第十章

「白銀の救い」






















色あせても

忘れかけても

決して消えはしない、約束


























ごうごうと景色が後方へと流れ落ちてゆく。

灰色の残像が後を引き、赤色の大地へと消えてゆくようだった。

その灰空、たった一つ己が存在を主張するが如く浮遊する真紅がいる。

世界に三つしか存在しない雲上航行艦が一、『Hunter Pigeon』

真紅の機体に青色の己を刻むその船は、同じく空に浮かぶ無数に機影に対し、挑むように船首を向けていた。

「――――行くぞ!」

マスターであるヘイズの一喝の元、真紅の機体は弾けるように”狩り”を開始した。

応じるように無数の機影から砲爆が放たれる。

大口径撤甲弾。電磁誘導砲撃。スマート・ミサイルの雨あられ。

迫りくる林立した火線はまさに必殺。

機体の破片すら残すものかと迫りくる――――!

しかし、

「この程度、か?」

並みの駆逐艦ならば三度撃墜してもお釣りが来る攻撃をもってしても、この真紅の機体には届かなかった。

周りに何か壁があるように、飛来した弾丸はそこで粉々に砕け散る。

「んなら、こっちから行くぜ――――!」

しかも、あろうことか真紅の機体は爆炎に向けて突っ込んでいった。

なんて無謀。

遠距離砲撃戦を除いた空中戦のセオリーとは例外なくヒットアンドアウェイ。

ただひたすらに避け、かわし、そして当たるも八卦と撃ちまくるのが常勝戦法。

空中戦において優先すべきは機動性と手数なのだ。

だが、この船にそんな常識などは通じない。

操る人間が非常識ならば、それに答えるAIも非常識。

搭乗者の安全を第一に考えるはずのAIまでもが率先して艦を砲撃に突っ込ませてゆく――――!

そして、



―――――――ぱちん



と、小さな音が全てを粉々に打ち砕いた。

砲撃の雨に穴が開く。

真紅の機体は流麗な運動でそこに突っ込み、結果として全ての大口径砲撃をやりすごした。

「・・・・・・・・・さて、ここまではうまくいったが」

ヘイズが呟く。

「え? なんで? なんか問題あるの?」

椅子にしがみつきながらファンメイが聞く。

ヘイズは目線を敵影からは外さず、早口で答えた。

接近戦ドッグファイトになりゃあっちもおいそれと町に被害を出す大口径砲撃は使えなくなる。それはいい んだが、そうなるとこっちも辛くなる」

「なんで?」

「考えても見ろ。いくら性能としてこっちが勝っていても数には勝てねぇ」

一息。

「あれらの飛空艦がどんだけ情報強化されてるかは知らねぇが、多分『破砕の領域』も通用しない」

ファンメイはその言葉に一瞬だけ考え込み、

「えぇー!? どーすんのそれじゃぁ!?」

目をまん丸に開いて叫んだ。

「うるせ、だから困ってんだよ」

軽口で答えるヘイズだがその表情はすでに緊の一文字。

百戦、いや、万戦錬磨の彼とて数には適わない。

相手はただ撃ちつづけるだけでいいのだ。

いや、むしろ二、三機を犠牲にしてこちらへぶつけてもいい。

いくらHunter Pigeonとて小型艦艇に体当たりを食らったら撃墜されるだろう。

そういう意味でも今の状況は一見有利にとれるが実はかなり追い詰められている。

それでもそういう素振りをヘイズが一切見せないのは空中戦に疎い錬やフィアたちにいらぬ不安をかけぬためであ ろう。

故に攻める。

少しでも守勢に回っては数で押し切られるのだ。ならば奇襲特攻なんでもござれ、先ずは陣形を掻き乱せ ――――!

