■■nisiB様■■

世界中の下で
−探していたモノ−

(警告、座標移動による回避は不可能。高速思考を起動、思考速度を十倍に再定義)
I-ブレインが警告を発し、高速で演算を開始する。
全方位から「なにか」が空気を引き裂き襲いかかる。
ソラはその姿を捉えようとして、不意に視界が揺らいだ。。
I-ブレインの演算速度を上げることによって、通常よりも遥かに早い思考ができるようになる。
考える速さが向上するということは、何事もしっかり考えてから行動できるようになるということだ。
無論、運動速度を強化しているわけではないので、考える速さ以外は通常の人間となんら変わりはない。
ゆっくりと流れる時の中で、ソラは視線をめぐらせた。
そして、視線がそれを捕らえる。
その「なにか」は細長いワイヤーのような形状をしていた。
ワイヤーの一つ一つには溝があり、それは螺子と呼ぶにふさわしいものだった。
それが、超高速で回転している。
今やその距離は2メートル程度、数秒後にはそれが突き刺さる。
(解析終了、最適化失敗、危険、現物理法則で接触まで後二秒)
さて、どうしたものか・・・
一方から攻撃を防いでも無駄だ、攻撃は全方位から来ている。
そもそも自分がもっと気をつけていれば・・・・。
ソラは心の中で舌打ちした。
後悔ばかりが浮かんでは消えてゆく。
まったくの不意打ちだった、いるはずがないと過信していた。
研究所のセキュリティは全て停止していた。
無論、情報制御の反応もなかった。
それが・・・、こんな・・・・。
(思考速度を五倍で再定義。分子運動制御、開始。空気分子凝縮、『フォース』起動、圧縮率を五倍に再定義)
悩んでいても埒が開かない。
とりあえず数を減らすことにした。
分子運動の制御により、自分の周囲に大気の壁を作り出す。
ゆっくりと時間が動き出した。
緩やかだった螺子の動きが加速すると同時に、ソラの周囲の空間が揺らいだ。
高密度の空気の壁が出現する。
数百にも及ぶ螺子の群れは、そのまま揺らぎに衝突した。
「・・・・ちっ」
外側で吹き荒れる暴風、だがソラにはそよ風一つ伝わらない。
通常のチタン合金の隔壁三枚以上の強度を持つ空気の壁は、ほとんどの螺子の軌道を捻じ曲げた。
そのまま壁や地面、天井に叩きつけられ、原型を失う。
だが、一部生き残った螺子が相殺されて弱まった『壁』を突破する。
ここからが本番だ。
一つ一つの螺子が、ソラを標的として、加速を開始する。
ここまでおよそ三秒間。
ソラは軽く深呼吸をすると、自ら、迫り来る螺子に向かって走り出した。
右手で『アポカリプス』を握る。
(新規デバイスを感知。・・・・『アポカリプス』現在は『杖』形態で具現中)
試作品とはいえ、通常のとおりには動いてくれるだろう。
(炎使い専用デバイス『杖』、演算開始。圧縮率十五倍で再構築、密度を高レベルに設定)
螺子が切り裂く軌道、その合間に飛び込む。
目標の方向が急激に変化したが、減速ができない螺子の群れは、そのまま先ほどまでソラがいた空間を虚しく貫く。
(再構築完了。『フォース』圧縮解除)
「これで!!」
先ほど螺子に貫かれて消滅寸前になっていた空気の壁。
その圧縮を解除したのだ。
一種の爆弾ともいえなくもない。
ついでといってはなんだが、壊れた壁の一部も修復しておいたので、威力は十分だろう。
専用デバイスを使用したことで、通常よりも遥かに早く、プログラムが実行される。
螺子が方向を変えた時には全てが遅く・・・・。
爆発的な空気の振動によって、全てが粉々に砕かれた。
「・・・げ」
が、少々制御にミスがあったようだ。
爆発の余波は、周囲の螺子を破壊するだけに留まらず、吹き荒れる暴風となって部屋そのものに襲い掛かった。
無論、部屋の中にいるソラにも、である。
(危険、防壁構築)
咄嗟に空気の壁を作り出してしのぐが、完全に反動は殺しきれなかった。
そのまま吹き飛ばされて、プラントの一部にぶつかる。
一瞬、衝撃で息がつまった。
床に転がるように着地し、衝撃を吸収する。
そのまま跳ねるように起き上がった。
追撃を警戒しながら『アポカリプス』を構える。
爆発の余波は、非常灯の一部を割るにとどまったようだ。
(リンク、シリアル=ピアツーピアとの交信を再開)
『ちょっと!ソラ、無事!?』
部屋を見回しながら状況を整理するソラに、シリィからのメッセージが届く。
かなりあせっているようだ。
周囲を警戒しながら確認の返事を送ると、間髪いれずにメッセージが送られてくる。
『いきなり切断されたと思ったら、妨害電波がでてるみたいなの。さっきのドアだって私が解除したんじゃないし・・・』
どうやら部屋全体に何らかの妨害装置が設置されているらしい。
