■■先行者様■■

もうひとりの最高傑作W


「・・・・・・すごい」
錬が、目を丸くして呟いた。目の前には、向こうが見えないほど続く大きな通り。錬のいる町の大通りの3倍はありそうで、所々に、シティの博物館にありそうな四輪駆動車がガタガタと音を鳴らして進んでいる。
ここは、シティ・ベルリンの北方約40kmに位置する、地熱発電プラントを6年の歳月をかけて整備、改修して造られた、世界で最大規模を誇る町、『フリーダム』。
その意味の通り、この町は来る者を決して拒まない、『自由』の町だ。シティに入れなかった人々が、自分達はシティの連中とは違う、ということを表す為にそう名付けたらしい。
さすが、6年もの時間をかけたことはあって、直径1,5kmの空気をしっかりと温かく保っている。真昼から言わせると、とても大変なことらしい。
「ふわぁ・・・おおっきい所ですねぇ・・・」
フィアも大きな瞳をさらに大きくして驚いている。
二人並んで目をまんまるくして立ち尽くす様子は、月夜の、いわば『萌え』というべき感覚をおおいに刺激した。
「・・・月夜?どうしたの?しゃがみ込んで小刻みに震えて。気分でも悪いの?」
「え?あ、な、なんでもないわよ!?」
「?」

錬たちがこの町を目指し出発してから丸一日が経過した。到着したのは、ついさっき。そして現在に至る。
「さて、まずは宿を探すか」
ヴィドが提案し、真昼が、そうだね、と頷いた。
「へえ。宿なんかあんの?サービスいいじゃない?」
月夜が、何様のつもりだといった感じの褒め言葉を言った。

笑いながら去ってゆく五人のうしろを、2メートルと半ばはありそうな、茶色いレインコートのフードを深く被った大柄な男がじっと見つめていた。

「きれいなお部屋ですね」
「うん、うちの3倍はきれいだ」
「ていうか、ここ、本当に私達が借りていいの?」
錬たちは、今、ヴィドに紹介して貰った宿の部屋の前にいる。なかなか設備の整ったいい部屋で、ヴィド・真昼・錬と月夜・フィアに分かれて泊まることになったのだが、
「・・・ちょっと、せまいよ?こっち・・・」
二人なら充分泊まれるが、三人はちょっとキツイ、といった感じだ。おまけに、ヴィドは恐ろしく体格がいい。錬は、用意されたダブルベッドにヴィドと添い寝する最高に楽しくない光景を想像してしまい、思いきり顔を引きつらせた。少し涙目になっている。
「・・・失礼なヤツだな」
ヴィドが口を尖らせた。なにもかわいくなかった。
それを見た月夜が、ニヤリと笑って、
「あら?じゃあ、私と交代する?フィアと一晩二人っきりで過ごすの。どう?ちょうどダブルベッドもあるし、いっしょに寝たら?」
途端に、錬とフィアの頬が、ボッと赤くなった。
「な、なあななな!!なに言ってんだよ!月姉!!」
「っそ、そうですよ!それに、まだ心の準備が・・・」
「へっ!?」
錬が、とても間の抜けた声を出して、フィアの横顔を見た。フィアがしまった,というように口を両手で押さえて、顔を真っ赤にする。
「あっ、えと、えと、つ、月夜さんっ!!早く荷物の整理をしましょう!!」
「はいはい、わかったわよ。じゃ、また後でね」
月夜がフィアに袖を引っ張られながら、ひらひらと手を振って、部屋の中へと連れ去られていった。バタン!と大きい音をたてて、ドアが閉まる。
固まったまま廊下に立ち尽くす錬の肩に真昼が優しく手を置いた。
「真昼兄?」
「錬・・・・」
もう片方の拳を握り、親指をビシッとたてて、
「グッドラック!!」
「ええ!?ちょっと待ってよ!まだ僕らには早いと・・・!あっヴィドさんも『グッドラック』してる!!」
見ると、真昼の後ろで、ヴィドがハンカチで涙を拭きながら、親指を力強く立てていた。
「大きく、なったなあ・・・!!」
そう言って、錬の肩をバンバンと力強く叩いた。
「いたっ!痛いって!!そんなんじゃないんだってば・・・!!」
バンッ!!という音とともに、ドアがいきなり開かれた。中から、あいかわらず顔を真っ赤にしたフィアが顔を出して、
「うるさいですっ!!」
叫んだ。
「・・・はい」
男三人が素直に頷いた。すぐに、ドアが激しく閉じられる。
「・・・やれやれ、怒られちゃったね(真昼)」
「二人とも、テンション高すぎだよ・・・(錬)」
「・・・面目ない(ヴィド)」

