過去よりも尊く、夢よりも儚く 〜嵐の前の賑わい〜
「断る」
迷いも躊躇いも見せず、ただ一言で己の意思を明示することができる言葉と態度。その何と素晴らしいことか。内心の迷いなんか5光年ほど彼方へと旅立っているに違いない。無論、相手に気付かれることもなく。
その言葉を発した男――ジュールナールはそんなことを考えながら、空いたカップを持ち上げてコーヒーを注ぐ。
「な、何でッスか〜!?」
すると、案の定相手はこちらの内心なんか知りようもないから驚いた表情と声色で叫んでくる。まあ、ジュールとしたってその気持ちは分からなくも無い。いきなり素気無く断られたりした日にはその理由を明示されるまで問いかけを続けることだろう。
「さっきも言っただろ?俺は今別件の仕事を請けている最中なの。だから他の仕事は請けられないんだよ」
言って、自分で淹れたコーヒーを飲む。うん、相変わらず泥水でも飲んでいるのかと思えるほどまずい。次いで、まだ何やらを言い募る少女に背を向け、窓の外から見える光景に視線と意識を移す。
ここは、古い地名では『伊勢』と呼ばれていた地域に作られた町だ。昔は観光業でにぎわっていたらしいが、今では細々と暮らす者が集まるだけの小さな村でしかない。
人口はおよそ300人で、面積は1〜2ha程度。技術力の高い整備士のおかげで極寒の世界にしては破格の暖かさが保たれている村であり、村の採算は主に農作業で保たれている。
ジュールのオフィスは、そんな村の一角、3階建てのテナントビルの2階にあり、表の看板にはこう書かれている。
『私立探偵事務所』
と。
正直なところ、客入りは採算が取れないほどに悪い。だから、食い扶持のためにも来る客拒まずの姿勢は絶対ともいえるのだが、今日訪れた客の少女だけは別だった。
「聞いてるッスか!?」
と、意識を外に向けている間に何やら言い募っていた少女が、苛立ったように机を叩いてジュールに顔を寄せてくる。
肩口まで伸びた、金とも銀とも言いがたい『わずかに金色がかった銀色』という半端な色をした髪と、意志の強そうな蒼色の瞳。それなりに暖かいのだろうが、どちらかといえば暖かさよりも動きやすさを優先させたようなパンツもシャツも、左肩にひっかけているだけのジャケットも、衣装は揃いも揃って白色で統一されている。
対するジュールはというと、自称銀色実際灰色の髪と、気だるげな赤色の瞳。一目見て人工培養され『創り出された』人間だと分かる風貌をしている。服装は、防弾・防刀繊維が織り込まれた、黒色のパンツと灰色のシャツに、椅子に引っ掛けてある黒色のハーフコートとマフラー。少女とは色彩的には相対的だ。
だが少女には、その服装や彼女の人柄からは不釣合いなことに、到底護身の領域を超えている程強力な銃と、多種の増設パーツがつるされている。銃本体は右脇にあるから、おそらく左利きなのだろう。
聞くところによるとこの少女は隊商の一員らしく、年中方々を渡り歩いているらしい。それならばの重装備ともいえる武装に一応の説得力が見られるのだが、それにしたところで、この少女が大型の拳銃を構えて戦う、という姿はなかなか想像できるものではない。
「あ〜はいはい。聞いてましたよ聞いてましたとも。うんうん。あんたの言い分はよ〜く分かりました。けどね、駄目なものは駄目。はい、お帰りはあちら」
いかにも「聞いてませんよ」という態度で言うと、少女は頬を膨らませて不満を顕にした。だが、そんなことをしたところでまったく怖くないというかむしろ可愛いとしか思えないことに、当の少女は気付いているのだろうか?
