砂上の奇跡 〜生きる意思、殺す覚悟〜
(演算エラー。ノイズを検出。I-ブレイン動作状態低下。『コンチェルト』強制終――訂正。『ディヴェルティメント』強制終了)
「やっぱり、一枚岩に行くわけが無いよね……」
ノイズメイカーによってI-ブレインの機能が低下する中、危うく加速能力が失われそうになったところを飛行能力を犠牲することで何とか持ち直し、晶は苦笑に近い笑みを浮かべたまま銃声の鳴り響く通路を駆け抜ける。
(攻撃感知。氷盾を生成)
直撃の軌道を描く銃弾をオートで弾き、進行方向を塞ぐ一団の脇を通常の5倍の速度で通り抜ける。I-ブレインの動作効率は通常の46%。本来ならば30倍ほどの速度を得て無理やり通るのだが、ここまで機能が低下しているとなるとそういうわけにも行かない。何せ、晶の腕の中には意識を失った黎も納まっているので、自身の加速のための演算と、加速の反作用を抑えるための演算のほかに、黎にかかる負担を抑える演算も必要となっているため、40%程度の精度では5倍がギリギリの値だからだ。
……3割を切ったら加速は無理かな。
そんな自覚さえしている危機的状況の中で、しかし晶はI-ブレインから帰って来る予想パターンを前に苦笑をもらした。
つまり、この先にはさらに大量・強力なノイズメイカーが設置されているであろう、という予想に。
……昂と希美も頑張ってくれているみたいだけど、やっぱりちょっと難しいんじゃないかな?
厳戒態勢が取られていると言うのに、晶の方へと向けられる兵の数はあまり多くない。もしI-ブレインが完全に起動していれば全滅させることも可能な程度の人数だ。だが、実際問題としてI-ブレインの機能はいまや風前の灯で、到底一々戦闘をするほどの余裕はなさそうだった。
……せめて6割、ないしは5割の機能が残っていれば発動できるのに……。
悔しいとまでは思わないが、晶はその考えに眉をひそめた。
だがそんなことを考えながらも、晶はノイズメイカーが控えているであろう場所まで着実に近づきつつあった。後ろからも数十、数百人の兵士の足音が近づいてきており、確実に追い詰められつつあった。
……全く。こんなことならモスクワの見取り図の一つや二つぐらいは手に入れておくんだったな。
戦場において、地理・地形を知っているのと知っていないのとでは雲泥の差が現れる。それは退路を見出せることもそうだが、相手の大まかな戦力分布も分かるし、逃走路におけるフェイントを見つけることも可能となるからだ。したがってその地理情報の一切を持たない晶は、相手がどこにどれくらい控えているのか、上手く逃げられているのか相手に誘い込まれているのか、そもそもどの方向の通路が外へと繋がっているのか、などが一切分からなかった。
だから、晶がその場所に何の対策も立てられないままたどり着いてしまっても、むしろ当然の帰結とさえ言えた。
(脳内ノイズ増大。I-ブレイン稼働率34%に低下)
軍の一部隊が余裕を持って整列できるような開けた場所に出た晶の前には、大型のノイズメイカー3基と、数十の銃を構えた兵士が悠然と立っていた――ではなく、既にこちらに牙を向けてきていた。
……勧告すら無しか。
雨あられと降り注ぐ銃弾と強力な電磁波を前に、晶は半ば反射的な動作で攻撃軌道から退避する。対反作用の演算を失敗する恐れがあったので加速率を3倍にまで減速しているが、それでも銃弾を身体運動と氷盾で防ぎ、わき道へと逃れた。
……あそこに網を張っていたってことは、あそこを超えなきゃ外への道は無い……か。
わき道にそれ、小康状態を取り戻した晶はI-ブレインからの予測を考慮に加えて、自身のI-ブレインを用いて対策を考えて――あっという間に挫折した。
……あそこを抜けるのは今のぼくの戦力では無理。さらに、引き返して別なルートを探すことを成功する可能性も1%未満……?
