■■先行者様■■

もうひとりの最高傑作U


少女は夢を見ていた。「出会い」の夢を。

『お前、なんの役にも立たないだろう?だったら、せめて俺達の疲れを癒してくれたっていいよなぁ?』
へへっ、と男の一人が嫌な笑い方をした。その男の手には、少女の服の一部だった布切れが握られている。
『そうそう、減るもんじゃないしな?』
それを聞いた男達が一様に笑った。
ここに私の仲間になってくれる人間はいない。そんなことはとうの昔、培養槽にいた時からわかっている。でも、いざその時となると、悲しくなるものだ。
たしかに<炎使い>の私はとても弱くて、ろくな戦力にならない落ちこぼれだった。だからといって、彼らに身体を売ってまで生き延びたいとは思わない!。

誰でもいい!悪魔でもかまわない!私を助けてくれるのならば、私はそいつに仕えよう!だから!!

一人の男が彼女に一歩詰め寄った。そいつを涙ぐんだ瞳で激しく睨み付ける。途端に男の顔が歪み、その態度が気にくわなかったことを少女に告げた。
男が手を振り上げるのが見えた。頬に熱い痛みが走り、身体が後方へ倒れる。

だから、私を助けて・・・・・!!

結果的に、倒れたことが彼女の命を救うこととなった。
地面に強く頭を打ち付け、少女が気を失う瞬間、男達の身体が横一線に切断されるのが見えた気がした。



気が付くと、シティ外警戒軍駐屯地だった場所は、所々に炎が燃え盛り、まるで戦地の真っ只中にいるような錯覚をさせた。
『敵襲?』
立ち上がろうとして、何かが自分の上に乗っていることにきずいた。上半身だけになった先程の男性兵士の死体だった。二分の一にまで軽くなった彼を乱暴に押し退けて、
ふらつきながらもゆっくりと立ち上がる。


いつのまにか、正面5メートルほど向こうに人がいて、こちらを見つめていた。


暗くて顔は見えないが、黒髪に黒い瞳をして、黒いライダースーツのような服を着ているようだった。背丈からして、自分とそれほど変わらない少年だろう。腰の後ろには幅が
騎士剣の半分もない、棒のような何か。
辺りには生きている者の気配はない。すぐに、この少年がやったんだ、と気付いた。
『お前は? 兵士か?』
不意に少年が口を開いた。少しの温度もこもっていない、ハスキーなアルトが響く。兵士と答えれば殺される。直感がそう告げた。
『私は・・・』
真っ暗闇の中、かすかな炎に照らされたこの場所は、なにか儀式場のように思えた。
そう、悪魔との契約をするような儀式を・・・・・・
『私は、ナナ=スヴェロフスキー。私を連れて行って。私はあなたに仕える』
強い決意の言葉だった。少年は数秒黙り、返答した。


そこでやっと目が覚めた。


「ん・・・」
上半身だけで起き上がる。ギシ、と古いベッドが軋む音がした。
「・・・起きたか」
唐突に、隣から声がかけられた。そちらへ首を向けると、黒髪黒目黒服の少年と目があった。
「夢を見ました。あなたと初めて会った時の夢を」
「ほう。それで?どうだった?」
少女、ナナは、満面の笑みで答えた。
「零は、やっぱり最高にかっこいいです!!」
少年が呆気にとられる様子を見て、ナナはクスクスとおもしろそうに笑った。





