■■ 謳歌様■■

 

過去よりも尊く、夢よりも儚く 

 

盲目的な乱戦

   

「どんな研究をしているの?」

 特に聞きたいと思っての言葉ではなかった。ただ、その日は普段にもまして質素な食事であったためすぐに食事を終えてしまい、昼の暇な時間がいつもより長くなってしまったため生まれた問いかけだった。暇に身を任せている自分とは違って彼はやるべきことを持っている、ということに対する羨望でもあったのかもしれない。

 けれど、そんな軽い気持ちでの問いかけだったのだが、彼はその質問を待っていましたとばかりに、普段の彼からは考えられないほど饒舌にその研究に関して話を始めた。専門的な言葉が多く、半分も理解できない内容であったが、それでもわたしは彼の話に不満を覚えることは無かったし、むしろ興味すら惹かれた。

 ただし、その興味の対象はその研究の内容ではなく、普段は無口な彼を個々まで饒舌にさせる、ということにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(勝利確率三十%未満:逃走を推奨)

 それが、少女対自分の戦闘能力の差だった。

 背に生やした黒い翼が槍となり、大きく弧を描くようにして前方のそれぞれの方向から舞衣に襲い掛かる。その数12。相対速度差はおよそ10倍。

(アクセス『accelerator』)

 それが、次の瞬間には3倍程度にまで減じる。けれど、それでも自分の身体の動きよりも速い12の槍を防ぎきることは舞衣には不可能だ。

 だから――避けるのではなく、敢えて踏み込んで対した。

 少女は、翼から槍を放つと同時に自身も飛び込んできている。槍が翼で構成されている以上射程距離が限られ、それを補うために近づく必要があるとはいえ、明らかな失策だ。普通なら罠ではないかといぶかしんでしまうぐらいの稚拙な失敗。

 けれど、舞衣は迷わずに懐に飛び込む。ロッドを両手で握り締めて、少女の胸元目掛けて突く――交差した少女の両手に受け止められ、互いの接近が止まる。ロッドには高圧電流が流れているのだが、少女の身体は特に電流に応えた様子は無い。

 ……けど、まったく無効にされるわけではありませんね。それでしたら……

 少女が防いだロッドを弾くように両腕を振るうが、そのときには既に舞衣はロッドだけでなく身体ごと、少女から一歩離れた位置にまで下がっている。下がれば12の槍が一斉に牙を向くはずだが――

(……植え込み成功。アクセス『phantom』)

その槍は何故か先ほどまで舞衣がいた、つまり少女の目の前の空間を狙って突き進み、少女自身を貫いた。

……思ったとおりですね。

その結果に満足することなく、舞衣は自身の槍に貫かれた少女の下に肉薄し、その頭部にロッドを、叩きつけるのではなく軽く触れさせる。そして、先ほどのように高圧電流を流すが――

(攻撃感知)

 すぐにI-ブレインから示される予測に従って回避行動に移り、2本の槍を回避する。さらに追い討ちをかけるように続く10本の槍……その内の3本をいなす。他の7本は、わざわざ回避するまでも無く見当違いのところへと向かう。

 だから、とりあえずその様子に満足し、舞衣は少女から離れて仕切りなおす。少女は今にも舞衣に襲いかかろうと敵意に満ちた視線を持っていたが……その焦点は舞衣に定まらない。いや、正確には『舞衣だけには定まらない』。

 ここまでの攻防で分かったこととしては、この少女は自分の身体を自由に変えることが可能で、その能力によって通常の十倍近い加速が可能で、しかも怪我をしたところから瞬時に再生されるため肉体的な損傷は全く問題にならない。また、電流による攻撃も軽く受け流されてしまう。

 けれど、舞衣の能力を封じることは出来ていないことは確かだった。更に、どういうわけかこの少女は見境どころか正常な精神状態すら無くしており、およそI-ブレインの補助を受けている魔法士とは思えないほど無駄・無謀な戦い方しかしてこない。

以上のことを加味して戦闘予測を再計算させると、

(勝利確率七十%超)

 とまで数値が跳ね上がった。おそらく、本来であればここまで状況が整おうとも四十%あるか無いかといったところなのだろうが、今の少女の精神状態ではここまで優位になってしまう。

 何故なら、舞衣には『防御』に類する能力が通じない攻撃が可能であるから。仮令少女がI-ブレインそのものを破壊する攻撃以外を一顧だにしない存在であっても、舞衣の攻撃を前には役に立たない。それにも関わらず、今の精神状態のまま少女が今まで通り怪我を一顧だにしないまま戦闘を繰り広げるとなると、もはや勝敗は考えるまでも無い。むしろ問題なのは、

 ……けれど、わたくし達は話し合いに来たのでは……?

