■■謳歌様■■

砂上の奇跡〜それぞれの身の振り〜







「失礼しました。けど、どうしても依頼を受けてくれた人の腕前を知っておきたかったので」
 言い訳じみた言葉を、しかし言い訳じみていない口調で呟き、少年――昂は語りだした。
「依頼の内容は、メールにも書いてあった通り僕ともう一人を、アジア、具体的には日本へと逃がして欲しいのです。察しているとは思いますが、僕たちは今狙われている立場にあって、どうしても戦力が必要です」
「日本?まあ、確かにアジアって書いてあっただけでそれ以上に細かい地域までは書かれていなかったけど……。別に日本でもどこでも了解することには変わりないけどね。それで、もう一人っていうのはどこに?」
「僕達の家にいます。何らかの形で身を守らない限り、この極寒は辛いから」
 その昂の言葉に、もう一人は魔法士じゃないのかな、と錬は思いながら、しかし別のことを問いかけた。
「そう。……で、依頼に関して詳しい話を聞きたいんだけど……」
「分かりました。じゃあ、家へ案内します」
 
 
 

「ただいま」
 昂が案内したのは、死に絶えた町の一軒の酒場……その地下倉庫だった。元はワイン等を保存するための倉庫だった名残からか、多少掃除はされているもののところどころに割れたビンが転がっており、ワインの臭いも微かに残っていた。
「お帰りなさい!昂、怪我は無い?」
 その倉庫の奥の方から、若い女声が響いてきた。倉庫らしくあちこちに反響しているのに、何故か全然聞き苦しくなく、むしろ心地よいとさえ思える声だった。
 その声がしてから数秒後、倉庫の奥へと続く道の傍らから一人の少女が姿を現した。
 腰まで届く茶色の髪と、髪と同じ茶色の大きな瞳が印象的な、昂と同じくらいの12,3歳ほどの少女だった。見慣れない、というよりも、それに類推したものすら錬には思いつかない、紅白の奇妙な衣服を身に纏っていた。ゆったりとしているというより、素人目には上は白色、下は赤色のいくつかの布が何枚も重ねられている服に見えた。それは、一世紀ほど前までは神道系の衣装として有名であった、所謂巫女服と呼ばれる衣装だった。
 当然、ファッションよりも実用が基本、というよりは必然である今の時代において、シティの外で暮らす者が着ていることは皆無の、ある意味絶滅種だ。
 尤も、実用性においては少女も心得ているのだろう。その巫女服の上に昂と同じような、しかし色違いで灰色のコートを羽織っていた。それが微妙にミスマッチした姿を作り出してしまってはいたが、それでも元がいいからだろう、錬の目には十分魅力的な少女に見えた。時代が時代ならば、アイドルと呼ばれる職業の中にいても不思議ではないほどだった。
「ただいま、希美(のぞみ)。悪いけど、温かい飲み物を用意してくれないか?『何でも屋』さんが来てくれたから」
 昂がそう言いながら、背後に立つ錬に軽く視線を流した。それだけで昂の意図を正確に察すると、錬は少女――希美に向かって言った。
「初めまして。天樹 錬といいます。よろしく」
 言いながら軽く頭を下げると、少女もそれに応じて、
「初めまして!ボクは希美っていいます。ファミリーネームは無いけど、強いてあげるなら一宮 希美です。よろしくお願いします」
 同じように頭を下げて自己紹介を返してくれた。
「さ、簡単に自己紹介も済んだことだから、仕事の話に入ろうか。希美、飲み物は会議室へよろしく」
 はいは〜い、という元気な声を残しながら、少女は倉庫の奥へと走って行った。その姿に昂は苦笑しながら、
「まあ、あんなだけど、意外と付き合いやすいから安心はして」
「いや、別に付き合いやすくても意外ではないような気もするけど……取り敢えず、あれだけ元気な子を見るのは凄い久しぶり」
「そうだろうな。今は時代が時代だから。……いや、問題なのは時代なんかじゃなくて……」
「え?何か言った?」
 昂の呟きを聞き取れなかった錬がばつが悪そうに聞き返してみたが、しかし昂は、泣いているような笑っているような奇妙な表情で、
「いや、何でもないよ。ただの独り言」
 それだけを返した。
 
