第十四章
「君がそれを望むのなら」
HAVE A HOPE!!
「フィ・・・・・・・・・ア?」
呆然と呟く。
目の前で起きていることが理解できない。
思考が完璧に固まってしまっている。
視界に踊るは光の翼。
それは全てをやさしく包み込むイメージの具現だ。
そして、その力は――――
「天使・・・の、翼・・・・・・。フィア・・・・・・あなた・・・・・・」
その力の名は『同調能力』。
自分の能力、『調律士』の原型でもある『天使』が有する全てを律する力。
かつてフリードリッヒ・ガウス研究所で生み出され、そして失われたとされる欠番の能力者。
自分と同じく、ただマザーコアに使われ死んでゆくのみだった運命の奴隷。
あのシティ・神戸崩壊事件で失われたはずの『天使』が、なぜ・・・・・・?
呆然とするリューネをしっかりと見据え、天使の少女はゆっくりと口を開いた。
「わたし・・・・・・私も、リューネさんと同じでした」
紡がれるのは己が運命。
生まれたときより既に確定していた死。
どうあがこうとも逃れようがない絶対の運命。
フィアも、そんな過去を進んできたのだろう。
・・・・・・でも、どうして今ここに・・・・・・・・・?
胸中の疑問に答えは無論返らない。
フィアの語りは続く。
「マザーコアという、ただ町を動かすだけの機械になる運命でした。――――けれど」
フィアの目にいっそう強い意志の光が宿る。
それに気おされるように、リューネは一歩を退いていた。
「――――けれど、錬が助けに来てくれたんです」
確固たる意思と、決して悔やまない決意の光を目に宿し、フィアは誇り高く言い放った。
それが彼女の原点。
ただ町を生かす機械として死んでゆくはずだった自分に訪れた出会い。
あの出会いによってフィアは初めて日常というものを知った。
大好きな人。
大切な人。
守りたい人。
初めて知った心の触れ合い。
それを教えてくれた天樹家の三人。そして、そのきっかけを作ってくれた今は亡き「おばあさま」にはどれだけ感
謝してもしたりない。
「神戸市民1000万人と、私の命。何が正しいのか、何が間違っているのかなんてぜんぜんわからないのに、―――それでも、私を助けてくれたんです」
脳裏によぎるはあの日の惨状。
何が正しくて、何が間違っていたのかなんて今でもわからない。
それでもあの事件に関わった者はみんな、己の思いを貫いた。
――――何かを犠牲にしないといけないならば、せめてひとつでも多くの命を救おうと全のために一を殺す決意をした黒沢祐一。
――――娘の死の苦しみを抱えて生きてきた十年。それでもまだ同じ選択をせざるを得ない現実を恨み、司令官ではなく”母”を選んだ七瀬静江。
――――雪の死を悼み、世界を放浪して尚答えを見つけることはできず、それでも屈さずに自分たちにできる最善を行い続けた真昼と月夜。
――――全てを救いたいという決して叶わぬ想いを胸に、百億の悩みと千億の絶望を抱えて全ての責を自ら担った天樹錬。
誰も彼もが悩み、苦しみ、しかし走りきったあの事件。
「錬は言ってくれたんです。”生きていい”って。”死ななくて本当によかった”、って」
「あ・・・・・・・・・」
リューネの口から意図せず息が漏れる。
”生きていい”。
その言葉が全てを語っていた。
死ぬためだけに生まれてきた命などないのだと。
どんな運命を背負っていようと生きてゆくべきなのだと。
「・・・・・・だから、私はその時”生きたい”って思うことができたんです。錬と、錬と一緒に生きてゆきたい、って・・・・・・」
「フィア・・・・・・・・・」
声に現実感が無い。
あらゆる知覚が意味を失くしている中、ただ目の前の天使の少女だけがはっきりと像を結んでいる。
フィアがこっちを見ている。力強く、もう絶対に悔やまないと決めた決意を宿す表情で。
そしてその目が弓に細められた。
「――――だから、リューネさんも大丈夫です」
自分と同じ、悲しみと寂しさを含んだ笑顔。
けれど、フィアの微笑にはそれら全てをやさしく包む暖かさがあった。
過去の行いも、現在の状況も、未来への選択も、全てを理解して進んでゆくその強さ。
その姿に、息を飲んだ。
自分がこうありたいと思っている強さ。
どんなものにも負けず挫けない強さではなく、全てを受け入れ、逃げず、目を逸らさずに進んでゆくその強さ。
弱いは強い、強いは弱い。
堅く固く鉄の心を持って苦難を乗り切ろうとするなら、その心はいつか必ず錆付いてしまう。
だから磨き直すのだ。
あの日の輝きを忘れないように。
過去の選択の間違いを忘れないように。
これまでに見てきたあらゆることを忘れないように。
――――それは、自分が生きた証を確認するということ。
前ばっかり見てがむしゃらに走っていただけでは、道を外れているのかわからなくなってしまう。
だから、疲れたのなら立ち止まって一度振り返ってみよう。
今まで生きてきた道がこれから行く道につながっているのかどうか、今一度確認してみよう。
息を整え、道を整え、そして、心を整える。
――――そのために必要なものとは、もうわかるだろう?
