第十七章

「神話再臨」



























――龍は雄叫び、鋼を受ける――

























―――それを一言で形容するならば、まさしく神話の世界における戦いの一部であった。



「おぉ…………!」

「このぉ…………ッ!」



ぶつかり合い、火花を散らす黒の刃と鉄塊の如き大剣。

一人は190cmにも届こうとする巨漢の偉丈夫。

最早剣とは呼べぬ”鉄塊”を握り締め、悠々と目の前の敵を睥睨する。

相対するは、30cm以上も小柄な一人の少女。

背中に黒の翼を生やし、その手は鋭利な刃と姿を変えていた。

身長は先ほどの通り。体重差などはそれこそ2倍以上あるであろう。

客観的に何も知らぬものが見れば、これは戦いにこそならぬ、一方的なワンサイドゲームになるはずであった。



―――だが、事実は違う。



大剣『始原鋼剣』ノイエキャリバーを構えるイグジストに油断は無く。

それを見据えるファンメイもまた、裂帛の気合を身に宿し、目を光らせていた。

互角。

たとえイグジストがまだエンジンをかけていないとはいえ、今の状況は膠着に陥っていた。

見上げるほど巨大な相手に一歩も引くことなく戦い抜く少女。

ああ、それは確かに神話の戦いと呼べるだろう。

英雄伝説に曰く、全ての豪傑らは、不可能を可能にすることによってその位を得たのだから。



「…………成程。なかなか”やる”」



す、と構えを解き、イグジストは感心したように言った。

ファンメイは油断無く彼を睨みながら、しかしこちらは構えは解かない。

あの饒舌なファンメイが何も言えないほど、集中しているのだ。

目の前の男からは、それだけのことをさせる威圧感がある。







―――イグジスト・アクゥル







『Id』の守護者が第二位にして、現在の『Id』に唯一残留したオリジン。

特異な能力など何も持ち得ないが、ただ正道を貫くだけのスタイルで最強と化した存在の一人。

リューネ曰く、間違いなく単体物理戦闘では世界最強を誇る騎士であるとのことだ。

鋼の如き忠誠心と、鋼の如き体、そして真に”鋼”である騎士剣。

それらを称して、まさに”鉄塊”。

イグジストはファンメイの身長を遥かに越える愛剣『始原鋼剣』を肩に担ぎ、言った。

「『龍使い』の能力は聞き及んだのみで実際にやりあったことはなかったが……成程、確かにそれは対騎士の切り 札に成り得るであろうな」

「…………」

ファンメイは答えない。

口を開けばそこから恐怖が侵入してきそうで怖かった。

否、既に体は恐怖に満たされている。

それをおくびにも出さないのは、偏に彼女の精神力の賜物であった。

「身体を不定形にすることによる物理打撃・斬撃の無効化。そして細胞それ自体が論理回路を形成することによる 絶対情報防御か……ふむ」

イグジストは思案する素振りを見せる。

だが、今彼は自分で騎士の攻撃は全て通用しないことを語った。

『龍使い』は対騎士に特化した魔法士。

彼が語ったように打撃斬撃は通用せず、情報解体もまた無効化する。

つまり、騎士の攻撃手段は全て無意味。

それでも『龍使い』を倒す方法があるとしたら――――――



「I−ブレインを直接破壊しなければならんという訳か」



乾坤一擲。

ファンメイの頭部を叩き潰すか、刺し貫けばいい。

シャオロンが死亡したのも、それだった。

龍使いの物理防御とは、打撃斬撃そのものを無効化するのではなく、”斬られ潰されてもすぐに回復する”という 意味の無効化だ。

つまるところ、斬られれば普通に切れるし、騎士剣も刺さる。

だが致命となりうるのはI−ブレインの一点のみ。

初期段階の『龍使い』ならばそれでも肉体部分の割合が多く、ダメージも与えることができたであろうが、しかし ファンメイの体は90%以上が黒の水で構成されている。

これでは有効打は望めないであろう。





「―――だが面白い」

「……っ!」





背筋に走る冷や汗。

この悪寒は一体何なのだろう。

相手がどれだけ強い騎士でも、龍使いである自分に勝てるはずが無いのに。

それでも、それでも、この背筋に走る悪寒が、相手には『龍使い』じぶんを絶殺する手段があると告げている ――――――!