「ハリー! 荷電粒子砲準備! 『破砕の領域』よりもそっちの方が確実だ!」

『了解しました』

情報強化されているであろう艦艇自身に『破砕の領域』をぶち込むより、純粋な砲撃の方が効果はあると見た。

それにI−ブレインの疲労を余儀なくする『破砕の領域』は回避・防御だけに使うのが得策だろう。

敵、――――『黄金夜更』も突っ込んでくるこちらに対して即座に包囲をなそうと陣形を整えている。

そこへ、

「お前ら、しっかり掴まってろよ!」

真正面から突っ込むHunter Pigeon。

たちまち雨あられと機銃が降り注ぐ。

が、それらは全て当たらない。

機銃の銃口が照準のために動くわずかな動き、

味方を撃たぬように少しずつずれながら包囲してゆくその動き、

それら全てからなるヘイズの予測演算は完全に敵の動きを予測していた。

一分の隙も見られない運動が弧を、直線を、円を、螺旋を描き、飛来する機銃を悉く回避しつくしてゆく。

慣性を無視した急停止、急速落下。

航空力学を嘲笑う旋回、上昇。

それはまさに完成された一つの舞踏だった。

灰色に染まった大空の下、真紅の船は機銃の掃射を死の伴奏として踊りまわる。

避け、振り切り、時としては消し飛ばし、人食い鳩は次々に小蝿どもを蹴散らしていく。

ヘイズが行っていることはただ回避し、目の前にきた当てやすそうな機体に荷電粒子砲を撃ち込むことだけだ。

しかしそのレベルがまさに神技。

一機、また一機と人食い鳩に啄ばまれた機体が落ちてゆく。

撃墜数、すでに17機。

だが、そこで快進撃は止まった。

「っ――――!?」

いきなり急速接近してきた機体をすんでのところで回避する。

今までとは明らかに違う運動性能。

「くそがっ! 今までのは二軍ってことか!?」

コントロールパネルに平手をたたきつけ、ヘイズが毒つく。

飛行戦に疎い錬とフィアでもわかるほど今のヤツの動きは違った。

そして、その”違うヤツ”が次々と数を増やしていっているのだ。

「どっから湧いて出てきてんだてめぇらは!」

至近距離より放たれたマグナムミサイルを指の一弾きで消し飛ばし、心底からヘイズはは吐き捨てた。

今ここにきて形勢は最悪。

おそらくこれらの機体のパイロットらは相当のベテラン。

一撃離脱を編隊で行う常勝戦法を取っているところを見ると大戦くずれの者たちだろう。

「くっ――――!」

連続して叩き込まれるミサイル全てを解体するのは不可能と判断したヘイズ。

その行動は一瞬、あらゆる演算動力をカットし、慣性制御だけを発動させ真下に急落下して回避する。

目標を見失ったミサイルはHunter Pigeonの背後を取ろうとしていた二機を爆発炎上させた。

このままでは危ない。

今のままの攻撃が続けばいずれHunter Pigeonは撃墜される。

累計20機以上も撃墜したというのにやつらの数は減っているように見えないのだ。

フィアが吹き飛ばされないように抱きしめて支柱にしがみついていた錬は意を決して声を放った。

「ヘイズさん! このままじゃやられる! 僕を外に出して!」

「錬さん!?」

腕の中のフィアが驚愕の声をあげる。

だが今聞いているのはヘイズの方だ。

「ば、馬鹿かお前は!? そりゃ2,3機ならなんとかなるだろうがこんな大軍相手に何言ってんだ阿呆!」

必死の形相で船を操縦しながら罵声とともに答えが返ってくる。

それはそうだろう。

いくら魔法士といえども飛空艦隊の大軍とドンパチやらかす馬鹿など聞いたことがない。

だがしかし、今ここにそんな馬鹿が一人。

「でもこのままじゃいずれやられるよ!」

それなら少しでも空中で戦える自分が出るべきだ。

本来ならば翼を持つファンメイが妥当なのだろうが生憎と彼女にはリーチが足りない。

黒の水を槍として射出する攻撃方法しか遠距離攻撃がないのだ。

こんな混戦乱戦でそんなことをすれば貴重な黒の水が失われることは必至。

第一ファンメイにはここでフィアとリューネを守っていて貰わなければならない。

故に動けるのは錬一人のみ。

それをヘイズも悟ったのか、

「っ・・・・・・、しゃぁねぇ! だが絶対に無理するんじゃねぇぞ! ヤバイと思ったらすぐ戻ってこい!」

苦渋の決断を下した。

「勿論!」

言葉とともに服の上から月夜お手製の黒いスーツを身に纏う。

