第十五章

「守るべき誓いがある」






















響け空打つ定めの鐘楼

ここに終わりの始まりを宣言する
























翌朝。

朝食をとり終えたヘイズたちは操縦を一時ハリーの自動操縦に任せ、後部ハッチに集まっていた。

戦闘準備は既に完了し、全員が武装を終えていた。

錬は防刃シャツを着込んでプレートブーツを履き、『月光』と予備のサバイバルナイフを数本懐に装備している。

フィアは情報強化された白いロングコートを纏い、愛用している銃を腰に提げる格好。

ファンメイは普段どおりの背中に穴の開いた服を着込んでいる

ヘイズには全く変化はなし。精精ジャケットを対衝撃に強化したくらいだ。

そして要のリューネはフィアと同じく白のロングコートを羽織っている。これは即席だが銃弾の一発や二発は通さ ない代物だ。

ここにはいないが投影ディスプレイに映るエドも普段とは変わりなし。ぶかぶかの軍服を着崩した格好だ。

各々が身を鎧った集いの中、ヘイズが口を開いた。

さて、と一息をいれ、

「いきなり本題入るぞ? ――――リューネ。実際のところ、あの『黄金夜更』の戦力はどんなもんなんだ?」

そう問うた。

対してリューネはしばし黙考し、

「私も全戦力を把握してるわけじゃないんだけど・・・・・・それでも、飛行戦力は500機を下らないと思う」

その答えにヘイズの眉がしかめられる。

「ってことは最低500機ってことか。・・・・・・まったく、やれやれだ」

「地上戦力の方はどうなの?」

今度の問いは錬。

「地上軍の方は、魔法士の部隊二つと、普通の人間の部隊一つの三つに分けられているわ」

指折り数えながら答えるリューネ。

「普通の人の部隊は400人くらいかな。魔法士の部隊は能力の優劣によって二つに分けられているの」

一息。

「低い能力、シティの軍風に言うなら第三級の魔法士は部隊”アウセルデレイダ”に。そして第一、二級の魔法 士は”ゲーティア”って呼ばれる部隊に入れられている」

一気に告げる。

これはまさに死刑宣告にも等しい。

第一級の魔法士、すなわち祐一やディーと同レベルの魔法士が敵方に何人もいる、ということ。

いくら錬の力がすべてを包括する力だとしても、

いくらファンメイの能力が無敵に近いものだとしても、この戦力差はまさに絶望的。

いくら世界最強の魔法士の一人と格付けされていようが、所詮その力とて第一級の魔法士を5人も相手したら叩き潰される程度のもの。

魔法の世界において、単純な戦力差を覆す手段などほぼ皆無。

「・・・・・・・・・人数は?」

内心の戦慄を押し殺して錬が問うた。

”アウセルデレイダ”は30人。”ゲーティア”は15人だった、と思う」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

