぶやいて、うなだれる。
あの、夢。
それは、島がなくなったあの日からよく見る夢だった。



カイがいて、ルーティがいて、シャオがいる。
島では当たり前で退屈だった、生活。

なのに。

ありきたりな言葉が。
明るい笑顔が。
優しい瞳が。
どうしてこんなに違って見えるのだろう。
どうしてこんなに懐かしく思えるのだろう。
どうして……。
どうしてこんなに、泣きたくなるのだろう。

胸の奥が、締め付けられたように苦しくなる。
そうすると、決まってよみがえる、現実あくむ
人間だった人たちが。友達だった人たちが。
黒の水を制御しきれなくなる現象。『暴走』という名の欠陥。
それのせいで、消えてゆく。
――ファンメイわたしの目の前で、黒の水となって崩れてゆく。――

自分の体さえも制御できなかったときの、恐怖。
今でも胸の奥によどみのように残っている。
みんなが溶け消える瞬間に浮かべた笑顔。
いつでもを閉じればよみがえる。

そこまで考えると、また泣いてしまいそうな気がして目をつむった。
ぎゅっとまぶたに力をこめてから、そっと目を開く。
息を吐いて、顔をあげる。
『午前7時16分』
I−ブレインで確認してから、ベッドを降りる。
部屋を出ようとして、丸テーブルの上に乗った指輪を手に取る。
指先で論理回路をなぞり、そっと握り締める。

――これからも、がんばろう――

脳裏に浮かび上がった言葉を見て、小さく微笑わらう。
「がんばるから…。」

――がんばるから…、だから…――

ドアをあけ、廊下に出る。
通りかかる人たちに笑顔で挨拶し、食堂に向かう。
席につくと、ファンメイ用にたっぷりと料理が並んでいた。
「いっただっきまーす!」
元気よく言って、勢いよく食べる。
「ん〜、おいしい♪」
ときおり合成ミルクを飲みながら、皿をあけていく。
「ごちそうさまでしたぁ。」
きちんと手を合わせ、大量の皿を積み重ねて調理場に持っていく。
「ファンメイちゃん、おいしかった?」
「はいっ!いっぱい食べちゃった。」
皿を渡して、食堂を出る。
…その後調理場は、3,40分近く皿洗いでいそがしかったらしい…。

ファンメイは、今度はリチャードの部屋に向かった。
部屋にリチャードはいなかった。まぁ、いつものことだが。
勝手に入り込み、紙の本を読む。読書は検査の時間までの日課になっていた。
部屋にくる人はいなかったので、ファンメイの耳に入るのは静かに本のページをめくる音だけだった。

『午前9時23分』
気がつくと、検査7分前になっていた。
慌てて検査室に向かう。
白衣の研究員と挨拶をかわしてから、検査が始まる。
いろいろな装置が置いてある部屋で、いつも通りに検査が進められてゆく。
ぼんやりとした意識の中、I−ブレインのなかにたくさんの文字列が流れてゆく。
しばらくすると、『終了』の文字が映った。
「機能は、一応正常だよ。」
ファンメイの黒く染まった腕をちらりとみながら、研究員の1人が言った。
「はいっ。ありがとうございました!」
答えて部屋を出る。黒の水のことは気にしないことにして、笑顔を見せる。
軽く会釈して部屋を出ると、そのまますぐにエドのところに向かう。
今日はいつもより早く終わったから、ゆっくり行くことにした。
ふと見た窓の外は、いつもと同じ、鉛色だった……。





<作者様コメント>
またも短編を書こうとして続き物になってしまいました(汗
今回はファンメイで書いてみました。
これは、4巻が終わってちょっと経ったころ、
ってことで書いてみてます。
2巻のころのことを想う、みたいな感じで。
次で終わるはずです。
エドの出番はほとんどないと思います。
これのラストどうなるか決めあぐねてますが、
一生懸命書くので、読んでやってください(願
あとがき変になってしまいました(汗
このへんで失礼します。
でわ、次回で♪

<作者様サイト>
『なし』

◆とじる◆