第七章

「今一時の安息を」






















ここにいるよ

ここにいるよ

ぼくらは ここにいる
























「ん、しょ・・・・・・っと」

殺風景な部屋にガチャガチャと金属音が響き渡る。

絡みに絡んだコードを難しい顔で解きほぐし、錬ははぁ、とため息をついた。

ここは仮宿の一室、外に面したバルコニーのある12畳ほどの部屋だ。

その部屋のまんなかにごてごてとした機械を並べ、錬はなにかを組み立てている。

時間は昼食を終えてすぐ。

後一時間ほどでフィアとファンメイとリューネと一緒にこの町を散策して回る予定だ。

だからこれはもう完成させなければならない。

配線を次々に繋ぎ、逐一通電を確認する。

その辺のジャンク屋のものだから手入れには一応慎重を期したほうがいいだろう。

ぱちん、と一回スイッチを入れ、緑のランプがついたことにうんっ、と頷く。

「よい・・・・・・しょっ」

どすん、とテーブルの上へそのごつごつした物体を乗っける。

と、

「錬さん?」

ひょっこり、とフィアが現れた。

昼食後に服などを買いに行っていたはずだがそれはもう終わったらしい。

「おかえり、フィア」

たった今置いた機械の位置を整えながら言う。

フィアはこちらにきょとんとした目を向け、

「なにやってるんですか?」

「ちょっとまた、ね」

即席のクランプでテーブルと機械を固定。

・・・・・・うん、これでよし。

「よ・・・・・・っと」

ぱちぱちぱちん、と必要なレバーを全て倒してゆく。

同時に流れ出すバックグラウンドノイズ。

それを聞いたフィアが目を丸くして言った。

「あ、ラジオですか?」

「そ。エドに会うまでに作っとこっかな、って」

テーブルの下にもぐりこみ、音質を調整しながら答える。

「エドさん、パーフェクトワールドがお気に入りでしたからね」

しみじみとフィアが言う。

あの可愛らしい世界最強の人形使いを思い出し、錬もテーブルの下で頬を緩めた。

そしてI−ブレインの脳内時計を呼び出し、

「あ、フィア。ファンメイたちも呼んできて。そろそろラブアンドピース始まるからみんなで聞こ?」

いい機会だ。丁度ケヴィンラッキースターの番組も始まるし、せっかくだからみんなで聞くとしよう。

「はい、すぐに呼んできますね」

金色の髪を揺らしながらフィアはファンメイたちを呼びに走っていった。

それを微笑を漏らして見送りながら、錬は電波を受信しやすくするために窓を開けた。

「・・・・・・・・・わ」

途端に流れ込んでくるやさしい風。

そよ、と錬の黒い髪を揺らして風は家の中へと吹き込んでくる。

「いい風・・・・・・」

思わず目を閉じて風に吹かれるままになる。

フィアと同調している時みたいな、やさしい感覚。

さらさら、さらさら、と風は留まることなく流れてゆく。

このままだと眠ってしまいそうな心地よさまで感じる風だった。

ここ数日の団欒。それを象徴するかのような、やさしい世界からの贈り物。

願わくば、こんな日がずっと続きますように・・・・・・・・・

と、

「れーんー? 用ってなにー?」

フィアに連れられてファンメイ・リューネ・ヘイズが次々に部屋へと入ってきた。

それに微笑を向けて答える。

「これこれ」

ぽんぽん、と即席のラジオを叩いて示し、

「ほら、もう始まるよ」

その言葉と同時に、高いソプラノの歌声がスピーカーより溢れ出した。

一瞬ファンメイは目を丸くし、

「あ、パーフェクトワールド?」

「そう、エドと会う前に作っとこう、ってね」

あの時と同じようにえっへん、と少し胸を張って答えた。

へー、とラジオを眺めているファンメイ。

なんとなしに聞いてみた。

「ところで、歌えるようになったの?」

ぴくり、とそのセリフにファンメイが反応した。

にや、と何かいたずらを思いついた子供の表情。

「それは挑戦なのー?」

にんまりと笑ってみせてくれる。

思わず錬は一歩後ずさりそうになった。

「え、あ、や、そういうわけじゃなくて」

墓穴を掘ったくせに助けを求めようと周りを眺める。

全員が全員、染み入るように聞き入っていた。

「きれいな、歌・・・・・・・・・」

リューネは目を閉じて聞きほれている。

その横ではフィアが暖かな笑みとともに目を閉じて耳を傾け、ヘイズも壁にもたれかかってまんざらでもない様子。

「パーフェクトワールド、か」

「あれ? 知ってるのヘイズ?」

ぼそりと呟いたヘイズに耳ざとく反応するファンメイ。

ヘイズはぴくりと片眉だけを器用に動かし、

