砂上の奇跡 〜砂上の奇跡〜
「それじゃあ、次はぼくからの問いに答えてくれないかな?」
返り血で真っ赤に染まった自身の身体を気にすることなく、むしろ場違いなぐらい、不自然なぐらい自然な笑みを浮かべて、危なげなくフライヤーを操縦しながら、晶が問いかけた。
何か言いたげな希美の視線には気付いていたが、分かっていながらそれを無視した。希美が言いたいこと、晶の口からはっきりと聞きたいことが何なのかも知っていたが、それでも敢えて。
だからなのか、辺り一面に広がる真っ赤に染まった大地を超えて高速で走るフライヤーの操縦に、どこか目をそらすような、逃げているような心理が働いているような気がした。だが、その思いに気づかない振りをして、晶は問う。
「……どうして、そんな問いかけを?」
疑う、というよりは、伺う、という感じで昂が聞き返してくる。
「君たちにとその『黎』って子の間には、どういう関係があるのかな?って思ってね。そりゃ『黎』を止めなきゃシティが大変なことになることは分かっているけど、それ以外にも何か、黎って子を止めなきゃいけないと思っている理由が、つまり特別な関係でもあるのかな?とね。
もっとはっきりと言うなら、一度ぼくが似たような質問をしたよね?『黎、って、誰のこと?』って。そのとき、二人とも凄く逡巡してから答えてたから、もしかしたらあのときに説明した以外の答えもあって、どっちを言おうか迷っていたんじゃないかな?って思ったんだ」
晶には『勘』というものがほとんどない。外界を認識するのは、それまでの人生で培ってきたデータを元にした、『科学的根拠』による推測だけだ。だから、あのときの二人の様子からそのことを推測することは簡単だった。
ただ、そのときはわざわざそこまで聞こうとは思わなかった。今だって、強いて聴かなければならない理由があるわけでもない。
それでも今、こうして問いを口にしたのは……少しでも、この二人の力になる理由が多くほしかったからなのかもしれない。このままの自分では、希美の問いでは無いが、未来を見据えようと頑張る意思が出せるかどうかが不安だったから。
「それで……答えは?」
そんな心情を隠すように、努めて気楽さを装って問いかける。すると、わずかな逡巡の後、昂が躊躇いがちに答えた。
「黎は……僕と希美の子どもだから」
聴覚から入り、I-ブレインにて判断された情報が晶に届き、その段階になってようやく晶はその情報の真偽を疑い、結果として大幅に返答が遅れた。
……今、何て言った?
聴覚には問題は無く、自身のI-ブレインに記録された記憶を再現してその言葉が聞き間違いではないと重ねて確認すると、今度は疑惑の瞳で昂に問いかける。
「ありえないことでは無いけど、流石にそれはちょっと……」
見た目では数年、実年齢では十年近く年下の子どもに言われて素直に信じられるほど、晶も世間知らずではない。ましてや、生まれは研究所で、ここ数年は放浪生活を送っていた者が言った内容ともなればなおさらだ。
「ああ、言葉どおりの意味としては取らないで。ただ……立場上そうって言うだけだから。つまり――」
そして昂は、自身と希美の生い立ちについて語り、このときようやく、晶は昂と希美の生まれについて知った。
一宮 洸のクローンの、一宮
昂。
一宮 望のクローンの、一宮
希美。
一宮 怜のクローンの、一宮
黎。
つまりは、そういうことだ。
「なるほど……。だから、あの『全統士』の名前が『怜治』なんだね。それじゃあ、生まれてきた子が女の子だったときは『静華』にしようって決めていたのかな?
