『deus ex machina』























序章

「かみさまなんていやしない」

















始めよう
























――――はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・・


薄暗い闇の中、かんかんかんという足音が響き渡る。


――――早く、早く・・・・・・・・・・!


足音は反響し、荒い息切れの呼吸音を伴って世界へ溶けてゆく。


――――早く、早く、早く・・・・・・!


・・・・・・酷く、薄暗い。
なまじ微量にだけ光がある分、逆に見通しが悪い。
それでも、ここが建物の中ということはわかる。


――――まだ見つかってない、見つかってない、だから・・・・・・!


一瞬走る光芒。
何のいたずらか、明り取りの窓より差し込んだ一筋の陽光がこの場を映し出した。
床も壁も一面の銀。
無機質な物質で固められた殺風景な空間は、ここが工業用のプラントであることを伝えてくる。
最早廃棄されて久しいらしく、壁や床には埃が降り積もり、ところどころ罅割れていたりコードが露出していたりする。
しかしそれでも、断続的に続く天井のライトがこのプラントの生を主張していた。
そして、その罅割れた床を走る、人影があった。


――――はぁっ、はぁっ、は――――ぁ・・・・・・!


小柄なシルエット。
華奢な体格。
肩の辺りで切り揃えられた黒髪。
そしてなにより体前面の凹凸がその人影を少女だと知らしめる。
清楚な顔立ちの、東洋系の少女。
お嬢様というよりはお姫様とでも形容すべきその少女は、明らかにこの場にはそぐわなかった。
流れる黒髪を振り乱し、荒れる呼吸を整えることもせず、一心不乱に走っている。
その様子は、何かを目指して走っている、というよりも、何かから逃げているという印象が強い。


――――大丈夫・・・・・・今度こそ、大丈夫・・・・・・


荒れる吐息の中、うわ言の様に少女が呟く。
その言葉は少女の年に相応しくなく、悲しいまでの切なさに満ちたものだった。
走ることさらに数秒、少女は手近な扉をほんの少しだけ開け、その中へと飛び込んだ。
整えること適わぬ呼吸音のみが、長年の清閑を打ち破る。


――――大丈夫、今度こそ・・・・・・大丈夫なんだから・・・・・・


ぺたん、とそのまま床に腰を下ろし、少女は膝を抱えてうずくまった。
狂おしいばかりの憂いを瞳に宿し、大きくほぅ、と息をつく。
そして、祈るように両手を重ねて額へと押し当てた。


――――お願い・・・・・・お願い・・・・・・今度こそ・・・・・・


・・・・・・悲しい、言葉だった。
この世の全てに裏切られ、たった一つ残った自分すら信じれなくなってしまったように、
世界にはどうあがいてもどうにもならないことがある、と悟ってしまったように。
しかしそれでも諦めることをやめなかった。
そして、それ故に希望はない、とわかってしまったから――――


――――・・・・・・・・・・・・・・・・・


つぅ、と涙が少女の頬を伝った。
それを拭おうともせず、少女は適わぬと分かっているはずの祈り――いや、哀願を崩さない。
それが五分ほど続いただろうか。


――――・・・・・・・・・!!


足音が、聞こえた。
びくり、と少女の体が跳ねた。
その目線は扉の向こうへと向けられている。
響く足音は概算だが四人分。
小さいが確かにこの部屋へと向かってきている。
なんで、と声に出さず唇が動いた。
なんで、どうして、と少女は問う。
それは、この世界全てに対する問いかけでもあった。
どうしてこの世はこんな残酷なのか、
何故この世界はこんな無慈悲なのか、
その瞳はそう問うていた。


――――嫌・・・・・・だ、よぉ・・・・・・・・・


ぽたりぽたりと、悲しみと憂いと切なさを込められた滴が数年ぶりの変化を床にもたらす。
必死でここまで来たのに、こんな簡単に終わってしまうのか。
そう、覚悟でもなく、受け入れでもなく、からっぽの心が認めようとした時、


――――あれ・・・・・・?


