「動機と呼ぶ理由」




















「・・・・・・・・・いいか?」
ぼそりと、淡々とした・・・肉声ではないだけではない理由で、ウィズダムが呟く。
何が「いいか」なのかは分からないが
「いいもなにも・・・とっとと出てきたらどうだ?」
自分の横に居る祐一が恫喝の声を出す。
それは何の目論見も無い、唯の考え無しの発言だったのだが・・・・・・


「――そうだな。」


ぽん、と肩を叩かれた。
「――っ!!?」
弾けるように跳躍。
一挙動で腰のサバイバルナイフを抜刀し、構え、そこで着地する。
先ほどまで自分が立っていた位置、そこからほんの少しずれていたところに、
「ちぃぇーっす。」
狂人が、現れていた。
ウィズダムは優雅にそこで一回転すると深く腰を折り曲げて緩やかに深々とこちらに礼をする。
その細かさと言動が結びつかず、よりいっそうの違和感が錬の中に生まれた。
・・・だが、今はそんなことよりも。
「・・・・・・どこから?」
たとえウィズダムが”騎士”の能力を持ち、『自己領域』でここまで擬似空間転移してこようと、
絶対に”情報制御”は感知できる。
また、それがどんな遠くからの移動からだとしても、所詮その半径は1kmを下回るはずだ。
その範囲ならば圧倒的な情報認識力を持つ『光使い』であるセラ、
『騎士』のくせに何故か超広範囲の”情報の海”の乱れを知覚できる祐一、
それになにより、ここら一帯を先ほど自分の”場”と化したフィアが気づかぬはずが無い。
そんな化け物じみた認識・把握力を持つ三人の近くを潜り抜けてこの狂人はここまで来たというのか?
現在のどんな技術を使ってもそれは不可能に近い。
光学迷彩を使用し、情報制御を使わず来たとしてもそれではフィアに感知される。
かといってそれ以外の方法だと情報制御を使用しなければならない、それが無駄なことは前述の通りだ。
・・・・なのに、何故?
そういえばこの狂人は始めてであったときも、腕の一振りで自分らを”ここ”まで連れてきた。
”あれ”を自分ひとりに使ったのだろうか?
周囲の警戒の目線を一手に受け、理解不能の存在が告げる。
「はッ、ンだその鳩が肘鉄砲食らったような面ァよ?」

・・・・・・・・・・・・・肘鉄砲?

時が止まった。ザ・ワールドではない。
そして錬はカラスの鳴き声を聞いた。誰がなんと言おうと聞いた。
一瞬だが脳裏に浮かんだ鳩に肘鉄を食らわす図を強引に振り払い、鋼鉄の自制心と意志をもって踏みとどまる。
落ち着くために深呼吸を二度、深く体の隅々まで酸素を行き渡して・・・
「なァに止まってんだおい?」
自分の言った間違いに毛ほども気づいていないウィズダムに先手を取られた。
緊張感など、無い。
「しっかしよ、本当にあいつ等に勝つとは思わなかったぜぇ?お前たちの基本能力から考えりゃ最初のマルドゥクで
やられてもいいはずなんだがなァ。」
語尾を吊り上げる独特のスラングなまりでウィズダムは言う。
そこに、
「下らんことを言うな、お前は俺たちを”なめ過ぎだ”。」
厳しい口調で祐一。
だが、この一見侮辱とも取れる挑発に対し、ウィズダムは哄笑を返した。
「はッ、これは”余裕”ってもんだぜ?上位者が持つ絶対的な優越と地位。そこから生まれる”余裕”だ。」
「”余裕”は”慢心”とほぼ同じになる。下らん言い回しは終わりにして月夜と真昼を返してもらおう。」
『紅蓮』を手に、前へ一歩。
それだけで祐一の周りの空間が彼に怯えをなしたように軋むようだった。
恐ろしいまでの怒気と存在感。
オーラとも呼べる迫力を醸し出して黒衣の騎士はゆっくりと歩を進める。
脇に続くのはディーと錬、その後ろからフィアとセラだ。
大してウィズダムは普段どおり飄々とした態度で肩をすくめる。
「んー、こっちとしちゃぁあんたらの”価値”確認したから別に返しても構わんのだがなァ・・・」
「なら!」
懇願に近い錬の叫び。
それに再び肩をすくめ、ウィズダムは言った。
「・・・・・・んだが、それじゃつまらんだろ。」
「――!」
頭の後ろで腕を組み、青空を見上げて狂人は語る。
「俺は『賢人会議』の命によって、世界最高レベルの魔法士達をここに招待し、そして力量を測るって仕事を与えられている。」
雲が流れ、風がざわめく。
「その力が俺らの目的に見合うものであったら、捕らえてこちらの尖兵にしたて、眼鏡に適う者ではなかったらそれは即座に処分される。
・・・・・・”世界最高レベルの相手”にそれが出来る『ちから』が、俺にゃある。」
現にお前らも俺の”能力”がどういうもんなのかわかってねぇだろう?と補足し、話は続く。
「大戦で圧倒的な一対多の能力を披露した『光使い』二人。対人に最も適した『人形使い』。
魔法士に対する切り札とも呼べる『騎士』に、オールラウンドを想定して作られた『炎使い』。
俺が今まで試したそれらのどれも、俺に適うもんじゃぁなかった。」
・・・・・・今、なんと言った?
『炎使い』や『人形使い』などの大量に生産された魔法士ならばまだ自慢話として聞き流せる範疇だ。
・・・しかし、
「・・・・・・『光使い』・・・も?」
大戦によって生み出された稀有なる魔法士、この世の絶対の律、『時空』にまで干渉を及ぼすある意味では魔法士の最先端であった者たち。
たった二人しか生み出せなかったものの、彼らは数え切れぬほどの飛行艇や戦艦を屠り去り、英雄として歴史に名を連ねた魔法士。
ピンからキリまでいたその他大勢の魔法士とは違い、敵にとっては恐怖の代名詞となり、味方にとっては最強の矛の代名詞ともなる
『光使い』の名を冠する二人。
その二人は激戦の末双方とも壮絶なる戦死を遂げたと聞いていたが・・・・・・?
錬の頬を冷や汗が伝う。
もう一人、隠されし存在であった『光使い』、セレスティ・E・クラインの母親、マリアのことではないのは間違い無い。
彼女は逆に『賢人会議』の尖兵とも考えうる存在だったのだから。
・・・だとすれば、結論は一つ。
この、目の前にいる男は、大戦の英雄とも呼ばれた”二人”を相手に戦い、そして・・・・・・