 

「ヴィドさんに会ったの?」
 数分後、温かい紅茶を前に、3人は一つの机の前に集まっていた。昂が『会議室』とは言ってはいたものの、4、5人が使えるほどの大きさの机と、簡易の椅子が4つおいてあるだけの、倉庫予備軍の様な部屋だった。
 そこに集まってまずした話が、どういう経緯があって天樹一家に依頼をするに至ったか、というものだった。
「会ったというより、何度か世話になったことがある。一年ほど前までの、アジア地域に住んでいた頃から」
 言われて、ようやく錬は依頼人である二人が東洋人であると言うことに思い至った。名前からしても、明らかに日本人のそれだ。国家という枠組みが希薄化した今の時代、特にシティの外では地域とそこに住む人種が噛み合わなくなって久しいため、南米に東洋人の二人がいてもそのことに対する疑問はまったく湧かなかった。錬自身、日本で自分の帰りを待つ恋人が、肉親はいないものの人種的にはドイツ人なのだからなおさらだ。
「けど……やっぱりそうだよね。いくらなんでも、完全に裏の取れていないような仕事を押し付けるようなことはしないだろうとは思っていたんだよね……」
 バックアップとして控えている姉に対して、錬は微かに苦笑を浮かべた。
「それで、話を具体的な内容に移すけど、いい?」
 敬語を使い慣れていないのだろう、昂の錬に対する態度には礼儀が込められているのだが、いかんせん平坦な言葉で錬に問いかけてくる。
「あ、ごめん。お願いするよ」
「はい。僕達はある事情から、一年前に日本からアメリカへと逃げることとなりました。けど、つい一ヶ月ほど前に日本のほうでかなり大掛かりな事件があったということを知り、故郷が気になって、急遽帰ることに決めたんだ」
 一ヶ月ほど前の日本での大掛かりな事件。
 ……やっぱり、あれのことだよね……。
 当事者であった錬は内心で暗い気持ちになりながらも、しかしそれを表情に出すことなく昂に問いかけた。
「シティ神戸の事件のことだね。ということは、君達も神戸の近くに送ればいいのかな?」
「ええ。正確には四国までお願いします」
 間に海を挟んでいるとは言え、意外と錬の住む町から近い。そんなところにも集落があったんだな、ということを思いながら、錬はさらに問いを重ねる。
「それで、君達はどんな事情があって、どういう人たちに狙われているの?あ、話せない内容ならもちろん話さなくてもいいよ。ただ、話しても構わないようなら、少しぐらい予備知識は欲しくて」
 すると、昂は胸の前で腕組をして、思案するように視線を天井へと向けた。話すべきかどうかを悩んでいるのだろう。
「あ、いや、そんなに悩まなくても……。仕事を始めてからおいおい言ってくれたって全然構わないんだし……」
 錬が申し訳ない気持ちになって言うと、昂は腕組をやめて錬に視線を向けた。おそらく、腕を組むのは昂の考え事をする際の癖なのだろう。
「別に話しても問題のあるようなものじゃないよ。ただ……」
「実は、ボク達も相手が何者なのかはっきりと分かっていないんだ」
 昂の言葉を引き継ぐように、希美の声が重なった。
「最初にボク達が襲われたのは2年ほど前かな。ボク達は『何でも屋』としてはそれなりに繁盛していたんだけど、ある仕事の途中で、見知らぬ人達に突然襲われたんだ。最初は仕事上かち合った人達なのかと思っていたんだけど、その仕事が終わってからも、時々思い出したように現れるようになって」
「最初の頃は自分達の身を守りながら、僕達の手で相手が何者なのかを調べようとしたんだ。けど、それが失敗に失敗を重ねて、結局他の『何でも屋』を雇ってそいつらが何者なのかを暴こうとしたんだけど、相手を探りに出た『何でも屋』は、二度と立てない姿になって戻ってきたんだ。僕達が相手を退けている分にはそれほど脅威にならなかったはずなのに、腕に覚えのある同業者がね。まるで、こちらから調べるのだけはタブーである、って言っているように」