ソラは改めて己の無防備さを悔やんだ。
『この部屋の何処かに目標がいるはずだ。サーチを・・・・』
不意に、視界の一部を灰色の線が駆け抜けた。
舌打ちをしつつ、左に飛ぶ。
一瞬前に立っていた空間が、複数の螺子によって薙ぎ払われる。
その数、二十本。
(分子運動制御、周辺情報を取得、運動係数設定、開始)
大気が弾けた。
急激な加速運動を与えられた空気分子が小さな弾丸となり、迫りくる螺子に向かって飛んでゆく。
ソラが『魔弾』と呼んで好んで使用する戦闘方法の一つだ。
物体は常に運動している。
これは空気だけに限ったことではない。
この世にある、ありとあらゆる物質に言える事だ。
その運動は常に一定で、物体は安定して存在していられる。
もしも、その運動方向を、別に変化させたら・・・・。
要は拳銃のようなものだ。
弾丸は火薬によって推力を得るが、これらは他の方向にかかる運動を、一定方向に向けることで推力を得る。
単位ごとに一定方向の運動を与えられた分子の塊は、目標にぶつかり弾け飛び、迫る螺子を片っ端から打ち落とす。
ある物は別の方向に弾き飛ばされ、ある物は叩き折られ、あるものは原型を留めないまで打ち抜かれる。
後には部屋の内装と同じ色の破片が降り注ぎ、辺りに散らばった。
一瞬遅れて着地、・・・・した瞬間に転がるように後方に跳ねる。
直後、地面から螺子が生え出し、天井までの空間を一気に貫いた。
そのまま天井に突き刺さって動きを止める。
ふと周囲を見渡すと、再び部屋のいたるところから螺子が生え出してきている。
ソラの頬を汗が一つ流れ落ちた。
『戦闘はトレースしてたから、方法からして例の人形使いの線が濃いわね、・・・・解析終了っと』
間髪いれずにデータが送られてくる。
内容は・・・・・、部屋全体の構造と、情報制御の位置、それに・・・・・目標の位置。
ソラは顔を上げた。
そして睨む様に見つめた、螺子が蠢くその奥、部屋の最奥部分を。
突然、螺子が動きを止めた。
一瞬の静寂の後、以前に増して高速で回転を始める。
風を切る音が壁に跳ね返っては木霊する。
部屋の最奥、何もいないはずの空間で、ほんの少し、何かが動いた。
ソラが動いた。
『アポカリプス』を両手でしっかりと掴み、腰を深く沈める。
(分子運動制御開始、空間情報を取得、摩擦係数を極限に設定)
「・・・・ッ!」
短く息を吐くと同時に、体を前に出す。
それだけで、走るより早い速度で、目標めがけて滑り出した。
それと同時に、螺子がソラに向かい襲い掛かる。
(一部、係数制御を解除。『魔弾』自動実行)
襲い来る螺子の群れに、打ち出される床の破片と空気の弾が、次々と衝突する。
一部、抜けてくる螺子は、『アポカリプス』で弾く他、方向を変化させて回避。
その間にも、目標との距離がどんどん近づく。
行ける・・・・!!
だが、それは突然やってきた。
辺りの螺子がほとんど原型を失った時、ソラの行く先に新しい螺子が生え出した。
銀色にきらめくその螺子は、壁や床などの色と同じ螺子とは明らかに違った。
まったく動きに無駄がない
生え出した螺子は合計30本。
それらが三つに分かれてソラを狙う。
しかも、全てが最短ルートであり、防ぎきれない位置を狙っている。
「・・・くっ!?」
(高速演算、分子運動制御、開始。『フォース』起動、圧縮率を五倍に定義。『魔弾』強制実行開始)
I-ブレインの処理能力だけでは圧倒的に足りない為、一部を『アポカリプス』に肩代わりさせる。
肩代わりさせるまでのほんの一瞬、激しい頭痛が起こり、意識が飛びかける。
『アポカリプス』の刀身に光が奔った。
歯を食いしばりそれに耐え、螺子を睨み付ける。
風が壁を形成してゆく。
まだそれが十分ではない内に、第一波が右側からぶつかった。
10本の螺子は、どれも屈することなく壁を突き進む。
やばい・・・・。
直後、圧縮された空気の弾が、形成されつつある壁ごと、螺子の群れを吹き飛ばした。
『魔弾』は、前から来ている第二波をも巻き込み、壁に衝突する。
螺子が砕け、銀色の物体が飛び散った。
その間に空気の壁が完成し、左側の第三波がそれに衝突。
(『フォース』を開放。効果範囲を左向きに定義)
残った螺子は、壁の開放によって吹き飛ばされた。
無論、さきほどのようなミスをしないために、細かい調整は欠かさない。
ここまで走り始めてから5秒ほど、目標はすぐ目の前。
よし!
(摩擦係数制御を終了。『魔弾』終了。)
手を伸ばし、最後に足を踏み出そうとして、
(高密度情報制御を感知、危険、回避・・・回避不能)
「・・・・あ」
突然の警告音、何が起こったのか理解できない。
目の前には何もない空間。