そして、さてどうしようか、というところに思考は戻る。このまま追い込まれたねずみの如く震え上がっていては、晶が追い抜いてきた兵士たちとの合流を果たさせてしまい、さらに状況が悪化することは火を見るよりも明らかだ。
だからと言って無策で飛び込もうにも、今晶が身を潜めている通路には、周囲の壁に埋め込まれている緊急用の小型のノイズメイカーがいくつかと、設置されている3基のノイズメイカーの内1基分しか効果範囲に入っておらず、ここより接近するとさらに残り2基の効果範囲内に飛び込むことになり、作業効率が今よりも格段に低下してしまうことは予想に難くなかった。
……こうなったら、昂と希美には悪いけど、自殺覚悟でアレを発動して強行突破しかないね。
『カノン』あるいは氷槍で破壊、あるいは氷弾を可能な限り形成して、可能な限り運動量を与えてノイズメイカーを蜂の巣にする、ということは不可能だ。何故なら、一人だけではあったが、ノイズメイカーの傍に抗体デバイスをつけた騎士の姿があったからだ。通路に避難した今の状況でも追撃に現れないところを見ると、ノイズメイカーを守ることだけを目的として控えていることは火を見るよりも明らかだった。そして氷弾や氷槍は極端に騎士が持つ『情報解体』に弱く、容易く防がれてしまう。その対応策としては、対処できないほど数を増やすことぐらいなのだが、I-ブレインの予測では、相手が迎撃できるであろう可能数は、相手が並の騎士であった場合は10程度、第一級の騎士であった場合は20程度。ノイズだらけの場所であるので、相手が優れた騎士であろうと並みの騎士であろうとあまり変わらない数なのだが、それにしたところで今の晶に可能な氷槍の形成本数は限界で6つ。しかも限界の6つも作ると、I-ブレインが機能を回復するのに数分を要するようになってしまう。総合的に見て、成功する可能性は無いと考えておいた方が良い。
そもそも、『カノン』や氷槍で破壊するにしても、すでに30%にまで低迷している中では余程近づけないと破壊できないものしか作れず、そこまで接近させると3基のノイズメイカーの範囲内に入ってしまい、起爆の演算を受け付けなくなってしまう可能性が96%以上も有るのだからなおさらだ。
だからこそ、自殺行為と分かっていながらも晶はその演算を起動することを決めた。実際、I-ブレインの試算では30%の稼働率があれば取り敢えずの起動だけは可能である、と出ている。
だが、それを実行するに当たって敢えて晶が計算から除いた不安要素は3つほどあった。
まず1つ目は、接近することでI-ブレインの稼動率がさらに低迷した場合、能力が強制終了させられてしまう可能性がある、ということ。
続いて2つ目は、現時点で既に示されている
(I-ブレイン蓄積疲労47%)
というメッセージ。これでは仮令ここを乗り切ったとしても、ノイズメイカーの中を全力起動させて強行突破した代償はI-ブレインの蓄積疲労に反映され、下手をすれば同じような状況がこの後も待っているかもしれないのに、ここより後ではI-ブレイン無しで乗り切らなければならなくなるかもしれない、ということ。
最後の3つ目。これが一番重要なことなのだが……そもそも、30%程度で発動させたものが、数十人の兵士と一人の騎士相手に通用するとは思えない、というものだ。
だが、それらの不安要素を振り切って能力を起動しようとしたところで――
左袖が引っ張るられる感触に、ふと、晶は動きを止めた。
「……誰?」
突然I-ブレインが捉えたその声に、晶は思わず起動の作業を中断してその声の主へと視線を向け、笑顔で言った。
「初めまして。ぼくは蘇我 晶。君を守るように頼まれた、いわば君の味方だよ」
晶の腕に納まっている声の主――黎に晶は簡単な挨拶をする。今しがた目を覚ましたばかりなのだろう、黎は今の状況がつかめておらず、無表情なまま視線を左右に動かして、再度口を開く。
「ここは?」
「国はロシアの都市モスクワ、さらに狭義でのこの場所は、退路その最中、ってところかな?