……けど、何で一度も会ったことの無いのにその子を大事に思えるの?」
家族というものにおける我が身を振り返っての、非難でも皮肉でもない純粋な問いに、希美が首を傾げながら答えた。
「う〜ん。実は、ボク達にも理屈は良く分かっていないんだ。ただ、大切にしたいっていう気持ちだけは確かにあるから」
そう言い切る希美の顔にも、傍らに座る昂の顔にも、見た目12歳、実年齢3歳と4歳とは思えない『親』としての顔があった。
その時に自分が感じた、羨望にも似た、しかし穏やかな感情を思い返して、晶はその時と同じような穏やかな表情で黎に挨拶を促した。
「ほら、黎、挨拶をして」
「……初めまして。黎と言います」
晶に促され、黎は抑揚の無い平坦な口調で言い、おずおずといった様子で錬に右手を差し出した。
「あ、初めまして。錬です」
錬が差し出された黎の手をとると、暖かい手の感触が心地よく右手に収まる。
その光景を見た晶が、無表情な笑みではない、純粋に嬉しそうな表情で黎の頭を撫でた。
「よく出来ました。偉いぞ」
晶に褒められ、無表情だった黎にもわずかながらも笑みらしき表情が生まれた。そこで気付いたのだが、黎の無表情は、感情の機微がない状況が長く続いたことによって無感動が植えつけられたことが原因ではなく、まだ生まれて間もないため感情を知らず、いわば感情が真っ白なことから来るものであった。つまり、今は最も刺激を吸収している状況にあり、どこか晶を真似しようとしている様子さえ見て取れた。
その光景がいかにも仲の良さそうな兄弟のように見えて、錬が自然に微笑みを漏らすと、
「はい、姉さん」
黎が、晶に応じた。
……え?
何か、とてつもなく違和感を髣髴させる台詞が聞こえたような気がし、錬は一瞬思考を止めて先ほどの黎の台詞を心の中だけで反復する。
「また『姉さん』?ぼくとしては、黎にはかわいらしく『お姉ちゃん』って言って欲しいんだけどな……。錬はどう思う?」
「え?えっと……何が?」
……落ち着け、落ち着け。……落ち着け……。
呪詛の如く自分に言い聞かせつつ、錬は状況を把握しようと必死になる。
「何って……だから、錬だって黎には『兄さん』より『お兄ちゃん』って呼ばれた方が良いと思わないの?まあ、異性の兄弟から言われるからこそそう思うだけなのかもしれないから、もし黎が女の子だったらっていう前提で考えてみてよ」
「え、そ、そうだね……。うん。その方が良いかな」
考えは全くまとめていなかったが、取り敢えず応じてみる。実際のところ、呼び名は呼び手が好きに選んでくれた方がいいんじゃないか、とか思っていたが、そんな意見を言えるほどの精神的余裕は残っていない。
……聞くべきか、聞かざるべきか。
その究極の選択に、錬は愚かながらも『聞く』を選んだ。
「あの、晶?聞きにくいことなんだけど……」
「うん?何?」
錬の葛藤に気付かない晶は、ひとしきり黎の頭を撫でた後、フードをかぶせてやっているところだった。
「その……晶って……
女の子だったの?」
惜しくらむは、錬の『ラプラス』は力学的にしか未来を予測できない、ということだろう。不自然な形で固まった晶を前に、錬は逃げ出すべきか言い訳を言うべきかを悩み、結果としてそのどれをも選択できず、時間経過だけを許してしまうこととなった。
「ねえ、錬」
だから、黎にフードをかぶせてやっている途中で凍りついたように動きを止め、次いで至極不自然に完璧な笑みを浮かべた晶を前にしたところで、錬は本能に従って本気でI-ブレインを起動してここから逃げ出そうとしたが――
「黎、止めてくれない?」
その晶の声に応じるように、完全な『情報制御制御』が発動される。
(『Through
my Words』発動)
その瞬間、錬のI-ブレインは錬からの指令を一切受け付けなくなり、同時にI-ブレインからのメッセージも錬に届かなくなる。
黎の『情報制御制御能力』、起動名『Dream
Theater』の内、I-ブレインとの接続が絶たれる発動式だ。その能力の前には、脳内時計など自動で行われている機能以外の能動的に発揮される総ての機能が停止させられ、同時に自動的に行われる機能を確認することさえ出来なくなる。
「な!?こ、こんなことで『魔法士使い』の能力を使わなくたって――」
「あれ?今、『こんなこと』って言った?それともぼくの聞き間違いかな?」
墓穴を掘ったと気付いたときには完全に手遅れだった。晶の完璧な笑顔の中、その瞳だけが笑っていなかった。だが、その瞳だからこそ、錬はギリギリのところで平静を保てたとも言える。そうでなくとも、錬は奇妙に高鳴る心音と感情に思考を飲み込まれかけていた。
……これって、もしかして『ダイナマイト・スマイル』?
