■■レクイエム様■■

――疑問と襲撃――



「・・・と、いうわけ。」
自分と祐一が出会ったこと、戦ったこと、そしてシティ神戸のこと。
出会いから別れるまでの話は途中で来た質問などを別とするとせいぜい十分くらいだろうか。
話を終えた錬は一息つく。
「へぇ・・・そうだったんですか。」
「驚きです。」
それはそうだ。いきなり廃プラント内で戦った相手が知り合いの知り合いだったとは夢にも思うまい。
こうして、理解を得られたことは錬としても嬉しい。・・・だが。
「しかし・・・」
ディーの表情が曇り、それにつられて錬も表情を笑みから緊へと変えた。
「この、『依頼主』は何をしたいんだろう?」
誰ともなしにディーが呟く。
それを横目で見ながらセラが自分の鞄をあさり、中から資料らしきCD−Rを取り出し、携帯端末に入れ、情報を引き出す。
画面に現れたのは今回の『標的』の詳細。
しかし、それは・・・
「・・・僕、だよね、これ。」
黒髪、黒瞳の小柄な少年。手製と見られるサバイバルナイフを所持。
様々な項目が詳しく分類されているが、最後に写真があった。
そこにある顔はまぎれもない自分の姿。
寝ぼけているような表情をしていることから撮ったのは朝か夜・・・というかそんなことの前に。
「・・・こんなの、どこで手に入れたんだ?」
シティ神戸自治軍、天樹機関が最高責任者、情報制御理論の権威、天樹健三の最後の最高傑作――すなわち錬には、彼の力を狙う者たちが沢山いる。何らかのいざこざの際にとられたものかもしれないが、普通の人物にとっては自分の存在はまぎれもない『最高機密』である。
すなわち
単なる町の住民達が手に入れられるものではない、ということだ。
それに、
「こっちも、なんだよね・・・」
今度は錬がポーチをあさり、情報端末からデータを呼び出す。
同じくそこには、『依頼主』からの”標的”、その詳細がかかれている。・・・しかし
「後ろで括った銀髪、二本の細身の騎士剣・・・」
どう考えてもディーのこととしか思えない情報だ。
こちらには写真は添付されていないため、もしかしたら、とは思ったがディーには完璧に否定された。世界中で騎士剣を二本使っているのは、また、”使える”のはディーだけというのだ。根拠は分からなかったがディーはシティ・マサチューセッツの『規格外』の特別な魔法士なので騎士剣を二本使っているとのこと。偶然発生する『規格外』の魔法士が二人も同じ能力で生まれるわけも無く、必然的にこの可能性は却下される。
「・・・依頼主は・・・同じ、か。」
こちらの情報端末を覗き込んでディーが確認する。
「そう・・・ですね。依頼主も、調査目的も、調査場所も全てが同じ・・・なのに”標的”だけが違う。


・・・それも、僕らを戦わせるようにしている。」
訳が分からない、この依頼主は一体何がしたいのだ?
「とにかく、一番手っ取り早く済ませましょう。」
ディーが立ち上がる。
「行きましょう。」
会話に入れなかったせいで少しむくれていたセラが続き、
「そうだね。」
と、錬も遅ればせながら立ち上がろうとし、
「・・・っ!」
がくり、とその膝を折った。
「どうしまし・・・・って、その足!」
様子がおかしい錬にセラが振り向いた。
その目線の先にあるのは荷電粒子砲によって貫通された錬の足。
「大・・・丈夫。」
痛覚遮断の欠点だ。
痛みが無いため、傷の度合いが”危険”として脳に伝わらない。
先ほどセラに打ち抜かれた足のことを完璧に忘れていた。
そのため傷ついた足に通常の神経伝達命令を送り込んでしまい、行動の際のギャップに肉体がついていけなかったのだ。
「よ・・・っ。」
意識を集中して動かせばもう大丈夫。
無事な右足に体重をかけ、ステッキのように体重を分散して立つ。
「・・・大丈夫ですか?」
下から覗き込むようにセラが聞いてくる。
その顔が少しばかり曇っているように思えるのはこの子なりの謝罪の証なのだろうか。
「なんなら担いで行きますか?」
横からひょい、と顔を出してディーが言う。
「いや、そこまでは・・・」
首を振ろうとしたときにI−ブレインにノイズがはしった。
「?」
「あれ?」
「ん?」
錬、セラ・ディーの順でウェーブをするように首を捻った。
今脳内をはしったパルスの出所は・・・と、辺りを見渡すが一向に分からない。
第一錬は索敵能力に長けているわけでもないのだ。
「・・・あの辺、です。」
セラが白い腕をあげてある方向を指差す。指された場所は大型の工作用プラント。
「その陰あたりです。」
流石は時空制御特化魔法士、光使いだ。
まだ幼い身ながらそこまでの知覚能力を備えていることに少なからず錬は驚きを覚え、セラの指差した方向へと向き直った。
既に横のディーは騎士剣を構え、戦闘体勢へと入っている。
「・・・今日はいろんなことが起きる日だね・・・」
何となくぼやいてみてから錬も腰のナイフを抜き放つ。
油断無く周囲も見据えながら、錬とディーは目配せ一つ、左右両側から回り込む。
ゆっくりと、足音も立てぬように近づき、先ずは確認を、と思ったときだった。