 ということだ。とは言え、こちらが投降する意思を見せたところで、ここまで精神を欠いている少女が受け入れるとは思えない。それに、あの無謀さ加減を考えると、仮令こちらが戦闘不能になっても死ぬまで攻撃の手を止めない可能性も高い。つまり、もし舞衣が負けることがあれば、ジュールやティーレも含めて『捕縛』ではなく『死亡』となるしか未来は残されていない。

 となると、後々面倒なことになってもここは戦うしか道は残されていない。申し訳ない、とか言っている余裕も無い。

(アクセス変更『phantom』『revelation』。リアルタイム処理開始)

 容量が足りないため、加速の演算を切る。これで十倍の速度差で相対しなければならなくなったのだが、勝利確率が最も高い戦法はこれで間違いない。

(『revelation』実行:コンマ3秒後に正面、更にコンマ6秒後に槍4本が接近)

 I-ブレインが発した警告と同じタイミングで少女が動く。動作はI-ブレインからの言葉通り。

(『phantom』実行)

 回避しながら舞衣も攻撃を開始する。すると、少女と舞衣の間にどこからともなくグリフォンが出現し、少女に襲い掛かる。少女は舞衣に向けていた槍の全てをグリフォンに向けて放つ――回避行動に移るそぶりすら見せず、グリフォンはその攻撃の全てを受ける。だが、それでもグリフォンは止まらずに少女に肉薄し、右足を狙って右前足の爪を振るう――少女も同じように回避するそぶりさえ見せずに受け、

(『phantom』攻撃成功、『stigmata』施行――成功)

右足から、血にしては黒すぎる液体が飛び散るが、少女はそれに構わずにグリフォン目掛けて握った右の拳を振り下ろし――直撃すると同時にその存在が掻き消える。

(アクセス『phantom』再実行)

 けれど、掻き消えるのと同時に舞衣は新たなグリフォンを生み出し、再度少女向けて走らせる。少女はそれに相対しようと拳を振り下ろした体勢から姿勢を正そうとして――

 ガク、と、

 今にも転びそうな具合で姿勢を崩し、両膝を地面につける。何が起こったのか理解していないのだろう、グリフォンの相手を槍だけに任せて、本人はいぶかしがりながら立ち上がろうとして――

 槍を受けつつも突っ込んできたグリフォンに、左のわき腹を抉られ、更に頭部を強打され、抵抗も出来ずに地面に崩れた。

(『phantom』攻撃成功、『stigmata』施行――成功)

そこに、更に舞衣はグリフォンに追撃の命令を――

 ……申し訳有りませんが、後一押しをさせていただき――

(アクセス『revelation』実行:――)

 下す前に、それが聞こえた。

 

 

 

<作者様コメント>

「話を進める!」と言った端からいきなり短いですが……そもそも、この1話は話を進められるようなものではないから、という言い訳を誰にとも無く呟いて堂々としていようかと思う次第であります。

さて、今回の『過去よりも尊く、夢よりも儚く』では色々な登場人物が出ているのはご存知のことかと思いますが、私の一番のお気に入りは舞衣であったりします。別に、私がお姉さん系の女性に憧れているとかは(事実ですが)関係なく、です。
 とは言え、別段I-ブレインの能力が気に入ったとか設定が気に入っているとかでは有りません。むしろ理由なんかは無く、純粋に「このキャラが良いなあ」と思っただけです。

賛否両論あるかと思いますが、そう言うわけですので、舞衣を応援していただけると嬉しく思います、とか書かせていただきますッ!

ただ……その割には舞衣を中心に書かれた話数が少ないですが……それはそれ、ということで。

 

今回欠勤(相方)

「人間、平和が一番」(私)

 

謳歌


 
26話BGMACIDMANり、「type-A

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