そう言って、三人は自分達の部屋へと入って行った。

「はあ・・・はあ・・・」
フィアが、荒く息をつく。不意に、横から水のなみなみとつがれたコップが差し出された。そちらを見ると、月夜が、やれやれといった感じの顔でコップを持っていた。
ほぼ奪うようにしてそのコップを受け取り、いっきに水を飲み干した。
「・・・ぷはぁ! ありがとうございます・・・。月夜さん、からかわないでくださいよう・・・」
空になったコップを受け取りながら、月夜が、少しも悪びれた様子もなく、
「あはは、ごめんごめん。でも、二人ともからかい甲斐があるわぁ。おもしろいったらないんだから・・・」
「月夜さん!!」
「『わっフィアが怒った!』ってね。今の錬の真似」
「もう・・・!」
「・・・ねえ・・・フィア。なにを心配してるの?さっきから、なんかおかしいわよ?」
月夜が、急に静かな声になった。フィアは、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに深刻そうな顔をして、答える。
「なんだか・・・嫌な感じがするんです。もう、錬さんに会えなくなるんじゃないかって・・・気のせいだとは思うんですけど・・・」
「ああ・・・だからあんなに着いて行くって言ってたのね。大丈夫よ!確かに、錬は頼りがいがないようにみえるけど、やるときはやるんだから!だって、私の弟なのよ?」
「・・・そうですよね。錬さんは、強いんですものね」
「そうそう!さ!荷物まとめて、EVE−00捜すわよ!!」
「はい!!」

その時誰が、フィアの予感が当たっているとわかっただろうか?わかっているのは、その様子を熱感知器(サーモグラフィ)と集音マイクによって覗いている、先ほどの大柄な男ぐらいだろうか?

「君、かわいいね!ここに住むの?だったら、俺と・・・・・!」
「え?ええっと、その、あの」
「お楽しみのところごめんなさい。フィア、行くよ!」
錬が、ナンパされておろおろと戸惑っていたフィアの手を引っ張った。相手の少年が、「ちぇっ、彼氏がいたのか・・・」と、ガックリと首を落として去って行く。

この町に来てから、ちょうど二日が経過した。「EVE-00」の情報収集は、少しずつだが、進んではいる。だが、真昼の技術力とヴィドの人脈を持ってしても、「EVE-00」の情報はなかなか手には入らなかった。彼(彼女?)は相当人前には出たがらないらしい。
しかし、ならばなぜ、シティに喧嘩を売るような真似をしたりしたのだろうか?
もしかしたら、僕たちは何かとんでもない誤解をしているのでは・・・・・・。
「ねえ、彼女。今暇?暇だよね?いい店知ってるんだけど・・・」
「あ、あの、困ります・・・!」
「またかいっ!!」
ああ、もう!、と憤慨しながら、またフィアの手を引っ張る。
先ほどから、フィアは、通算7回ナンパされた。さすがはドイツ人の多い町らしく、フィアのかわいさもかなりよくわかるらしい。
錬が、人ごみの中を、ムスッとした表情で歩く。その後ろを、フィアはニコニコと笑いながら付いて行った。
(・・・やきもち、焼いてくれてるのかな?)

少しくすぐったくて、とっても嬉しくて。

フィアが、いきなり錬の手を握った。錬が驚いて振り返る。
「な、なに?どうしたの?」
その顔は、見ていて恥ずかしいほどに紅潮していた。フィアは、にっこりと微笑んで、
「心配しなくても、浮気なんかしませんよ。錬さん」
錬の顔が、さらに真っ赤に染まった。口をパクパクと動かしてなにか言おうとしたが、出たのはこの一言。
「わ、わかってるよ!」
本人からしてみれば、思わず口が滑って出た言葉なのだが、よくよく考えるとずいぶん意味深になってしまうセリフだった。
どうせ、また月姉がへんな入れ知恵をしたに決まっている。この前も、なんの前触れもなく、『錬さん、あえぎ声って、どんな時にでるんですか?』などと聞いてきたせいで、錬は我慢しながら飲んでいた牛乳をおもいきり吹き出してしまった。
その全てを顔面で受け止めた真昼に追い掛け回される錬を見ながら、月夜はお腹を抱えて大笑いをしていたのだった。
「えっと、は、早く行こう!月姉が怒ってるかも!」
「あ、そうでした!急ぎましょう、錬さん」
そう言って、フィアが駆け出した。
よかった・・・こういうのは苦手だ。この娘のこういうところが、健全な男の子からしてみれば刺激的過ぎる。たかがおつかいがここまで心臓に悪いとは思わなかった。
錬は、安心したようないしないような溜め息をつきながら、フィアの後を追い駆けた。


その様子を、通りの影から、水色の髪と瞳の少女が睨むように見つめていた。

いや、正確には、幸せそうな笑みを浮かべるフィアだけを。



<作者様コメント>
やっとオリジナルキャラが錬&フィアと出会いそうな感じに!
今回は「笑い」を含んでみたんですけど、どうでしょうか?
あ、そうそう。作者的都合(たんなる試験ですが)により、続きは
しばらくしたら載せさせていただきたいと思います。
1ヶ月はかからないと思いますが、どうなることやら。
頼んでおいた「電撃ヴんこ」がようやく届き、喜んで開けたところ、ウィザブレは載ってないし。
まあ、おもしろかったからいいかな、と。
アリソンドラマCDの通販も頼んじゃって、
今月はヤバ気な感じ(諭吉さんが羽ばたいてゆくのを追い駆ける作者)。
こんな作者ですけど、怒んないでくださいね。
これでも一生懸命やってるつもりなんです!

(一生懸命やってこれかいっ!!)

うっ・・・

<作者様サイト>
『なし』

◆とじる◆