――「彼らの真意」――



















”悪魔使い” 天樹錬。『能力創生』・・・原型アーキタイプ




”天使” フィア。『同調能力者』・・・天使の翼




”黒衣の騎士” 黒沢祐一。『大戦英雄』・・・紅蓮




”龍使い” リ・ファンメイ。『絶対情報防御』・・・身体構造改変




”人喰い鳩” Hunter Pigeonヴァーミリオン・CD・ヘイズ。『絶対情報解体』・・・虚無の領域Void sphire




”双剣” デュアルNo.33。『規格外』・・・二段演算




”光使い” セレスティ・E・クライン。『自然発生』・・・時空制御




”人形使い” エドワード・ザイン。『ウィリアム・シェイクスピア』・・・世界樹








世界の中で、最高レベルの魔法士達。
演算速度、経験、知覚能力、戦闘能力、特殊能力・・・
特化する部分こそ違うが、彼らはまさしく、世界最高の名に恥じない実力と能力を持っている。
唯の数値の羅列に過ぎないデータを見ただけで、その凄さは容易に判別できるほどだ。



複数の能力を操る事が出来る特異なI-ブレインを持ち、また、新たな能力を作成できる魔法士の雛型、天樹錬。



感覚のレベルで周囲の情報を制御し、どんな情報防御も潜り抜ける力を持つ金髪の天使、フィア。



紅蓮の魔女と共に数々の武功をあげ、数年が経過してなお、名実と共に世界最強の地位をもつ、最強騎士、黒沢祐一。



その体は鉄壁の情報強度を誇り、また、強力な武器ともなる。盾と矛、両の武器を持つ少女、リ・ファンメイ



演算速度はまさしく世界最高。どんな情報防御だとて敵わない情報解体能力を有する空賊、ヴァーミリオン・CD・ヘイズ



魔法士の常識を塗り替える、I-ブレインを複数個有するという偶然生まれた異端児、デュアルNo・33



母の力を受け継ぐ世界でたった一人の光使い。唯一の自然発生した魔法士である、セレスティ・E・クライン



情報制御理論を生んだ怪物が生み出した、魔法士の生みの親の忘れ形見。最強の人形使い、エドワード・ザイン






データを見るたびに笑いがこみ上げてくる。
こいつらが、”これら”が自分の手駒となるのだ。
やはりあの『異能ならざる双子』を人質にとったのは正解だったか。
崇高たる『賢人会議』の意思を引き継ぎ、今まで自分は”ここ”を作ってきた。
誰にも束縛されることの無い、誰にも差別される事の無い、真の魔法士達ための『理想郷』。
ここに入る資格をもつのは、名実と共に最高でなければならない。
今この世界でそのレベルに達しているのはこの八人だ。
恩を売っておくため、『千里眼』や『幻影』なども候補に加えてもいいかもしれない。
くかか、と下卑た笑い声が口をつく。


(情報制御を感知)


・・・来たか。世界最高の魔法士達。
歓喜の震えが止まらない。
感謝します。おぉ、感謝します。我等が主。『賢人会議』よ。
私の命は貴方達のためにあり、貴方達のためならば私は死すら厭いません。
崇高なる、高貴なる、英知なる、我等が長、『賢人会議』。
私の献身を、忠誠を、奉公を、今、御許に。
・・・さぁ、カーニバルの始まりだ。
完全に正気から逸脱した男は、震える喜びを押し隠し、目の前に立つ四人に向け、言葉を紡いだ。




