――「緊迫」――
















「どうだった?」
開口一番、先ずは祐一が言った。
だが帰ってきたのはどれも否定的な答えばかり。
「いえ。僕の方では特に・・・」
「私もです。」
「・・・・・・」
三者三様に、今の調査が無駄足だったことを示す。
それを聞き、自分も有益な情報を掴めなかった事に加え、錬の沈んだ表情を見て、祐一は拳を握り締めた。
「月姉と真昼兄がここに来ているのは確かなんだ。でも、どこに行ったか、ていうのは誰も知らない・・・」
歯噛みし、錬が独語する。

・・・あれから三時間。

錬達一行はシティ・メルボルン跡地に帰りつくと即座にここで消息を絶った月夜と真昼の捜索に入った。
事情のよく分かっていないディーとセラに説明をしながら、三手に分かれての捜索。
だが、それは実りのよいものとは成らなかった。
「最後に、二人が消えた時から一番近い情報は、何だった?」
「二日前にシティ跡地北部の方に調査に向かったと言ってましたよ。」
セラと確認しあい、ディーが答える。
そこに錬の横槍が入った。
「なら、こっちの方が新しいよ。その調査で何か変なものを見つけた、とか言って一度は戻ってきて、そこからまた調査に行ったとか。」
「いずれにしろ、シティ跡地の北部に行った。というのが最後か。」
「そういうことですね。」
「それに・・・僕らに依頼をした人たちも、居なかったんだよね」
・・・そう、錬とディーは、この町に戻ってきてから先ず先に依頼主の姿を探した。
だが、それらは影も形も見せず、痕跡も残さぬままいなくなっていたのだ。
「・・・どうなってるんでしょう?」
「判らん、・・・だが、とりあえずは北部にしか手がかりはない。」
・・・シティ・メルボルン跡地北部。
未だ区画整理どころか状況把握さえも出来ていない未開の原野といっていいガラクタが積み重なって山となり、またその山同士も積み重なってスクラップの峰を構成している、まさに真昼と月夜が興味を惹かれそうな場所だった。
「とりあえず、そこに行ってるか。」
現時点での手がかりはそれしかないに等しい。
錬が聞いた他の情報は、月夜が町の人を強引に誘い、宴会を夜通し行ったとかいうこんな状況でなければ微笑ましい(?)
ものばかりだった。
全然良い情報が見つからないことに、正直苛々が募ってきている。
ともすれば一人で走り出しそうになる足を抑え、錬は祐一の後を追った。











さほどの距離は無く、身体能力制御をしない足でも三十分程度の場所。
そこがシティ・メルボルン跡地北部。通称「トラッシュマウンテン」だ。
その名に恥じず、見渡す限り、ネジやボルト、機材や建材、ガラクタがこれでもかと積もっている。
「わっ!・・・っと。」
踏み出した足場がガラリと崩れ、思わず転びそうになった。
ここでは歩くのも一苦労となりそうである。
「・・・ディーくん、あれって・・・なんですか?」
「ん?・・・あぁ、あれはフライヤーの動力部だと思うけど。」
横ではセラが好奇心の塊となってディーに質問を繰り返している。
知るよしも無いが、自分と出会うまではこういうやり取りがよくあったのだろう。
受け答えるディーの様子には、妹にものを教える。という感じのような、どことない誇らしさが滲み出ていた。
「・・・・・・待たせた。」
とりあえず一通り見て回ってくる。とここに着くなり『自己領域』で姿を消した祐一が戻ってきた。
「どう・・・だった。」
わずかな期待と、多大な諦めを込め、問う。
だが
、祐一はそれに見事に答えてくれた。
「・・・手がかりならば、ある事にはあった。」
「――!」
「待て!」
思わず走り出したが襟首を捕まれ、制止される。
非難の目つきで見るが、祐一は真剣な面持ちで首を振った。
「かなり厄介な状況だ。」
「・・・どういうこと?」
かの『世界最強』の騎士、黒沢祐一が言う。「厄介な状況」
その言葉の重みはいきり立った錬の行動を止め、頭を冷やす薬には十分すぎるものだった。
焦燥を逃がすように頭を振り、もう一度問う。
「どういうこと?」
「付いて来い。」
一言だけ告げると、祐一は騎士剣を取り上げ、「身体能力制御」を発動。大きく跳躍した。
「・・・?」
その行動は、まるで説明するのを避けているようにも思えた。
「ディーさん?行きますよ。」
・・・そういえばこの銀髪の少年は自分より年上だろうか、それとも年下だろうか?
とりあえず敬語+さん付けで呼んでみたがどことなくしっくりこないような気もする。
外見年齢では自分よりも年上っぽいが魔法士の外見年齢は全く当てにならぬことは錬自身で証明済みだ。
・・・まぁ、今はどうでもいいか。
わき道に思考が逸れた。
(身体能力制御を起動)
ディーがセラを抱えるのを確認してから、錬も祐一の後を追って跳躍した。









着いたのは、トラッシュマウンテン全体が見渡せる一際大きい山――いや、頂上部分が平坦でかなりの面積を持つことから丘と呼んだ方がいいかもしれない――の頂上につく。
「あそこだ。」
祐一が指し占めたのは、頂きの中の残骸でも一際大きく、原型を保っているおそらく前身は何かの部屋であったであろう、今は屋根のついた建材の集合体にしか見えぬスクラップを指さす。
「その、中だ。」
促される様に、錬・ディー・セラの順に足を踏み入れる。
祐一は、無言だ。
「・・・・・・」
・・・暗い。
太陽が照っていない事はいつもの事だが、それでもこの暗さは屋内にしろ、異常だった。
「照らして見ろ。セラ。」
「あ、はい。」
請われ、セラは光の屈折率を制御。この周りに全反射させ、一帯を照らす。
そして、絶句した。