情報処理を施したそれは風除けの役割を果たし、迷彩の効果も発するものだ。

「錬さん・・・・・・・・・」

ナイフを抜き放とうとしたとき、フィアが泣きそうな顔で自分を呼んだ。

それに苦笑し、ぽん、と少女の頭を撫でてやる。

「だいじょうぶだから、ね?」

無茶をしない、という約束に信用がないのは勿論わかってる。

けれど、無事に戻ってくる、ということに関しては信用してほしい。

それを思ってフィアを目を合わせる。

天使の少女は少し目を伏せ、

「・・・・・・・・・はい」

帰ってこなければ許しません、と錬を睨んだ。

・・・・・・・・・なんでこういうとこだけ月姉に似てきてるのフィア?

そう思ったが流石に口には出さず、一気に腰から『月光』を抜刀した。



「世界面変換デーモン」サイバーグ 常駐)



続く動作で自己領域を展開。

光速の70%に加速した錬はHunter Pigeonの後部ハッチより灰色の空へと飛び出した。


















      *

















灰色に濁る暗色の天空。

不毛な大地を覆う雲の下に錬は勢いをつけて飛び出した。

周りには幾つもの機影。

その数、およそ百。

一シティの全戦力にも匹敵するそれらはしかし空に静止したまま動かない。

光速の70%まで加速した錬と通常時間帯における差異は1秒に対する150日余り。

何もかもが止まっている静止画の中、動くものは錬以外に存在しない。

「・・・・・・・・・もって五分、か」

『自己領域』を展開したままでは攻撃を加えることはできない。

それ以前に他のプログラムを起動することはできない。

『自己領域』とは騎士剣――錬の場合はナイフだが――の補助領域を限界まで使って形成する騎士の切り札。

故に余分なものに演算能力を割くことは無理なのだ。

だが、錬はふと疑問に思った。

・・・・・・・・・なら、限界まで使わないで不十分な『自己領域』を展開すれば他のプログラムも起動できるの かな?

『自己領域』が能力を限界まで使わないと発動できないものであるならば、自分と祐一、ディーとで加速度に差が つくのはおかしい。

確かに下位の騎士が発動できないことから、『自己領域』を形成するにはある一定以上の演算能力が必要になるこ とはわかる。

ならばその場合、それ以上の演算能力をもってより精度、加速度を高めることになるのだろう。

それなら、そのときに使用される演算能力をあえて使わなければ・・・・・・・・・










――――――その空き領域で別のことが出来るのではない か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・










普通の騎士ではなにもできないだろうが、複数の能力を扱える『悪魔使い』である自分ならば・・・・・・・・・?

「・・・・・・ってそんな悠長に考えてる場合じゃなかったね」

今はナノセコンドですら時が惜しい。

先ずは・・・・・・撹乱、か。

多勢に無勢という状況をひっくり返すには特攻して相手の陣形をかき乱すに限る。

ヘイズの最大の持ち味である『破砕の領域』を生かすには相手が密集していることが第一だ。

相手の飛空艦艇の情報強度がどれほどかはわからないが、逆にシティの軍ではない以上、

情報強化されているにも完全に『破砕の領域』を無効化するものではないと思いたい。

「・・・・・・・・・行くよ」

自らを鼓舞し、そして始まりを告げる言葉とともに重力制御により錬は前へと”落下”する。

静止画の世界、ただ一滴の黒が空を駆けていく。

「多いな・・・・・・どっからこんなに出てきたんだ・・・・・・?」

距離、およそ300m。

艦艇戦ならばわずかコンマ以下で詰められる距離まで近づいた錬は苦々しげに毒づいた。

・・・・・・・・・多い。

最大規模の飛空挺を持つモスクワ空軍。ニューデリー空軍とてこれほどは望めないだろう。

駆逐艦、巡洋艦、強襲揚陸艦となんでもござれ。

おまけに話を聞く限り、これらはリューネを殺害すること”のみ”のために用意されたものらしい。

ひとつの町をまるまる犠牲にしてまで滅ぼしたい標的なのか。

それとも・・・・・・リューネにはこれだけの戦力を相手に戦える、もしくはそれと釣り合うだけの”なにか”が あるというのか?