(高密度情報制御を感知、感知、感知感知感知感知感知感知感知感知感知感知感知感知)




「っぐ?」
「うっ?」
突然I−ブレインが怒涛のように警告を発する。
そのデータだけでも頭の中にパルスがはしり、頭痛が起きるほどの情報量。
そろってディーと錬は頭を抱えた。
しかし、もう一人の反応が無い。
「セラ!?」
頭痛を強制的に痛覚遮断、肉体的なものではなくI−ブレイン内部のための痛みだったため遮断できるか心配だったが一応成功。ディーは慌てて後ろを振り向く。


「なっ・・・?」
「セラっ!」
錬の驚愕とディーの切迫した声が重なる。
振り向いたその先には、銀色に煌く金属のような紐に羽交い絞めにされたセラの姿があった。
((『自己領域』展開))
二人して同時に自己領域を展開、瞬時に救出に入る。
純粋の騎士であるため速度で勝っているディーが先ずセラを絡め取っているしがらみを二本の騎士剣で切断、数瞬遅れて(主観から)錬が飛び込み、セラを抱えて後ろにパス。すぐさま戻ったディーがその小さな体を受け止めたのを気配で確認してから自己領域を解除、『チューリング』を発動。床のチタン合金をゴーストハックし、巨大な腕を三本生成。それを蠢きまわる紐だか縄だか分からない微妙な太さの物体に対して解き放つ・・・が。
「つぁっ!?」
錬の頭にすさまじいノイズがはしる。
それはゴーストハックの為に送り込んだ仮想精神体をチャンネルにしてのジャミング。
痛む頭を抱え、それに気付いたときにはもう手遅れだった。
チューリングをハッキングされ、生成していた腕が消滅する。
それと時を同じくして蠢いていた銀色の物体が槍の形状をとる。
「!」
その後ろで同じく既に自己領域を解いていたディーが息を呑む音が聞こえた。


直後






錬の体は一直線に伸びた銀の槍に貫かれた。












「つぁっ!?」
背後より響いた苦鳴にディーはセラを抱えたまま振り向いた。
そこには今まさに消滅しようとしているおそらくゴーストハックで生成されたであろう腕があり、その前には・・・
「!」
声を出す暇があらばこそ、I−ブレインに命令を送る時間も無く、目の前の錬の体は銀色の槍に貫かれた。
「くっ!」
反射的に身体能力制御を起動。鮮血を撒き散らして自由落下する錬の体を横抱きに攫う。幸い、息はあるようだが、意識は無い。
「セラ!頼むっ!」
その体躯を床に横たえ、ディーはすぐさま騎士剣を抜き放った。
(並列処理を開始『自己領域』展開)
腰だめに構えた騎士剣を一閃、こちらにも向かってきた銀の槍を斬り飛ばし、自己領域による重力場で飛翔する。
天井近くまで舞い上がり、一直線に下降。銀の槍が荒れ狂うようにその数を増し、ディーに襲い掛かるが自己領域と共に身体能力制御を起動し、光速度の90%を超える速度をもつ
彼の目にはスロー再生のようにしか映らない。自己領域内に進入し、その勢いに乗って襲い掛かる槍ですら40倍に加速した知覚の中ではスローモーションだ。
ディーは一挙に間合いを詰め、銀色の槍が発生する中心点に騎士剣を突き立てた。
(騎士剣「陰陽」情報解体発動)
このまま周囲の物体を情報解体し、ゴーストハックの素材となっているチタン合金を消滅させ、攻撃を止める。そう予定していたディーだが、その目論見は第一段階で潰された。


(I-ブレインにエラー発生。演算効率が34%ダウン)


「なっ!?」
情報解体のために振り分けられた演算能力が呆気なく消え失せる。二本の騎士剣が刺さった部分はほんのすこしだけその構造を揺らめかせただけに終わり、逆に解体しかけて中に突きこんでいた騎士剣が物体の再収縮にあわせて絡みとられてしまった。
「くぅおっ!」
(身体能力制御起動)
ディーは情報解体を諦め、身体能力で固定された騎士剣を引き抜こうと試みる。
だが、I−ブレインにかかる負担はどんどん加算されてゆき、ついには身体能力制御まで発動できぬ演算状況になってしまった。
・・・まずい!
ディーは自分の判断を悔やむ。
先にゴーストハックされた攻撃を破壊しようとしたが、一刻も早くこのノイズの原因を突き止めるべきだったのだ。


風切り音


「っ!」
気付いたときには既に手遅れ。身体能力制御を解かれ、通常の人間と同じ速度となったディーを認識した銀の槍がいっせいに鎌首をもたげ、こちらに飛来してきていた。



・・・避ける術も、受け止める手段も、無い。

<作者様コメント>
や、ようやく本格的な話が始まりました。
・・・というか錬、呆気ないなー。
一応ディーと錬が
こんな素晴らしい負けっぷりを疲労してる
のには理由があります。

・・・無かったらやばいけど。
「出会い」も終わり、物語は次の「進展」に入ってゆきます。
さて、次回は最強騎士、登場。

<作者様サイト>
なし

◆とじる◆