「では、行くぞ」



言葉と共に、残像を伴ってイグジストの姿が掻き消える。

ありえない速度での身体能力制御。

通常の80倍という速度を一瞬にして体現したイグジストはたやすくファンメイの後ろを取り、その剛剣を振り落と した。

それを半身をずらしてなんとか回避したファンメイは、右腕の刃を鞭のように振るってイグジストへ叩きつける。

黒の火花と、鉄色の衝撃。

ファンメイの体の横幅以上もある肉厚の騎士剣によって黒の鞭は弾かれ、さらに翻って胴を薙ぎに来る。

しかしファンメイは弾かれた黒の鞭を『始原鋼剣』へと巻きつけ、自ら振り回されるカタチとなってその斬撃を飛 び越えた。

間髪いれず、今度は左腕による打撃。

ただの拳ではなく、先端に鋭利な棘を幾本も生やしたサックである。

綺麗な格闘術の正道をなぞって打ち込まれたそれは丸太のようなイグジストの腕に横から掴み取られ、逆にさらに 勢いを増して投げられた。

「わわわわわ!?」

ぐるぐる回りながら本当に飛んでいくファンメイ。

まるで物を捨てるように軽く投げられた。

なんとか体勢を立て直して着地するも、間合いは5m以上開いていた。

……反則でしょー!?

あんな鉄塊じみた剣をぶんぶん振り回すところからおかしい。

「ああもう……なんでこうなのよーっ!」



(身体構造制御を開始 ―――”黒爪”)



両腕の黒の水を武器化させる。

鋭利に形成されるは蟹にも似た黒の爪。

それは”彼”が好んで使用したフォーム。

そして今、ファンメイが最も信頼できる形状。

……シャオ、力を貸して……!

ああ、と体の中から声が返った様な気がした。

ファンメイは堅く歯を食いしばり、眼前にはだかる騎士皇の元へと駆けた。


























            *




































……それは、たとえるならば、夜明けを待つ太陽であった。


そう、それは、それらは、ずっとずっと待っていたのだった。


暗い暗い闇の中。けれども決して恐れることなどありえない、暖かい闇の中で。















ねえ。


聞こえていますか?



私の声が。



僕の声が。



おれの声が。



肉は滅び、魂も潰え、命など最早あるわけもなく。



けれどそれでも、心だけは確かに貴方の中にあるのです。



解けて消えたのは体。



それでもまだ、心が残されている。



貫かれて消えたのは魂。



それでもまだ、心が残されている。



生きていくうえで必要な全てのものを壊されても尚、確かに残るものがあった。



そう、体は■でできている。



五体五臓六腑に至るまで、この体は■でできていた。



……だから。



そう、だから今、私たちは貴方の中にいられる。



多分、貴方は気づいていないと思う。



命は尽きた。



体は滅びた。



けれども、あの日の願いだけは今もここにある。



忘れてしまったとしても、色あせてしまったとしても。



夢は潰えた。



心は折れた。



けれども、あの日の思いだけは今もここにある。



御託なんていらない。



それが自分の知らないものであるのなら、ただ、あずかり知れぬところで誰かががんばったということだ。



だから、君にエールを。



祝福の誘いを。



確かな導となるように。



















…………ねえ。聞こえてる―――――――――?
























            *




























ファンメイとイグジストの戦いは折り返しを越えようとしていた。


(攻撃感知・回避不能・防御不能)


「っくぅ……!」

咄嗟に差し出した左腕を、容赦なく鉄塊が削っていく。

斬撃ならば受け止めれた。

打撃ならば受け流せた。

だがしかし、その一撃は最早削岩機の如き衝撃を以ってファンメイの腕を削り飛ばす。

切断面の細胞を伸ばして斬り飛ばされた腕を修復するも、そのときにはもう次弾が迫っている。

斬撃。

反応。

衝撃。

破損。

修復。

斬られる、繋げる。

斬られる、繋げる。

斬られる、繋げる。

斬られる、繋げる。斬られる。繋げる。

斬られる、繋げる。斬られる。繋げる。

斬られる、繋げる。斬られる。繋げる。

斬られて繋げて斬られて繋げて斬られて斬られて繋げる斬られ繋げ斬られ斬られ斬られ繋げ斬られ斬られ斬られ繋 げ斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬 斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬 斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬 斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬 斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬 斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬…………!!!!