――倒したのだ。

それもおそらく、たった一人で。
「あぁ、そうだぜ。あの”戦死”とされていた光使い二人、あいつらを屠ったのは、間違いなく俺だ。」
最も、『光使い』一番の使い手は既にこっちのお得意様だったがな、と
こちらの顔色を読んだのか、ウィズダムが疑問を先取りして答える。
「んで、そこで俺は”飽きた”。」
「――何?」
「黙って聞け。”飽きた”んだよ俺ァ。もう自分の力量測るのに、な。」
空を見上げ、自嘲気味に語る。
「まぁもうぶっちゃけちまうか。」
一息。
「始めに俺言ったよな?俺の目的はお前らを”ここ”に留めておくこと、だと。」
「あぁ、そう言っていたな。」
荒唐無稽な話だ。そんなことは絶対に”できるわけがない”のに。
「ありゃぁ、――全部嘘ッパチだ。」
「んなっ・・・!?」
てっきり事件の核心を突く言葉が出てくるのだと思っていた錬は、その言葉に一瞬脳を硬直させた。
・・・・・・う、嘘ぉ・・・?
「じゃぁ、何のために月姉と真昼兄を?」
そうなると、こちらの説明がつかなくなるではないか。
「焦んなって、いいか?今回の俺の目的はな、お前らと心ゆくまでタイマンバトルすることなんだよ。」
タイマンとか言ってるくせにお前らと複数形使っているのにはツッコミは無しだ。
















「・・・・・・もうわかんな?お前らで、俺は『退屈を紛らわせたい』んだよ。」
































それは、気まぐれに伸ばした手が掴んだもののようで、
それは、ふと振り返って見たようなもので、
それは、ありふれた日常のようで、
それは、まるで・・・・・・
それは、・・・・・・

















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




















始まりは、ただ気になっただけ。
この自分を創り、自分にこんな”能力”を与えたものの真似だった。
絶対的な絶対者、究極の求道者、万有の支配者。
そんな、”神”どもの真似をしたかった、唯、それだけ。
それは確かに始めは”遊び”だった。
子供が好奇心から未知の物に手を伸ばすように、
善悪の倫理観を理解できぬものが経験を得ようと無謀な試みをするように、
そして、自分の前を行くものを模倣するように。
そう、それが自分の持つ”理由”だったはずだ。
自分のやることなすこと全てに免罪を付す究極の意味づけ。
他人になど推し量ることすら出来ぬ自分だけの秘匿。


《てめぇなんぞにゃ理解できねぇよ。》


当たり前だ。この世で自分しか理解できない本能。
躊躇も油断も理性も悪意も節制も無謀も敵意も葛藤も切望も殺意も願望も好奇も緊張も楽観も
狂気も平静も決意も勇気も憤怒も蛮勇も恐怖も誘惑も意識も欲望も自我も侮蔑も清閑も達観も
嫉妬も怠惰も色欲も虚栄も堕落も安堵も実感も夢想も感傷も嫌悪も冷徹も遠慮も寡黙も傍観も
増長も善悪も観念も思考も屈託も愛想も放棄も責任も動揺も萎縮も戦慄も容赦も事情も客観も
驚嘆も倫理も抑制も愛情も思慕も儀礼も不安も判断も興味も敬意も正義も焦燥も思惑も主観も
何であろうと介入できず、干渉できず、意味を成さない不可侵のの本能。
それが、この俺を占める絶対の理由。
それが、これだ。
今、ようやく掴んだ”充足”への足がかり、
それは、この”理由”に値するものであるのか。
俺の”理由”は、この過程に値するものであるのか。
確かめるのは怖くもあり、また、楽しくもある。
理想よさようなら、そして現実よこんにちわ、ってか。
どっちへ転ぶか、いや、それ以前に転ぶ程度の済むのか、そんなのは知らねぇ、むしろ知りたくも無い。

