第十四章

「獣群像・桜吹雪」



























百花繚乱咲き誇り、豪華絢爛舞い踊れ






















「それじゃぁみんな、用意はいーぃ?」

集まったメンバーを残らず見渡し、リューネは陽気に聞いた。

無言で頷く9人。

錬、フィア、祐一、ファンメイ、ヘイズ、ディー、セラ、エド、サクラ。

既に完全装備で身を固めており、後はもう出発するだけの姿であった。

「ところでリューネ。どうやって『アルターエゴ』まで行くの?」

雲上航行艦があるにはあるが、そんなもの『Id』だって予想していることだろう。

たとえ接近できたとして、着陸できるかどうかは別問題だ。

「俺とエドワードの二隻だけで突っ込むとかそういうオチはやめてくれよ?」

そりゃ無謀っつーもんだ、とヘイズ。

リューネはそれに人差し指を立て、

「うん。『Id』もヘイズたちの船を間違いなく警戒してるはずだから、そんなことはしない」

「ならば、どうするというのだ? 世界樹でもよじ登るとか言うのではあるまいな」

雲上航行艦以外で『雲』の上に出る方法。

それすなわち情報制御を使わずに高度2万m以上へ上る方法と言える。

ならば、世界樹くらいしか思いつかない。

「そのまさかよ。気づかれずに『雲』の上に出る方法なんてそれくらいしかない。だから、パーティを二つに分け て、船と徒歩の二方向から『アルターエゴ』に向かうわ」

まじかよ、と顔をしかめるヘイズ。

「それ以外に方法がないのよ。それすらも予測されてる可能性が高いんだけど、ここは譲っちゃいけない」

というリューネに、

「あ、ねえリューネ」

錬が口を挟んだ。

「なぁに?」

どこまでも漆黒の瞳に見つめられ、錬は言った。

「要するに、ヘイズたちの船だけで行ったら一気に全滅する可能性があるから、二手に分かれるんでしょ?」

「ん。そうそう」

「で、世界樹を選んだのは、『Id』に待ち構えられている可能性が高いけど、それが『雲』の上にいける唯一の ルートだからだよね。」

「そだよ? 今言ったじゃない」

背に腹は代えられない。

待ち伏せがある可能性が高いが、仕方がないのだとリューネは言う。



「じゃぁ、世界樹以外で、『雲』の上に出るルートがあればいいわけだよね」



「え?」

そう、錬にはその心当たりがある。

おそらくはもう誰もが忘れてしまった盲点。

されど、確かにまだ存在する秘密の場所―――

「そんなとこあるの?」

うわちゃ、と自分の頭を叩いて錬に問うリューネ。

自分の横で、フィアが小さくあっと声を上げる。

どうやら彼女も気がついたらしい。

こっそり横目で伺うと、祐一も納得したような表情を見せていた。

「うん、あるよ」

自信満々に、胸を張って、誇り高く錬は告げた。


















「――――――軌道エレベータがね」



























           *
























「……こんなところがあったとは」

荒れ果てた地下街の跡。

その入り口でサクラはそう呟いた。

「大戦前は文明の象徴の一つだったのだがな」

感慨深げに言う祐一。

この場にいる者の中で大戦を経験しているものは彼だけだ。



―――あの後、錬が軌道EVの存在を示唆した後で、リューネはパーティを二つに分けた。



雲上航行艦を用いて直接アルターエゴへ行く『空組』と、こちらから地道に向かう『地組』

……ネーミングセンスにつっこんでいはいけない。

こっちにいるのは錬、フィア、祐一、ファンメイ、サクラである。

「ともあれ、そろそろ空の連中も動くころだ、急ぐぞ」

歩き出す祐一。

「はい」

彼を先頭に全員が続く。

まるで巡礼のように。



そして、半分ほど道のりを進んだとき、



「…………ん?」

錬は、付近の壁から不自然なでっぱりが多々出ていることに気がついた。

同時に他のメンバーも気がついたようで、不思議そうにその突起を眺めている。

「なにコレ?」

こつんこつんと叩いてみるファンメイ。

「自然にできたものではないな」

「うん、前着たとき、こんなものなかったもん」

突起が生えているのは、ここら一帯だけのようだ。

まるで、何かのエリアのように。



(―――大規模情報制御を感知)



「―――!?」

大地が揺れた。

刹那の間に空気が塗り替えられていく。

「なにが……!?」

敵の姿は見えない。

蠢動する地面だけが次々に激しさを増していく。

「いかん、崩れるぞ!」

荒れ果て、老朽化したこの場所に、この振動に耐えれるだけの強度は無い。

祐一が叫ぶが速いか、天井に亀裂が走る。

「サクラ!」

「わかっている!」

刹那の判断でマクスウェルをたたき起こす。

範囲も何も考えず、ただ全力で天井を凍りつかせる。

サクラの放つそれと相乗した「大雪波」は瞬く間に亀裂の走った天井を覆い、






―――突如天井から生えた”獣”に叩き割られた。






「なに!?」

ゴーストハックか!?

