――「思惑」――









「〜っ!」
至近距離で起こった大爆発により、辺りの気圧が急激に変化、冷たい風が中心に吹き込み、体温を急速に奪ってゆく。
「か、は・・・あ」
それ以前に、息が出来ない。激痛がはしり、肺の筋肉が動かせないこともあるが。
巨大な炎球が発生したせいで大量の酸素が消費され、呼吸にまわすだけの酸素濃度が無い。
(情報制御を感知)
「がぁっ!っはぁっ!」
急に酸素濃度が元に戻った。
貪るように空気を嚥下する。
I-ブレインだろうと、酸素を取り込み、その熱量で思考する部分を働かせなければ無用の長物だ。
・・・今のは、危なかった。
低酸素症状と、辺りの大気が逃げ去った為、体温が下がり、軽い低血糖を起こしかけている体にI-ブレインの走査をかけ、通常の体調へと戻す。
・・・問題は、これかな。
爆発の時に何か破片が刺さったのか、左肩から鮮血が溢れ出している。
「・・・っ!」
軽く動かすだけで相当の痛みがはしる。
(痛覚遮断)
「皆・・・大丈夫?」
何とかして痛みを数値データに変換。
揺れそうになる体を鼓舞して立ち上がる。
先ずその声に答えるのはフィア。
「なんとか・・・。」
咄嗟に天使の翼を展開し、周囲の酸素濃度を元に戻したのはこの子だ。
だが、身に負担がかかっている時点で無理に使用した為、今、フィアの脳内にはエラーのパルスが駆け巡っている。
喘ぎ喘ぎ答えるその姿を錬は痛ましく思う。
これといった怪我が無い事が幸いだった。
「っ・・・やられたな。」
次に身を起こしたのは祐一。
咄嗟に防御はしたようだが、それでも左の二の腕に酷い火傷を負っている。
「まさか・・・自爆とは・・・」
一番至近距離に居たディーはもっと酷い。咄嗟にセラを庇ったためもあるが、
右半身は爆風とそれに乗って飛来した瓦礫の直撃を受け、鮮血を撒き散らし、鎖骨に罅が入っている。
泣き出しそうな眼で見ているセラの頭を安心させるように撫で、苦鳴を押し殺して答えた。
たった一発。
それだけでかなりのダメージを負ってしまった。
「・・・フィア、みんなの治療を、お願い。」
この中で治療の能力をもっているのは、フィアだけだ。
天使の少女はこくりと頷き、羽を振るわせようと――