だが、少女はジュールに帰りを示されたにもかかわらずまだ動こうとしない。いい加減愛想なりをつかして帰ってもらいたいものなのだが……そうもいかないということだろう。
「まあ……あんたも俺の本職の方を知っているからここに来たんだろ?だったら、今俺がそっちの仕事を請けられないでいることも知ってるだろ?」
北風と太陽よろしく、力押しでも引かないのなら面倒でも諭して説得するしかないだろう、と結論付け、ジュールは方針を転換する。
「そりゃ確かに聞いたッスよ。けど、噂じゃあもう数年は依頼を受けてないらしいじゃないスか?まだ同じ依頼を受けてるんスか?」
少女が疑うように言ってくるが、まさしくその通りなので、ジュールは首肯を一つ返すだけで答えを示してみせる。
「そんな馬鹿な話は無いでしょ!だって、あなたがあの『トレーサー』なんスよね?」
古い名でジュールを呼ぶ。が、まあ俺の素性を知っている人物ならばその名ぐらい知っていてもおかしく無いだろう、という程度のことは感じれども、特にジュールはその名に反応することは無かった。何せ、とある情報を手に入れるために、その準備段階として自分の名を大々的に売った時期があり、その名残でしかない有名無実な名だからだ。
「そうだ。けどな、今はそっちの仕事は休業中……じゃないな。鋭意活動中なんだよ。だから請けられない。説明は以上。Understand?」
「No!!」
「対抗すんなよ!とにかくだ、依頼は受けられません!ほら帰った帰った」
虫でも追い払うかのようにしっしと手を振ってみるも、やはり少女は動かない。何が少女をここまで頑固にするのだろうか、多少興味が沸いてくる。
「嫌ッスよ。依頼を受けてくれるか頼みを聞いてくれるまでは帰らないスからね!」
「どっち選んでも同じじゃねえかよ!別に人探しぐらい俺じゃなくても良いだろ?」
『何でも屋』と呼ばれる便利屋が幅を利かせているこのご時世、『探偵』などという職業が盛況するはずも無く、何か困ったことがあれば、たとえ探偵が得意とするような事件であろうとも何でも屋に仕事が持ち込まれることがほとんどだ。
特に、ジュールのように『探すこと』に特化したような者を頼る人は少ない。
その辺も暗に含ませて言ってみるが、少女はそれで納得した様子も無く、むしろどこか鎮痛な面持ちを見せて答えてくる。
「……それじゃあ駄目なんスよ。この話は、『失敗しました』じゃ困るんスよ。だから、成功率100パーセントの『トレーサー』に頼みたいんスよ」
まあ、普通はそうだろう。『失敗しました』を聞かされて困らない人はいない。
けれど、少女の口ぶりから鑑みるにそれだけでは無さそうだった。裏家業の者の手を借りる人は大抵何らかの事情を抱えているものだが、それにしたって少女の意気込みは普通ではない。
そこに、同情はともかく、興味は引かれた。けれど、だからといって引き受けることはできない。何故なら、
『プロは二重に依頼を受けない』
それが、裏家業の絶対の掟なのだから。
「それでもだ。俺はこの依頼を請けない……いや、請けられない」
きっぱりと、反論を封じるキツイ口調で断言する。少女がそれに押されたということは無いだろうが、それでも期を改めようと思ったのか、張っていた肩の力を抜いた。
「……分かったッスよ。つまり、あなたは今請けている依頼が終わらない内は新しい依頼を請けないんスね?」
「あ、ああ、そうだ。さっきからそう言ってるだろ?」
突然変わった少女の様子に、多少気圧されながらジュールは答える。
が、ジュールの中の何かが警鐘を鳴らす。「この話は聞くんじゃない」「引き返せなくなるぞ」とかいった類のものを。
けれど、ジュールが少女に対して興味を引かれたのは紛れも無い事実で、少女の言葉を聞いてみたいと思い始めているということもまた、紛れの無い事実だった。
「けど、その依頼はもう数年前からずっと手詰まりが続いてるんスよね?」
「まあ……な。だから俺の依頼達成率は、厳密には100パーセントじゃねえんだよ」
手詰まりというか、そもそも役に立つ手がかりというものが圧倒的に少ない状態から始まり、未だに十分そろっているわけじゃない。むしろ、ガセネタの多さが悩みの種と言っても良いだろう。
「だったら……あたしの依頼を聞いてくれたら、報酬としてその依頼に役に立ちそうな情報をあげるッスよ?それだったら、今請けている依頼の完遂のために必要な仕事だから違反じゃないッスよね」
聞いた瞬間思ったことは、何だ、という落胆に似た思いだった。いや、落胆そのものだろう。そういった報酬をちらつかせてくる奴は、多いわけではないがいないわけでもない。けれど、その9割近くがガセネタだ。あるいは、誤ったネタか。
「はいはい。それは凄いね〜良かった良かった」
だから、ジュールはこの上なく棒読みで良い、先ほどまで少女の方を向けていた身体を逆向きに変えた。「付き合ってられない」という意思表示だ。
「な、何なんスかその反応は!?だって数年間探し続けているネタッスよね?喉から手が出るほど欲しいはずじゃないッスか?
