■■先行者様■■

もうひとりの最高傑作


それを最初にみつけたのは、隊商のキャラバンを率いるヴィドだった。

「ちっ!まいったな・・・」
方向指示器が故障したため、いつもは通りもしないルートへ進んでしまった。荒れ狂う吹雪の中、地球の環境変化によって崖だらけになってしまった
最悪の土地に。
「全員いるな!?」
「ういーっす」
たより気のかけらもない仲間たちの声。今のところは、誰も死んではいないようだ。だが、それも時間の問題だろう。
「くそっ!あの子らの町まではあと少しなのに・・・!!」
何度目かの悪態をつく。天樹家の面々が脳裏によぎった。6ヶ月前に、錬ちゃんの彼女も増えた。その子を引き取ってから、弥生はよく笑うようになった。
やっと、何もかもが幸せになってきたのに。
「俺だけ、お空から見守る羽目になろうとはな・・・」
覚悟を決めようとした、その時。
「旦那ー!!ヴィドの旦那ー!!」
「たいしょー!!前!前を見てください!建物!建物です!!」
ヴィドは、一瞬それが幻聴かと想った。だが、様子が違う。
勢いよくドアを開けて飛び出し、前方に目を凝らした。確かに、研究施設のような、雪に埋もれた建造物が見えた。
「大将、迷ってる暇はねえ。早くしないと死人が出ちまう」
「おう、わかってる。おい!全員あそこを目指して進め!!へましてスリップなんかすんじゃねえぞ!!」
「ういーっす!フィアちゃん待っててねー!!(?)」 なぜ、こんな未開の土地に?
疑問は残ったが、まずは、仲間を休めることが優先だ。
ヴィド達を乗せた大型フライヤーは、雪を踏みしめながら、吹雪の中を進んでいった・・・

建物は、忘れ去られてからだいぶたつようだった。しかし、機能していた頃はかなりの機能を有していたらしく、吹雪をしのげるどころか、方向指示器の修理も
できそうだった。至れり尽くせりとはこのことだ。
しかし、ヴィドには、この施設に先程とは違う疑問を感じていた。
「?・・・どうかしたんすか?大将」
「いや・・・。お前、この建物前に見た気がしないか?」
「じょ、冗談じゃないっすよ!こんなとこ来ませんって!!」
「そうだよなぁ・・・・・・あ!?」
「うわっ!?な、なんすか!?」
ヴィドは、驚く部下には目もくれず、一目散に奥の方へと走り抜けた。

そうだ!!一年ほど前に、天樹家の双子に案内してもらった・・・・!!

日本語で「研究室」と書かれたプレートの貼ってある部屋を捜す。予想どうり、廊下の一番奥にあった。中途半端に開いている扉をおもいきり開けて、部屋に入る。
「うわっ!!」
試験管やディスクが荒らされたように散らばった、だだっ広い部屋の中央に、巨大な地下室への通路が、ぽっかりと口を開けていた。
ヴィドが、意を決して、階段を降りる。
その後ろから、ヴィドを不審に思った仲間が数名追い駆けてきた。
「わっ!な、なんだ!?この穴は!?」
「あっ!?ちょ、ちょっと!大将!?あぶないっすよ!何があるかわからないのに!!」
その声を無視して、ヴィドはゆっくりと階段を降りていった。

「・・・?」
取り残されたものたちは、互いの顔を見合わせながらも、世話になったヴィドを見捨てることなどできず、ゴクリと喉を鳴らして暗闇の中へと進んでいった。
ヴィドは、すぐに見つかった。
一直線の通路を進んだ突き当りの部屋に、ボーッと立っていた。そのヴィドの前には、ガラスがことごとく砕けた培養槽が一つ。
「た、大将?大丈夫ですか?」
「お前ら、これがなんだかわかるか?」
質問に答えず、ヴィドが問うた。機器に詳しい一人が答える。
「培養槽・・・ですね、魔法士の」
次の瞬間、ヴィドの口から、信じられない言葉が発せられた。
「そうだ・・・。錬ちゃんの、な」

「・・・・・は?」 「な、何いってるんすか?大将。錬ちゃんの生まれた研究所は、神戸シティの中じゃないっすか?」
 確かに、錬の生まれた「天樹第三情報研究所」は、元シティ神戸の内部にあった。現在は、その原型すら留めてはいないだろう。
「そうだ、そのはずだ。だが、ここは確かに天樹研究所だ」
ヴィドが、静かに言った。全員が呆然とする中、彼は続ける。
「俺はあの双子から見せてもらったことがある。ここと同じ構造で、同じ場所に研究室、同じ場所に地下室があった。そして、この培養槽。
間違いない。それに・・・見てみろ」
ヴィドが指を指した物は、部屋の一角の小さなアルミ製の机だった。その上には、埃をめいっぱいにかぶったディスクと端末。そして写真立て。
「あ・・・天樹博士・・・?」
その埃の積もった写真には、まだ健在だった頃の天樹博士が、この培養槽を背に写っていた。
「わけわかんないっすよ!いったいどういうことなんすか!?」
あまりの異常さに、我慢できなくなったのか、一人が叫んだ。
 なぜ、こんな危険な場所に? なぜ、シティからこれほど離れた場所に? この培養槽の中にはいったいどんな魔法士が? 天樹博士はいったいどんな研究を?
疑問は山というほどあった。
「・・・まずは、町にたどり着くことを優先しよう。」
  ヴィドは、叫んだ男の肩に手を置いて言った。
「あとで、錬ちゃんたちに知らせよう。話はそれからだ」

翌日、ヴィド達はできうる限りの調査をして、研究所を後にした。
「・・・とんでもねえのを見つけちまったなあ・・・」

彼らがそれに気が付かなかったのも無理はないだろう
地下研究室はとてもくらかったし、彼らは皆疲労していたのだから。

だから、錬の培養槽に書かれた形式番号がEVE-01に対して、その培養槽にはEVE-00『零』と書いてあったことに気が付かなかったのも無理はない

 



<作者様コメント>
あああ〜〜〜(泣)つくづく自分には文才がないと実感いたします・・・!
「わけわかんねえよ!!」とかいわれる方は結構多いと思います。
私は紙にしか小説を書いたことがないので、
なんか緊張してしまって・・・←言い訳
え〜・・・ネタバレっぽいですが、一応説明しときま〜す。
オリキャラは、錬の双子のようなものです。
名前はそのまんまで、『零』です。
錬より2センチ高くて、顔はそっくり。性格は、錬と正反対!
能力も正反対で、錬が『万能タイプ』なら、零は『超特化タイプ』
ひたすら騎士の能力を特化させたもので、
騎士を生み出した天樹博士のもうひとつの最高傑作・・・といった感じ。
のんびり続きを書いていきます。期待なさらずに・・・(大マジで)

<作者様サイト>
なし

◆とじる◆