■■闇鳴羚炬様■■

魔法士達の物語おとぎばなし〜第三幕 欺罔と企望〜


結局、名を名乗らされてしまった。
あんなふざけた空気でどうして喋ってしまったのか、それは自分でもよく分からない。
でもその代わり、ヤツの名前も知った。
グラムス。ヤツはそう呼ばれていたし、自分でもそう名乗っていた。
無論、偽名の可能性はかなり高いが、とりあえず呼ぶのには困らない。
向こうもその程度に思っているようだ。その後はやっぱり拘束もされずに放置された。
その間に逃げることは考えないのかと思ったが、なんかもうそういうことについて考えてはいけない雰囲気だ。
ここに居る限りその雰囲気は続くと思われる。
本当に頭が痛かった。
まぁ、唯一救いは偽名でも良かったこと。
偽名を言うと大して疑いもせずにそれで呼ばれるようになった。
んじゃ、なんでデュアルを騙った時はダメだったのだろう。
これも、聞く意味がないように思えた。
彼らには―特に、あのグラムスとかいう男には―そんな・・・ノリ、とでも言うのだろうか。そんなものがあった。
あ、そうそう。
スリーサイズは聞かれなかったのでかなり安心した。

はぁ。
溜め息一つ。
なんか歌にありそうなフレーズだ。
俺の場合はさっきから幾つもこぼしているが。
溜め息一つつくと幸せが一つ逃げると言ったのは誰だったか・・・。
「・・・いかん。脱線してる。」
と、誰だったか思い出せないまま我に返った。
俺の欠点は思考がすぐに脱線することだ。
基本的にイヤなことから逃げようと言う思考なのだろうが、何分こればっかりはどうしようもない。
頭を軽く振って雑念を追い払い、先ほどまでの考えを頭にもう一度浮かべる。
まず、脱出経路の確保。
人質・・・と言っていいのか分からないが、人質がまず第一にすべきこと。
さっき一通り回ったが、ずいぶん広い。
しかし、その割に何故か出口が一つしかない。
格納庫があるので、正確には「人が通って出られるような出口」が、だが。
で、その出口には必ず3人は人がいる。
多分「尋問」のときに大広間で雑魚寝していたやつらが交代の人員だったのだろう。さっきもう一度見たら人が変わっていた。
そして、壁や天井、それに床は、どうしようもない。
グラムスの言っていた通り、多分に情報強化がなされているようだ。俺程度の情報解体じゃ揺らぎもしなかった。
かといって熱で簡単に熔ける代物でもない。
俺は武器なんかは持っていないので、物理的に破壊するのは無理。
まあまともな騎士で出来なかったのを俺が出来るとは思えないが。
で、まず脱出は不可能という結論に至った。
魔法士のスリーマンセルを相手にするのはちょっと辛い。
次に、マサチューセッツとの交信。
これも無理だ。
人がいないところなど腐るほどあるが、ジャミングが働いているのか通信が不可能。
俺に関係なくても機械が無理、とはな・・・。
全く迷惑な話だ。
「・・・あ。」
そこまで考えて、自分の脳内にある通信素子を思い出した。
デュアルのリンクは放棄させられたがアイツのはまだ残っているはず。
思い、頭の中で側頭部の一部を押す。
そして、メッセージを送ってみる。
反応がない。
・・・アイツ、寝てんのかな?
脳内時計は『西暦2198年9月2日午前3時17分』を告げている。
別に寝ていてもおかしくない時間、いやむしろ寝ているほうが自然だろう。
そう思い、明日・・・といっても今日だが、もう一度やってみようと決める。
とりあえず、今は俺も寝ておいた方がよさそうだ。
ここの連中なら寝首をかかれる心配はないだろう。
そう思えた自分に苦笑し、どこで寝ていいのかをグラムスに聞きにいく。
リノリウム張りの床は、足音を大きく響かせた。

暗い、室内。
光源が一切ない部屋で、一人の女性が何かに向かって声を発していた。
「・・・ええ。そういうことでお願い。報酬は・・・そうね、100万クレジットくらいにしておいて。」
やや首を斜めに傾け、胸元を覗き込む途中のような格好で話していた女性がそう言うと、何かの向こうから抗議の声が上がった。
女性はしばし、その声がやむまでの間首を遠ざけて、収まってからもう一度語りかけた。
「いいのよ、それで。じゃ、任せたわよ。」
言うと、相手の話も聞かずに襟元の何かをすぐそこのダストシュートに投げた。
狙い違わず黒い点はダストシュートへ飛び込み、そのままどこかへ運ばれる。
明日には再利用されて別のものとして世に出ているだろう。
女性はそのまま部屋を後にする。
部屋を出てすぐのそこは、廊下の突き当たりだった。
閉まったドアには、なんの表札もなかったが、何か四角いものをはがした跡があった。
今はもう空っぽのこの部屋に、つい1週間前までいた一人の少年。
銀髪の、男だか女だか分からないような外見をした、少年。
ついこの間まで「弟」だった、少年。
ブンブン、と大きくかぶりを振る。
肩で切りそろえられたブルネットの髪が大きく振られてなびいた。
ディーのことを思い出してしまった自分を叱咤して、頭から追い払う。
ディーは、もうここにはいない。
あのバラだって、多分もう二度と来ない。
だから。
彼女は、力強く歩き出す。
その胸に、強い決意を秘めて。
その眼帯の奥に隠れた、光のない瞳に込めた想いと共に。
私は―
クレアヴォイアンス07は、自らが決めた一つの意志を完遂するため、動く。




誰もが、叶わぬ願いを望み

それが、叶わぬことを知っていて

それでも、その願いを求めて生きる

世界の理を捻じ曲げようと



<作者様コメント>
えー、三話目。ようやく一人名前が出ました。
ゴメンナサイ二人でませんでした。
主人公の名前出てくるのはもう少し後になりそうです・・・。
さて、クレアは何をしようとしているのか。
マサチューセッツへ攻め込むと言うグラムスの言葉は本気か。
そんな大きな施設ありえないと思うんですけど(フィクションです
クレアってあんなキャラだっけ?(すいません、俺の限界です
倫理破綻してますけど(一介の中坊の限界だと思ってください
・・・で、結局主人公って何?(・・・お、お気になさらず
そんなこんなで次へ〜

<作者様サイト>
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◆とじる◆