は!?まさか、依頼を請けている最中だから依頼を請けられないって言うのはガセなんスか!?」
「んな訳ね〜よ。あのなあ、そんな嘘の話をまともに聞けるわけねえだろ?」
「嘘じゃないっスよ!どうしてあたしの話を聞いてもいないのに嘘って思うんスか!」
「あ〜も〜分かった分かった。だったら、前払いとして少しでもその情報を話してみろよ?それが本当だったら依頼だろうがなんだろうが引き受けてやるからよ」
これ以上話を続けるのも馬鹿らしくなり、ジュールは少女から視線を外したまま言う。が、そう言いつつも考えていることは「今日の夕食何にしようか隊商が来ているんだったら良い食材買えるんじゃないかなあ〜でも料理面倒だ」的なことだ。正直、意識の内少女に向けているのは1割程度だ。だが――
「良いッスよ。『トレーサー』が探しているあの人ッスけど、どうやら昔、日本で天樹博士と懇意にしていたみたいッスよ」
「……ん?天樹 建三と?……まあ、ありえない話では無いな」
対象であるとある人物を思い浮かべながら、ジュールは少女の言葉に反応する。が、そもそも少女が『あの人物』に関する情報として話しているのでなければまったく役に立つことの無い話なので、そのジュールの声が意気込みの感じられないものであっても、まあ無理の無い話しだろう。
だが、少女にはそのジュールの無感動な声こそが気に入らなかったらしい。ムキになったようにジュールに向けて身を乗り出してきて――
「本当の話ッスよ!――さんは、天樹博士の息子さんと仲が良かったって――」
ガタン、と。
音がしたと思ったら、ジュールの視線が少女を見上げるものから見下ろすものにと変わっていた。そして、自分が立ったのだの意識するよりも早く、ジュールの口は言葉を発していた。
「……何故、その内容を知っている?」
『トレーサー』が仕事を請けなくなった、という話は別段珍しくない。裏家業においてはむしろ大々的に広まっている話でもある。
が、その理由を知る者はいない。というより、嘘の話が大々的に広まることによって『嘘の内容』を知っている者ばかりが出来上がっているためだ。
曰く、別れた恋人を探している。『賢人会議』という組織を探っている。シティの機密情報を探り続けている。等々だ。
だから、本当の依頼内容を知る者はいない。いないはずだった。
「それは、秘密ッスよ」
その瞬間、その少女がメフィストフェレスのような笑みを浮かべたに見えたような気がしたが――
手遅れ、なのだろう。今更気付いたところで。
改めて聞いてみると、少女の依頼内容は至極単純なものだった。というより、探すことが得意なジュールに寄せられる依頼など、探すということ以外にありえないのだから当然といえば当然か。
「……で、これは誰なんだ?」
少女から渡された資料に映っている人の姿を凝視しつつ、問いかける。資料とはいっても、あるのは人物の写っている写真だけで、他には1文字も書かれていない。そして依頼とは、この写真に写っている人物を探してもらいたい、ということらしい。
見たところ、どこかのシティの内部で取られたものだった。銀色の槍を持った少年と、茶髪の少女が映っている。服装は2人とも奇抜なもので、少年は襟元に凝った意匠の十字架の刺繍がされた全身を覆う闇色の服と、首から下げられた、これもまた凝った意匠の十字架のアクセサリーを身にまとって、その上に脹脛にまで届いている漆黒のコートを羽織っている。
対する少女は、ゆったりとした、上は白色、下は赤色のいくつかの布が何枚も重ねられているように見える、紅白の衣服を身に纏っていた。
「名前は分からないんスよ。けど、とにかくこの2人の内、男の子の方を捜しているんス。というより、会って話がしたいんスよ」