サヴァンについても聞かされることとなった今回の一件が気になり、錬が独自で調べた中にあった『サヴァン能力』の一種である。
その笑みは、笑みを向けられた人の平静を奪う。よくその対象となるのは日常生活を支える介護者で、その笑みを見たら最後、何をしてでも、何を失ってでもその人に尽くしたいと思うようになり、その笑みを失わせないようにありとあらゆる行為をしてしまうという、一種魔的な魅力を備えた笑みのことである。
「困ったなあ。何でもっと早く聞いてくれなかったのかな?それともまさか、ぼくが男の子だと確信してしまっていた、とかって言うことは無いよね?」
「は、はい!確信したわけではありません!ただ、性別が分からなかったから便宜上男の子だということにしておいただけであります!」
不自然な軍隊張りの敬語で弁明するが、一応、嘘ではない。そもそも晶を男だと決め付けたのは晶と矛を収めるよりも前のことなので、本人に確認をとることも出来なかっただけのことだ。
尤も、それ以後もずっと男だと思い込み続けたことは言い訳できることの無い事実ではあるのだが……。
「そう……それじゃあ一緒に戦っても、それどころかぼくを抱きかかえて戦ったときにも気付かなかったんだ?」
「それは……」
そういえば、陽動として『暁の使者』と戦った際に抱きかかえたことがあったが、その時の晶の様子は明らに普通ではなかったような気がしないでもない。実際錬も、抱きかかえた相手が異性だと知っていれば平然としていることなど出来なかっただろう。
思い返してみると、頬が熱くなってくるのを止めることが出来なかった。極寒の世界だというのに、どこか暑苦しさすら感じてしまう。
「……まあ、良いけどね。錬のことは、フィアのことを聞いたときに諦めたから……」
「え?何が?」
錬にははっきりと届かなかった晶のつぶやきに、錬が問いかける。だが、晶は同じ言葉を二度言うではなく、悪戯っぽい笑みを浮かべて錬に顔を寄せる。
「けど、ちょっと傷ついたのも事実だし、何より、まだぼくも諦めきれたわけじゃないから……これで許してあげる」
言うと同時に、晶が目前まで迫っていた顔をさらに近づけ――
無防備な錬の唇に、自分の唇を押し付けた。
「……え?」
「じゃあね。これで本当にさよなら、だよ。また会えたとき、錬の傍に誰もいなかったらぼくがその場所を取っちゃうからね!」
そう宣言して、晶は錬に背を向けて黎の手を引いて走り出した。
「あ、晶!」
「あ、そうそう。怒ってるその子にもよろしくね!」
そして、晶は錬の前から去っていった。最後までつかみ所の無い少年、否、少女のその姿を思い返し、錬は一種複雑な思いを抱いて家に帰ろうとして――
背後にいたフィアと視線が合った。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「……………………」
「……………………」
その沈黙が何秒続いたのか。何かきっかけを求めていた錬の元に、黎によって奪われていたI-ブレインとの接続が回復する。
……もしかして、晶が黎に能力を使わせた真意って……
思う。もし錬にI-ブレインの機能が残っていれば、フィアの接近に気付かなかったわけが無い、と。
「あの、フィアはどうしてここに……?」
「…………強い情報制御を感知したから気になって」
物凄く温度が低く平坦な、それこそ棒読みじみた声で返答が来た。
さらに思う。そもそも晶は弱い情報制御を行い、それを錬に感知させることで錬にその存在を示してみせた。ならば、強い情報制御がフィアに届かないはずが無く、同時に、そんな大規模な情報制御が行われてフィアが大人しくしているはずも無い。
そして、それらのことを晶が分かっていないはずが無い、ということを。
……晶の、バカ……
「あ、あの、その、これは事故みたいなもので、犬に噛まれたとでも思って……」
しどろもどろになって言い訳だかなんだか分からないことを口走る錬に対してフィアが一歩歩み寄り、
「錬さん」
「は、はい!」
かわいそうなくらいがちがちに反応する錬に宣言する。
「私、これからは錬さんと一緒に何でも屋のお仕事をします」
……何だって?