それは、つまり。

錬とファンメイの二人のみで通常部隊400人に加え、第一級を含む魔法士45人と戦わなければならない、ということだ。

かたや、ヘイズとエドはたった二機で艦艇およそ500機を相手にせねばならない。

単純計算、戦力比は250倍。

無理無茶無謀どころか希望など絶無の数値だ。

七瀬雪やウィズダムあたりならばなんとかなりそうにも思えるが、今のヘイズたちの戦力では到底敵うとは思い難い。

ならばどうするか。

答えを一瞬で弾き出し、ヘイズは立ち上がった。

「だが――――、別にすべてを相手にする必要は無い、だろう?」

「!」

告げられるは勝利条件。

そう、別に馬鹿正直に真っ向から勝負してやる義理などどこにもない。

「リューネをマザーコアクローンにするのを止める、ってぇならその設備のみぶっ壊せばいい。こんな戦力差に付き合う必要はねぇ」

「そうだね。もしくは魔法士連中を全部叩き潰せば地上部隊の戦力も無いに等しい」

ヘイズが語り、錬が応える。

「聞かせてもらおうか。彼奴らの計画の要、魔法士のクローンを作り出す設備ってのは、どこにあるんだ?」

現在の技術では不可能とされる魔法士のクローン。

生まれる存在が劣化コピーであったとしても、その利潤は絶大だ。

その技術が既にシティかどこらに使われているのならば、この世界のパワーバランスなど当の昔に崩れているだろう。

故に未だ未完成。

『黄金夜更』が何故にそんな技術を持っているかは分からないが、それは外部に流出していない可能性が非常に高い。

つまり、それさえ叩き潰せば『黄金夜更』の計画は簡単単純に頓挫する、ということだ。

それを叩き、戦力の要でもある魔法士集団を潰せばそれだけでいい。

「一番簡単だが逆に一番難しい問題だ。・・・・・・いやな予想はついてるんだがな」

ため息と共に吐き捨てるヘイズ。

それをファンメイが続け、

「魔法士のクローン作成設備は、相手にとっても一番重要だもんね。下手に地上に隠しておくわけにもいかない」

さらにフィアが後を受け、

「空中。それも、自分たちが最も信頼をおけるほどの強固な戦力を誇る戦艦に備えているはずです」

もうここまでくれば答えなどは簡単だ。

地上のどこかに隠しておいたのでは警備に不安が残る。

かといって下手な戦艦に乗せておいたのでは逃がす場が無い。

ならば、その設備は絶対不可侵の強大な戦力をそれも単体で持つ”なにか”に隠されている可能性が高い。

そして、その”なにか”とは――――

「昨日の戦いでエドの船の翼を消し飛ばしたぶっとい光。あの兵器もってる戦艦なんじゃないの?」

ファンメイが言い放った。

思い出されるはあの極圧の光芒。

ウィリアム・シェイクスピアの翼をやすやすと穿ち貫く錬らが知る限り最強の火力。

あれこそが『黄金夜更』の最強最大戦力であることは間違いないだろう。

皆が見つめる中、リューネはゆっくりと肯定の頷きを返した。

「・・・・・・そうよ。あれが『黄金夜更』が旗艦。情報的、物理的にも完全なステルスを体現し、今の今まで誰もその姿を見たことが無いとされる戦艦」

何かを思い出すように目を閉じてリューネは言う。

「圧倒的な火力と究極的な防御力を誇るその威容はまさに不動。スピードこそぜんぜん無いに等しいものの、紛れも無くあれは世界最強の砲台よ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

そこで一度言葉を切り、リューネは唇を湿らせた。

告げる。

「そして何より、あれはHunter Pigeonと同じく戦前の船」

「!」

その言葉に全員に戦慄が走った。

戦前。すなわち今とは比べ物にならぬ技術レベルを持っていた栄華の時代。

その技術をもって造られたものはただひとつの例外も無く最強の名を冠することができる、とまで言われている。

そして実際に戦前の船であるこのHunter Pigeonは大空の最強を奉られている。

だが、今回はそれと同等。

「『黄金夜更』がどこであんなものを手に入れたかはわからないわ。けど、あれは戦前でも最強クラスの船よ」

「・・・・・・・・・戦前の、最強かよ・・・・・・」

忌々しげに舌打ちするヘイズ。

Hunter Pigeonも戦前のレベルの中で最高を誇る性能を持つが、それはあくまでも最高だ。

戦艦のように完全に戦闘に特化して建造されたものではないのだ。

同レベルの機体がぶつかった場合、その勝敗を決めるのは操縦者と、そして適性だ。

戦闘に特化したわけではないヘイズと、完全に戦闘向けに造られた戦艦では底力が違う。

歯噛みするヘイズと横目に、リューネは続ける。

「特筆すべき点は、その”巨体”

「巨体?」

「えぇ。あれは最早戦艦と呼ぶのすらもおこがましい」

一息。そして、








「その全長――――およそ1km」








絶望を告げた。

「な・・・・・っ!?」

例外なく誰もが絶句した。

1km・・・・・・だって!?