「あんたとはどういう関係なんだ?どういう類の相手だ?」
迂闊にも依頼を請けることになってしまったとは言え、手抜きをしないところは公私の分別ができている証だろう。単に、まじめにやってさっさと終わらせたいという気持ちの表れかもしれないが、まあその辺りは気にする程のことでもない。
「ん〜と……詳しくは話せないんスけど、まああたしの親戚みたいなもんスよ。あ、多分この子は魔法士だと思うッスよ」
いくら依頼されているとは言え、あまり立ち入ったことまで聞かないのがこの業界の常だ。こっちは与えられる限りの情報でことにあたるだけだ。そしてジュールにとっては、相手が何者なのかが分からない、ということはほとんど問題にならない。
「それで、これが撮られたのはいつ、どこでだ?」
重要なのは、相手がいた場所と時間だ。それさえ分かれば追えない人物はいない。
そう思っての問いかけだったのだが――
「う〜んと、半年ほど前の、モスクワシティでのものだったと思うッスよ」
少女の言葉とともに、ジュールは自分の身体が不自然に硬直してしまったのを感じた。
「……悪い。もう一回言ってくれるか?」
「え?聞こえなかったッスか?その写真は、半年ほど前に、モスクワシティ内部で取られた写真のはずッスよ」
そう言う少女の表情に浮かんでいるのは自然な笑みで、まるであえてジュールの表情と対比するような晴れやかなものだったのだが……おそらく何かの間違いだと思いたい。
「……半年前の、シティ・モスクワ?」
「そうッスよ。それが何か?」
何か?じゃない!と叫びたくなるのをぐっと堪えて、ここ最近入ってきた中では大きめのニュースをいくつか頭の中で再現してみる。
ここ近年稀に見る大きな事件としては、やはり半年前に起こった、神戸シティが消滅したという話題だろう。世界に残っていた人口の内10%程の人が死んでしまった、という話題は、世界中を震撼させるに足る話題だ。
また、その時期を境に「シティのマザーコアは魔法士の人柱で成り立っている」という、嘘か本当か分からない噂が流布されだしたのも最近の動きと言えるだろう。
そしてそれよりも一ヶ月ほど後、モスクワシティに『暁の使者』と呼ばれる空賊が押し入り、シティの機能の大半を破壊した、という話題も、裏社会限定ではあるもののそれなりに大きな話として知れ渡っている。またその煽りを受けたのか、モスクワシティのエージェントが方々に駆り出されて、マザーシステムの修理だか代替品を探すだか何だかをするために活発に活動しているという話もよく聞かれる。
そして少女が言うには、この写真の少年は半年ほど前にモスクワ内部にいたらしい。正確な時期が一致していると言われたわけではない。また、時期が重なっていても、その一件には関わっていない可能性だってある。あるのだが――
「まさかとは思うけどよ、こいつはあのモスクワシティの大混乱に一役かってたりとかするのか?」
「そうらしいッスよ。その写真は、モスクワシティの防犯カメラに映っていた映像をいただいたものなんスよ」
そう言われてしまうと、もはや最悪の事態を想定してことにあたったほうが言いと諦めて……いや、腹をくくった方が良いだろう。
「相手自身はあの『暁の使者』で、当然モスクワ軍とも一悶着を起こしているだろう厄介な立場にいる、かよ。
……詐欺だろ。報酬が安すぎる……」
『暁の使者』と聞いて良い顔をする人はいない。そもそも空賊というだけで十分忌避すべき存在であるのに、魔法士相手でも対等に戦えるほどの戦力を持ち、しかも魔法士を忌み嫌うという体質は、一言で言えば『恐れ』以外の何者でもない。しかし、