右手のナイフを握り締める。

「・・・・・・・・・久々に、頭にきてるな僕・・・・・・」

未だ鮮明に焼きついている映像。

焼け落ちた町。

たった数十分で今まで築き上げていたものすべてが壊された。

それがとてつもなくもどかしく、憤ろしい。

自分はこの場に居合わせただけ。

それは理解している。

故に自ら首をつっこむことなど愚か以外の何者でもない。

・・・・・・わかっている。これはただの自己満足の延長だ。

かつてと同じ。

救うことかなわぬ状況を前にし、少しでも、ほんの少しでも何かを、誰かを助けることによって”救った”という 独り善がりを得たいという、たったそれだけの偽善。

――――無関係の人々を巻き込むのが許せない?

笑わせる。

あの時、自分はいったいどういう選択をした?

神戸市民1000万人と、たった一人の命。

フィアを救うためにあの数百万人を犠牲にしたというのならば、それはもはや虐殺だ。

そんな自分が今、目の前の状況に対して憤っていることがひどくもどかしい。

「・・・・・・・・・でも」

・・・・・・・・・でも、それはいけないことなんだろうか。

どんな偽善でも、どんな自己満足でも、目の前の悲劇から誰かを救おうとすることは、悪いことなんだろうか。

それは違うと思う。

どんな過去があろうと、どんな思いを持っていようと、誰かを助けたいと心の底から思う気持ちに嘘が入り込む 余地は無いと、そう思う。

だから、もう自分は迷わない。

答えがどうなるか、それはもちろん恐れてしまう。

けれども、選択するときだけは胸を張って迷わず選んでいくことは、あのときに決めた。

「・・・・・・・・・・・・」

だから、行こう。

靄を振り払い、錬は灰色の空を翔る。

ひとつの艦艇に狙いを定め、上部ハッチに着地したと同時に自己領域を解除。

途端に現実のスピードを取り戻した空気が大気の槌と化して錬を打ち据えにかかる。

しかしそれは月夜お手製のスーツの情報強化によって阻まれる。



「分子運動制御」マクスウェル 常駐 『氷槍・十波』 発動)



ナノセコンドの間もおかずにI−ブレインに命令を叩き込む。

いくら風除けの能があれどもドッグファイトをする戦闘機に生身でしがみつくことなどできやしない。

故に狙うは一撃必殺。

放たれた寒波と氷の槍は狙いたがわずエンジンの噴射口に命中、その部分を瞬時に凍結させた。

いくら演算機関とて取り込む元となる部分を押さえられてはどうにもならない。

その機体はたちまち失速して地表へと墜落してゆく。

あの失速では補助動力によってせいぜい不時着することくらいしかできまい。

螺旋を描きながら墜落してゆくのを見届け、すぐさま再び自己領域を展開。

新たな艦に狙いを定める。



――――一機。



――――また一機。



時には『炎神』で噴射口を誘爆させたりと、錬は着実に敵の艦隊を撃墜してゆく。

飛行艦艇のスピードに追いつける『騎士』の能力と、外壁の防御を無視した搦め手の攻撃を行える『炎使い』など の能力。

その二つを併せ持つ錬だからこそできる芸当だ。

『人形使い』のゴーストハックでは飛行艦艇の速度には追いつけないし、

『炎使い』の分子運動制御の射程には入らない。

対艦艇に圧倒的な戦果を挙げた『光使い』レベルの戦闘力を単身で再現できるのは、今やこの世に天樹錬一人の み。

『自己領域』を断続的に展開しながら接近と同時に一撃を放ち続ける。

「・・・・・・っ!」

さらに一機。

轟音と共に噴射口を潰された機が落ちてゆく。



(I−ブレイン 蓄積疲労16%)