「ひゃはははっ!おいおい一人目にしてもうやばいんじゃねぇのか?」

――見越したようにウィズダムの声が響いた。
「さぁ、回復の暇なんぞ与えねぇぞ?続いて二人目!ここからが真打だ。・・・出て来い!『ゼウス』!」
「な・・・!」
まずい!早すぎる!
「これが、狙いか!」
だらりと左腕を垂らした祐一が、右腕一本で『紅蓮』を構える。
「少ない労力で最大の利益を・・・か。」
最低だが、最高の発想だ。
たった一回の攻撃でこちらはこのありさまなのだから、な。
数秒も時間を与えてくれず、目の前の空間が歪み始めた。
「くっ・・・フィア!とにかくすこしでも治療を!ディーさんから!」
「は、はいっ。」
先ずは一番怪我の酷いディーから随時治療していかねばならない。
だが、それでも時間が足りない。
(大規模情報制御を感知)
「来るぞっ!」
I-ブレインのメッセージと同時に祐一が叫ぶ。
歪み、捻れた空間から手が突き出され・・・
「っ!」
真紅の閃光が目の前を踊った。
凄まじい熱量が圧倒的な勢いの奔流と化して切迫する。
(「分子運動制御」 常駐 エントロピー制御 『氷盾』 展開)
咄嗟に飛びのいた錬は反射的に『分子運動制御』マクスウェルを起動。『氷盾』を複数精製してその熱波にぶつける。
同じく大きく跳躍してかわした祐一が錬の横に降り立ち、忌々しげに告げた。
「『炎使い』か・・・厄介な。」
「・・・これも、計算のうちかな。」
『分子運動制御特化魔法士』、炎使い。
錬で言う「マクスウェル」の力に特化したエキスパートだ。
普段の状態ならばいいのだが・・・
今、この状況でこの類の敵が出てくるのはまずかった。
『広範囲に攻撃可能な』能力を持つ、敵が。
近接攻撃を主とするならば敵ならば、一対一に持ち込めば他の仲間の手が空き、その間に治療が可能となる。
だが、広範囲に攻撃が可能な場合、全員が等しく戦わなければならない。
フィアの能力は集中が命、守りながら戦ったのでは効率的な効果は生まれない。
かといって防御もなしに治療に専念するのでは格好の的となる。
さらに、皆の怪我は命にこそ別状ないが、戦闘するにあたっては多大な障害となってしまう。
・・・八方塞がりだ。
だが、敵は待ってくれない。
炎が視界を真っ赤に彩る。
慌てて錬はとんぼをきって回避した。
見ればフィアやディーも泡を食って飛びのいている。
痛覚処理はしてあるようだが、それでもかなりの怪我人なディーの顔が苦痛に歪んでいる。
と、
光芒が一筋、報復の攻撃として放たれた。
荷電粒子砲の一撃。
だが、それは陽炎と化した周りの水蒸気の中で乱反射し、敵の皮膚一つ焦がすことなく途絶えた。
・・・隙が無い。
まさか光速で飛ぶD3の攻撃にすらあらかじめ防壁を定めているとは。
先ほどから錬は何度も接近戦を試みているが、近づくその度に機銃掃射のような氷弾と嵐のような炎に阻まれ、それを成せないでいる。『自己領域』なら可能かもしれないが、そろそろこのナイフ、連続使用が極まってきている。もともと何が起きるかわからないものなのに今日はもうぶっ続けで三連戦も起動していた。
・・・危なさそうだしね・・・月姉のあの自身じゃぁ。
しかし、手が無い事には変わりない。
・・・さぁて、いよいよどうしようか。
攻めあぐねを極まり、そろそろ攻撃のネタも尽きてきた。
ディーが復活すれば祐一と二人で自己領域を展開してもらって攻撃すればよいのだが、今、祐一一人での攻撃は流石にかわされつつある。
『自己領域』から攻撃に移るまでのタイムラグ。
そこに狙いを定めず、祐一が『自己領域』を纏って消えたと感知した瞬間から敵は自分を中心として全方向に攻撃を発している。無差別攻撃もいいところだ。
だが、それはとても有効な戦術でもある。
いちいち敵の出現場所の知覚に演算を割り当てなくていいのだ。唯ひたすら闇雲に打ち続けるだけで。
今もまた、背後に出現した祐一が前方向隙間無く襲ってくる氷の弾丸を舌打ちしながら打ち落とし、後退を余儀なくされていた。
その間にも、こちらへの攻撃は怠らない。
再び飛来した炎の嵐に『氷盾』をぶつけて相殺、再び距離をとらされる。
(I-ブレインの疲労蓄積、現在12%)
・・・長引くと、こっちも危ないし。
炎使いの放つ攻撃は手数が多く、一つ一つかわすためには互いの時間差などを計算せねばならないことが多い。
近接接近戦専門の騎士、もしくは知覚能力に優れた光使いならばまだましだろうが、
どっちつかずの錬にとっては割合負担が大きい。
何とかこの波状攻撃を止めなければ成らない。
フィアの同調能力を使って相手を強制停止させることも考えたのだが、先ほどのように自爆されたら大変な事になってしまう。人が一人死ぬほどの損傷。その痛みはまさしくフィアにとっても命取りになってしまうだろう。故に、この場で一番強力な力である、同調能力は使うことができない。
となると、やはり自分が『自己領域』を使って・・・
「・・・大丈夫かな、これ。」
いまいち姉への不安を隠せない錬だった。
だが、そのとき、決断を余儀なくされる言葉が響き渡った。

「――おぉっと、言い忘れた。実はこのゲーム、時間制限がある。」

「何だと!?」
『紅蓮』を大きく振りぬき、炎を吹き散らした祐一がどこからか聞こえてきたその声に怒鳴る。

「――ちなみに一試合は15分だ。・・・今は11分経過してんな。後4分、せいぜい足掻いてくれよ?」

それだけ言うと、ぶつっという音共に声は途絶えた。
まったく、とことん事態を悪化させることが好きな奴だ。
「・・・迷ってる暇なんか、なさそうだね。」
ここは姉の技術を信用するしかない。
大丈夫、あれほどの技術をもつ一流のエンジニアである月姉なら、月姉なら・・・”月姉だから”
「・・・・・・・・・怖。」
・・・仕方ない!