SFの世界を笑い飛ばしたくなるほどの巨体ではないか。

翼を広げたウィリアム・シェイクスピアの優に倍。

その巨体だけで武器になるほどだ。

「化けモン、だな・・・・・・・・・っ」

冷や汗混じりにヘイズが漏らす。

リューネはそれを無表情に眺め、最後の宣告を下した。










「――――その艦が冠する名前は『アレイスター』。その圧倒的な巨体で大戦に君臨していた黒い悪魔よ」










「・・・・・・・・・・・・・・・」

数秒、沈黙が降りた。

全長1km。

その体躯のみで城攻めができそうな戦艦。

さらにそれに加えて大戦崩れのベテランパイロットが乗り込む機が500。

対するこちらはたった二機。

・・・・・・多勢に無勢にも限度があんだろよ・・・・・・

むっつりとヘイズが顔で語る。

そして、

「ま、どっちゃにしろ作戦は変わらんか」

「ん、そだね」

「え?」

あっけらかんと言い放ったヘイズと、軽く答える錬。

それに一拍遅れてリューネの呆けた声が響き渡る。

「え、ちょ、錬、ヘイズ。状況わかってるの?」

最早この戦力差は虐殺の域まで達しているというのに、こいつらのこの余裕は何だ?

250倍の戦力をひっくり返すなどと言われたら普通の兵士など間違いなく逃げ出すか自殺するだろう。

・・・・・・しかし、今目の前に例外がいた。

「状況? んなもん痛いくらい分かってるに決まってんだろ?」

「戦力差は250倍以上。ああどうしようまさに絶望的だね。――――これでいい?」

「え・・・ぁ・・・?」

くるーりと同時に錬とヘイズの顔がこっちに向けられる。

わけが分からない。

なんで、なんでこの人たちはこんな状況でこんな軽い雰囲気を生めるのだ・・・・・・?

「ま、よーするに俺とエドワード・ザインはそのアレイスターとやらをブッ飛ばせばいい、と」

「それで僕とファンメイはフィアとリューネを守りながら地上部隊を叩きのめす、だね」

だろう?

とまた二人して聞いてくる。

「え・・・・・・っと・・・・・・」

何を言っていいのか分からずにうろたえるリューネ。

フィアとファンメイはため息をついて錬とヘイズを見つめている。

「簡単なことだろう? 敵の頭から潰してくのは常套手段だ。なんでそれを躊躇うよ?」

その敵の頭の戦力が尋常ではない、と言っているのだがヘイズには通じない。

彼も痛いほど戦力差があることなど分かっているはずなのに、この軽さはなんなのだ?

一歩間違えれば、否、死などナノセコンドに訪れるかもしれない。

なのに、どうして、こんな・・・・・・?

思えば自分を助けてくれることもそうだ。

はっきりいって自分と錬たちはまだ出会って三日しか経過していない他人も同様だ。

それなのに何故彼らはここまで自分のことを助けてくれるのだろう。

そう思ったとき、フィアが口を開いた。

「リューネさん、心配は要りません。何かをやるには確かにそれ相応の危険が伴いますけど・・・・・・」

一息。

「――――だから仲間がいるんです。不安も危険も等分し、でも力は何乗にもできる仲間が」

そこでフィアは錬の方を軽く半目で睨み、

「・・・・・・中には他の人の分まで勝手に危険も責任も背負って走っていくバカな人もいますけど」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あー」

冷や汗混じりに錬が苦笑いを浮かべた。

彼にとってかなり痛い話題であったらしい。

ふと見ればファンメイも何かを思い出すような顔で指輪を握り締めていた。

「だから、大丈夫です」

太陽の笑顔でフィアが言った。

「・・・・・・・・・・」

・・・・・・・・・かなわない、な。

心の底からそう思った。

自分の覚悟など、今まで耐えてきた強さなど、所詮ちっぽけなものだった。

誰かのために、何かのために、笑ってその身を投げ出せること。

反省も後悔も悔恨も苦悩も、その全てを蹴り飛ばして進む心意気。

いつだって一直線。

たとえそれが愚直な道であろうと、自分を偽りなどはしない。

彼らにとっては無茶も無謀もなんの障害にもなりはしないのだろう。

故に強い。

自分もこのような生き方を追っていきたいと思う。

だから言うのはこれだけ。

「・・・・・・無理だけは、しないでね」

「んなこと言うな。 昨日お前さんが俺たちに話してくれた勇気に比べりゃ小さいもんだ」

ぐっ、と親指を立ててみせるヘイズ。

その後ろでは三人が頷いている。

・・・・・・・・・ありがとう。

それだけで救われた気分だった。

だから、救われたならその恩をこれから返してゆこう。

そのためにも、全身全霊全力で生き抜くのだ!