潤みかけた視界の中、次々に声が上がる。
「もう諦めかけているかも知れません。けど、今は――――私たちがいるんです」
「ぁ・・・・・・・・・」
なにかが、なにかが胸を満たしてゆく。
空虚な心。もはや枯れるのみとあきらめていた願いに、希望に、意思に温もりが溢れてゆく。
「そう、みんなと一緒に笑ったり、泣いたり、遊んだり・・・・・・。そんな当たり前のことが当たり前にできる日がきっと来ます」
「フィア・・・・・・・・・」
――――折れかけていた意思に支えが入った。
依存せず、依存させない一押しの支えが。
「居場所が無い、なんていうなら、わたしたちが作ってあげるの。――――ムリなんかじゃない。だってわたしたちは、リューネに生きていてほしいんだから」
「ファンメイ・・・・・・・」
――――朽ちかけていた願いに火が点った。
全ては照らさず、ただ行く道の踏み出しを照らす灯火が。
「どうにもならないかもしれない時でも、もうちょっとがんばろうよ。正しくなくても、間違っていようと、僕はリューネに生きていてほしいと思うことは決して誤った思いじゃないと信じてる」
「錬・・・・・・・・・・・」
――――失くしかけていた希望に力が満ちた。
絵空事ではなく、確かに生きる導となる希望が。
「そういうことだ。お前さん、もう少しわがままになってもいいと思うぜ? 辛くても悲しくても生きることだけはあきらめんな。這いつくばってでも前へ進んで、そして笑え。――――それが、生き抜くってことだ」
「ヘイズ・・・・・・・・・」
――――消えかけていた心に温もりが溢れた。
あきらめに沈んだ心には決して届かない、全てを癒すやさしい温もりが。
「みん、な・・・・・・・・・」
涙が溢れる。
仮面なんてもうとっくに剥がれてしまっている。
言葉にできない暖かいものが胸に渦巻いて言葉が出てこない。
やさしい微笑を漏らしてこちらを見据えるフィア。
じっとこっちを見つめ、返答を待つファンメイ。
フィアの横に寄り添い、強い決意を目に湛えている錬。
親父の受け売りだがな、と頬を掻いて照れているヘイズ。
四人全てが、涙に霞んだ。
その時、唐突に通信が入った。
ディスプレイにちっちゃな男の子が映し出される。
ウィリアム・シェイクスピアのマスター、エドワード・ザインだ。
その男の子はどうやらこっちの話は全て一方向通信で聞いていたらしく、いきなり声を上げた。
「ひとり、ちがう。しぬ、ぜったいだめ!」
「・・・・・・・・・・・・・・うん。・・・・・・・・・そうだよ、ね」
思わず俯いてしまう。
自分のことを何にも知らない、それもついさっき出会ったはずなのに、この子まで自分のことを考えてくれている。
もしかしたら彼にもなにか過去に辛いことがあったのかもしれない。
けれど、それすら振り切って周りを助けようとするその強さ。
フィアたちの周りの人間はみんなそうなのだろう。
・・・・・・・・・それなら、わたしだって、できるよね・・・・・・?