「――お前達を、ここに呼び寄せるためだ。」




・・・『賢人会議』よ、永遠なれ。









        *










「・・・『賢人会議』だ、と?」
訝るように祐一が返す。
・・・無理も無い。
自分達がここまで足を運んだのは『賢人会議』の手がかりをつかむため、
真昼と月夜に関連している可能性が高い組織も『賢人会議』
二人の消息を追ってたどり着いた先で、唐突に現れた男が言った言葉、『賢人会議』
何もかもが、できすぎている。
・・・いや、むしろ繋がっているのか?
今まで自分達を囲んでいた事件、それらの主犯格がこの『賢人会議』だとすれば一応のつじつまは合う。
「目的は、何だ?」
先ずは様子見、先方の出方を窺わなければならない。
何しろこちらはまだ相手について何も知らない。知識を得るところから始めなければ・・・
「言っただろう?・・・まぁ、説明は後回しだ。ついてきてもらう。」
問答無用で言い切られ、顎で外をしゃくる。
・・・ちっ。
有益な情報は聞き出せない、おろか、主導権すらあちらに奪われるありさまだ。
こうも俺は駆け引きに対することが弱いのか、と改めて祐一は確認する。
と、いきなり男は振り向いて告げた。
「あぁそうそう。ついてこないってのは無しだ。」
優越と高揚が入り混じった顔で言う。
これだけならばまだいい。
だが、次に放たれた言葉は、この場にいる二人の心中を大いに揺さぶるものだった。
「・・・まぁ、”兄と姉”を見捨てれるなら話は別だが。」
「――っ!」
その言葉がナイフと化して臓腑を抉る。
月夜と真昼を攫ったのはこいつらだった。
その無機質な事実が反響する。
「ん?」
間抜けな声があがる。
(大規模情報制御を感知)
「あぁぁぁっ!!」
――錬だった。
サバイバルナイフを振りかざし、周囲にマクスウェルを展開しながら一直線に男のもとへと疾駆する。
待て、という制止の言葉が口を出るまもなく・・・
「がっ!?」
「!?」
男まで後数メートル。
そこまで接近した瞬間、錬は何か見えない壁に当たったかのように、大きく吹き飛ばされた。
小柄な体躯が壁に叩きつけられ、バウンドする。
錬自身、何が起こったのか分からないようだ。
軽く咳き込みながらも、錬は吼える。
「月姉と真昼兄を、どうした!?」
火が出るような剣幕。
「そう急くな・・・ってな。ついてくればちゃんと返してやろう。」
「・・・無事、なんだろうね?」
「それは当然だ。何しろ大切な『お客様』だからな。」
「・・・っ。」
怒気が周囲に立ち込めそうなほど感情を露にしている錬だが、男は意に介する風すら見せず、飄々と受け答える。
「何かあったら、許さないよ。」
「だから無事だって言っただろうが。」
いい加減飽きたのか、男はこちらを向いて言った。
「さぁ、付いて来い。我等が『賢人会議』の箱庭。魔法士達の理想郷。『ワイズ』へと。」
こちらの返答も聞かず、外へ出てゆく。
と、急にこちらを向いて
「後、俺の名前は”ベルセルク・MC・ウィズダム”だ。覚えておけ。」
それだけを言い残し、外へと消えた。
のろのろと、錬が後を追う。
その痛々しい姿に軽い同情を覚えながら、祐一もセラとディーを引きつれ、後を追った。




*




外へ出る。
この、ベルセルクなんたらと名乗ったおそらく魔法士であろう男。
不審者極まりない風体な、異常が服着て闊歩しているようなこの人間。
本当に、真昼と月夜の居場所を知っているのだろうか?
二人は無事だろうか。怪我などしていないだろうか。
唯、錬はそれだけが心配だった。
ともすれば体が震え出しそうになる。
動悸の激しい血流を受け、”もし”という最悪を考え出すI-ブレインがいる。
その肩に、ぽん、と手が乗せられた。
反射的にそちらを向く。
祐一だった。
「大丈夫だ。あいつらのしぶとさは俺がよく知っている。」
なにせ生身の人間二人でモスクワの自治軍一個大隊と渡り合った奴らだからな、と付け加えた。
厳しい、『世界最強の騎士』が見せる心遣い。
滅多に見ないそのぎこちなさに、安心感がわき、また、そこまで気を使わせてしまった自分に嫌気がさす。
「さて、行くぞ。」
軽く告げられ、緊張するタイミングを逃した。
だが、ここからどこへ行くというのだろう?
見たところ飛行艇や、その類のものは見えない。
まさか身体能力制御を使って走っていけ、というのか?
そんなことを思って錬はウィズダムを見る。
彼は大きく芝居がかった動作で手を振り上げ、
(大規模情報制御を感知)
「!?」
振り下ろした。
途端に世界が歪む。
周りの空間が、景色がねじれ、蠢き、奇妙なクロソイドと化して渦巻いてゆく。
まるでゲームか何かのバグのような現象。
五感がうまく働かず、I-ブレインも反応をしめさない。
「・・・『    』。」
ウィズダムが何か呟いたが、ぼやけたこの感覚では聞き取れない。
「空間転移か!?」
普段から『自己領域』を使い慣れ、空間の変化、というものに対して敏感な祐一がこの現象の正体を看破する。
だが、その声も最早誰にも届かない。


