■■こみこみ様■■

悲しみの向こう 蒼空の彼方 〜2〜


窓から目を離して、そのあとはエドの元へ真っ直ぐに向かった。
「エド〜!今日もきたよ〜!」
なんとなく笑顔で声をかけ、生命維持槽の正面に立つ。
筒の中のエドは、小さな笑みを浮かべていた。
「今日は、何するの?」
ちょっと首をかしげながら考えて、エドが出した答えは、
「歌、うたう。」
いつもと同じものだった。
「うん!楽しいもんねっ!」
操作パネルをいじって、エドを外に出す。
服を着替えるのを手伝い、一緒にうたいだす。

『わたしはこの完全な世界を愛しています』

パーフェクト・ワールド。
錬が作ってくれたラジオで聞いた曲。
エドの声は、歌をうたうごとに大きく、抑揚もついていく。
それが嬉しくて、チラッと目があったときに微笑んでみる。
キョトッとしたエドの顔が可愛くて、うたってる途中なのに頭をなでる。
もう1度笑って見せてから、歌を再開。

青い空があり、緑の草原があり、愛する人が側にいれば、それだけで世界は美しい。
辛くても、悲しくても、また心から笑えるときがくる。
完全なる世界…大切な世界。

『I love this perfect world』

でも。

――もし…もし、その全てを失ってしまってたら?
――そしたら、『わたし』の世界はどうなるの?

心の中でつぶやいて、ただひたすらに声を張り上げる。
曲が終わるまで、そのままでうたい続けた。
「今日、午後からも検査あるの。だから、もう戻らなきゃいけないの。ごめんねっ!」
手を合わせて、頭を下げる。エドは、小さく笑って
「いいえ。」
と首を振りつつ言った。
「じゃあ、バイバイ!また明日ねっ!」
エドの様子にホッとしつつ、駆け足気味にその場を離れた。

自室まで戻ると、ファンメイはベッドに倒れこみ、詰めていた息を吐いて枕に顔をうずめた。
そのまましばらく動かずに、気分を落ち着けるために軽く目を閉じる。
俯けに寝転んだまま、ゆっくり深呼吸を繰り返す。
しばらくして、走って乱れた息も、心を締めつけられたような苦しさもやわらいだ気がして、座り直す。
「『わたし』の世界、かぁ…。」
本当、どうなっちゃうんだろ、と力無く呟いて、無理やり口の端を持ち上げる。
その瞳から、一滴ひとしずくの涙が零れ落ちた。
ポタポタと手の甲に落ちる涙を見つめて、ファンメイは自嘲気味に笑った。
「強くなるって、難しいね……。」
銀色の指輪を見つめて、またポツリと呟く。


――何も無かったら、美しい世界なんてありえない――
――何も無かったら、世界を愛することはできない――


うたっているとき、一瞬でもそう考えてしまった自分を叱った。
諦めるのはいけないって、自分で自分に約束したから。
天使の少女の心からの言葉を聞いたから。
一生懸命な黒髪の少年を見てきたから。
自分は何なのかを探す少年と共にいるから。
だから、否定的になった自分を叱った。
それでも、寂しくて、怖くて、たまらなくなった。


ふと、真っ青な空が見えた気がした。


びっくりして、目を強くこする。
「疲れてるのかなぁ、わたし……。」
呟いて、窓の外を眺める。
相変わらずの、鉛色。雲に覆われた空。
そこまで考えて、ハッとした。

――無くなったわけじゃ、ないんだ――

無くなったわけじゃない。
なくしてしまったわけじゃない。
ただ、ほんの少しの間、見失っただけ……。

――いつだって、1番遠くて、1番近くにあるんだから――

そう思ったとたん、なぜだか涙が溢れてきた。
その涙を止めようともせず、ファンメイは銀色の指輪を握り締めた。

――これからも、がんばろう――

「がんばるって、決めたんだった、わたし…。」
今までの決意、朝の心の声、全て偽りではないのだ。
「大丈夫だよ。シャオ。」
指輪に向かって微笑みながら、ファンメイは言った。
涙の中で、それでも強く輝く笑顔。

――少女は翼を信じ、祈る――

――羽ばたき続けることを誓う――



悲しみの向こうに 聞こえる歌声

それは優しい 笑い声

蒼空の彼方で 輝く宝石

それは誰かの 流した涙

笑顔と涙 つなげる光

心のどこかの 小さな言葉

例え隠されても 見失っても

蒼い空は ここに在り続ける

緑の草原は いつかよみがえる

愛する人は いつまでも共にいる


信じる力 祈る心は

見えない翼を 織り成す輝き

いつか 世界中のモノに

星の微笑みが降り注ぎますように





<作者様コメント>
書き上がるのが遅くなりましたが、
『悲しみの向こう 蒼空の彼方』
完結いたしました!

遅くなったのはダラダラ意味の無い分を書き連ね、
おまけに詩(?)まで付け足したせいです(滝汗
ごめんなさいm(-_-)m

自分で読み直したりなんかしてみると…。
……なんか、最初のイメージと違う……(汗
しかもいろいろキャラも壊れてるし……(泣
まぁ、過ぎたことは気にしない方針で♪
とか言いつつ退場したいと思います。
(ツッコミ回避活動とも言う)
これを読んでくださった方、

――ありがとうございました――


<作者様サイト>
『なし』

◆とじる◆