「それはまた奇妙な話だね……。それで、こっちにまで逃げることにしたの?」
「そうだよ。僕達だけでも何とかなるものならおびき寄せるなりして早いうちに終わらせたかったし、同業者がやられたみたいに僕達では何とも出来ないのなら、故郷に迷惑がかかることは避けたかったから。けど、こっちに来ても襲撃者は絶えずにやって来て、僕達にはその都度撃退する以外に打つ手無しで。このまま生活を続けるのもそうそう難しいことじゃないんだけど、一ヶ月前の神戸の事件も気になるし、一度様子を見に戻ってみるぐらいは良いかなと思ってね。それに……」
「もしかしたら、その襲撃者達はシティ神戸の刺客なのではないか、とも思うから?」
 言いよどんだ昂の言葉を引き継ぐように言った錬の言葉に、昂は驚きではなく苦笑を浮かべて応じた。
「そうだよ。実は半年ほど前から襲撃は鳴りを潜めていて、僕達が何かあったのかと思い始めた頃の一ヶ月前に、シティ神戸が崩壊。もしかしたら、シティの方でも僕達なんかに手を出していられる状況じゃなくなって、その一環で、崩壊の事件が起こったんじゃないかな、と思って。……とは言え、希望的観測を大幅に含んだ推論なんだけど」
 昂はそう言って、照れたような笑みを浮かべた。
 それを聞きつつ、錬もその推論を検討してみる。
 一ヶ月前のシティ神戸の事件は、シティにおいて最重要機密である『マザーコア』に関わる事件だけだっただけに、他に向けていた手を休めて全力で当たっても何ら不思議なことではない。仮令それが、半年も以前からであっても、ちっとも大げさなことではない。
 けどその一方で、やはりまだ判断材料が少ないのも否めない。実際、昂のその推論に直接的な反論を加えることは出来ないが、他の推論を寄せ付けないような説得力も根拠も無い。
 とは言え、昂自身も言ったように、それはすでに分かっているのだろう。それでも、僅かな希望にかけてみたい、という思いがあったのだろう。
 それに、錬の仕事はここで反論したり思いとどまらせたりするものではない。錬がするべきなのは、故郷を心配して戻りたいという依頼主の願いを叶えることだ。反論や葛藤は、錬が促すまでも無く彼ら自身で乗り越えたのだろうから。
 それらのことを確認すると、錬は大きく頷いて言った。
「了解したよ。この件は、責任もって受けます」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 カツンカツン……と、無機質な足音を立てて、男は薄暗い通路を一人で歩いていた。
 いや、男、と評するにはまだ若く、せいぜいが少年止まりの、16,7歳ほどの外見をした少年だった。黒いズボンに黒いシャツ。さらに黒のジャンパーを羽織い、両手に黒の皮手袋をはめた、あたかも闇が動いているかのような錯覚を誘発する、黒一色の男だった。腰には、シティ神戸で多く使用されていた一般的な騎士剣を下げている。
「怜治(れいじ)!」
 その少年の背後から、女性のものと思われる高い声が響いた。少年はその声に反応して足を止め、声がした背後に振り返った。
 すると、少年の背後数十メートルの地点に、こちらに向けて駆け寄ってくる姿があった。
 よほど急いでいるのか、長い黒髪と研究者が好んで着る白衣をなびかせている。こちらは、怜治と呼ばれた少年とは対照的に、服を白一色で揃えている。少年と同じ16,7歳の外見に、綺麗、とかかわいい、とかの類の色気は殆ど見当たらないが、それは当人の無頓着のせいでそう見えているだけであるということは、怜治だけが知っている。
「静華(しずか)か?どうした?」
 怜治の数メートルまで近寄ってきたところで、怜治が問いかけては見たが、荒い息を繰り返す静華はすぐには何も言えず、息を整えてから答えた。
「どうしたって、怜治こそどうしたのよ?今から仕事に行くって言っていたくせに、私を置いて行くの?」