世界面変換デーモンサイバーグ 常駐 『自己領域』展開)

こうなりゃヤケだと腹を括る。
「行くぞ!」
同じく『自己領域』を展開した祐一が横に並んだ。
半拍ずつタイミングをずらしての攻撃、それならば相手も余裕がなくなるだろう。
無論、これで仕留めれるとは思っていない。その間にディーさえ回復できればいいのだ。
肉薄する二人に、領域内に飛び込んできた氷弾と炎柱が襲い掛かるが、それは騎士剣とナイフの一閃によって吹き散らされ、または、弾き飛ばされる。
互いに頷きあい、左右両側からはさむように接近、先ずは錬が『自己領域』を解除する。
たちまち無差別攻撃がその小柄な体躯に襲い掛かるが最早これは予想済み、
(空間曲率制御 常駐)
自分の前に空間のレンズを作り出し、大質量のもたらす作用の要領で攻撃を受け流す。
そしてその間に今度は祐一が自己領域を解除。身体能力制御を起動せんと肉薄した。
こちらをより精密に狙おうとしていた相手の顔に焦燥が浮かぶ。
・・・もう、遅いね。
祐一への攻撃はここから自分が遮断する。
次の瞬間、
タイムラグを引き伸ばされる事なく身体能力制御を起動した祐一の騎士剣が踊った。
敵が手足から、胴体から、鮮血を吹き散らして倒れ伏す。
命にこそ別状はなさそうだが、確実に再起不能だろう。
「・・・ふぅっ。」
・・・二人。
切羽詰った状況だったため、安心の一息をつく。
だが、次の瞬間、鈍い音が響いた。
びきり
と。
「・・・え?」
恐る恐る、自分の手が握っているもの、それを見る。
しっかと握り締められた部分が開かれ、塚に象眼された紫の宝玉は・・・
「・・・あっちゃぁ・・・」
ものの見事に、罅が入っていた。
縦一直線にはしったその亀裂は、浅いものの少し衝撃を与えられれば砕け散ってしまう事を如実に示している。
・・・これでもう、『自己領域』は使えない・・・か。
使えてもせいぜい後一回。
それも途中で強制終了されてしまうぐらいだろう。
しかもI-ブレインの疲労蓄積もあり、戦力の低下は否めないが・・・それより
・・・月姉・・・怒るかなぁ・・・
そっちの方に恐怖している錬だった。
「錬さん?治療は一応できましたけど。」
フィアがひょっこりと顔を出す。
「お手数掛けました」
と、続いてディー。
こちらはまだ軽く腕を抑えている。


「ん〜?なかなかやるな。こりゃあんたらの評価を改める必要があるねぃ。」

再びウィズダムの声。
それにしても一体どこから音源を出しているのだろう。
ここらにはそれといった設備はおろか音響機器もあるわけがないのだが。

「さて、お次だ。・・・といっても最後か。」

もう仲間が二分の一になったというのに、その声に何の動揺も見出す事は出来ない。

「三人目、こいつは強敵だぞ?・・・さぁ行け、『ヴォータン』」

(大規模情報制御を感知)