「っぁ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあああああああああああ…………ッ!!」

間に合わない。

間に合わない。速過ぎる……っ!

秒間に数十を越える斬撃が乱舞する。

……なに、なんなのこれぇ!?

こんな騎士なんて知らない。

こんな速度なんて見たこと無い。

『島』で行われた仮想戦闘訓練の対騎士戦の最高レベルでも、こんな速度を出す相手なんていなかった。

カテゴリーAなんて生易しいものじゃない。

騎士なんていうレベルで括っていいものじゃない。

騎士を越えた騎士。

「紅蓮の魔女」アルティミットが精緻たる技と経験、そして鍛え抜かれた能力を以って最強を名乗るというのなら、こちらはただ 愚直なまでの速度と力を以って絶対を体現するもの。

騎士の中の騎士。騎士の皇帝――――――「騎士皇」!!



「――――――なかなか耐えるな」



最早答える余裕すらない。

ただ頭に致命的な一撃を食らわぬように防御を絶やさぬことだけ。

手首が千切れ飛び、腕が切り落とされようと、数瞬のうちに修復する。



(I−ブレイン疲労率 15%)



だから怖いのは、この体がいつまで持つかということだけ。

リューネの力で一時的に”固着”させてはいるものの、あまりにも基準値を逸脱した場合は危険だ。

永久改変を受ければ身体構造改変は使えなくなるので、かけてもらったのは一時改変。

どこまで体が人間を記憶できているか。

今のファンメイの気がかりはそれだけであった。

戦いに負けて散るよりも、自分が自分でいられなくなることのほうが恐ろしい。

奇しくもそれは、狂気に犯された『グノーシス』とその守護者に対するアンチテーゼでもあった。

歯を食いしばり、大剣の”戻し”に黒の水の紐を巻き込んでからめとる。

「えぇい!」

「……む」

そのまま力任せにブンまわす。

自身の体重の倍以上もあるイグジストは小揺るぎもしなかったが、『始原鋼剣』の動きを一瞬緩めることに成功し たファンメイは、その機を逃さず大きく後ろへ跳んだ。

追撃は来ない。

イグジストは『始原鋼剣』を肩に担ぎなおし、ファンメイを見送っていた。

これ幸いと10m以上の距離をとり、大きく息を吐く。

心臓が破裂しそうだ。

貪るように酸素を嚥下し、ファンメイは自身の体の構造を安定させる。

あと十秒も打ち合っていたのなら、修復も追いつかずにバラバラにされていたかもしれない。

本来あるべきアドバンテージなどとうに無く。

騎士を食らう筈であった龍は首を刎ねられようとしていた。



……じゃり、という一歩を踏む音。



「!」

それにすら恐怖を感じ、ファンメイはさらに大きく距離をとった。

……だけど……どうすればいいのよぉ……?