急に言われたことの意味が分からず怪訝な顔をすると、フィアが錬に言い聞かせるように言葉を続ける。
「私生活でも仕事でも、錬さんの手伝いをします」
「や、でも、弥生さんも月姉も、フィアが何でも屋をやることには反対……」
「いけませんか?」
先ほどの晶の笑みと比べるとどっちが怖いのかな、と的外れなことを考えつつも、錬はあたかも脅される哀れな子羊のようにその要求を受け入れることとなった。
……晶の……晶のバカ!
「君は、意外と直情型なんだな……」
感心しているのか呆れているのか、はたまた修羅場と化した中を懸命に立ち振る舞う少年を哀れんでいるのか、とにかく何か言いたげな様子で言う少年に、晶は世界中の幸せを独り占めにしたかのような至極嬉しそうな笑顔で応えた。
「ん〜……別にそういう訳じゃないよ。ただ今回の件で、もうこれからは後悔しないように生きようってことを学んだからだよ」
「それはちょっと違うんじゃないかな……。けど、良いの?それだったら本心としては日本に残りたいんじゃないの?」
こちらを気遣いつつも本心を的確に把握する少女に、晶は苦笑を交えて応じる。
「まあね。錬はぼくを女だって知らなかったらしいから、それを知った今からこそがチャンスなのかもしれないけど、ぼくはシティの勢力を舐めるつもりは無いし……自分の生き方を持っていない今のぼくを、錬が対等の視線で見てくれるとは思えないからね」
言い切る晶に、少年――怜治も少女――静華も一度だけ顔を見合わせて、その話題を打ち切った。
何故ならそれは三人に共通するもので、話題にするのも今更、というほどのものだからだ。
それは、必要なときに自分の意思を、決定を下せなかったこと。母親を、父親を愛していても最後の最後まで、支えることも止めることもせず、何も決定できないまま、最悪の結果を招いてしまったことだ。
それも、母親も父親もその結果を出してくれることを切望していたというのにも関らず。
『もし』、というものに何の価値が無かったとしても、その『もし』を考えないわけにはいかなかった。
もし、少しでも勇気を持って、嫌なこと、辛いことから目をそむけるのではなく立ち向かっていたら。説得を試みていたら。正面に立って止めようとしていたら。
何かが、変わっていただろうか?
もし、一千万人の命という正義を前にしても、恐れながらも、迷いながらも、それでも一歩も引かずに戦い抜いた少年であったならば、
もし、絶望の中でも後悔だけに囚われることなく、自暴自棄になることなく、生き抜くための戦いを諦めなかった少女であったならば、
正しくなくても、間違っていても、後悔をしない、ただ不幸を与えられるだけではない答えを出すことが出来たのだろうか?
今、幸せを感じることの出来る答えが出せたのだろうか?