「そういうわけだ。全員、準備はいいな?」

「もち!」

「大丈夫です」

「オッケー!」

「はい」

ヘイズの問いに答える力強い四人の声。

それに後押しされるようにHunter Pigeonとウィリアム・シェイクスピアは下降してゆく。

『雲』を抜ければ『黄金夜更』のサーチ範囲に入る。

それからこちらへ攻めてくるまでの間に錬・フィア・ファンメイ・リューネを地上へおろすのだ。

そして、その後は――――――

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

この一戦で自分の運命が決まる。

今までずっと恐れてきたことなのに、けれど何故か心の中は静かだった。

・・・・・・・・・なんだろう、この感覚・・・・・・?

勝ち負け、生き死にに関係なく、この戦いは自分にとって何かをもたらすものだと、そう感じる自分がいる。

それが何かは分からない。

・・・・・・自分が”なにか”に変わっていくような、感じ・・・・・・?

たとえばそれは卵から雛が孵るような、

たとえばそれは体から心が飛び出るような、そんな感覚だった。

しかし不快感は感じない。

人生の転機、そういってもいいかもしれない。

・・・・・・・・・・って安っぽい考え。

自分で自分の思いつきに思わず苦笑する。

気負いはない。

緊張もない。

ただ、仲間を信じるだけだ。

様々な思いを乗せ、真紅の船は地表へ向けて加速する。

はじまりを告げる、終わりの使者として。
















        *

















「ここでいいか?」

「ん、いいと思う」

地表へ到達したHunter Pigeonは、手近な廃プラントへと着陸していた。

圧倒的に多くの戦力を相手にする際はトラップや障害物を使うのは常套手段、ここならば色々と使えるだろう。

今からどれだけの余裕があるかはわからないが、準備をしておくにこしたことはない。

後部ハッチより錬、フィア、リューネ、ファンメイの順で船外へ出る。

ここからは互いを気遣う暇などは無い。

一瞬でも気を抜けばその瞬間に死を迎えるキルゾーンへと突入する。

錬たちはリューネを守りながら魔法士を含む400人以上の軍隊を。

ヘイズとエドは『アレイスター』率いる総勢500機の艦艇を。

どちらも必至。絶体絶命。

だがしかし、そんなことは知ったこっちゃ無い。

自分たちは”リューネを守る”のだ。その過程など踏みにじるものに過ぎない。

それを追い続ければ自ずから道は開けるだろう。

無理も無茶も無謀も気にしない。

ここで自分たちの信念を裏切るほうがよっぽど苦しいことなのだから。

夢想と笑われようが構わない。

やってみなければわからない、という言葉はあまり好きではないが、やらずに無駄と決めることも同じくらい好きではないのだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ」