些細な距離など、それこそ無意味。

四方を壁で囲まれたこの空間から逃げる術など無い。

「覚悟を決めるがいい。少女よ。汝はよく戦った」

来る。

やって来る。

”騎士皇”がやってくる。

「実力差など問題になどなるまい。汝の戦い方は、戦う意思は賞賛に値する。―――その矜持、確かに見せて貰っ たぞ」

『始原鋼剣』が掲げられる。

肩に担いでいた鉄塊はイグジストの両手により正眼へと構えられ、

「故にこちらもそれに相応しいものを以って答えよう。散り行く者に対し、余力を残して戦うのは不誠実というも のだ」

「…………っ」

体が震える。

拳が握れない。

それでも、―――目だけは逸らすものかと、イグジストを睨み続けた。





―――だから、”それ”の終始を確かに見ることができた。





イグジストの構える『始原鋼剣』の刀身が”ブレる”。

陽炎のように刀身の輪郭が朧になっていく。

「なにコレ……?」

同時に巻き起こる大気の微弱な乱れ。

イグジストの足元の塵が巻き上げられていく。









「『Id』が守護者は第二位。「神焉斬刹」イグジスト。我が魂にして血肉の友、『始原鋼剣』」









ゆらり、と片手一本で横に構えられる『始原鋼剣』。

その威圧感たるや、存在するだけで四方を圧するほど。

歯を食いしばって恐怖に耐えるファンメイを一瞥し、イグジストは無造作にぶん、と己の得物を薙いだ。



それだけで、その軌跡が走った床が、崩れた・・・



「!?」

斬撃音は聞こえなかった。

そこまで早い斬撃でもなかった。

だがそれでも、斬られた床は切断面を粒子と化して無残な姿を晒している。















「我が至高にして唯一の絶技『水神』エア。――――――とくとその身に受けるがいい」















そうして絶望。

「ASH」を発動させたイグジストは、最早目で追えぬ速度で大地を蹴り、ファンメイへと肉薄した。




















                *




















時を同じくして、しかし『アルターエゴ』の別の場所。

一人の男が組んでいた腕を開き、閉じていた目をおもむろに開いた。

うなじ辺りで切りそろえられた金の髪。

纏う服には不必要なまでにじゃらじゃらとアクセサリーや鎖がついている。

そのうちの一つを無造作に弄んだその男は、ゆっくりと立ち上がる。

「……まだ来るか。痴れ者め」

手に握るトライアングルを模したネックレスが淡い光を放ち、主に情報を伝えている。

情報制御を感知。質量索敵に反応在り。侵入経路はα21−1987より。動体反応1。

「他に手空きはおらぬ、か。……仕方あるまい」

セロ・ザラットラ・イグジストは侵入者の迎撃。ラヴィスは地上にて威力行使中。

今『アルターエゴ』に残る守護者の中、動けるのはこの男―――「天災の御柱」の二つ名を持つ第一位の守護者、 ヴィルゼメルト・モアブラックのみであった。

戯れが戦いになったことを苦々しく思いながらも、彼は侵入者を殲滅するべく、部屋を出て行く。









―――それが、死出の道となることを何一つ知らずに。


























         *
























「っあぅっ!」

まるで紙くずか何かのように、右腕が切り飛ばされた。



(身体構造制御・槍)



咄嗟に残った左手を鋭利な槍と変え、懐に入り込んだ相手にカウンターで刺突を放つ。

しかし、



「無様だな」



その一撃はあっけなく弾き返された。

イグジストの『始原鋼剣』が翻り、ファンメイの胸へ刺突が叩き込まれる。



(回避不能)



無情に告げるI−ブレインの判断。

躱せない。それなら、”流す”だけだ。

ファンメイは胸部付近の身体構造を変換、あえて突き通されるように組織の結合を緩め、重要器官を一時別場所で 再構成する。

『龍使い』の恐るべき点はまさにここだ。

心臓や肺。一撃で致命傷になる部分ですら、I−ブレインが生きてさえすれば修復が可能。

さらに言うならば、一時的にではあるにせよ、”急所の位置を変える”ことができるのだ。

脳への酸素供給のパイプだけを確保すれば、後はどうとでもなる。



……カウンター!



狙うしかない。

イグジストが自分の胸を貫き通したと同時に渾身の『劫龍』を放つ。

あの鋼のような肉体に自分の筋力ではなまじっかな打撃は効かないだろう。

ならば狙うは手足の腱。

いくらイグジストとて、腱を斬られてはあの『始原鋼剣』を振り回せるわけもないだろう。

骨を切らせて肉を絶つ、だ!

鉄塊の切っ先が胸へと食い込んでいく。

注意は一つ。

『始原鋼剣』の剣幅はファンメイの体の幅を越えているため、完全に突き通されれば上半身と下半身が泣き別れに なる。

そのための”ずらし”だ。

鳩尾より上の体組織がすべり、脇腹へと結合する。

これにてファンメイの体は客観的に右へスライドしたことになる。

同時に、着弾。

……これなら!

正中線はさっきので外した。

『始原鋼剣』はファンメイの左半身を抉るような軌跡で突き刺さってきている。

イグジストの体は真正面。

ファンメイは”ずらし”た分の組織を強引に右腕へと集め、黒爪を形成。

いくら騎士とて避けることのできぬ絶妙のカウンターでそれをイグジストの手足へと打ち放ち――――――
























―――――――信じがたい衝撃が、体全体をうちのめした。

























「かッ―――――――――!?」

体が弓なりに反り返る。

口から漏れたのは自分のものとは思えない呼気。

全身に稲妻が走ったよう。

あるいは溶鉱炉に突き落とされたよう。

爪の先から髪の毛まで、全身をくまなく駆け回った衝撃は意識を容赦なくかき回す。

感覚の失せた体に力が通るはずも無く、ファンメイは膝から崩れ落ちた。

背中に生やした黒の水の翼が結合を失って解け崩れ、体を濡らしてゆく。



「いかな『龍使い』と言えども、『水神』には抗えぬ」



ぶん、と騎士剣を再び正眼に構え、イグジストが告げる。

「『水神』とは超振動を用いて分子及び原子配列そのものに衝撃を与えるデバイスだ。黒の水がどれだけ傷を癒そ うと、その結合そのものを原子レベルで乱されてはひとたまりもあるまい」