まあ今は非常に切羽詰った状況だから手早く説明するけど、ぼくは君を愛するある二人から君をモスクワから逃がすように頼まれて、今まさにそれを実行に移しているところ。……君もI-ブレインを持っているから気付いているかもしれないけど、ここはノイズメイカーの効果範囲内で、しかもかなり大勢から追い立てられているから、強行突破をしようって画策してそれを実行に移すところなんだ」
手早く説明するが、相変わらず無表情なので黎に伝わったのか伝わっていないのかが分からなかったが、そもそも晶は、他人が何を考えているのか、それ以前に相手が何をしているのか、ということが殆ど理解できない。I-ブレインがその人となりを、データを蓄積していくことで統計的確率的に判断・提示して、そのI-ブレインから送られてくる情報によってしか相手のことを把握することが出来ず、したがって初対面の相手に感情面におけるコミュニケーションをとることはほぼ不可能だ。例外は、錬のような素直な価値観を持った者なら、今までの『人間』という区分における経験を基にしたデータで補うことが出来るぐらいか。
「……ノイズメイカー?」
「知らない?これまた手早く説明させてもらうと……I-ブレインの効率を低下させる機械で、今僕らはそれにとらわれているから大体全力の3割程度しか能力を発揮できない状況にいるんだ。ぼくの演算能力がもっと高かったら3割程度の能力に陥ったところで乗り切れるんだけど……」
説明すべき内容と、説明できる関連の内容をごっちゃにしてI-ブレインから受け取って、さらにどの情報が今必要最低限のものでどの情報が補足説明なのかを取捨選択しないままで説明してしまったため、ついいらない説明までしてしまったかな、と思い、途中で口を閉じる。無事モスクワを脱出できたら、もう少しI-ブレインから受け取る情報を整理して受け取れるようにしよう、と考え、それをI-ブレインのスケジュール欄に書き込む。そうすることで未来の自分の姿を思い描くという、一種の願掛けだ。
「演算能力……」
「そう、今必要なのはI-ブレインの稼働率か、あるいはI-ブレインそのものの演算能力。以上、状況説明お終い。多少休めたし、そろそろ行くよ。しっかりつかまって……」
と、晶が黎に注意を促そうとしたとき、それは起こった。
(高密度情報制御感知)
という晶のI-ブレインの警告と、
(『Dream Theater』起動。稼働率を34%に定義、『Lifting
Shadows off a Dream』発動)
という黎のI-ブレインの起動が発せられた次の瞬間に晶は、己のI-ブレインから送られてきたありえないメッセージを前に、瞬間、笑みを失う。
(作戦変更を推奨)
……何で?『カノン』や氷槍での攻撃は成功率が1%未満……じゃない?