「みんな、よこ―――!」

ファンメイの叫び。

見れば不自然な出っ張りは残らずうごめき、”獣”に姿を変えようとしていた。

周りの材質を次々に取り込み、肥大化していく。

”くさび”だったか―――迂闊!」

苦々しげに祐一が舌打ちする。

「とにかく逃げるよ! このままじゃつぶされる!」

フィアを除く全員が身体能力制御を起動。

脇目も振らずに逃げの一手を打つ!

「崩落が速い……っ!」

あの獣に建材をあちこち取り込まれたせいか、加速度的に崩落は早まっていく。

「つぅ―――っ!」

出口が見えた。

四人はラストスパートをかけ、



「あっぶな―――!!」



しんがりだったファンメイがヘッドスライディングで滑り込むとほぼ同時に、地下街は崩れ落ちた。

「間一髪だったな」

さしもの祐一も少しは肝を冷やしたらしい。



「――――――いや」



がらり、と瓦礫が崩れる音。

「どうやら、そう簡単にはいかないようだぞ……!」

瓦礫を掘り起こして、取り込んで、ゴーストハックの獣が姿を現す。

その数はいつの間にか1000に達している。

「……『Id』の人形使い。ラヴィスってヤツだね」

ゴーストハックの獣の軍勢。

くすんだ鉄色に輝く獣たちはいっせいに鎌首をもたげ、おぉ、と咆哮するようにこちらをにらんだ。

……来る!