『人生とは、険しい道などではない、谷間にめぐらされた無数の細いロープの上を歩く道だ』

どっかで聴いた言葉、確かにその通りだと思う。・・・・・・切実に。
落ちたら最後、這い上がることなどできはしない、救いの光すらその眼に映さず、奈落の崖に落ちてゆくだけだ。
ベルセルク・MC・ウィズダムは考える。
だとしたら、落ちた先には何があるのか?
先の見えない手探りの行路。
先の見えないというならば、踏み外すことも進むことも変わらないではないか。
双方とも、前に待つのは暗闇、それだけだ。
ならば、どっちへ行っても同じではないか?
幾度と無くこの疑問が頭に、I−ブレインに浮かんでくる。
そして、このベルセルク・MC・ウィズダムは考える。
作られた存在である、自分。
それが自己を確立し、自我を持ち、最強の魔法士となった。
それは誇るべきかもしれない。
あるいは、ファンタジーみたいに、”自分の生み出された意味”とやらを探ってもいいのかもしれない。
だがそんなのは御免だ。
てか、無駄だろう?
自分は何のために生まれてきた?何のために自分を創った?
んなことを問う輩が時たまいるが、
・・・んなもんに答えれるヤツなんているんか?
それが自分の持論だ。
自分のことすら把握できていない奴らが、人の生い立ちとその理由、動機、そして意味など知るわけが無い。
・・・・・・早い話が”自分の道は自分で切り開け”とかゆーやつじゃねぇか?
だから、自分は自分で自分の自分のための理由をつけ、そして今、それを結実させようとしている。
・・・・・・人生ってのは、如何にして暇を潰すか、だよなァ。
真っ白な”暇”もしくは”空虚”に染まっている自分の道、
そこに食事なり生活なりを加えて作り上げるものが自分の道なんだろうと、自分は思う。
・・・・・・別に、理解してもらおうとも思っちゃぁいねェしな。
だから、理解されなくとも自分は自分の”理由”を結実させる。
しっかし・・・・・・骨折れそーな”過程”だなァおい?
自嘲気味のぼやきはI−ブレインの脳髄に反響して消え、後には軽い高揚が残った。
ま、結局は”暇つぶし”なんだろな、これ。
思いっきり今までの真剣な思考を完膚なきまでにブチのめす言葉を思い浮かべ・・・・・・





「さ、てと。・・・・・・はじめるかね?一世一代の、”暇つぶし”を。」





にぃ、と唇を三日月に吊り上げ、
目の前に立つ四人の”過程”、
『悪魔使い』、『天使』、『光使い』、『黒衣の騎士』、『双剣』を見やる。


昔捨て去った”動機”に祝福を。
そして、今持ちえる”理由”に、力を。
・・・んなら、一丁派手に行きますかッ!
狂人が、狂うほどまともな狂人が、収穫の雄たけびを叫ぶ。




















「――『七聖界』セブンス・ヘヴンッ!!」





















思い切り、思い通りに、思うままに狂え。
・・・・・・カーニバルは今、幕を開けた。


























コメントだったりなかったり(なかったりって何だ。)

あぁ・・・・・・ついにやってしまった。
この作品ではアングラっぽい文はやめとこうと思っていたのに・・・・・・
何かいきなり異色放ってますねこの章。
元々俺はこういった文が大好きで、今まで書いてきた小説もこういった系統が多いです。
それで今回の目標として、「さくさく読めるRPGつーかゲーム風のライトな話」
ってのを密かに考えてたんですが・・・・・・無理でしたねぇ。
”この手が、この手が悪いんですッ!”って判事に叫ぶ被告みたいないいわけしてみたり。
最後の方で彼なんか叫んでますがあれは

「ゲーム風に書いてるならやっぱ必殺技と作ってその名前叫ばせるべきだろ」

とのたまった悪友・・・・・・いやいや友人が居まして、それに応えてみました。
・・・・・・・しかし、ナノセコンド単位で戦闘するウィザーズブレインの世界でいちいち技名叫ぶって、・・・ねぇ。
まぁそんなことはほっといて、後、ウィズダム君との戦闘、多分すんごく長くなると思います。(既にライトじゃねぇ)

・・・・・・まともなコメントが最後の一行だけってなぁ・・・・・・

レクイエム