・・・速い!?
ウィズダムの言葉が霧散して消えるか消えないかといううちに、もうI-ブレインに危険信号がはしる。
さきほどの『炎使い』との対戦で酷使されたI-ブレインのせいか、疲労が溜まってきている。
段々と、精度が落ちてきているのかもしれない。
そう思ったのもつかの間、視界に銀色の閃光が踊る。
慌てて横に飛んでかわしたものの、前髪が数本切断され、空に舞った。
この、常人の数十倍の加速能力。
「今度は『騎士』か!」
接近戦闘のエキスパート。
遠距離型魔法士の天敵ともいえる、騎士。
その加速能力は常人の50倍をこえ、繰り出される騎士剣の斬撃には何者も抗することはできない。
「下がっていろ!錬!」
祐一の声が飛ぶ。
錬は素直にそれに従い、ラグランジュを起動させて一気に撤退した。
『騎士』には『騎士』。
それが魔法士戦闘の鉄則の一つだ。
厳密に言えば自分にも騎士の能力はあるのだが、所詮それは劣化コピー。
本家本元と真っ向勝負して敵うわけが無い。
錬は祐一達に戦闘を任せ、その間、自分はフィアとセラの身を守る作戦に出るつもりなのだ。
それは当然、祐一もわかっていること。
見向きもせず、『紅蓮』を構えた。
「行くぞ。」
告げた横に降り立ち、双剣を構えるのはディー。
「はい。」
言葉少なくディーも答え、I-ブレインを全力で起動させた。
二人同時に『自己領域』を展開。
物理法則から逸脱し、目には見えない速さで移動していた『敵』の姿をここでようやく視認する。
やはりといおうか、同じく『自己領域』を起動している相手の手にあるものは、騎士剣。
・・・やはり、騎士か。
騎士剣というデバイスを使用して攻撃を行う、ごく一般的な騎士・・・なのだが、祐一の目線は別のものに注がれていた。
「・・・・・・」
『ヴォータン』が無言で剣を・・・否、”刀”を構える。
・・・そう、この敵が持っている騎士剣は、”剣”ではなく、反りの入った”刀”なのである。
日本でいう古来伝わる日本刀の形をした、刃渡り80cm程度の刀。
乱れ波紋の銀色の刀身が光を反射し、鈍い輝きを放っている。
「始めてみる騎士剣だな・・・」
過去十数年、戦場を駆け巡り、多くの騎士を葬り去ってきた祐一でも、こんなタイプの騎士剣は見たことが無いようだ。
それもそのはず、騎士剣とは、刀身に論理回路を刻み込み、外部デバイスとして使用するもの。
そのため、刻み込みやすい平坦で直線的な西洋剣風にカスタマイズされ、そのために『騎士剣』と呼ばれているのだ。
つまり、こんな日本刀のような反りを持った形は刻み込む手間こそかかれ、なんのメリットもない。
加えて、両刃作りでもない限り、斬撃の際に殺傷力をもつのは片面だけになってしまう。多大な選択肢が求められる騎士の接近戦等において、自ら選択肢を削るなどと愚かとしかいいようがないのだ。
・・・なんのつもりだ?
いまいち相手の真意が汲み取れない。
・・・だが、それでいても今は時間を食うべきではないのだ。
「・・・速攻で、カタをつけるぞ。」
目を細め、ディーに言う。
「判りました。」
同じく腑に落ちない表情をしていたディーだが、その言葉に答え、しっかと両手の騎士剣を握り締めた。
一気に、動きが生じる。
通常の人間の眼で見たならば、ただ何も無い空間から鋼色の音が断続的に響いてくるようにしか見えないだろう。
自己領域、身体能力制御を並立起動したディーと、『紅蓮』と絶対同調した祐一。
総計三本の騎士剣が血肉を求めて乱舞する。
・・・だが、
(危険 回避不能 防御可能)
・・・っ!
鈍い音と共に双剣が刀の一撃を受け止める。
火花と共にディーの足元に亀裂が入り、その体躯が地に沈んだ。
(右腕の運動を55に再設定)
とどめとばかりに叩き込まれた続きの攻撃を何とか受け止める。
(情報解体、発動)
返す刀で”地面”を情報解体。
相手の足場が一瞬で原子レベルまで分解され、引きずり込むように体勢を崩させる。
その一瞬の隙に足を引き抜いて相手の射程から離脱、荒い息と共に着地する。
・・・まだ、ふんぎりが弱いのか。
ぎり、と歯を噛み締める。
今は前の敵を倒すことのみしか考えてはいけない。
余計な感情など、真剣勝負には全く役に立たないものだ。

(並列処理を開始。『自己領域』展開。「身体能力制御」起動)

飛来する銀光を片っ端から打ち落とす。
相手と同時に『自己領域』を解除。
すぐさま追撃に移る。
・・・でも、こっちの方が速い!
身体能力制御を並立起動している分、切り替えしはこちらに部がある。
身を捻って溜めていた力を解放。
煌く二つの騎士剣が無防備な相手の背中を襲う。
この体勢からでは到底避けれない絶妙の攻撃だったが・・・
相手はディーの考えを超えたやり方でそれを避けた。
「・・・・・・」
無言で反り身の騎士剣を抜き放った。
世界に祈り、情報解体が発動する。
対象は・・・”空気”。
音速を遥かに超える速度で放たれた斬撃は、その斜線にある空気を残らず情報解体。
即ち、真空の断裂が生まれる事になる。
そしてその空いた空間を埋めるべく、外からの空気が流れ込む。
ディーの右脇に空いたその空間に局地的な”かまいたち”が荒れ狂った。
そこは剣を振り払う動作がもっとも大きくなる場所。
脇に食らった真空の刃によって右手のバランスが崩れる。
そして、相手にとってはその一瞬の隙で十分だった。
そのまま騎士剣を旋回させ、体ごと一回転させるように斬撃をディーに見舞う。
十分な初速を持って放たれたそれは、当然残った左腕でガードせざるを得ない。
歯を食いしばって受け止める。
――金属音の重奏
ぃぃん、と耳に残る残響を響かせて火花が散った。
続けざまに切りつけようとしたヴォータンの目がはっと見開かれ、後ろに跳ぶ。
半拍遅れて先ほど体があった位置――より具体的に言うなら首――に赤光が一閃。
舌打ちを漏らして祐一が紅蓮を構えなおす。
「速いな・・・」
端正な口がぼそりと賞賛を漏らした。
推算で相手の加速度は約40倍。速くもないが遅くもないレベル。しかし、反応が早い。
知覚速度はおそらく祐一と同等もしくはそれ以上だろう。
そして、先ほどの攻防でわかった彼の能力。