心の中で自問する。
愚問だ。そんなもの答える価値も無い。
だから言わない。
けど、その代わりに言わなければならない一言がまずある。
「みん、な・・・・・・・・・あり、あとぉ・・・・・」
しゃくりあげながら、まともな言葉にもならず、万感の思いを込めて告げた。
ありがとう。
本当にありがとう。
私・・・・・・・・・もう少しがんばる事にする・・・・・・!
力強く頷き、勢いよく顔を上げる。
それに錬たちも頷きを返し、代表するようにヘイズがこちらに一歩を踏んだ。
右腕が振り上げられ、勢いよく振られる。
発せられるのは腿を打つ打音。
乾いたその音は力強くこの部屋に広がった。
そして最後の宣言が響き渡る。
「さぁ――――ここで一発宣言しちまいな。命を使い捨てにしようとしている阿呆らの襟首引っつかんで叫び聞かせる本当に本物の本心を!」
強く、強くヘイズの言葉が胸に満ちた。
返す答えはひとつしかありえない。
「――――うん!」
頷き一つ、それを予備動作として胸いっぱいに息を吸い込む。
そして、告げる。
「わたしは――――――――」
――――折れた心が起き上がる。
――――朽ちかけていた願いが立ち上がる。
――――失くしかけていた希望が手を伸ばす。
――――消えかけていた心が蘇る。
意気は十分、意思は十全。
叫ぶのは魂の希いだ。
過去を負い、現実を見据え、そして未来へ進むことを決めた今、放たれる言祝ぎはたった一言。
惰性に流され、ただ恐怖から告げた言葉ではない。
故に今自分が放つ言葉は、「死にたくない」ではない!
そう、わたしは―――――――――――
「―――――――――生きたい!!!!」
自分の存在全てをもって叫んだ。
死の恐怖に流されて望むものでもなく、
届かぬ理想を渇望するものでもなく、
ただ自分がここにいる、この”いま”を生き抜きたい!
世界へと染み入ったその叫びを聞き、錬たちはそろって笑みを浮かべた。
そして最後の決意が集う。
「それなら生きるぞ。辛くとも、悲しくとも、這いつくばってでも生き抜くぞ!――――全身全霊全力で!!!」
『――――――――応ッ!!!!!』
*
決意は集い、全ては前へと進み始めた。
あの後、すぐさま『黄金夜更』に対する今後の方針を決めるための話し合いが始まった。
いくら世界最大の空賊でも流石に『雲』の上へは攻めてこれないだろう。
だがこのままあいつらを放っておいても埒が明かない。
なのでとりあえず今日はこのまま『雲』の上で休息を取り、明日にこちらから『黄金夜更』に仕掛けてやろうという話でまとまったのがついさっきだ。
今は全員が休むためにそれぞれの部屋に別れている。
その中、居住区の一番奥にあるテラスで錬は一人佇んでいた。
窓ガラス越しに外を見ながら、その手に持つものはリューネが落とした研究レポート。
今は出力装置が無いのでI−ブレインに有機コードで接続し、直接脳内に映し出している。
目を閉じ、レポートの内容を反芻する錬だが、その顔は疑問に歪んでいた。
「この、レポート・・・・・・・・・」
・・・・・・なにかが、ひっかかるんだよなぁ・・・・・・?