 言われてみてからようやく気付いたが、静華の表情からは微かな怒りの感情が窺えた。そのことに怜治は十近くの言い訳を瞬時に思いつき、効果のありそうなものを選んで口にした。
「……悪い。けど、今回は俺一人で行くよ。静華も、今までのようには行かないことは知っているんだろ?」
 しかし、怜治の期待は無残にも打ち砕かれ、逆に静華の目つきは厳しさを増した。
「知ってるわ。知ってるわよ!けど、だから何?どんなことがあっても、私は怜治のパートナーよ。どこへでもついて行くわよ」
 その静華の答えに、怜治はすぐに答えることは出来なかった。しかし、だからといって静華の言い分を認めて同行を許すことはどうしても避けたかった。
「……そうだな。けど、もう俺達がやろうとしていることは無駄なことでしかないってことも分かってるんだろ?」
「ええ、分かってるわよ。それで?」
「それなら、言わずにも分かるだろ。俺達の組織ももう終わりだから、俺達のコンビも解散だ。放っておいてもそう遠くないうちにここは自然崩壊するだろうから、自分から好き好んで厄介ごとに首を突っ込む必要も無いだろう」
 しかし、怜治の思惑とは裏腹に、静華は怒りの表情を抑えずに問いかけた。
「じゃあ、どうして怜治は行くの?別に命令を蹴っても、それこそ今すぐにここを出ても問題ないはずなのに、怜治は何がしたいの?」
「別にやりたいことがあって命令に従うわけじゃないさ。ただ、けじめだけはつけておくべきだろ。あいつらに、もう俺達は手を出さないから安心しろってことを伝えなきゃいけないだろ。それと、あのことを警告しなきゃいけないだろ。出来るだけ急ぎたい」
「そうね。それはとても大切なことね。けど、どうしてそれをあなた一人でしなければいけないの?」
 静華が、表情から怒りを抑えて問いかけてきた。そのことに怜治は、説得が成功しつつあるんだな、と、誤解をしたまま言い募った。
「今まで襲ってきた奴がいきなり『もう襲うことはなくなったから安心しろ』とか言っても信用されないだろ。だから、こちらの内情も今までの事情も総て、あいつらに知らせる必要がある。だが、こちらの信用を得るほどの量と質の情報を渡すってことは、それだけで国際指名手配にされる可能性が高いからな。一応、まだここも機能はしていることだし、モスクワだかマサチューセッツだかロンドンだかは知らないが、ここに価値を見出しているところがあるんだから。それに、俺が断ったところで他の誰かが行かないとも限らないだろ。それに、場合によっては俺もあいつらのことを守る立場に回るかもしれないからな」
 我ながら、見事な話術と論理的な思考による計画だと、怜治は自画自賛をしてみた。実際のところ、静香を説得できる可能性がそれほど高いとは思っておらず、下手をすれば拝み倒す覚悟さえしていたのだが、この結果を見る限りでは見事成し遂げたのだ、と感慨すら抱いた。抱いてしまった。
 だから、突然腹部に走った衝撃に、なす術も無く両膝をつくこととなってしまった。
 少しの間、その衝撃が静華の右手の拳によって生み出されたのだと気付くことは出来なかった。そしてそれを悟ってから、激痛の中、先ほどまでの無表情はどこへやら、怒りがオーラとしてにじんでいるのではないかと錯覚を覚えさせるほどの怒りを漲らせた静華に、怜治は最後の抵抗とばかりに問いかけた。
「し、静華?何を……」
「何を、じゃないわよ、このバカー!」
 続いて、怜治のシャツの胸元を両手で掴んだ静華が、手加減も躊躇いも無くヘッドバットをかましてきた。
 ゴン、と、妙な清々しささえ覚えてしまうような音が響いた。
「あ……あ……あ…………」
 下手をすれば意識さえ失いかねない衝撃でふらつく頭を、これまた意識を吹き飛ばそうとしているのではないかと勘繰ってしまうほどの勢いで揺らす静華が、鼓膜よ破れろ、と言わんばかりの大声で叫んだ。