「―――――――――」

声が出ない。

I−ブレインに命令を送っても、黒の水が答えない。

原子配列そのものがぐちゃぐちゃに乱された。

否、それ以前に、I−ブレインまでもが衝撃に揺れている。

立ち上がれない。

できることは結合を失った黒の水溜りの中でかすかに喘ぐことだけ。



「久しぶりに楽しい時間であった。感謝する」



影が落ちる。

『水神』を解除され、再び鉄塊と化した『始原鋼剣』が振り上げられた。

一瞬でI−ブレインごと唐竹割りにされるだろう。



どくん、と体の奥底でなにかが蠢いた。



それは恐怖か、はてまた別のなにかか。

「できれば次の機会を望みたいところだが、そうもいかん。―――許せ」

かち落とされる絶殺の刃。

…………い、や……!

体をよじろうとするもぴくりとも動かない。

あきらめないって言ったはずなのに。

ぜったいにあきらめないと誓ったはずなのに。

最後の最後まで、絶対に希望を捨てないと、あのときに誓ったはずなのに。

……動いてよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!

I−ブレインをぶん殴るような一喝はしかし、悲しいかな。

わずかに手を握り締めるだけの動きに終わった。

「ぁ―――――――――」

体は動かず、故に絶殺。

それでもあきらめたくないと、ファンメイはかろうじて動いた手で指輪を本能的に握り締め、





















「―――――――――その意気だ。メイ」




















あえて形容するなら蟹のような黒い爪・・・・・・・・・・・・・・・・・が、絶殺の刃を横合いから殴りつけ、その軌道を逸らしていた。

「ぇ――――――え?」

耳を疑う。

目を疑う。

自分のありとあらゆる感覚器官が壊れたかと思った。

だって、だって、今、目の前にいるのは――――――
















「シャ、オ…………?」

「がんばったな、メイ」
















あの『島』で死んだはずの、レイ・シャオロンその人なのだから。
























 ATOGAKI

「……………………」

リューネ 「……………………」

ミーナ 「……………………」

ウィズダム 「……………………」

リューネ 「…………ほら、あとがきあとがき」

「っお、悪い悪い。……この空気が」

ウィズダム 「手前で蒔いた種だろーがよ。しっかり刈り取れ」

「んなこと言ってもなぁ……事実もうオンに俺は限りなく顔は出せないわけで」

ウィズダム 「手前のブログのゲームにはちゃっかり顔出したじゃねぇか」

「あーれーはー引継ぎが不安だったからー! つーかここでその話はすんな。身内ネタやけん」

ミーナ 「どうでもいいですが解説に参りましょう」

リューネ 「ん。今回はイグのすけとファンメイのバトルだね♪」

「……ごめん。そのあだ名はホントやめて。笑い死ぬ」

ウィズダム 「アルで十分だろに」

ミーナ 「ガルとかぶりますからね。おっとっと、また話が逸れるところでした」

「……アンタはちゃんと話し戻してくれるからいいなぁ……」

リューネ 「逆説。つまり?」

「言わない言わない聞こえない……ッ」

ウィズダム 「ともあれ次章は18章、『鉄の戦場』だ」

「早いッ!? なにいきなり前振りナシにまとめてんのアンタ!?」

ウィズダム 「時間ねーんだろ?」

「そうだけど待て。シャオが出てきた理由とかここで少しくら」

リューネ 「次は錬とフィアVSセロの話だよ。お楽しみにっ♪」

「強引すぎるわ――――ッ!」

ミーナ 「やれやれ、です」














本文完成:2007年6月18日 HTML化完成:6月18日


SPECIAL THANKS!


ジブリール




written by レクイエム




                                            








                                                                                ”Life goes on”それでも生きなければ...