手でクルクルと弄んでみるがそんなことでなにかが変わるでもなし。
最初にこれを読んだときに感じた違和感、その正体は一向にわからない。
リューネに感じた違和感とはまた別のもの。
あれは似ているもの同士だったせいでデジャヴのような感じだったが、
これはなにかを見落としているような、そんな感じ。
ぽーん、と端末を放り上げてキャッチする。
「リューネと、そしてウィズダムを作った機関、か・・・・・・」
思い返すは以前の死闘。
黒沢祐一、デュアルNo.33、セレスティ・E・クライン、そして自分とフィアと、世界最強クラスの魔法士を5人相手にしても笑って打ちのめす狂人。
――――途方もなく狂った賢者。
あれはまさに最強にして最狂だった。
あいつの化け物っぷりは今でも尚はっきりと思い出せる。
姿どころかヤツの言い放った言葉ですら脳裏に焼きついているくらいだ。
<これだ!これこそ俺の求めていたモンだ! 拳に決意を剣に戦意を、そして心に弛まぬ覚悟を!戦の果てに見えるが真理の地平ぞ!
――――聞こえているか! 観ているか『賢人会議』! これこそが、俺自身の『生き様』だ!!>
「・・・・・・・・・・・・・・・”賢人会議”・・・・・・?」
狂気の咆哮を思い返したとき、その一言に思考が止まる。
・・・・・・・・・ちがう・・・・・・?
慌てて手元の端末を操作する。
おかしい、ウィズダムを作り出した計画は『次世代都市存続永久機関開発計画』のはずだ。
なのに、どうしてあいつは『賢人会議』、と・・・・・・?
「え・・・・・・・・・?」
確かに、確かにウィズダムは自分を賢人会議に作られた存在と言った。
けれど、このレポートに示される事実は、
「アドヴァンストマザーコアプロジェクト・・・・・・これ、賢人会議なんかじゃない・・・・・・・」
どういうことだ、と思う。
まさかあの狂人が嘘を吐き通したわけでもあるまい。
確かにウィズダムは自分を賢人会議に作られた存在と思っていた。
「・・・・・・・・・なら、アイツが語ったことは全部」
『不老不死への法』。人類の英知を窮めようとする集団。
それら全ては、『賢人会議』を指していたものではなくなる・・・・・・!
「それなら・・・・・・、『賢人会議』って、一体何なんだ・・・・・・?」
そしてこのプロジェクトとは一体何なのだ?
今までの前提が根本から崩れ落ちる。
考えろ。
わざわざ世界的にテロ活動を行っている『賢人会議』の名を語る理由とは・・・・・・・・・
「まさか、『賢人会議』の名を隠れ蓑にした、シティでも『黄金夜更』でもない第三の勢力がいるってことか・・・・・・?」
もしそうならば一通りの説明はつく。
ヘイズから聞いた”アリス”、”大気制御衛星に偽装”、”世界の解”。
バラバラのこれらを繋ぎ合わせるのがこの謎かもしれない・・・・・・
「・・・・・・・・・でも」
『賢人会議』。
とてもなつかしいような思いがするのは何故なんだろう・・・・・・?
「どっちにしろ、また余計なことに首突っ込むなって月姉に怒られるか」
苦笑交じりに嘆息する。
けど、それでも自分は追い求めていかなければならないと思う。
確証も確信も証拠もなにもないんだけれど、
「なにかが、誰かが待っているような気がする・・・・・・・・・・・・」
目を閉じる。
瞬間、
――――――――男の子なら錬、
女の子なら■――――――――
「――――――――ッ!」
頭痛。
割れるような痛みが走った。
その酷さに痛覚遮断も忘れて思わず蹲る。
・・・・・・な、ん・・・・・・っ?
声が出せない。
胸の奥が締め付けられるような感情の嵐が荒れ狂っている。
脳裏に浮かんだ誰かからの言葉。
それはまるでスイッチであったかのように理解不能の感情を呼び起こす。
違う。自分にこんな記憶はない。
この言葉を受けたのはもう一人の自分とも呼ぶべき――――――――
「あ――――く」
狂おしく、切なく、そして悲しい。
歯を食いしばったとき、握り締めた拳が濡れる感触。
「え・・・・・?」
ぽたり、と垂れたのは水滴。
頬を伝う、一筋の涙。
「あれ・・・・・僕、どうして、・・・・・・泣いてなんか・・・・・・?」
頬を拭う。
そのときにはもう頭痛も感情の奔流も治まっていた。
・・・・・・・・・なにが、どうなって・・・・・・?