「それは大丈夫ッスよ。報酬はあの人の情報だけじゃないスから」
「ほう?じゃあ何をくれるっていうんだ?」
願わくば、『仕事に見合った報酬』よりは、『報酬に見合った仕事』という形でバランスを取ってもらいたかったのだが、まあそれは無理というものだろう。ジュールは期待せずに少女の提示してくれるものを待ち……絶句した。
「あの人を見つけるまで、あたしがここで一緒に働いてあげるスよ」
「いや……あのな……どういう思考ロジックでそんな結論がでてくんだよ?」
「え〜?そりゃ『いざとなったら身体で奉仕しなさい』ってのがこの業界では一般的じゃないんスか?」
「違えよ!!しかも微妙に間違ってるし!そもそもそんな破滅的な報酬は断じていらん!」
少女はパッと見16歳ほどで、対するジュールは、少なくとも外見年齢は21歳だ。残念ながらストライクゾーンにはギリギリ収まっていない。
いや、残念ながらということは無いか。駄目どころかありえない、だ。そもそも、一時的な報酬と、長期にわたる依頼とが釣り合うということこそがおかしいんじゃないのか?少なくともジュールには理解できない。
「けど、あたしに払えるものっていったらそれぐらいしかないッスよ?それに、あたしも手伝わせてもらうことが仕事の内容の一環ッスよ!」
「最後は力押しかよ!?しかも何なんだよ、その破格的な依頼は!?というよりな、あんた隊商の仕事はどうした?ほっぽり出すつもりか?」
頭痛を堪えてジュールが言い返す。いや、言い返すなんてものじゃなくて単に追い返したいだけなのだが、そんなことはこの際問題ではないだろう。
この小娘を黙らせたまえ。
それがジュールの本心だ。
「隊商ッスか?昨日でもうやめたッスよ?」
あっさりと、
それこそ「今日は雨が降ってますねえ」とでも言うかのような気軽さで少女が言う。
「あんたなあ……それでどうやって食い扶持を稼いでいくつもりだよ?」
何となく答えが判っているような気がしたが、それでもジュールは一縷の望みを掛けて問いかける。すると、
「今言ったじゃないスか?ここで働くッスよ。あ、勘違いが無い様に言っとくッスけど、給料はいらないスよ」
微妙に期待外れで、けれど最悪のものではない答えが返ってくる。
「無給で働くつもりか?」
「そうッスよ。もちろん、あたしの働きに応じて払ってもらえるのなら払ってもらいたいッスけど、流石に押しかけでそこまで贅沢は言わないッスよ。単に、衣食住……じゃなくて、食住を一緒させてもらいたいってことッスよ」
じゃあ衣はどうするんだ?と聞こうとして、けれどやめた。ジュールが行う探偵業は、裏の仕事も表の仕事もそれほど忙しいと言えるものではないので、やろうと思えば小金を稼ぐ程度の仕事ならば村の中にいくつかあるのでこなすことも可能だ。食と住が確保されているのならそう困るものでもないだろう。
とは言え、少女がどの程度仕事の役に立つのかは分からないためハッキリとは言えないが、ジュールにとってはメリットのある話なのかデメリットのある話なのかが分からない。
「……家事はあんたに任せても良いのか?」
「良いッスよ。隊商ではそういうこともやってたッスから」
それならばまあ良いだろう、と。
少女の腰に吊るされた拳銃。それが飾りでは無いという保証があるわけではないが、期待ぐらいはしておこう。
「分かった。まあ手伝いぐらいならしてくれ。……と、そういやちゃんとした自己紹介してなかったな。
俺はジュール。『トレーサー』のジュールナールだ」
「あたしはティーレ。ティーレ=サンクトゥス。よろしくッスよ」
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