脳内に浮かんだメッセージを強引に振り払う。

やはりこの戦法は消耗が激しい。

錬は歯を食いしばり、次の目標へと踏み出そうとしたとき、たった今撃墜した機にミサイルの雨が打ち込まれた。

「!?」

驚愕もつかの間。すぐに錬は敵の思惑を思い知った。

六機という取るに足らない損害であるが、敵も飛び回る小蝿の存在に気づいたのだろう。

そして『自己領域』を形成しているということも無論考えに入れている。

ならば、撃墜された機の近くにその敵はいるであろうと当然考える。



(危険 重量物体多数高速接近)



爆発の勢いで四散した機体の破片が圧倒的なスピードを持って錬に襲い掛かった。

「――――――――っ!」

たった今『炎神』を撃ちはなったこの状態、『自己領域』を発動するのは不可能。

ならば――――!

判断は一瞬。

被激突面を少なくするため体を丸め、氷盾を全力で目の前に展開する。

しかしいくら窒素分子を限界まで凝集しようと、相手は音速を超える速度で飛来する破片。

それも数百を超える数だ。

無論防ぎとめることなど敵わず氷盾に激突音の乱打が響いたかと思うとそれは粉々に砕け散った。

「が・・・・・・・・・っ!」

それでも運動ベクトルを制御して大半はそらした。

しかしすべてを逸らすことはあたわず、右肩と左足に直撃を食らう。

意識が断線するほどの衝撃。

破片が小柄だったのが幸いといえば幸いか。

真っ赤に染まった破片は右肩の脱臼、左ふくらはぎの亀裂骨折を置き土産に遠く彼方へと消え去っていった。

「っ・・・・・・・・・」

・・・・・・まずい。足をやられた・・・・・・!