胸中の問いに答える声は無論ない。首をひねりながら思考を元に戻す。
今考えるべきことは、
「リューネ、か・・・・・・・・・」
嘆息と共にデッキチェアに座り込む。
「まさか、本当にフィアと姉妹なんてね・・・・・・」
『天使』と『調律士』。
どちらも”世界”、すなわち情報の海を直接制御する能力。
「・・・・・・・・・・・・・・・今度も、マザーコアなんだよね」
目を閉じ、深く背もたれに体重を預け、錬は記憶を蘇らせる。
崩壊する外壁。
生まれ出ずる巨人。
爆裂する閃光。
そして、■んだ何百万もの人。
「―――――――っ」
頭痛。
脳裏に宿るは巨人に押しつぶされて肉塊と化したシティの住民。
苦悶の表情で、目を開けたまま死んでいる。
その虚ろな目がこちらを責めているようだった。
「・・・・・・・・・っ、く」
目を逸らしてはいけない。
これは自分の罪。
たった一人の大切な人を助けたことで起きた犠牲。
・・・・・・・・・今でも、わからない。
あの時の選択は正しかったのか、それとも間違っていたのか。
いや、少なくとも正しくはなかっただろう。
1000万人もの犠牲。それを出した答えが正しくあるとは思い難い。
けど、
「それでも・・・・・・決して間違っては、いないんだ・・・・・・」
おかしいと思うことをおかしいと思え。
そう言ってくれた人もいた。
なら、大切な人を助けたいと思う気持ちが誤りであるわけはないと思う。
それでも、もう少しやりようというものがあったのではないかとも思う。
今の状況はまるで過去の再来。
ならば今度は、今度こそは、
「今度は誰も・・・・・・傷つかせない・・・・・・」
・・・・・・重く、そして苦しい。
けれど、やらなければならない。
犠牲がいるなら自分で埋める。
最早錬の抱くその決意は強迫観念にも近いものだった。
無理もない。
まだまだ子供の精神であのような惨事を引き起こしたことがトラウマにならぬわけがないのだ。
必死で、自らを捨ててでも何かを償おうとする様子は見ていてとても痛ましい。
拳を握り締め、深く息を吐いた錬に、ふと影が降りた。
「・・・・・・・・・錬、さん」
「フィア?」
驚いて目を開ける。
フィアがこんなところに来たのもそうだが、ここまで近くにこられても気づいていなかった自分に驚く。
錬は立ち上がってフィアと視線を合わせる。
フィアの顔は、何故か少し悲しそうだった。
その理由が何なのかは聞くまでもない。
・・・・・・・・・そっか。
胸中で吐息し、微笑の仮面を被る。
「どうかしたの? 寝とかないと明日がキツイよ。何せ一大決戦やらかすんだし、さ」
勤めて軽く。
がんばって平静に。
そうでもしないとこの少女は引き下がらない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
フィアは無言。
悲しそうな目で上目遣いにこちらを見やる。
その顔に覚悟が揺らぎそうになるのを必死で堪える。
・・・・・・僕は、馬鹿だ。
改めて思う。
みんなが、誰かが傷つかないようにと頑張ることで心配をかけてしまっている。
これでは本末転倒もいいところだ。
・・・・・・・・・けど、それでも守りたいんだよ・・・・・・
もう二度と、あんなことを繰り返したくはないんだから。
・・・・・・だから、僕は馬鹿でいい。
誰も傷つかずにすむならどんなことでもしてやる。
そして――――絶対に自分も死なないこと。
明日、リューネを、皆を守って、全員でもう一度この三日間をやり直すんだ。
だから、今は・・・・・・
「・・・・・・・・・おやすみ」
「あ・・・・・・・・・」
安心させるように一度だけフィアを抱きしめ、錬は寝室へと向かった。
・・・・・・・・・・・・全ては明日だ。
明日、決まる――――――――
おまけコーナー・落日編
〜夢、追いかけて〜
ヘイズ 「さぁ、ここで一発宣言しちまいな! 自分の本当に本物の本心を!!」
リュ−ネ 「――――うん!」
一息
リューネ 「わたしは―――――――――世界を」<ぽそり
四人 『――――!?』
リューネ 「――――――――生きたい!!!」<何もなかったような表情
錬 (・・・・・・今、何を言いかけた・・・・・・?)