時同じく、日本・天樹家
「『EVE-00』、ねえ。そいつは気が付かなかった」
そう言って、ヴィドが熱いコーヒーを一気に飲み干した。少し咳き込んで、
「ゴホッ・・・で、解析は済んだのかい?」
「ううん。まだみたいだけど・・・」
錬が答える。その顔には、驚愕の色がはっきりと見て取れた。
二日前、ヴィドは天樹家に駆け込み、事の真相を話した。錬たちは最初、何らかの冗談だと思っていたが普通ではないヴィドの様子で信じてくれた。
そして、今、回収したデータディスクなどを月夜と真昼が必死になって解析している。
「さっっっぱり!わけがわからないわ!」
「まったくだよ。」
「あ、どうでしたか!?月夜さん、真昼さん。何かわかりましたか?」
それぞれの部屋からまったく同時に出てきた二人に、フィアが興奮した様子で聞いた。
「ええ、わかったわよ。いろいろとね。みんな、これを見て。・・・あ、私が先でいいわよね?真昼?」
真昼が、手で「お先にどうぞ」の合図をした。月夜がテーブルに端末とディスクを置く。
「私が解析したのはこのディスク。これには、多分に騎士剣の情報が入ってたわ。」
「多分?どういうこと?」
錬が眉を寄せて聞く。途端に、月夜の顔が不機嫌そうに歪んだ。
「形状の情報がまったくごっそり完璧に抜けてんのよ!ったく、このオンボロディスクは!!」
「どうどう。いいから、続けて?」
真昼がなんとか落ち着かせた。
「あたしは馬か!?・・・ま、いいわ。でね、続きなんだけど、この騎士剣ね、」
全員が食い入るように月夜を見る。
「最悪だわ」
「・・・・え?」
フィアが呆けたような声を出した。
「・・・具体的に言うと、どんなふうに?」
ヴィドが問う。
「いい?説明するわね?この剣は、情報解体の為の容量を最低限に抑えられてるの。で、余った容量は、全て身体能力増強と自己領域展開にまわされてる」
「え、でもそんなんじゃ闘えないんじゃ・・・」
「そ、錬の言うとうり、これでは刃の触れた部分しか情報解体できない。刃の総面積も必要最低限。だから的確な場所を攻撃しないとダメージは与えられない。こんなの使えるのは、雪姉さんか祐一ぐらいね」
「じゃあ、僕のみたくナイフ型とか?」
「それじゃあ容量と大きさの計算が合わないわ・・・。以上!はい、次は真昼」
真昼が無言でテーブルに自分の端末を置いた。
「僕は、『EVE-00』について解析した。結果的に、こいつは大きく分類すると<騎士>に入るということがわかった。」
「大きく?」
フィアが首を傾げた。
「そ。正確には、こいつは<騎士>には当てはまらない。それに、こいつは月夜の問いに完璧に答えられる能力をもっているんだ」
「へえ?どうやって使いこなしてんのか、知りたいわね」
「騎士剣なんかいらないんだよ、こいつは」
真昼が即答した。
「・・・はあ!?答えになってないわよ?」
「いいかい?よく聞いて。こいつは、騎士剣なしでも充分闘える演算速度を持っている。さらに、物理的にも特殊な技術で細胞レベルから強化されているんだ。いわゆる強化人間ってやつさ。ほら、ここを見てみて」
真昼の指が端末のコンソールの上を走った。端末に内部まで透けた人間の立体画が映し出される。
「外見は普通の人間と変わらないけど、筋繊維や内臓系が全てにおいて常人より強化されているんだ。」
「信じられないわ。・・・まるで化け物ね」
月夜が呆れたように呟いた。
「そうだね、僕も信じられない。だけど、一番信じられないのは、こいつが、おそらく錬のプロトタイプ(試作機)だってことさ」



<作者様コメント>
ずいぶん長くなってしまいました。
更新もバリバリおそいっ!!話もわかりにくいっ!!設定も適当すぎ!!
めっちゃ読みにくいだろうと思いますが、・・・お願い!我慢してっ!!!(超爆!!)
次回の舞台はシティ・ベルリンから数十キロほど離れた巨大な『町』。
危険を承知で着いて来たフィアは、<炎使い>の少女と出会うが・・・
作者はオリジナルな能力を考えることは大の苦手ですので、
敵には、<騎士>か<人形使い>か<一般兵>しか出ません。
あ。でもまだこいつがいたなぁ。
まあ、とりあえず次回までのお楽しみということで。それでわ!!!

<作者様サイト>
『なし』

◆とじる◆