その答えは、神ならぬ晶達には分からない。それでも、錬と出会えたことで最後の最後だけは間違えずに済んだと思うことは出来た。
昂と希美は、自分達が生きている限り博士の不幸は終わらないと思い、博士と、黎と、自分達の命を絶とうと考えた。しかし昂も希美も最後までその選択肢を取ることが出来ず、3年もの時間を無為に過ごすこととなった。そして今回ようやく、博士と、自分達『一宮博士の分身』の命を絶ち、全てを終わらせようと、無かったことにしようとした。
しかし、錬と会ったことにより、黎を生かしたいと思うことが出来た。命を絶つことが絶望を終わらせる唯一の手段ではないと気付いたことによって。自分の、黎の命すらも、仮初より生まれたものであっても奇跡と考えることが出来たことによって。
晶も、母、ニーナの命と同時に自身の命を絶つ覚悟をしていた。自分が招いたことの責任だという思いから。しかし、結局は生きることを選んだ。自身の命を絶って責任を取るということが正しくないことだと思ったために。アメリカのゴーストタウンでニーナと再会したとき、ニーナが晶の制止を聞かずに去った理由を分かることが出来たために。
あのときの晶は何も決めていなくて、ただ母に甘えようとしただけだったから、ニーナが敢えて晶を無視したということに気付いた。ニーナは晶に、無心に付き従って欲しいと望んでいたわけでも、自分の意見を持たずに目をそらして行かせてくれることを望んでいた訳でも無く、自分の意思で、自分の選択をして、その上で敵対するなり協力するなり不干渉を貫くなりを選んでくれれば、それで満足していたのではないかと気付いたから。結果なんかは関係なく。
だから、晶は自分で選んだから、これ以上『母のせい』にして自分の命を絶つことなんか出来ないと思うに至った。その上で、短い間だったけど苦楽を共にし、好きになっていた昂と希美の願いを聞き届けたいと思い、二人の黎を助けて欲しいという願いをかなえるための行動に移すこともできた。
怜治と静華も、選択の正誤はともかく、錬と別れた後に、最後の最後で後悔だけはしない道を選べた。もちろんその選択がただ後悔を後回しにしただけに終わるかもしれないし、今回以上の悲劇を生み出すことになるかもしれない。しかしそれでも、少なくとも胸を張って自分の選択を示すことは出来る。そして、それだけでも十分だと思うことが出来る。
そして今、自分達はこうして立っているのだと思うことが出来るようになれた。
そんな、定められた生を生きるはずだと諦めていた、あたかも砂上の楼閣が如し存在にもたらされた、ちっぽけな奇跡。
それらの思いを感傷や悔恨と共に振り切って、怜治は晶に問いかける。
「それで……本当に、一緒には行かないのか?君達のことを過小評価するつもりも無いが、今は少しでも協力者が必要なのはお互い様ではないか?」
「それは紛れも無い事実だけど……今は、ぼくと黎の二人だけから始めてみようと思うから。どうせ半年もしない内に合流できるだろうから、それまでぐらいはね」
半年後。それは、再開を約束した日だ。
今、晶と黎、怜治と静華は危うい立場の上にいる。晶と黎はモスクワから、怜治と静華は、『天使計画』を神戸と共同開発していたベルリンから追われる立場にある。尤も、主だったものがそれというだけで、それ以外にも多数の組織から狙われているのだが。
だからこそ、怜治と静華は晶と黎の二人と協力していくことを提案したのだが、あっさりと断られてしまった。それが感傷から来るものであり、同時に感傷から逃れるためのものであることは分かったが、怜治も静華も強制はしなかった。
「……分かった。無理強いはしない。だが、何かあったら連絡をくれ。どれだけのことが出来るかは明言できないが、出来る限りの協力は惜しまないつもりだ」
後ろ髪を引かれつつも了承する怜治の言葉に、晶は意外そうな顔で、その意外そうな気持ちを素直に口にした。
「ちょっと、意外だね。最初は問答無用で敵視していたのに、そこまで協力的になるなんてね。実を言うと、無理矢理黎を連れて行くんじゃないかと少し警戒すらしていたんだよ?」
「いくらなんでもそこまではしないわよ。けど、そう思われるのも無理ないかな?一応、私達にとって黎は弟、あるいは甥のようなものだから」
晶のまっすぐな物言いに苦笑し、黎の頭を撫でながら晶と黎の二人に言い聞かせるように静華が言う。
「それでも、晶のことを信じる気持ちも確かにある。君が昂と希美に直接頼まれたというのも理由だが、君のことは信頼しているからな」
元空賊に言う評価としては破格の言葉だったが、晶も、本心ではなかったもののファイの元で所謂『軍の犬』のような働きばかりをしてきた怜治と静華を信じているのだから、似たようなものだ。
「ありがとうね、二人とも。……それじゃあ、半年後、あの場所で会おうね」
言い、晶が握手を求めると、
「うん、約束ね」
「元気で」
静華と怜治は名残惜しそうに黎に握手をして、
四人は、それぞれの道を歩み始めた。
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