小脳まで侵されそうな嫌な感覚が数度。


「おら、着いたぜ。」
投げやりなウィズダムの言葉に三人は目をあけ、顔をあげる。


――見えたのは、草原だった。


「えっ!?」
三人が絶句する。
セラが夢から覚めるように目をこするが、それは現実を覆す事も無い。
目の前にあるものが、唯、真実。それだけだ。
だが・・・”これはなんだ?”

錬の目に映るのは、燦々と降りめく煌びやかな陽光。
さわやかな微風に揺れるは緑の海。
遠くから聞こえてくるのは川のせせらぎか、小鳥のさざめきか。
人類が取り戻そうと挑み、挫折し、諦めたその全てが、ここにあった。
辺りは見渡す限り芳醇な大地に囲まれ、太陽の恩恵を受けながら今この時を謳歌する自然が、ここにあった。
とうに姿を消したかと思われた動物達が、
吹きすさぶ寒風と姿を化しているはずの、やわらかいそよ風が、
遮光性気体の黒海に阻まれ、二度と地上に降り注ぐ事ないと思われた太陽の光が。
失われしかつての”自然”
それらが堂々たる存在を持って今、目の前にある。
「馬鹿な・・・」
呆然と、祐一が呟く。
落ち着き無く瞳を彷徨わせるその様子は、動揺している事を如実に示していた。
現実として認識していても、残った理性が肯定することを拒否している。
そう、こんな風景は”ありえない”のだ。
遮光性気体によって空を遮られ、陽光一筋差さぬ暗黒の大地と化した、地球。
なのに
なのに・・・何故?
天を仰ぐ。
そこには、そうあることが当然であるように、『青空』が輝いていた。
「いい眺めだろう?」
こちらの反応に満足したのか、得意げにウィズダムが言う。
「ここが魔法士たちの楽園。『ワイズ』だ。俺の使命はここの管理と、ここに来れるべき能力を持った魔法士を誘導すること。それが、俺の誇りだ。」
手を広げ、満面の笑みを伴い、語る。
「俺たちは選ばれた人間だ。人間以上の力を持ち、人を超える頭脳を持つ。」
恍惚とした表情で、語る。
「人が作り出した”人以上の人間”。ついに人類は命を創造するっつー『神』の領域にまで達したのかもしれねなぁ。・・・だが、神サマってのはよ。役割を終えるもんだ。その基準は単純明快。
”作り終えたら”
これに尽きる。
・・・後は世代交代さぁ。バビロニア神話のティアマトーしかり、ギリシャ神話のクロノスしかり、北欧神話のユミールしかり、役割終えた神サマってぇのは殺され、取って代わられ、”新たな世界を作る材料となる”」
毒と蜜の口調で、唯、語る。
「それじゃぁ俺たちはどうするべきか?世界を変えるだけの力を持ち、それでいて未だ脆弱な役割を終えた人間どもの支配下にある。・・・んなこたぁいけねぇよな。ん?違うか?力を持つ、それだけで責任は比例して生じるもんだぜ?怠惰を貪るなんざぁ最低の所業よ。」
自分の言う事が絶対だと信じて疑わない高圧的な口調で、熱っぽくウィズダムの語りは続く。
「だから俺は命を受けた。崇高たる我等が主達。世界の行く末を見守り、世界の全てを知り、世界の何たるかを把握した究極の存在。・・・すなわち、『賢人会議』からな。」
一息
「全ての魔法士は”自由”であるべきだ。それを実現させる方法を探せ。・・・これが、俺の使命。この命を賭してでも完遂させる俺の存在意義。だから俺は”ここ”を作った。この世の強者が『賢者』の名のもとに集うが如く、な。」
「・・・ずいぶんと、スケールがでかい話だな。」
冷ややかに祐一が告げる。
「お前らが言う”自由”とは何だ?命令に束縛されない事か?誰からも指図を受けない事か?どんな制約も課せられない事か?・・・お笑いだな、そんなものは真の”自由”ではない。唯の幼児の我侭に過ぎん。自己の制約から外れた自由など、唯の暴走だ。・・・俺たちは確かに、人間以上の能力を持っている。だが、それを理由に他者を踏みつけて良いのか!?」
この言葉に、横にいたディーの体が反応した。
「・・・他者を踏みつけていい、理由・・・」
祐一の言葉を口中で反復している。
何か彼はこの話題に対して思うことがあるようだ。
だが、それがなんなのか、錬には知るよしも無い。
「弱肉強食。強いものが、強い。唯それだけ。・・・何の問題がある?それだから軍がシティを統治したりしているんだろうが。それだから世界に空賊や犯罪者が溢れているんだろうが。」
祐一の怒声にも怯まず、まるで呆れたようは声で言ってくる。
「・・・本気で言っているならば、俺たちはこんなところにいる義理などは無い。」
「あん?」
祐一の声のトーンが一層低くなった。
そして、吼える。