「「「なっ・・・!?」」」



人、人、人・・・夥しい数の人間が壁に貼り付けられるように、百舌鳥のはやにえのように打ち付けられ、その命を絶たれている。
当たり一帯は流された血で真紅に彩られ、滴る血液は床の白色とあいまってサイケデリックな紋様を描き出している。
ぽたり、ぽたりと、赤が白に落ちる。
「なんですか・・・これ。」
顔面を蒼白にし、セラが震える声でやっとのことでそれだけを呟く。
錬もディーも、声が出せない。
祐一がすっと前に進み出、事実を告げた。
「この中に、月夜と真昼はいない。だが、こいつらはおそらく、お前達に依頼をした連中。その中心者だ。」
「・・・・・・確かに。」
震える手で情報端末を操作。一部だが依頼主の顔とこの惨劇の犠牲者の顔面の基本造形が一致していることを確認、ディーが肯定する。
「でも・・・何のために、こんな事を?」
月夜と真昼はこの死体の山の中にいないと分かって落ち着いたのか、普段の注意深い目に戻った錬が疑問をあげる。
だが、世界最強の騎士も、この世の全てを見通せるわけではない。苦渋の表情となり、答える。
「分からん。猟奇殺人犯からまでの線も考えたが・・・」



足音



「――お前達を、ここに呼び寄せるためだ。」
「!?」
「――っ!」
「誰だっ!?」
突如、何の前触れも無く新たな声が闖入した。
祐一と錬、ディーの反応は素早い。
祐一が『紅蓮』を抜き放ち、錬がサバイバルナイフを構え、ディーがセラを庇うように前に出た。
一拍遅れてセラが周囲の光量を広げる。
十分ではないが、人の顔くらいは把握できる光の幕が周囲に広がる。
光芒に照らされて浮き上がったのは、
「・・・何者だ。」
『紅蓮』を斜に構え、油断無くその男を見据え、祐一が再度、問う。
現れたのは中肉中背の男。
年齢は20歳程度といったところか。趣味の悪い純色同士のストライプ柄がプリントされた服を着崩し、ぼさぼさに振り乱した蓬髪が特徴的な男だった。
「”これ”をやったのは、貴方?」
錬の厳しい眼には、激しい怒りが渦巻いている。
それを苦も無く受け流し、その男は軽々と言った。
「あぁ。」
あまりにも簡単な肯定。
自分が行ったことを把握していないような、何一つ感情の揺らぎが感じられない一言。
無表情に、無感動に、無愛想にと。唯それをしたのが当たり前とばかりな、用意されていたような答え。
”二度と取り返せない”ことをしたというのに、この様子はどういうわけか。
反論を試みようとするが、途中で口ごもる。
その間に今度はディーが口を開いた。
怒りを隠そうともしない、純真な声で言う。
「何故、こんなことをしたんです?」
目が細まり、視線の温度が下がる。
普段の温和な表情からは想像もつかぬような目つきだ。
総勢三対。
合計六つの怒りを含んだ視線が男に集中する。
だが、それでも態度は変わらなかった。
「言ったろ?”お前達を呼び寄せるため”だってな。」
「その意味が分からない、僕たちを呼び寄せて?それでどうする気なんだ?」
いつでも飛び出せる体勢に移行する。
錬の言葉を追うようにディーが声を荒らげた。
「答えろ!さもない――」



「――天樹錬。」



低く、男が呟いた。
唯それだけで、響いていた怒声が呆気なく霧散する。
・・・いや、消えさせられたのだ。
横を向けば、ディーは何かを叫ぶように口を動かしている。だが、それは音としてこちらに届いていない。
・・・魔法士、か?
情報の海の乱れは感じなかった。
だが、それでもこの摩訶不思議な行為は何らかの”魔法”を使っている可能性が高い。
「――黒沢祐一、デュアルNO・33、セレスティ・E・クライン」
次々と自分達の名前を読み上げる。
そして、男はこちらに向け

”にぃ”と笑った。

深く腰を曲げて、一礼。
「ようこそ、世界最高クラスの魔法士達よ。」
ひどく芝居のかかった口調だ。
その違和感が醸し出す断絶は、この世のどんなものも阻害する。
威圧感ともいえる迫力に、思わず口を開いていた。
「・・・お前は、『何だ』?」
男は答えた。












「――『賢人会議』」


















コメント

っあー、そろそろ収拾つかなくなってきたな(おい)
てのは嘘で、ようやくラスボスの登場です。
やはり機械よか生身の人間の方が”相手”って感じは強くなるものですねぇ。
なんてか、俺は人間讃歌信奉者なんで人の”思い”とか意思ってもんは
何かしらの限界を突破できると信じています。
どんなに時が変わろうが、人と人、その信念のぶつけ合いこそが醍醐味。
偏見かもしれませんが、機械だと”相手”ってよりは唯の”敵”って風に思えるんですね
まぁ、醍醐味なだけで別に血沸き肉踊るロボット大戦とかも大好きですが。
・・・こんな事ばっか言ってるせいで老けて見られるんだよな・・・
と、関係ない話は置いといて
次回からは相手の目的が少しずつ判明しだします。
世界最高レベルの魔法士たちを集める目的はなんなのか?
この話もそろそろ折り返し点を超えました。
後は終わりに向かって頑張ります。

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