一度深呼吸する。

酸素を全身へと行き渡らせ、体を”魔法士”のそれへと変容させてゆく。

コンディションチェック・オールグリーン。

気力も体力も、そして意思も十全だ。

息をゆっくりと吐いたその時、



『――――来ました! 西南西の方角より129機の存在を確認!』



ハリーの合成音が響き渡った。

同時に、全員がゆらりと体を起こす。

錬がナイフを腰へと結わえ付け、

フィアが愛銃の残弾を確認し、

ファンメイが黒の翼を形成し、

エドがウィリアム・シェイクスピアの翼を震わせ、

ヘイズがぽきりと指を鳴らし、

そしてリューネが力強く目を開いた。

全員の目に炎が点る。

「さて、それじゃぁはじめるとするか。――――ついに巣立つ、別れの儀をな」

行くぞ、とエドに一声かけ、後部ハッチに座っていたヘイズが立ち上がる。

「・・・・・・・・・死なない程度にがんばってね、ヘイズ」

「阿呆ぬかせ。あの程度ならまだ世界樹の方がキツい」

にか、と爽快な笑みを残し、ヘイズは颯爽と真紅の船へと乗り込んでいった。

同時にウィリアム・シェイクスピアも白銀の翼を振り上げる。

真紅と白銀が空へと舞い上がる。

手を振るようにこちらへ翼を翻し、白銀と真紅は最早肉眼で観察できるほどに接近してきた黒い無数の点へ向けて加速した。

「・・・・・・・・・無事に、帰ってきてね・・・・・・・・・」

彼らは彼らの闘いの場へ。

そして僕らは僕らの戦場へ。

互いに果たせば全ては行き着く。

故に、これから望まれるは気遣いなどではない。

「・・・・・・・・・僕らも行くよ」

「うんっ」

「はい」

「・・・・・・ん」

地上部隊がどこから来るかはわからないが、飛行部隊があそこまで迫ってきている以上、時間はほとんどないだろう。

刻一刻とカウントダウンは刻まれてゆく。

錬らもまた身を翻し、迎撃体制をとるべく走り出した。
















    *















「・・・・・・・・・おいでなすったな」

真紅の船、Hunter Pigeonの操縦席に着き、ヘイズは忌々しげに言い放った。

その目が見つめるのはメインディスプレイに映る無数の敵影。

戦艦、巡洋艦、駆逐艦となんでもござれ。

たった一人の少女を殺害するためだけに用意されたこれほどまでの戦力。

「吐き気がするほど気に入らねェな、ったく・・・・・・」

舌打ち一つ。

同時にコンソールへと手が伸ばされ、船に命の息吹を与えてゆく。

「で、勝算はどうよ?」



『どうでしょうね。とりあえず言えるのは、死にそうになってそれを切り抜ける確率100%というところですか』



「・・・・・・・・・違いねぇ」

へっ、と吐き捨て、I−ブレインのギアをトップへと跳ね上げてゆく。

真紅の機体に操縦者の意思が隅々まで伝わり、動きが見るからに精密さを増した。

そしてその横で同様にウィリアム・シェイクスピアもまた、十二枚の大翼を顕現させていた。

戦闘空域まであと三十秒足らず。

全てのシステムを全力駆動開始。

ペース配分など知ったことか。

『アレイスター』も含めてただ薙ぎ倒してゆくのみだ。

そうして、戦闘空域に入る。

敵の戦艦群も稠密に隊列を整え、挑むようにこちらに全ての船首、砲門を向けていた。

「はン。たった二隻相手にするのに随分な警戒だな」



『それだけあちらは個々に自信が無いのでしょう。故に数に頼る』



「やれやれだ。まぁあいつらにまともな倫理を期待するのも無理ってもだが」



『”みんなで渡れば怖くない”のでしょう。まったく、困ったものです』



「・・・・・・いっつも思うがお前のそのいらん知識はどこからとってんだ?」



『企業秘密です』



企業って何だおい。

戦闘前だというのにこの軽口の叩きあい。

敵が見たらさぞかし驚くことだろう。

だが、これが彼らのスタンス。

気負い無く、咎め無く、恐れ無く進むは己が道。

「さて・・・・・・、行くぞ。エドワード・ザイン」

言葉とともに白銀の鳥が翼を羽ばたかせる。

「りゅーね。まもる」

告げられる言葉はたった二言。

それだけで十分だ。

眼前の敵をにらみつけ、今自分がすべきことを担い、ヘイズは開戦の叫びを上げる。












「格の違いってやつを――――――――見せてやるよ!!!」












――――激突する。















     *
















錬たちは廃プラントの奥、背後に逃げ場も確保できるそこそこ大きな通路の奥にいた。

リューネの”永久改変”をもってどこかの部屋を封鎖して篭城する、という案もあったのだが、ここは彼女の能力の発動条件を満たしていないらしい。

いや、厳密に言えばここで空間封鎖の永久改変ができないと言っていたのだがよくわからなかった。

故に袋小路へ誘い込み、各個撃破を行うことに決定した。

そして、今。

「来たか・・・・・・・・・」

かつんかつんと軍靴の踏み鳴らされる音。

詳しくはわからないが、その数はおよそ30くらい。

先ずは様子見の部隊といったところだろうか?