錬が『蒼天』を、祐一は『紅蓮』を構えようとしたその瞬間、








「――――――『魔弾の射手』」








鋼色の光芒が突き抜けた。

「サクラ……!?」

全員が彼女を注視する。

サクラはナイフを投げ放った状態のまま一つ鼻を鳴らし、





「面倒だ。ここは私が引き受ける。貴方たちは先に行け」





そう、告げた。

「放っておけばあれは軌道エレベータまでもを侵食しかねない。誰かがここで食い止めておかねばいけない」

「だからって……一人でなんて無茶です!」

せめてもう一人、と言うフィア。

サクラはやんわりと首を振る。

「必要以上に戦力は割り振れない。この場で一対多に最も向いているのは私と天樹錬だ」

ならば、より広範囲を攻撃できる私が残るのが道理だろう、とサクラ。

新しいナイフを構える。

「―――行け。前座は癪だが、たまにはいいと思う」

「……滅ぼす必要はない。時間を稼いだらそれでいい」

祐一が静かに言う。

サクラはわかっている、と返し、錬たちに背を向けた。

「任せたぞ」

「最強騎士の信任か。光栄だな」

「無理はしないでくださいね……」

「…………」

天へと至る登竜門。

そこへ黒衣の少女を一人残し、錬たちは一路、青空への道をたどる。























         *
























「そろそろだな」

「ん。準備はいい?」

「だいじょうぶ」

錬たちが地下街を抜けようとしている頃と時を同じくして、空組もまた、戦いへ赴こうとしていた。

足はヘイズの駆るHunter Pigeonと、エドのウィリアム・シェイクスピアの二隻。

世界最新鋭にして最高の船たるこの二隻だが、どこまで『Id』の戦力に対抗できるかはわからない。

操縦者に加え、Hunter Pigeonにはリューネが、ウィリアム・シェイクスピアにはディーとセラがそれぞれ搭乗して いる。

「ハンカチ持った? ちり紙は?」

「……一昔前の小学生か俺達ゃ」

「あはは―――帰ってくる時間を知・・・・・・・・・らせるのは済んだ・・・・・・・・?」

「――――。ああ、全て万事にぬかりなし」

伊達の鉢巻皆其々に、だ。

ヘイズが、エドが、ディーが、セラが、次々に頷きの意を返す。

それを確認し、黒髪の調律士は声を挙げた。



「それじゃぁ行くわよ! ここから先に一切の躊躇はないわ! 華々しく散るか突っ切るかよ!」



チップを全賭け、叩きつけろ。

白銀の鳥と真紅の鳩に火が入れられる。

そうしてバースト。

Hunter Pigeonとウィリアム・シェイクスピアは空へと落ちていく。

目的地は『アルターエゴ』。

天蓋回る、欲望の城砦。

「んで、作戦とかはあんのかい大将!」

発進直後のGに耐えつつ、ヘイズが大声でリューネを呼ぶ。

「作戦ー!?」

振動に声が消されないよう、大声でリューネ。

「ああ作戦だ! どうせろくなこと考えてないだろうけどよ、役割分担くらいは決めてあんだろ?」

「え?」

「え? じゃねぇー!」

なにソレ、と言わんばかりに、しかも可愛らしく首を傾げるリューネにヘイズ、魂の叫び。

「だってー」

「だって言うな!」

むぅ、と膨れるリューネ。

どうでもいいがコイツ段々と開き直ってないか俺達に。

「だって最初の予定では私一人で行く予定だったもん。みんなのことまでは考えてなかったのよ」

「じゃぁ今考えろよ」

「はーい」

……そう言うならさっき考えとけ。

心の中でぼやくヘイズ。

ハリーやリチャード、サリー相手だと子どものような扱いをされるヘイズだが、錬たちの中ではなぜかいさめ役に なってしまう。

生来の苦労症、ここに極まれり。

ところでハリーが何も言わないのはどうしてだろう。

「とはいってもね、作戦なんて大層なものはないの」

「あ?」

どういうことだそれ、と後ろを振り仰ぐヘイズ。

リューネは補助バーに顎を乗っけるというひどく危険な体勢にいた。

その状態からえいやっと反動をつけて立ち上がり、



「―――時間稼ぎ。それに尽きるわ」



人差し指を立てるおなじみのポーズで、そう言った。

「厳密に言えば時間稼ぎではないんだけどね。要するに、”私の存在を悟られないように”戦ってほしいの」

「……なるほど」

納得。

リューネの存在、生存は『Id』にとってまさに目の上のたんこぶ。

切り札エース切り札ジョーカーとして使うということか。

「私を知るオリジンはアルだけ。でもアイツは多分、もう元のアイツじゃない。……だから、今の『Id』で私を 知ってる人間はいないはず」

「あんな派手に”天意の宿り木”ギガンテス・オリジンぶっ潰しといてか?」

「うん。ただ”天意のカケラ”が消えたってことしか認識してないはずだよ」

「? どういうことだ?」

「”天意の宿り木”は、『Id』の意識体の端末を核に、植え付けられた人間の演算能力をフリーズアウトぎりぎ りまで使って構成されるの」

だから、それが壊れても『Id』の統一意識には”カケラ”が消えた、としか認識されないの、とリューネ。

「……そりゃまぁ道理だがよ。あんだけ馬鹿でかいんだ、絶対に不思議がられんだろよ」

そんな節穴なわけねぇだろ? とヘイズ。

「そうね。でも、それを私と結び付けることまでできる・・・・・・・・・・・・・・・・・

「――――――ああ」

そういうことか。

リューネは『黄金夜更』によって殺された。

それが史実だ。

「だから今『Id』は予想外の事態に混乱、というか意思統一がされていないと思う」

未知ではなく、明らかな”異常”。

それをグノーシスはどう判断したのか。

そこが分水嶺だとリューネは言う。

「つまり……『Id』は今”なにがどうなってるのかわかっていない”ってことか」

「端的に言えばそうね」

「はじめからそう言ってくれ」

そう言うヘイズになによせっかく説明してあげたんじゃないとむくれるリューネ。

と、そこへウィリアム・シェイクスピアより入電。

「つまり……僕らはリューネさんがいるのを悟られないようにある程度の時間戦っていればいいってことです か?」

「そうなるわね。より正確に言えば、皆には先に突入してもらうわよ」

「え?」

「守護者の相手をお願いしたいの。足止めしても倒してもなんでもいい。とにかく”私を温存させて”