「・・・・・・なんだその意外そうな表情は」

半目でファンメイを睨んだ。

けれどもファンメイはあっけらかんと

「えー? だってヘイズ音楽とか聴かさなそーだし」

聞きようによっては無礼な発言をかましてくれた。

案の定、ヘイズは一瞬動きを止め、

「・・・・・・どっから出てくるんだんな根拠は」

はぁ、と諦め調子で言った。

無論、答えるファンメイは即答である。

「センスとかなさそうだし、ね」

「やかまし。音楽くらい聴くぞ俺は」

「ふーん?」

「・・・・・・・・・ぜってぇ信用してないだろお前」

半目になるヘイズとあはは、と笑うファンメイを包むように、それでも世界は美しいとスピーカーが歌う。

そして、一周目が終わりを告げた。

遠くへ余韻を残すように歌声が途切れ、そしてあまり間をおかずに再び曲の前兆を示す四拍子のスティックが流れ出す。

「あ、ほら、もう一回始まるよ」

ヘイズとファンメイの間に割ってはいる。

「・・・・・・・・・ふん」

ヘイズは一瞬だけ鼻を鳴らし、おもむろに息を吸い込むと拍子に合わせて口笛でイントロを吹き始めた。

少しだけ照れくさそうに。

けれど、どこか誇らしげに。

それにどことなく祐一のような仕草を思い浮かべ、錬はくすりと笑った。

ノスタルジックなイントロから、ポップな主旋律へ。

ヘイズの口笛での伴奏に合わせて、フィアとファンメイが歌い始める。

軽やかなファンメイの歌声と、やさしく、やわらかなフィアの旋律。

その二つが重なり合い、流麗な調べとなって広がってゆく。

合わせて錬も口笛を吹いた。

ヘイズと錬のそれを伴奏に、フィアとファンメイの歌う声が世界を言祝ぐ。

たおやかな、妙なる調べがこの場を満たした。

穏やかな顔でリューネがそれに目を閉じて耳を傾ける。

それでも世界は美しいと光の声が歌う。

錬、フィア、ヘイズ、ファンメイ。

それぞれ世界にたった一人しかいない孤独な魔法士たち。

けれども、この歌は静かに告げていた。

僕らは確かに”ここにいる”、と――――――――――――――





































                                  ――――それは、夢



















                                                               どこまでも青く





















               どこまでも澄み切った
























たった一つ























                                    何よりも尊く






















                                                                         何よりも光り輝く




























――――”いま”という一時の夢――――




































今という瞬間は、二度とないもの

だからぼくは、残酷だと思うのです












                                                     この日々というものは、二度と出会えないもの

                                                            だからぼくは、悲しいと思うのです












面影が成長と共に消えてゆくように













                                                       思い出が時の流れと共に霞んでゆくように













今このときもまた、薄れていってしまう





















――――あるありふれた歌を歌おう












夜明けを祝い、明日を照らし、”いま”に捧げる歓喜の歌を














伝えきれない思いは、涙にかわるだろう













                                                        流しきれない涙は、祈りにかわるだろう






