「・・・・・・・・・フィア」

片手を挙げて少女に合図を送る。

「・・・・・・はい」

フィアが目を閉じる。

同時に白光が世界を満たし、天使の翼が顕現した。

だが、

「―――――――っ!」

フィアの顔が歪む。

それだけでわかった。

「くそ・・・・・・っ、やっぱり無理か。リューネ対策ってことはその原型のフィアの力も効かないってことか・・・・・・」

もしかしたら、という望みを込めての奇襲だったがあえなく失敗に終わった。

やはり、真っ向勝負しかない。

錬は『月光』を抜き放ち、

「ファンメイ、行くよ! 僕らでリューネを守る!」

答えを待たずに通路へと躍り出た。

既にその奥には銃を構えた黒服が幾人も姿を現していた。

「――――いたぞ! 撃てッ!!」

号令と砲声が響き渡る。

と同時に、

「おぉ・・・・・・っけ――――――ッ!!」

先ほどの問いの答えを叫びながら黒い翼が翻った。

その一閃は銃弾を残らず叩き落す。

「フィア! リューネをお願い!!」

「はいっ!!」

遠ざかる足音。

このままフィアはリューネと一緒に物理的に封鎖した奥の空間に立てこもってもらう。

そのうちに、僕らが・・・・・・っ!





「身体能力制御デーモン」ラグランジュ 常駐 運動速度を15倍に設定 知覚速度を30倍に設定)