何が起こったのか、何が起こっているのかがわからず、晶はI-ブレインを隅から隅まで調べ、その原因に行き当たった。
「黎?……君、今ぼくに何かしたの?」
問うと、黎は一つ首肯を返して、
「演算能力……」
片言しかしゃべらない黎の言葉だが、晶は正確に今の状況を把握し、再度笑みを浮かべて
「ありがとうね!これで何とかなるかもしれないよ!」
言い、速やかにI-ブレインの戦闘立案に従って演算を行う。
(氷槍発動)
形成した氷槍の数は優に30を下らない。それらが一斉にノイズメイカーがあると思しきところへと飛び、そのいくつかを銃弾や騎士による情報解体で阻まれながらも、数本だけはノイズメイカーに突き刺さり、次いで爆発した。
(I-ブレイン稼働率64%に向上)
今の爆発で破壊されたノイズメイカーは2基。だが残る1基も同様の手段によって破壊し、そのついでに壁も破壊され、埋め込まれていた小型のノイズメイカーもいくつか破壊される。
(I-ブレイン稼働率72%に向上)
「これだけあれば十分!黎、急行突破するからしっかりつかまっていてね!」
ノイズメイカーと対する際に気をつけなければいけないことは、I-ブレインの強制停止をくらうことだ。その瞬間総ての魔法士能力が解除されて無防備になるだけでなく、下手をするとそのときの衝撃で気を失ってしまうこともあるためだ。それを避けるためには、常にI-ブレインを全力で起動させておくのではなく、予め作業効率が低下しても起動可能な稼働率で作動させておくことだ。
(稼働率を60%に定義、対象範囲を1〜5に設定。『剣の舞』発動)
そして、晶はノイズメイカーを破壊されて浮き足立つ兵士の一団向けて駆け込んだ。
それは、無数の割れたガラスの破片が舞う、という表現が一番近いだろう。晶の周囲を、正確には地面より下を除く晶から1メートル以上5メートル以内の範囲を、窒素結合によって形成された無数の刃が飛び交っていた。
その速度は秒速200メートルを超え、しかも晶の演算によって超高密度、硬質に保たれており、コンクリートのみならず、鉄や銅などの単純な金属ならば容易く貫通する威力を秘めていた。その軌道は晶でさえ把握していないランダムのものと、攻撃に反応して盾の役割を果たすものの2種類。だがそのどちらも晶が設定した、晶から1メートル以上5メートル以内の範囲を誤差0.05メートル以内に収めた軌道しかせず、晶と、その腕に抱かれる黎には累が及ぶことはない。
これが晶の奥の手である、攻守一体の能力『剣の舞』。
刃が窒素結合で作られているため情報解体で容易く分解されてしまうが、刃の数が減って演算が軽くなればその分新たに刃を形成するため、事実上この能力の前には、炎使いにとって苦手な騎士でも手を出せない防御能力を備えており、同時に晶自身に運動能力の強化を重ね合わせることによって、ただ晶が高速で近づけばそれだけで防御、回避が困難な有効な攻撃手段にもなる。
欠点を上げるとするならば、I-ブレインへの負担が決して軽くない、というところか。全力で起動し続ければ7,8分程度で疲労が限界を迎えてしまうほどだ。そのため、効果範囲か、刃が飛び交う速度か、刃の数・大きさか、個々の刃の密度・強度か、範囲からの誤差の程度か、それらの内どれかを犠牲にするのが普通だ。
だが、今回晶は敢えて総合的に見て全力と同程度の演算で『剣の舞』を発動した。その理由とそれを可能にする秘策は、晶の腕に抱かれる黎にあった。
「ありがとうね、黎。本当、『魔法士使い』とはよく言ったものだね。けど、疲れたら言ってよ?突然止められるとお互いに危険になるからね」
「……はい」
突然のI-ブレインの能力回復。その理由は、黎による魔法にあった。
黎の発動した『Lifting
Shadows off a Dream』。その能力は、対象の魔法士能力から演算の無駄を省き、同時に演算を受け持つことで機能を向上させるという、他の魔法士を補助するためのものだ。今回はノイズメイカーの範囲内であったため全力では補助できていないが、もし全力で補助した場合、I-ブレインと異常に高い相性を示し、第一級の炎使い2人分の性能でさえも追いつかない程高性能を誇る晶でさえも2倍近い機能向上が望めるほどだ。
この黎の能力によって機能を飛躍的に高められた晶のI-ブレインは、ノイズメイカーの範囲内においても十分な成果を出すことに成功し、同時に疲労の溜まり方もゆっくりとなっていた。もちろん、その分を黎が受け持っていることは紛れも無い事実なのだが、それでもそれ相応の成果はある。