はっきりと、お前たちを捨て駒にするとリューネは言った。

「ラヴィス、セロ、ザラットラ、イグジスト、ヴィルゼメルト。はじめの三人はどうでもいいけど、最後の二人、 特にイグジストだけは油断できない」

―――騎士皇イグジスト・アクゥル

単純な戦闘能力だけであれば、代行者ヴィルゼメルト・モアブラックをも凌ぐ存在。

最強の炎使いにしてリューネの親友、エレナブラウン・ツィード・ヴィルヘルミナと80戦を戦い、その全てに引 き分けた猛者。

あの存在だけは油断できない。

「なるほど。俺達はどうすりゃいいんだ?」

「ヘイズたちは『Id』の空軍戦力”四方嵐”タービュランスと戦ってもらうわ」

時が来るまでね、と付け加えるリューネ。

そこへ、

『ヘイズ、そろそろ時間です。ファイアウォールの準備を』

にゅ、とハリーが現れ、『雲』へと突入することを示唆した。

ぐ、と操縦桿を握るヘイズの拳に力がこもる。

有機コードを脊髄に叩き込み、全操縦システムをI−ブレインへと移行。

コンソールをひときわ大きく叩き、息を吸う。



「行くぜ」

「うん」



一問一答。それ以上は必要ない。

真紅の鳩と白銀の鳥は天蓋向けてひた走る。

























          *


























そして、



「真正面から行くのかよ。かぁー、相変わらず考えあるんだかねェんだかわかったもんじゃねぇな」



誰も知らないことであったが、ここに一人の観客がいた。

天へと落ちていくHunter Pigeonとウィリアム・シェイクスピアを眺めている男が、一人。

少し小高くなった丘に、防寒装備など一切なしで立っている。

なぜか足元には食器が転がっている。

ぽんぽんとお腹を叩きながらその男はげふー、と息を漏らした。

「……冷めてちゃ味気もクソもねぇな。ああ、今度はできたてを食わしてもらいたいもんだ」

会えるかどうかはもうわかんねぇけどな、と呟く。

「つーかあんにゃろ。俺の分の卵焼きまで食べやがって」

お供えモンに手ぇ出すしつけなんざお兄さんしてませんよー。

どこかの誰かが聞いたら間違いなく怒り出す台詞を飄々と吐く男。

そして一息。

「ま、確かに退屈しのぎにはなったってことだァな。―――その誠意に礼を。天水咲夜。お前の行く道の上に俺には関係ねぇから適当に死ぬか生きるかの面白いことが起きるように」

ぱちん、と指を鳴らして、足元に転がった食器を消滅させる。

ここに、一つの世界同士が交じり合った名残が消え去った。

「しっかし……あー、寝てる間にずいぶんとつまらねぇおもしれぇことになってたもんだな」

ふぁぅ、と欠伸をする男。

「末期の華か。今際の金か。死に際の六銭か。ああ、どいつもこいつも三流だ」

まったくおもしれぇつまらねぇと呟く男。

そのまま空を見上げ、

「だが、役者だけは二流ってとこか。お涙頂戴悲喜交々の感涙ショウ。いいねいいねいいねいいねこのアンバラン ス」

くかか、と奥歯を見せて笑う男。

空を見上げたまま歯を鳴らし、




「最っ高に陳腐だ! 究っ極に駄作だ! 嗚呼! 嗚呼! 嗚呼! 全米ワースト1も夢じゃねぇ!」




狂ったように、否、普段どおりに声を上げる男。

声を上げながら腕を上げ、




「だがしかし! だがしかし! だがしかァし!! その狂いっぷりはいささかたりとも地に落ちぬッ!」




楽しくて仕方がないように哄笑する男。

笑いながら目を見開き、




「矢尽き刀折れるまで! 海が裂け地が崩れるまで! 時が震え天が落ちるまで! その狂気は永遠に観測させる だろう。世界が終わりを迎えるまで。それが望み。それこそが我等の本懐よ!」