フィア (え、えぇっと・・・・・・・・・?)
ファンメイ (世界を・・・・・・・・・・・・ナニ?)
ヘイズ (意外とコイツ・・・・・・・・・)
・・・・・・・・・オチ無し
あとがき
「恐れは勇気へ戒めは希望へ、千を重ねていた咎を受け入れ少女は一歩を前へ踏む、と」
フィア 「ついに、決断がなりましたね」
ヘイズ 「あぁ。ここがスタートだな」
錬 「後は全てを終わらせるだけ、か」
ファンメイ 「おーごんよふけを叩き潰せば勝ち、だね!」
「ある意味そうだが、そう簡単にはいかんぞ。――――ってかむしろ勝率低すぎるし」
錬 「・・・・・・やっぱりね。いくら個々が強くても数には絶対に飲み込まれるものだからね」
ヘイズ 「おまけにこっちはヤツらの地上部隊と飛行部隊の両方を叩かなきゃならんしな」
「そういうこと。唯でさえ絶対数で勝負になってないのに加えて空と地と戦力をわける必要があるんだ」
ファンメイ 「・・・・・・・・・わ」
「単純計算、一人当たり200人くらい倒せないといかんよ? ――――無論、その中には魔法士もいる」
フィア 「・・・・・・・・・・・・相当、多勢に無勢ですね」
錬 「空はヘイズさんとエドだけでやってもらうとしても、地上で戦えるのは僕とファンメイだけだし・・・・・・・・・」
フィア 「私の力は効きませんし・・・・・・・・・。リューネさんの”固定”は使えないんですか?」
「使えない。前にも言ったとおり彼女の能力は全能に近い代わりに発動させるまでの条件が異様なほど厳しいんだ」
ヘイズ 「ならそれも却下か・・・・・・」
「特に他人の情報を書き換えることは相当難度も高い。空間転移みたく固定せずに”在り方”を変質させるだけならそこまで厳しかないがね」
錬 「けれどそれだと――――」
「そう。それだと”固定”ではないからアイツらのナイフによる結界で打ち消されてしまう」
ヘイズ 「八方塞か・・・・・・やれやれ、マジで死ぬかもしれんなこりゃ」
ファンメイ 「聞き飽きたよー」
ヘイズ 「・・・・・・・・・妙なことだけハリーに聞くんだなお前」
「どうなるかはまさに君らしだいだな。相手は魔法士も含めて構成人数は1000人を超過し、保有艦艇数も500を超える最強の空賊」
フィア 「シティと戦争やるようなものですね・・・・・・・・・」
「加えてまだ相手にはウィリアム・シェイクスピアの翼を撃ち抜くほどの威力を有する艦がいることをお忘れなく」
錬 「あー・・・・・・そういえば」
ヘイズ 「ありゃいったいなんだ? 『黄金夜更』の旗艦ってとこか?」
「さてね? それはまあ次で明らかになるでしょう多分」
ファンメイ 「そういうことらしいよ? そんじゃ、次回予告いってみよー!」
「強引な話題振りを有難う。――――次章は第十五章『守るべき誓いがある』」
錬 「ついに始まる『黄金夜更』との最終決戦。リューネの、そして僕らの命運を賭けた戦いが幕を明けるよ」
フィア 「たった二人対五百人。私たちに、勝ち目はあるんでしょうか・・・・・・・・・?」
「泣いても笑ってもこれがラストバトル。終わりの鐘は既に鳴らされた。――――後は一発ガツンと行って来い!!」
全員 『――――――――応ッ!!!!』
SPECIAL THANKS!
天海連理さん(誤字脱字校正部隊)
有馬さん(〃)
闇鳴羚炬さん(〃)