そこにいる見えない何かの後ろに蠢く銀色の螺子の群れ。
そこでソラは気がついた。
先ほど破壊した螺子が、見当たらないことに。
そして、その反応が自分の足元全域に広がっていることに。
再生が早すぎる。
そう思った瞬間には、周囲の床が弾け、銀色の螺子が飛び出してきた。
『アポカリプス』と同じように、光の筋が奔っている。
接触まで一秒もない。
プログラムを起動する時間はない。
回避は、できない。
何も考えられない。
一瞬、リチャードやシリィの顔が脳裏に浮かんだ。
螺子が目の前に迫り瞬間的に目を閉じた。
そして・・・・、
(リンク、シリアルによる強制介入、実行中の演算を強制的に停止。『アポカリプス』を騎士剣として再定義。『共有』開始。一時ファイル『身体能力制御』展開。知覚速度65倍、運動速度35倍で再定義)
一秒、二秒、三秒。
その時はこない。
恐る恐る目を開くと、自分を貫いたはずの螺子が、眼前でゆっくりと回転している。
一瞬、何が起こったのか理解できない。
65倍に引き伸ばされた知覚速度で、10秒ほど考えてから答えに辿り着いた。
シリィから受け取っていた『身体能力制御』の一時ファイルが起動したのだ。
だが、すっかり忘れていて、自分で起動した覚えはない。
『まったく・・・目を離すとすぐにそれなんだから。しっかりがんばりなさいよ』
シリィからメッセージが送られてくる。
どうやら自分の代わりに起動してくれたらしい。
無論、ソラが本来は騎士の能力である『身体能力制御』を使えるはずがない。
すべては彼女のおかげだ。
異なったタイプの魔法士のプログラムを解析し、どんな魔法士でも実行可能なプログラムを作り出す。
そしてネットワークを構築し、そのプログラムをいわば『共有』することで、接続した魔法士は、本来実行できるはずのない機能を実行することが出来る。
それが彼女、シリアル=ピアツーピアの能力だった。
しかし、接続している時には、シリィは他の能力を一切使えなくなる。
長時間の接続は危険であるし、なにより長距離での接続は不可能だ。
そんな場合でも、彼女の作成したプログラムをデバイスに記憶させるだけで、即座に実行できる。
しかし、問題が存在した。
それは、作成された一時プログラムがとんでもない容量を誇るものだということ。
巨大すぎる要領のファイルは、存在するだけで他の動作を遅らせる。
その為、ソラは『アポカリプス』にデータを保存していた。
そしてもう一つ、どの魔法士でも実行できるようにするために、ありえない形で定義されたプログラムは、魔法士が実行した瞬間にファイルごと崩壊してしまう。
つまり、一度だけしか使えない、いわば切り札だ。
ソラはシリィに礼の返事を送ると、『アポカリプス』を右手にしっかりと握り、目の前の螺子目掛けて叩き付けた。
手に握られた騎士剣は螺子よりも遥かに早く動き、それをなぎ払った。
螺子が切断されてゆっくりと落ち始める。
(分子運動制御、超高速振動、開始。対象を『アポカリプス』に指定)
一瞬、空気が唸る様な音を発し、『アポカリプス』を構成する『メルクリウス』が振動を開始する。
ソラはそのまま、手近な螺子に切りかかった。
切断し、爆砕し、破裂させ・・・。
飛ぶように移動して、全ての螺子を破壊した。
そのまま、データに載っていた目標の目の前に着地する。
目の前には何もない空間。
『アポカリプス』の振動を停止させ、腰につけていた小さなポーチから小さな器具を取り出して確認する。
ノイズメーカー。
情報の海への接続を阻害し、魔法士の能力を押さえつける為に作られた道具。
これをセットして今回の任務は終了となる。
実はこれが一番難しい。
『締めね。まぁ、ここまでくれば大丈夫でしょう。気合入れて頑張ってね』
右手で『アポカリプス』をしっかりと掴む。
そのまま左手で何もない空間を掴む。
そこには確かに手ごたえがあった。
そのまま一気に掴んだものを放り投げて、
(『身体能力制御』終了、『アポカリプス』を通常形態に移行)
『アポカリプス』を突きつけた。
「そこまでだ・・・・、ぇ?」
ソラが変な声を上げた。
偏光迷彩のマントを投げ捨てた先、『アポカリプス』を突きつけられているのは・・・・・。
「・・・・お前、誰だ?」
ソラの問いに、薄茶色の髪の男の子は首を傾げた。







<作者様コメント>
さて、ここでエド君登場です。
ソラとの戦いで意表を突かれて敗退したエド君。
さすがにあれは予想できなかったでしょう。
さて、次回は、絶体絶命のエド君に救いの手が!?
黒衣の騎士が現れます(NOT黒沢さん)
次回は、隠されし秘密(前編?)です

<作者様サイト>
なし

◆とじる◆