近づいてくる足音。
それに伴って響くのは会話の声だ。
自分の予想とは全く違った、暖かい話し声が近づいてくる。




「――あぁ、全く苦労も苦労だ」




男の声。
投げやり気味だが、聞く者を安心させるようなしっかりとした声だ。




「――・・・・・・素直に納得しちゃいけないところってわかってるけどやっぱ無理だね」




答える声は、またも男性。
まだ声変わりも終えていない少年のものだ。




「――ちょっと、錬。それどーゆーことよっ。フィアちゃんはそんなこと思わないよねー?」


「――あの、えっと・・・・・・」




少女二人の声が続く。
天真爛漫な響きと春の日差しを連想させる柔らかい声。


――――・・・・・・・・・・・・・・・・


呆けたように少女は動きを止めている。
この先、扉一枚を隔てた向こうに、自分が渇望している”日常”がある。
それを目の当たりにしただけで、少女の脳は何をすべきがわからなくなってしまっていた。
唯、


――――あったかい・・・・・・・・・


それだけはわかった。
自分が望んだもの、決して手に入らぬと知りながらの望み続けたものが、今、すぐ前に――――


「ここか?」

「さぁ?わかんないよ。とりあえず入ってみようか?」


――――え・・・・・・?


戸惑う間もなかった。
がちゃり、と扉が開けはなたれ、四人の人間が入ってくる。
髪の毛は前髪一本を青、残りを全て赤く染めた無茶苦茶な頭髪を持つ長身の男性を先頭に、
カチューシャをして背中に穴を開けた奇妙な服を纏った大陸系の少女が続き、
その後に黒髪黒目、自分とさほど背も年も変わらぬサバイバルナイフを提げた東洋人の少年が、
そして黒髪の少年の横に寄り添うようにしている金髪で吊スカート、セーターの服装の少女が入ってきた。
考える間もない。
黒髪の少年がこちらに気づき、それにつられて他の三人がこちらを見て、















「君は――――――――――」





































――――さぁ、ここに新たなる幕は開いた






ここから始まるのは1つの出会い






それはとってもちっぽけなもので、






偶然だったのか、必然だったのかはわからずじまい






それでもこの出会いは大切なもの






迷いを乗り越えた少年たちと、迷いを乗り越えようとする少女の出会い






――――
『あの空の向こう側へ』と希望の手は伸ばされた






さぁ、始めよう






眩いばかりの輝きに彩られ、確かに”今”を駆け抜けた一人の少女の物語を――――――――


























あとがき

お久しぶりです。ようやく新作を始めれました。
『あの空の向こう側へ』から続くこの物語、再び長らくのお目汚しと相成りますが、どうか末永く生暖かい目で見守ってください。

錬 それで、僕がここにいる意味は何?

いや、あとがきも少し趣向を変えてキャラと対談形式でいこうかなぁ、と。

錬 言葉通じる?

は?

錬 ごめん忘れて。で、今回は僕ってこと?

そ、やはり引継ぎの意味も込めて前作から出演している君に来てもらったんだよ。

錬 今回は、誰が出てくるの?

総括あとがきにも書いたが今回のベースは四巻上下のキャラ。残念ながら祐一・ディー・セラは出てこないんだよね。

錬 代わりにファンメイとヘイズさんってことか。

その通り、戦力的にはかなり落ちたけどその代わり特異能力の目白押しメンバーになったよ。

錬 イロモノ・・・・・・・・・

というか普通の魔法士いないねぇ。

錬 まぁそれはおいといて。この子、一体誰?

さぁてね?それはもう少し待ちましょう。

錬 あざといな・・・・・・とにかく、次は僕らが出てくるんだよね?

一応この章にも出てきてるぞ。

錬 ――――ほんの少しじゃないかっ。

まぁそういうな。次にゃちゃんと出てくるから。

錬 出てくるかもしれないけど書くのは遅くなるでしょ。

う・・・・・・

錬 第一テスト二日前に書き始めるってなにさ?

いや、その・・・・・・・・・

錬 おまけにまだぜんぜん勉強してないんでしょ?

あー・・・・・・つ、次はちゃんとWBのキャラが出てくるお話です。

錬 ・・・・・・逃げたな。

やかまし。次は第一章・『予期せぬ邂逅』。廃棄されたプラントの調査に赴いた錬とフィアが出会ったものとは?

錬 そろそろ引きのあざとさも品切れじゃない?

―――――なんで最後にそういうこと言うかっ!







レクイエム