ここにいるよ

ここにいるよ

ぼくは、ここにいる






















そっとかけらを抱きしめたぼくの心に、いつまでもこの歌を












                                                    ・・・・・・・・・あなたのところまで届くことを祈って























――――ぼくらは願う
















この日々が、確かなものでありますように













                                                        この一瞬が、唯一のものでありますように













今このときが、あなたの心に残りますように





































ここにいるよ

ここにいるよ

ぼくらは、ここにいる





































 おまけコーナー・誤解編 

〜嗚呼! 漢の浪漫〜

フィア 「錬さん?」

錬 「おかえり、フィア」

フィア 「あ、――――ロボットですか?」

錬 「そ。・・・・・・・・・ってなんだって!?」

フィア 「違うんですか?」

錬 「違うっていうか・・・・・・その発想のジャンプは何mなのフィア」

フィア 「え、でもこういう隠れて何か作ってるならそれは大体合体変形ロボってお約束が」

錬 「そんなものないよっ! ・・・・・・はぁ、どっから仕入れてるのさそんな知識」

フィア 「いえ、真昼さんとかに。これはヘイズさんからですけど」

錬 「・・・・・・・・・自分でやってんじゃないだろねその二人」

フィア 「そういえばヘイズさんが”メカファンメイ”ってのを」

錬 「――――作ったのッ!?」



あとがき

「二兎追うものは一兎も得ず。ってなわけで勉強切り捨てたレクイエムです」

錬 「・・・・・・・・・明日テストなのにね」(今現在5月25日PM8:32)

フィア 「というよりテスト勉強一切してないんじゃないんですか?」

ヘイズ 「人として最低だな」

ファンメイ 「おおばかー」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ヘイズ 「さ、ヘコんでる阿呆はほっといて始めるか」

錬 「だね。今回の章は少し短め。次回から本格的に物語の中核に入っていくから区切りの意味をこめてこんな具合にしたんだってさ」

フィア 「最後の詩はパーフェクトワールドの歌詞のつもりだったそうなんですけど、いつの間にかあぁなってしまったそうです」

ファンメイ 「もともとは『あの空の向こう側へ』のラストで出すつもりだったらしいよ?」

ヘイズ 「ところが書いてるうちに勢いで終わらせちまって書き終えてから”あれ?コレは何だ?”となった裏話もあるとかな」

「・・・・・・・・・お前らなんか今回やけに結託して俺いじめてないか?」

錬 「いや」

ヘイズ 「ぜんぜん」

フィア 「そんなことは」

ファンメイ 「ないよーだ」

「・・・・・・・・・絶対あるだろ特に最後のヤツっ。ってかもしやお前らほのぼの終わりに対するあてつけか?」

ファンメイ 「だって、さぁ」

ヘイズ 「そりゃこっちの方がいいだろーよ」

錬 「上に同じー」

フィア 「同じくです」

「あー、だからほのぼのは別のでやるから我慢しろ。つーかWB学園がそれになりそうなんだが」

錬 「あ、それじゃあやるって決まったんだ?」

「ん。正式に決定しました。ま、決まっただけでどうなるかはぜんぜんだがねぃ」

フィア 「でも実年齢で学年決めたら私とかエドさんとか幼稚園ですよね」

「・・・・・・そういやそうだな。一応外見年齢で四章の時の設定は決めたけど」

ファンメイ 「ふーん。色々あるんだね」

「そんなもんなの。だから勘弁してくださいな」

ヘイズ 「はぁ。まぁしゃぁねぇか」

錬 「というわけで、次回予告にごー。――――次章は第八章・『夜の叫び』」

「ついに終わりを迎える安息の日々、夜更けに町を襲い来る謎の艦隊の正体とは?」

フィア 「次章からがこの物語の本当のスタートといってもいいかもしれませんね」

ファンメイ 「それじゃ、楽しみに待っててねー」




5月25日 20:43 本文完成・HTML化終了









SPECIAL THANKS!
天海連理さん(誤字脱字校正部隊)
有馬さん(〃)
闇鳴羚炬さん(〃)