歯を食いしばりながら二次爆発を食らわないように大きく飛び離れる。

足をやられたのでは肝心の自己領域を解除してからの攻撃に支障が大きく出る。

もう一度、先ほどの戦法を受けたら今度はまともに食らうだろう。

「――――――――く」

知らず呻きが漏れる。

いけない、このままじゃ・・・・・・・・・

と、そのとき、何かでこちらをモニターしていたのか、Hunter Pigeonより通信素子に連絡が入った。

どうやらフィアの素子を使ってこちらの動きを捉えていたらしい。



『――――おい、無事か!?』



切羽詰ったヘイズの声。

「なんとかね!」

周りの爆音に負けずに叫び返す。

『それならもう戻って来い! 少しは食らったんだろうが。もう無理なはずだぞ!?』

「っ・・・・・・でも!」

そっちだってギリギリのはず、と言おうとした錬だが、それは有無を言わせぬヘイズの叫びにかき消された。

『馬鹿野郎が! 一人で5機落としただけで十分すぎる! いいから戻ってこい!』

怒声を響かせるヘイズ。

その後ろで不安そうに自分の名を呟くフィアの声も聞こえた。

「・・・・・・・・・・ごめん。わかった」

歯を食いしばって肯定する。

確かにこの状態じゃ足手まといにしかならないだろう。

それにI−ブレインの疲労も溜まってきている。

錬は『自己領域』を展開し、無力さを噛み締めながら帰途に着いた。












         *












「ごめん! 役に立てなくて!」

『自己領域』を解除すると同時に操縦室へ駆け込む。

心配そうに振り返るフィアと、未だ目覚めぬリューネを抱えるファンメイ、そして一人奮戦するヘイズを見渡し、

「んなもん後でいいからお前のI−ブレインも貸せ!」

「う、うん!」

先手を打たれて大人しく有機コードでヘイズと自分のI−ブレインを直結。

無論自分の演算速度では『破砕の領域』の起動は不可能だが、少しくらい疲労の緩和はできる。

どうやら既にフィアもファンメイも手伝っているらしく、ヘイズは船の操縦には演算を使わず、操作と『破砕の領 域』にのみ自前のI−ブレインを使用している。

荷電粒子砲が次々に唸りを上げた。

もはや攻撃と防御は完璧に同一。

破砕の領域を撒き散らしながら光の火線を撃ち放ち、真紅の船は空を行く。

「撃墜数は!」

慣性制御によって強引に落下し、敵の弾幕をやり過ごしたヘイズが吼える。

そして答える声に淀みはない。

一瞬の間もおかず投影ディスプレイが答える。

『現在撃墜数45機 確認できる敵艦隊残数は124機です』

「っ・・・・・・また増えやがったのか」

ぎり、と歯をかみ締めるヘイズ。

その間にも彼の指は断続的に弾かれている。

どうやら相手は本当にリューネを仕留めたいようだ。

これだけの数の被害を出せば普通は引き、次の機会を狙うものなのだが、そんなセオリーは通用しなかった。

味方を巻き込むことを厭わぬ砲撃。

自壊を恐れぬ接近戦。

それらすべての行動がここで決着をつける、と語っていた。

そして、その覚悟はついに実る。

「――――な!?」

ヘイズの声が凍った。

同時に錬たちも目を疑う。

今までこちらを包囲して砲撃を続けてきた艦隊の一群が、まったく同じタイミングをもってこちらへと急接近して きたのだ。

Hunter Pigoenを中心として何かに引き寄せられるようにそれらは真核へと落ちてゆく。

そこでヘイズは彼らの目論見を悟った。

「――――か、カミカゼか!?」

「!!」

砲撃はすべて解体される。

それならば、次にとる行動はいったいなんだ?

自らの死を厭わずこちらを滅ぼそうとするのならば、この選択はある意味必然。

「くそったれが・・・・・・・・・っ!!」

必死でヘイズは回避運動を行う。

だがしかし、いくら彼でも物理的に隙間がない部分を抜けてゆけるわけがない。

Hunter Pigeonを目掛けて特攻する船、その数なんと36――――!

「この・・・・・・っ!!」

『破砕の領域』を撒き散らし、解体できぬまでもなんとかスピードを鈍らせようとする。

が、そんな猶予などなかった。

36の人間爆弾。一縷の奇跡すら許さぬと迫り来る。

「!!」

無理だ。これは回避できない。

理論上にも物理的にも不可能。

唯一の手は『虚無の領域』だがそれを使ったとしてもすぐに撃墜されるのは目に見えている。

「ちっくしょ―――――――」

コンソールにヘイズが手をたたきつけ、

錬とフィアとファンメイは迫る衝撃に対し体を強張らせ、

そして36の絶殺が肉薄し―――――――――




















――――白銀の槍が、すべてを貫いた。






















「・・・・・・・・・は?」

ぽかん、と口が開く。

目の前の主ディスプレイに映っているのは、こちらと心中しようとしていた36の船が残らず演算機関をブチ抜か れて墜落している映像だった。

白銀の槍はまるで生きているようにのたうち、すぐに”本体”へと巻き戻ってゆく。

「あ、あれは・・・・・・・・・」

呆然と、ここが戦場であることも忘れてヘイズたちは目を見合わせた。

白銀の槍。

それが示すものとは、なんであったか。

大空を見上げる。

すると、想像通りのものがそこには存在した。

限りなく磨きぬかれた流線型のフォルム。

雄雄しく広げる翼はまさに空を包むが如く。

そう、その船の名とは、
















「――――『ウィリアム・シェイクスピア』!!!」
















流体金属の鳥はその言葉に答えるように悠然と白銀の翼を羽ばたかせた。



























 おまけコーナー・哀愁編 

〜ウィリアム・シェイクスピアだ!!〜

フィア 「あ、あれは・・・・・・・・・」

ヘイズ 「鳥だ!」<悪ノリ

ファンメイ 「飛行機だー!」<便乗

錬 「――――どっちでもあるよね」<真面目

二人 「・・・・・・・・・・・・(泣)」



追加おまけ 〜WB格闘ゲーム化計画の残り二人〜



 サクラ
「刃刹」じんせつ 236攻 EX版→「刃刹・澪標」じんせつ・みおつくし
「封翼閃」ほうよくせん 263攻 EX版→「封翼閃・胡蝶」ほうよくせん・こちょう
「地杯」ちはい 214攻 EX版→「地杯・真木柱」ちはい・まきばしら
「氷炎奉天ひょうえんほうてん 241攻 EX版→「氷炎奉天・早蕨」ひょうえんほうてん・さわらび
 