自分の体が耐えれるぎりぎりのところまで身体能力を加速させる。

「っ」

呼気一つ。

その一瞬で飛来してきた銃弾7つを弾き飛ばし、錬は跳んだ。

壁を蹴り、天井を蹴り、閉鎖場所の利点を生かしながら銃弾を避けつつ疾駆する。

ファンメイもその翼で身を守り、銃弾など意にも介せず地を突貫している。

「な、あ!?」

相手に驚愕と動揺が生まれる。

下らない。こんなことで驚いているようじゃ、魔法士を相手になどできない。

「てッ!!」

空中からの急襲。

ありえない角度から打ち込まれた錬の蹴りに射手たちは呆気なく武器を弾かれ、

「そぉーれっ!!」

「ぶ、がぁっ!?」

力任せに振り払われたファンメイの黒翼の一撃にまとめて吹っ飛ばされた。

勢いは止まらず、そのまま後ろの仲間も巻き込んで倒れる黒服。

意識を刈り取るべくとどめを刺しに行こうとし、

「――――!」

咄嗟の判断でナイフをかち上げる。

派手な金属音。

それを知覚したと同時に後方へ跳躍、距離をとる。

見れば『月光』にうっすらと霜が張り付いていた。

・・・・・・・・・炎使い。

「来たね。・・・・・・お抱えの魔法士か」

ざ、と黒いスーツを纏った人間がゆっくりと現れる。

その数、およそ30人。

「ってことは”アウセルデレイダ”だね」

男たちはぴくりと眉を寄せ、

「・・・・・・ふン、あれから聞いたのか」

それぞれ武器を抜き放ち、

「だが、30対2だ。勝てると思うな」

静かに恫喝した。

けれど、それがどうした・・・・・・・

「ほう・・・・・・向かってくるのか・・・・・・・・・?」

ナイフを収めないこちらの挙動をそうとったらしく、男は嘲りを含んだ声で挑発してくる

・・・・・・・・・やれやれ。

錬はぽんぽん、とナイフの霜を払い、

「安っぽいセリフだね」

「―――――――なに?」

武器が構えられる。

「魔法士の戦闘において優劣など数に飲み込まれるのは知っているだろう?」

リーダー格であるらしき男が告げる。

手に持つ獲物が剣のことから彼はおそらく騎士。

「ここにいるのは30人。先ほども言ったが故に貴さ――――」

「――――あー、もういいっていいって。そんなこと言っても変わんないよー?」

おてあげー、とファンメイが嘆息する。

それに苦笑をもらし、

「そうだね。どっちにしろ結果は変わらない。――――お前らの敗北にはね」

「・・・・・・・・・その愚劣。後悔するぞ」

きん、と空気が凍る。

錬は一息置いて、ファンメイを目線を合わせて頷きを交わし、












「――――上等ッ!!!!」













二人同時に地を蹴った。



























ヴァーミリオン・CD・ヘイズ&エドワード・ザインVS戦艦129機

天樹錬&リ・ファンメイVSアウセルデレイダ



――――――――戦闘開始





























 おまけコーナー・闘争編 

〜スターダスト・ウィザーズブレインズ〜

”アウセルデレイダ”と錬らが向かい合って対峙する。

男 「ほう・・・・・・向かってくるのか・・・・・・・・・?」

錬 「近づかなきゃてめーをブチのめせないんでな・・・・・・・・・」<いつの間にか服が学ラン

ファンメイ 「え!?」

男 「ほほお〜〜〜〜っ。では十分近づくがよい」

ファンメイ 「えええ!?!?!?」

空条錬 「”星のスター――――――――」<ドドドドドドドドドドド(背景効果音)

DI男 「”ザ・―――――――――」<ドドドドドドドドドドド(背景効果音)

ファンメイ 「ちょちょちょちょっとそれはいくらなんでもマズ――――」

空条錬 「――――――――白金プラチナ”!!」

DI男 「――――――――ワールド”!!」

ファンメイ 「新手のスタ○ド使いなの――――ッ!?」




・・・・・・・・・オチ無し



たぶんあとがき

「いつでもどこでも空元気。最近アンニュイなレクイエムです!!」

錬 「・・・・・・・えーと、いきなり何?」

ファンメイ 「同情誘うなら痛い発言は徐々にした方がいいよ?」

ヘイズ 「ってかよーするについに狂った、と?」

フィア 「えぇと・・・・・・暑さのせいですよね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(泣)」

錬 「あーあ、やっぱり駄目か」

「トドメさしたのてめぇらだぁああああっ!!」

ヘイズ 「はいはい騒ぐなわめくな静かにして黙ってろいっそのこと意識失くすか?」

ファンメイ 「でも解体されても燃やされても復活してきたからねー。無理でしょ」

フィア 「残機はあと何機ですか?」

「・・・・・・・・・ごめんなさい。とりあえず俺を人間扱いして下さい」

錬 「人間扱いされてなくても都市伝説にはなってるからいいんじゃない?」

「うるせ。まさかホントに都市伝説になるとは思わなかったんだよ」

フィア 「・・・・・・夜中にあんなことやってれば無理もないと思いますけど?」

「ランニングのどこがいかんのよ一体・・・・・・・・・」

ヘイズ 「あーはいはい。わかったからそろそろ本題に入ろうや」

ファンメイ 「だね。強引に行くよー。さて、この章からついにラストバトルのすたーと!」

錬 「圧倒的、絶望的なまでの戦力差を僕らは覆すことができるのかな?」

「最後のバトルだからな。かなり長くなるぞこれ」

フィア 「20章で終わる予定ですから・・・・・・ざっと4,5章ずっとバトルですね」

「そういうこと。空中戦と地上戦の双方向視点で書いてゆくつもり」

ヘイズ 「しっかし・・・・・・よくもまぁこんな大勢で攻めてきたもんだな・・・・・・」

「そりゃ君らが世界最強クラスの魔法士だからね。圧倒するには数しかない」

ファンメイ 「それにしたって無茶苦茶すぎない?」

「うんにゃ、これでいいの。いくら強かろうと数にはかなわない、というのを出したかったからね」

錬 「そうか・・・・・・祐一だって第一級の魔法士5,6人に囲まれたら逃げるしかないもんね」

「そういうこと。いくら”最強”の名を冠するとはいえ、それは容易く数に飲まれてしまう」

フィア 「まさに逃れられない運命と同じ、ってことですか」

「理解が早くて何よりだ。――――さて、次章は第十六章『今にも落ちてきそうな空の下で』」

ヘイズ 「灰色の空の下で繰り広げられる大空中戦。俺とエドワード・ザインの活躍を見逃すなよ!」

「ってなわけで、次章でお会いしましょうー」














執筆BGM:「ごびらっふの独白」











SPECIAL THANKS!
天海連理さん(誤字脱字校正部隊)
有馬さん(〃)
闇鳴羚炬さん(〃)