その求道は誇るべき高潔。

その久遠は誇るべき永遠。











「――――――されど」











そう、”されど”。




「されどこの得も知れぬ気持ちは何だ!? この狂おしいまでの狂気は何だ!? この切ないまでの感覚は何 だ!?」




逆説。逆説。また逆説。




「心の深遠が告げている。お前の為すべきことがあると。お前の本懐は別にあると!」




我は天蓋守る欲望の全能機関の守護者也。

我は欲望貫く永遠の探求者也。

我は兄にして守り手也。

そう、









「我が名はウィズダム! 途方もなく狂った賢者ベルセルク・MC・ウィズダム!」









全ては我が意思の元に。

俺の行動は、―――俺のモンだ。






「俺は俺に”俺を”許す。―――ここより先に正気は無い。天地四方往来上下、全方位まんべんなく隙間無く空白 無く、俺の狂気で満たしてやろう」






狂気とはすなわち求道の極地。

他者の意思を介せず、常識もなにもかも全てを踏みにじり、ただ己の”我”を貫くことなり。



「―――世界を名乗る者の報いを受けよ。呵呵、ヒトの妹を傷物にした罪はデケェぞ……?」



そうして咆哮。

あらゆるものの目が天へと向いているこの時、誰にも知られずに、地にて狂気が開始された。






























「ま、ひっさびさの復活だったらこんなもん言っときゃイメージアップだろ」

……台無しだった。





























       *

































「……さて、割りに合わない仕事のようだが、始めるとするか」

獣の群れにナイフを構え、サクラは雄雄しく立った。

普段どおりの構えを取り、そして嘆息。

「どうにも真昼と出会ってから厄介ごとしか起きていない気がするな」

にやりと笑ってこちらの頭を撫でる青年の顔を思い浮かべ、サクラはもう一度嘆息した。

「今はマザーコアが云々と言っている場合では無い。私は―――子供たちの世界をここに守ろう」

それだけは。

それだけは誰しもが同じ思いのはずだ。

未だ答えの出ないあの正義を真のモノにするために。

救ってきた子供たちに胸を張っていられるように。

その思いよりこの場、退くも行くも相成らぬ!











「さぁ来い、魂無き人形ども。―――桜となりて舞い散り消えろ」























              *






























(―――call:『魔弾の射手』)



電磁砲身にナイフを叩き込む。

紫電と共にナイフは無数の破片に砕け、たちまち秒速1万mを体現して敵陣を深く深く貫いた。

この技の前にあらゆる防御は紙切れのごとく貫かれる。

しかし、

「く―――本当に底なしか……!」

サクラが戦い始めて既に30分。

彼女が滅したゴーストハックの獣の数は百を超えて千へと届く。

だがそれだけの力を持ってしても、無限を穿つことはできない。

「……まだだ!」

頬を張り、自らを鼓舞する。

これは先の見えないマラソンバトル。

心が折れれば、それは即、死に直結する。

……だがこれだけの数を操っているのだ。必ず術者が近くにいるはず……。

鷹の目を凝らすサクラ。

先ほどから攻撃の合間に周囲に目を配っているのだが、まだ人形使いは発見できていない。

否、それほどまでに獣の数が多いのだ。

「ちぃ……」

まだ体力も演算能力も半分以上を残している。

だがそれでもこうまでだと気が滅入るというものだ。

サクラは苦々しげに舌打ちをすると身体能力制御を発動。

背後より忍び寄ってきていた獣の牙の一撃を回避し、そのドテっ腹に蹴りを入れて吹っ飛ばした。

3、4匹を巻き込んで転がる銀の獣。

蹴り飛ばした足に走った痺れに顔をしかめるサクラ。

「このあたりの建材だと鉄か強化チタンというところか……瓦礫ばかりというのも厄介だな」

ただの町ならば、そう強固な建材があるわけではない。

だがここは軌道エレベータの階層。

高度2万mまで伸びる建築物を支えなければならない基盤の位置だ。

もちろんそこにあるべき建材は強固なものばかり。

サクラの攻撃で普通に通用するのは『魔弾の射手』もしくは『天の投網』のみ。

『踊る人形』も試してみたのだが、ゴーストを付近の建材に浸透させた瞬間に邪魔をされた。

位置を逆探知する暇も無い。

劣化品のサクラの能力とはまさに一線を画す強さの人形使い。

……ゴーストハックでの勝負はできんな。

以前に先ずはどこに本体がいるかを確認しなければならない。

こちらに『魔弾の射手』という広範囲遠距離射撃があることは知っているだろう。

あの攻撃は生半可な防御で防げるものではない。

故に、いるとすれば『魔弾の射手』を放ったときの、その範囲外。



「……狙ってみるか」



このままでは埒が明かない。

サクラは普段よりも多くナイフを取り出す。

―――そのときだった。



「なに!?」



思わず我が目を疑った。

眼前うごめくゴーストハックの獣の軍勢が、一つの行動を見せていた。



―――互いを食い合っている。



仲間の手足を引きちぎり。同胞の血肉を食んで取り込み、その図体を大きくしていっている。

「これは―――」

言い終わるか終わらないかのうちに、軍勢が”隆起した”

現れたのは巨人。

身の丈ゆうに3mに達する銀の幽鬼―――!

