地獄に落ちようとも忘れないと、そう確信した想い。


伸ばした手が何も掴むことなく、力なく宙を掻いた遠い日の記憶。


今も脳裏に焼き付けているからこそ、どんな苦界にも耐えていける。どんな呪いにも屈さずにいられる。


……ああ、たとえそれがどんなに無様な姿でも。どんなに誇りの無い信念でも。


崩れかけた心に不退転の意思を宿し、傷ついた体に不屈の鞭を打って、愚直なまでに前へ。


……決意ならばこの場所に。


……魂ならばこの胸に。





























――――全ては、己に胸を張るために!
































「――――さて、と。はじめるか、一世一代の”暇つぶしを”」




戦いがあった。
誰にも知られることのない、しかしそれでいて絢爛豪華な戦いがあった。
戦士は十人に満たないたったの六人。
本来ならば争いと呼ぶのもおこがましい極小の戦いであるはずだった。
けれどその戦いは大地を砕き、天を穿った。




「――――『七聖界』セブンスヘヴンッ!!」




世界を紡ぐ狂人と、世界最強の名を冠する五人の魔法士たち。
ただひとの目の届かぬ遥かな天空で行われた極小にして絶大なる戦。




「正しくなくても、間違っていようとも、決して誤ってはいないんだから……っ!!」




結末を迎え、得たのはたった一つの小さな気づき。
”ただそこにある”ということの尊さと大切さ。
それだけを報酬として世界との戦いは幕を下ろした。
そして、




「――――私の名前は、リューンエイジ・FD・スペキュレイティヴ」




新たに紡がれたのは『調律士』の物語。
龍使いの少女と赤髪の空賊との再会。
――――そして、寂しさと悲しさを押し殺し続ける黒髪の少女との出会い。




「おっきろー! 朝だよおはようぐっどもーにんぐ目ぇ覚ませあさあさあさーっ!」




それは、夢のような三日間だった。
大切な友達と一緒にすごすというありふれた日常。
毎日がそうであるだけで、世界は美しく楽しいのだと少女は知った。
知って、それでも、運命は変わらなかった。




「――――『黄金夜更』」




少女を追って現れたのは世界最大の空賊。
ついに明かされた少女の謎。
それは、あの狂人の出自にもまつわるさらなる謎を呼ぶものだった。
未だ明かされぬ多くの影を知りながらも、魔法士たちは少女を守って戦うことを選んだ。




「過去は未来に追いつけないけど、今もまた、過去から離れることはできないの!!」




生きるということ。
”生き抜く”ということ。
世界の矛盾に目を逸らさず、この身を苛む痛みも全てを受け入れて、前へ進むと決めた。
たった二人に対する五百人。
たった二隻に対する五百機。
そして想像を絶する死闘の果て、その手は届かなかった。
けれども、それでも少女は走りきった。




「でも――――大丈夫。ずっと、みんなを見守ってるから……」




得たものは尊き誓い。
全てを超えて輝く日まで、決して消さない、終わらせないという誓い。






――――もう、負けないよ。






少女の誓いは、確かに心に届いていた。
二つ目の物語は、こうして終わりを告げることになる。
そして――――





















「どうしたの? フィア」
「こ、これ、見て下さい!」
「え……シティ・シンガポールが、壊滅――――?」




                                                 ――――それは、どこまでも深い崖の奥底から現れ出でた。



表面上は平穏を保っていた世界を突如襲った大事件。
それは、始まりの狼煙に他ならなかった。
一夜にして崩壊したシティ・シンガポール。
生き残りの証言によると、「巨人が現れた」というのだ。



                                                            貴方たちの行く道の上に、どうか幸運を。



「巨人……だって? 真昼さん、セラ――――これって」
「ウィズダムさんの時の、『地神』ヴェヘモットです……?」
「待て。貴方達はこの巨人とやらを知っているのか――――?」
「……わからない。サクラ、僕は確かめに行こうと思う。――――何かが、動き出したんだ」



                                                         望むに値う、相応しい答えがありますように。



「巨人……? ただごとじゃねぇな。これが先生の言ってた、大きな流れってやつか……?」
「うごき、はじめる」
「――――行こう、ヘイズ、エド。なんか、行かなくちゃダメなような気がするの」




                                                                      百億の罪も、千億の罰も、





「またきな臭いことが起きよったな……。あの女の仕業にしちゃおかしいもんやし、――――調べてみるか」




                                                                その全てを貫いて進んでゆくことを。




「なに、これ……? 私の千里眼でも行方がわからない……っ、そんなことが――――?」




天空の城へ辿り着き、世界と相対するは天災。




「雪……。悪いが、お前の騎士の誓い、少し俺が借り受ける。 ――――行くぞ」



礎に走るは、剣を担う黒。



異変の予兆を感じ、次々に動き出す魔法士たち。
水面下での暗躍。表面上の調査。シティの上層部に根ざす影が徐々に姿を見せ始める。
それは、シティでも『賢人会議』でも『黄金夜更』でもない組織。
集まった魔法士たちを見下ろし、それは巨人と共に現れ、名乗りを上げた。