「・・・『情報解体』に特化した騎士、か。」


その言葉にヴォータンがぴく、と反応する。
『騎士』を近接接近戦闘の最強たらしめている二つの要因。『身体能力制御』と『情報解体』。
そこから片方の能力を削ってでも割り振り、さらなる特化を果たした新しい『騎士』。
それがこのヴォータンだった。
だとすれば、この奇妙な片刃の日本刀のような騎士剣にも納得がいく。
古来、日本刀とは西洋剣とは異なり、唯ひたすら『斬る』ことだけを追求してきた。無論、『突き』にも拘った部類も存在するが、剣よりも斬ることを重視した『刀』として名を連ねてきている方がより多い。
ヴォータンの刀は、とにかく”薄い”。単分子程度の厚みしかない、世界で最も鋭利な刃だ。
それがゆえに、斬撃、打撃の際に刃がより深くまで”食い込む”ことができる。
それすなわち、”外部と内部の両方から情報解体をしかける”ということ。
『論理回路で形成された刃』。祐一の『紅蓮』や、ディーの『陰陽』などの、刀身に論理回路を刻み込んだものとは一線を画す新たな騎士剣。
祐一たちが騎士剣を『斬る』と『情報解体』の二つの用途で使い分けているのに対し、ヴォータンの刀は、
『情報解体をしながら斬る』のだ。
単分子の厚みしか持たない、しかし、そこに原子単位で論理回路を刻み込まれた剣。
そこの部分だけにI−ブレインの情報解体演算を集中させることによって莫大な効果を生む、この剣こそが、
ヴォータンの究極の武器だった。
先ほど空気分子を情報解体したのだから、その威力のほどは押してしかるべき。


その”刀”を振り上げてヴォータンが跳んだ。
呼応するようにディーが迎え撃つ。
上段からの振り下ろしと、下段からの切り上げ二本が総計三本の閃光となって大気を裂き・・・
・・・な!?
衝撃に備えたディーの顔が驚愕に歪む。
ヴォータンはディーの攻撃を”受け止めなかった。”
振り下ろしかけた刀の運動をやめ、先に飛来した『陰』の斬撃を”足で”止めた。
ごつい安全靴のような足甲がはじけ飛ぶ。
そして、それを足場にしてヴォータンは跳んだ。
縋るように追った『陽』の剣閃を足元にやり過ごし、『自己領域』を発動。
物理法則の呪縛から抜け出し、世界に溶ける。
それを見て祐一が跳んだ。
舌打ちを漏らしながらこちらも『自己領域』を展開。揺らぎと共に掻き消える。
ここで、ディーは遅ればせながら敵が戦法を変えた事に気がついた。

(『自己領域』展開)

一拍遅れて自己領域を展開、引き伸ばされた通常の時間の中、それを見た。
標的を、変えたのか!
・・・無表情に刀を振りかざし、通常の時間帯にいるセラに踊りかかるヴォータンの姿があった。

















   コメント

ちっとハイペースハイテンポで戦闘中ー。
あんま前座でだらだらやるってのもなんなので軽い簡略化をば。
次でこの三人は終わってウィズダム君を出せるかね?というとこですか。
なかなか思うように進むことはできんものですねぇ。遅いぞラスボス。
なんてーか今の気分は

『後ろに向かって前進だ、ただしムーンウォーク』、にして、
『密室殺人即座に解決、ただし犯人現行犯』、かつ、
『百万ドルの笑顔、ただしマクドナルド』、みたいな?(元ネタ分かる人はいるんだろうか)

・・・・・・くだらんコメントで申し訳ない。