「――お前らがやっているのは、唯の『傲慢』だ!」


静寂が、辺りを満たした。
しぃん、と逆に耳がおかしくなるような静けさ。
それを破ったのは、微かな哄笑だった。

「く・・・くく、ふふふ、ははははははははははははぁーっはっはっはっ!」
激笑、哄笑、裂笑。
純然たる狂喜の・・・否、狂気の響きを含んだ笑声が、爆発した。
「言うねぇ!流石は『最強騎士』。重みが違わぁ!」
満面の笑みに、暴虐たる狂気を込めて笑い続ける彼の姿は、この柔らかな空間の中では、明らかに異端だった。
澄んだ水の中に落ちた、一滴の墨汁。
小さいながらも圧倒的な存在感を誇る”違和感”
その具現たる存在が、まさしく今のウィズダムの様子だった。
「だがよぉ〜。忘れてやしねぇか?」
「何をだ。」
「天樹錬。てめぇの兄姉は今、俺の手元にあるんだぜ?」
「――っ!」
祐一の表情に罅が入った。
「そうだよなぁ?ん?不本意ながらこれは『人質』ってやつになるのかねぇ?」
「貴様・・・!」
祐一が体中から怒気と放出する。
「・・・んっん〜♪・・・そうだな。こうしようじゃねぇか。」
ウィズダムはわざとらしく頭を抱えて考え込み、






「――『ゲーム』をしようぜ?」






・・・とんでもないことを言い出した。















コメント

ついに登場ラスボスー・・・に、見えない飄々とした奴ですね・・・
ですが最初はウィズダム君の視点で書いてみました。
こういうキャラ、何か新鮮♪
悪役であろうと自分の信念を貫く人は大好きです。
さて、次からようやく鬱憤晴らしのごとくバトルバトルバトルの連続になる予定です。
折々”ここがどこなのか?”ってことも明かしてゆきます・・・てかすぐに分かるだろうけど
この「あの空の向こう側に」は元のウィザブレにくらべてよりファンタジーというか
RPG風味というのを強めて書いているんで何か戦闘が長引きそうな気が否めません。
何とか落ち着かせれるよう、がんばります。
・・・・・・あ、最初のヘイズに振ったルビ、上手く見えねぇや。

レクイエム