「何一人で完結させてるのよ。させようとしてるのよ!バカ!それに何?ここが無くなるからコンビは解消?バカバカ!分かってないの?分からないの?あなたがそうであったとしてもね、私は、この組織の同僚だからあなたと組んだんじゃないわよ!仕事だけの関係で組んだんじゃないわよ!それに、苦労も不幸も一緒に背負うためにあなたの傍にいたのよ!傍にいたいのよ!それなのに、あなただけがそんな目にあうのをどうして私一人が安全な場所から眺めていなきゃいけないのよ!そんなに私が信用できない?そんなに私が信頼できない?何とか言いなさいよ!」
 こちらの頭をがくがくと揺すりながら大声で叫ぶ静華を前に、こんなに感情を爆発させた姿は、ともに仕事を始めた4年前から思い返してみても数えるほどしかないな、とどこかで冷静に考えながら、怜治は激痛と激動に耐えて思考を始めた。
 何も、自分一人で完結させることを望んだわけじゃない。ただ、静華だけは、誰よりも大切な人だけは、これからも幸せな人生を歩んで欲しいと思ったから、どうしても一緒に行くことを認めるわけにはいかなかっただけだ。それに、自分だって組織がなくなる程度でコンビを解消する気なんかない。ただ、今回の件は失敗するにせよ成功するにせよ、もうここへと戻れなくなるのだから、必然的にコンビの解消を避けることが出来ないだけだ。自分一人で不幸を背負うことは嫌だし、苦労も分かち合いたいと思う。けど、それ以上に、静華には幸せになって欲しいと思う。ただそれだけのことだ。信用しているし、信頼している。だからこそ、もう自分なんかいなくても、きっと幸せな人生を掴み取ることが出来るだろうと、信じている。
 一方的な思いだけど、それらの気持ちだけはどうしても譲ることが出来なかった。そして、静華の次にあの二人のことも大切で、だからこそ自分の手でけりをつけて、かつ幸せな生活を送れるようにしてあげたかった。
 しかし、それらを言葉にしようにも、適切な言葉が思いつかない。それらの言葉を正直に話したところで静華が納得してくれるとも思えないし、むしろさらに怒りを買うことは火を見るよりも明らかだった。
 さてどうしようか、と思い、思考に沈んでいた意識を静華へと向けてみて、ようやく気付いた。
 静華が、怜治のシャツの胸元を掴んでいた両手のうち、右手を離してこちらの額に置いている、と言うことに。
 非常に嫌な予感がした。何というか、今すぐ逃げないと命に関わってしまうのではないか、と思えるほどの危機感すら覚えた。生存本能が警句を発するほどの。
 だが、その危機感を覚えたときにはすでに、少しばかり手遅れだった。
「怜治……」
 俯いた顔は前髪に隠れて見えないが、その震える身体と声から、怜治は天国と地獄のどちらかの可能性しか残っていないことを覚悟し、答えた。
「……何?」
 惚けた調子で答えたのだが、案の定、静華はその反応をまったく無視して、解答を突きつけてきた。
 ……最悪だよ……。
 それは、怒りをにじませかつ涙を流していると言う、天国と地獄の両方を、互いを相殺することなくむしろ高めあう形で混じり合わせた解答だった。
「バカー!!」
 叫び声と共に意識を根こそぎ奪う平手が左頬に直撃し、怜治は受身すら取れずに床に転がった。

<作者様コメント>
「これって、完全に文庫小説用の書き方だよね?ネットでも大丈夫なん?」by友人
 ……うあーーーーー!!!!諸侯無常、死屍累々、四面楚歌、犬猫輪舞(!?)……。とにもかくにも、申し訳ない気持ちは多々どころか、多々々々ぐらいあります。その友人は私とは違い、ネット暦が長く、かついくつかの情報処理の資格すら有するという、私から見て『コンピュータの神』にも等しい存在なのですが、その人の第一声がそれでした。うう……確かに、他の方々と比べてみましてもその傾向は顕著だな〜という自覚が無きにしも非ず、です。しかし!書いてしまったものはどうしようもない!という、開き直りという武器の如き盾をかざして突き進みます!
 ……ごめんなさい。今度からはもっと勉強し直したいと思います。
 謳歌

<作者様サイト>

◆とじる◆