悪魔と天使は神の子殺しの槍の前に。





「我等は、――――『Id』




双の光は煉獄へと向かい、




それは調律士を、そして御使いを作り出した機関。
『賢人会議』の名をカモフラージュに暗躍を続けてきた闇。
ついに姿を現したその組織は、圧倒的過ぎる力をもって牙を剥く。




龍は雄叫び鋼を受ける。





「!? 荷電粒子砲が消された!?」
「――――っ。そこのガキ、近づくんじゃねぇ! ”送り飛ばされるぞ”!!」
「な、なんでこいつ『アレイスター』の防壁を――――!?」





――――夢へ溺れよ。貴方の愛は世界を毒す。




その力はまさに神域。
荒れ狂う巨人は歓喜の咆哮を上げて全てを叩き潰す。
それに己が全力を持って対抗する錬たちだが、さらなる絶望がそのとき顕現した。





――――現へ沈め。貴方の哀は世界を癒す。




「な……!?」
「もう、一体だと――――!?」
「――――シティ・神戸の分だ。残りモンで悪いが、死んでくれ」
「っ――――――――!」




其は可も無く不可も無く是非も無い存在。




敗走。
準備不足による圧倒的な差を埋めることは敵わず、錬たちはボロボロになりながらも逃げ延びた。
なんとかシティ・ロンドンまで辿りつき、そこで彼らが見たものとは、




故に求めよ。望むがままに。




「先生……今、なんつった……!?」
「……巨人の襲撃は、シティ・シンガポールだけではない。先ほど、シティ・ニューデリーの沈黙を確認した」
「な―――――――」




幻想・鋼・疾風・天雷・魔弾・神獣――――六天を生む悪魔。




世界への宣戦布告。
隷属の強要。
望む真意は遥か遠くに。




闇顎・爪牙・黒波――――三大を纏う龍。




「シティ・マサチューセッツもやられたらしい。――――千里眼のFA−307の撃墜も確認できた」
「そんな――――クレア……っ」




極冠・光輝――――両儀を満たす光。




己が無力に泣き叫ぶ。
握った拳は血にまみれ、食いしばった歯がかち割れる。
だから望むものはたった一つ。




太極へと至る意思は柱を崩し、全ての流れを変えてゆくでしょう。








「――――決めろ。決断の時だ」









確たる思いに全員が頷いた。
故に求めるものはたった一つ。







――――誓いを胸に







「――――だから、今度はわたしの番。みんなが幸せになれる世界を取り戻しに行くの」





龍使いの少女が言った。





「――――私も行きます。全ての人に、安心して眠れる世界を届けに」





天使の少女が頷いた。





「――――わたしだって、戦えるんです……!」





光使いの少女が震えた。





「――――帰ってくるから」





双剣の少年が誓った。





「――――あたしがついてれば、大丈夫」





千里眼の少女が宣言した。





「――――ありがとう。………いってきます!」





悪魔使いの少年が笑った。





「――――………みんな、まもる」





人形使いの少年が呟いた。





「――――さぁ、これからが本番や……!」





幻影の少年が咆哮した。





「――――やらせはしない。……この世界は、これほどまでに美しいのだから」





悪魔使いの少女が立ちあがった。





「――――やると決めたなら、一発派手にやりに行くぞ!!」





赤髪の空賊が一喝した。





「――――まかせろ。道は開いてやる」





黒衣の騎士が紡いだ。








――――誓いを胸に。全てを超えて、輝く日まで。








……そう、この身に刺さる全てを振り払ってでも、貫くべき思いがある。
偽善と言われようが知ったことか。
夢想を蔑まれようが知ったことか。
魔法士たちは理想を貫く。
子供の駄々だろうが我侭だろうが、両手いっぱいに抱え込んで離さない。
助ける価値など聞き飽きた。
見限ってなど、やるものか――――――――!!


























「それでこそ、だぜ。――――よぉ、久しぶりだな」


























屈さぬ叫びは、ついに世界最大最強の魔法士を戦場へと呼びつけることになる。





「黄昏と共に出で、朝ぼらけと共に立ち去り行く。――――我、始まりより終わりへと導く者也……!!」





そして始まる最後の死闘。
世界を覆う”蒼”の下、全てを終える戦いが始まる。







































――――FINAL STORY――――



『Life goes on』

”決して消さない、終わらせない――――!”