モスクワの研究施設内の壁や天井、床に小型のノイズメイカーがあることは既に分かっている。それに対応するため『剣の舞』刃の数を多くし、移動速度を上げ、さらには範囲を5メートルまで伸ばすことによって、範囲内に収まった兵士、魔法士のみならずノイズメイカーの9割ほどを破壊しながらの疾走が開始された。
今回の件に関わってから今に至るまでに錬が創生した能力は4つ。
静華の『電磁気学制御能力』のコピー、『キルヒホッフ』と、
昂の『数値情報制御能力』のコピー、『ヒルベルト』と、
希美とファイの『情報制御制御能力』を基にした、『ラドヤード』。
そしてさらに、怜治の『神葬』に組み込まれていた機構『強制合一機構』をヒントに、『キルヒホッフ』と『ヒルベルト』に加えて後2つ、『マクスウェル』と『サイバーグ』の4つの能力を元に改造を施し、一つの能力として合わせることによって完成した、4つ目の能力『ディラック』。
必要なのは、特定空間に特定の条件を作り出すこと。
まず、『サイバーグ』によって錬の目前、差し出した右手にボールがくっつくようなイメージで球状の空間を設定。そこに『マクスウェル』の能力によって特定の分子を集め、かつ、集めた以上その特定の分子が入らないようにし、かつ温度を調整する。さらに分子が集まった段階で、『キルヒホッフ』の能力で電磁的に分子に影響を与え、その物質を作り出す行為を始める。
しかしこのままでは、その特定の物質を作り出すには莫大な時間を要する。
その物質が初めて人工的に作り出されたのは、今から2世紀も前のこと。そしてその当時の技術力では、わずか1グラムである10の23乗×6個作り出すのにも百億年を要するという計算結果が算出された。その当時と比べて飛躍的に上がった技術レベルと、さらにその最新技術の化身である『魔法士』の能力を使っても、このままでは必要量を作り出すには数千万年の時間がかかる。
そこで、『サイバーグ』の能力が利用される。その作業が始まった特定空間に限定して、その空間内の時間経過を数百万倍にし、『自分に都合の良い物理法則が支配する』事の応用により、『その物質が通常の数万倍作られやすい』ように物理法則そのものを書き換える。そこにさらに『ヒルベルト』の数値情報により、分子運動制御の精度、電磁気学制御の精度、空間内の時間の加速率、物質の生成のされやすさなど、時間を短縮できそうなもの全てに数十倍の加算を行う。
尤も、分子運動制御や電磁気学制御はやろうと思えば理想レベルの半分ぐらいまで効率を上げることが出来、それ以上の効率化は望めないので、予め理想レベルの数十分の一程度であるように精度を抑えた分子運動制御と電磁気学制御のプログラムで組み込むことで、莫大な容量を軽くしておくことに使ったのだが。
だが、それでも大規模すぎる能力には違いない。機能ではなく性能だけで見れば錬より何倍も優れているフィアのI-ブレインでさえ、騎士剣による『空間に作用する』箇所の処理を補助してもらわなければ起動すら出来ないほどだ。もし錬だけで起動しようとすれば、それこそ騎士剣だけでなく、分子運動制御か、電磁気学制御か、数値情報制御か、それらの補助をしてくれるデバイスも一つ二つ必要となるだろう。
だが、それでも錬とフィアによってその能力は起動され、その物質の――否、『物質』ではないものの生成はわずか十数秒で終了した。
「……最後に一つだけ、言わせて……。僕を恨んでくれても良い。詰っても良い。思いっきり泣いても良い。だから、どうか……後悔だけは、しないで」
それは、果たしてフィアだけに向けられた言葉か。その真意を知っていても、しかし分からないままに、フィアは素直に答える。
「はい。私は、自分の意思で錬と一緒に行きます。どこへでも……何へでも」
不遜ながらも、悲しみを覚えた。
贅沢ではあるが、喜びを覚えた。
だから、もう躊躇いは無かった。
錬は、再度フィアのI-ブレインを操作する。内容は、有効範囲を限界近くまで広げつつも今作り上げたモノの周囲だけを取り込む、というもの。それにより、それは『暁の使者』とモスクワ軍がいる近くの空間までの十数キロの距離を運ばれ――
解放された。
次の瞬間、フィアの手に収まっていた騎士剣が性能の限界を迎えて砕け散るのと同時に、爆発という表現では収まりきらないほどの破壊が吹き荒れた。
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