EX技
「踊る人形」  236236攻
「魔弾の射手」  214214攻
「連鎖展開」  641236攻
「いつかこの花が――――」  236236特
 →「夢浮橋」ゆめのうきはし 2141236特
 →「花散里」はなちるさと 463214特






 イリュージョンNo.17
「刈る」  236攻 EX技→「”牙”」
「捌く」  263攻 EX技→「”空”」
「薙ぐ」  214攻 EX技→「”斬”」
「駆ける」  412攻 EX技→「”閃”」
 
EX技
「薄雲・清風」うすぐも・さやかぜ 236236攻
「天時・帚木」てんじ・ははきぎ 2141236攻 
「――――夢幻、疎にして現を穿つ」  641236攻




あとがかれ

「ってなわけでついにエド登場ー! これにてこの物語のキャラは全員出揃いましたとさ」

錬 「それにしても美味しいところもってったね、エド?」

エド 「はい」

ファンメイ 「わー、ちゃんと笑えるようになったね! えらいえらい!」

「・・・・・・・・・・・・おーい」

ヘイズ 「ん? 少々背も伸びたんじゃねぇか?」

フィア 「あ、そうですね。マフラーが丁度いい大きさになってきてます」

エド 「・・・・・・・・・?」

ファンメイ 「あ、ちがうの。怒ってるんじゃなくてね? ここは喜んでいいとこなの」

「もしもーし・・・・・・・・・・・・・・・」

錬 「意外とモスクワ自治軍の服も似合ってるね」

フィア 「はい。かっこいいですよ、エドさん」

ファンメイ 「あは。この伸び方だと錬なんかすぐ追い抜いちゃうね」

錬 「・・・・・・・・・う、うるさーい!」

ヘイズ 「・・・・・・・・・反論しねぇとこがミソだなおい」

エド 「れん。おいぬく?」

錬 「エドまで!?」

「えー・・・っと・・・・・・・・・・・・聞いてますかー?」

フィア 「世界樹の方はいいんですか?」

エド 「だいじょうぶ」

ヘイズ 「あぁ、大丈夫だろ。先生が世界樹全部を網羅するほどの意識容量持った中枢作ったって言ってたからな」

ファンメイ 「そーそー。だからだいじょーぶ!」

ヘイズ 「・・・・・・・・・お前はなんもわかってねぇしやってもねぇだろ」

錬 「確かに」

ファンメイ 「むー」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・新手のイジメ?」

錬 「――――さて、そろそろ本題に入ろう。今回の章のことだけど・・・・・・・・・」

フィア 「『黄金夜更』。ものすごい戦力ですね」

ヘイズ 「あぁ。詳しい説明は省くが、あれらは世界最大最強の空賊の名を欲しいままにしてる連中だ」

ファンメイ 「へー?」

ヘイズ 「なんてーか、全部で1000機以上艦艇があるとか、魔法士も大量に抱えてるとか色々噂はあったんだが・・・・・・」

錬 「それが、本当だったわけだね」

ヘイズ 「そーゆーこった。やれやれ、これじゃぁエドワード・ザインが来てくれてやっとまともに戦えるってとこだぜ」

「・・・・・・・・・俺の、仕事・・・・・・・を・・・・・・・・・」

フィア 「そんなのにリューネさんは狙われてるんですか・・・・・・・・・」

ファンメイ 「って、そういえばリューネはどこ? 最近みかけないけど」

錬 「ん、ここのところずっと気絶中」

ヘイズ 「・・・・・・・・・そうだったな」

フィア 「それでは、次章は第十一章『Dog fight!』」

ファンメイ 「『黄金夜更』VSヘイズとエド! 大空中戦だよ!」

ヘイズ 「一つ俺の無茶な切り札も見せるから、期待しといてくれな」

錬 「それじゃあ、またねー!」



























「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺、何か悪いことしましたか(泣)」






















SPECIAL THANKS!
天海連理さん(誤字脱字校正部隊)
有馬さん(〃)
闇鳴羚炬さん(〃)