「……大きくなれば良いというわけでもないだろうに」

忌々しくつぶやくサクラ。

だがその言葉に反して表情は堅い。

巨人が侵攻を開始する。

その数―――およそ100。

「…………」

サクラの表情は堅けれども、しかしそこに恐れは無い。

弱音も泣き言も、何一つこぼすことなく、千変万化の魔法士は死地へと飛び込んでいった。




















 おまけコーナー 辛辣編 

〜食卓大戦争〜

ウィズダム 「テメぇ! それは俺の楽しみにしていた卵焼き……っ!」

リューネ 「へっへへー。勝負は残酷なのでしたぁー!」

ウィズダム 「……いいだろう。宣戦布告と判断するゼ」

リューネ 「ふふふ、やれるものならやってみなさい……!」

ウィズダム 「語るに及ばす! 食らえ、必殺! スパイラルローリング・箸!」

リューネ 「甘いわよ! ハリケーン・お玉!」

ミーナ 「あのぅ……」

ウィズダム 「なんだ? てかアンタの出番はここじゃねぇだろ」

リューネ 「そうそう。今は真剣殺戮勝負なんだからミーナは手を出さないで!」

ミーナ 「ですからその…………台本違います」

二人 「…………え?」

 オチなし






 あとがき

「世には鬼の勢いってもんがあってな」

ウィズダム 「あ? なんだいきなり」

リューネ 「執筆速度が速まったことをいいたいんでしょ? 二日で二章。確かに今までに比べたら化け物レベルだけど」

ウィズダム 「んなもんどうでもいいっつーの。それより俺の復活を祝え。さぁ祝え」

「まぁ、本編で考えると君実に……30章以上ぶりの出演だもんねぇ」

リューネ 「わ。そんなに間が空いてたんだ。……なのにまったく新鮮さを感じないのはナゼ」

「アクが強すぎんだろ。同盟の方々からも忘れ去られることには先ずならんと踏んでたが、ここまでとは予想外だった」

リューネ 「へぇ」

「というかお前もが言うな。認知度でいったら君ら二人はとんでもないと思うぞ? もちろんいろんな意味で」

リューネ 「そなの?」

「まぁ、寡聞にして俺の思い上がりも入ってるかもしれんけど、うん。多分そう」

ウィズダム 「くかかかか。天地が俺らに跪いたってことか」

「すんげぇスケールの飛躍だなおい。どうでもいいから解説行くぞ」

ウィズダム 「めんどい」

「今てめぇこの場を一言で全否定したぞ」

リューネ 「お兄ちゃん? ―――っ!」

「可愛らしい言葉のはずが何か破滅的なものを感じるッ!?」

リューネ 「おほほほほほほ」

ウィズダム 「似合わねぇからやめとけ」

リューネ 「なにおぅ!?」

「あー。いいからはじめっぞー」

ウィズダム 「あーいよ。そんなわけでこの章は俺の一大復活を丸ごと綴ったリバイバルストーリーごぶぁっ!?」

リューネ 「はーい。今のところカーット」

「……アンタらと一緒にいると横に立っているだけでも命の危険を感じるんだが」

ウィズダム 「わぁったよ。そう怒んなって」

リューネ 「怒ってなんかないわよー」

「聞いちゃいねぇ。―――まぁ。今回の章はようやくの反撃開始ってところだ」

リューネ 「初戦はサクラ対ラヴィスね。……むー、相性悪いなぁ」

ウィズダム 「ラヴィス? ”誰だそれ”?

リューネ 「あ、お兄ちゃんは知らないんだっけ。最後のアドヴァンストだよ」

ウィズダム 「ほーん。嵐のか」

「そうだな。カテゴリは人形使い」

ウィズダム 「は? アレのアドバンストが人形使い? くっはははははは! なんだよそれ! 劣化にすらなってねぇじゃねぇか!」

リューネ 「だから好都合なんでしょ? ザコにこしたことはないわ」

ウィズダム 「だからってなァ? アルはまだいるんだろ?」

「最後のオリジンとしてな。ヴィルゼメルトは半分アドヴァンストみたいなもんだし」

ウィズダム 「呵呵。そんじゃぁアルは俺が貰うとするかね」

リューネ 「ダメ。私たちの出番はトリよ」

「つーか出てくんなお前。話がめちゃくちゃになる」

ウィズダム 「”そう”しようとしてんだがよ。……へ。まあいい、妹の顔を立てといてやるよ」

「……お前の基準はホントわからんなぁ」

リューネ 「はいはい。それじゃぁ次章は第十五章『突撃特攻ノンストップ』」

ウィズダム 「あったま悪そうなネーミングでいい感じだな」

「うるせ。それではお楽しみにー」














本文完成:3月19日 HTML化完成:3月20日


written by レクイエム



                                            








                                                                                ”Life goes on”それでも生きなければ...