■■先行者様■■

もう一人の最高傑作X


錬たちの借りた宿は、町のはずれにあり、人気(ひとけ)はもともと少なかったが、今は人っ子一人として姿は見えなかった。
「・・・誰もいませんね。もう夜だからでしょうか?」
「う〜ん、それはどうかなぁ。あんまり変わんないと思うんだけど」
確かに、脳内時計はすでに8時23分を示していたが、分厚い雲に覆われたこの世界は常に夜のようなものだ。気にする人間はあまりいない・・・はずだ
しかし現に、広い大通りには錬とフィア以外に人間はいなかった。動くものすらない。
「早く帰ろう、フィア」
「そ、そうですね」
【接近者の存在を感知。パターン『魔法士(wizard)』】
「「!!」」
二人のTーブレインが同時に反応する。
【Tーブレイン、戦闘起動。運動係数制御デーモン『ラグランジュ』常駐。知覚倍率を20、運動能力を5に設定】
錬が凄まじい速さで腰のサバイバルナイフを抜いて構えた。
(・・・どこだ?)
両手で握ったナイフを正眼に構えて、腰を低くしていつでも戦える姿勢を作る。フィアの力はまだ使えない。間違って相手が死んだりしたら、同調しているフィアが道連れをくらうからだ。
【0時の方向に分子制御を確認。攻撃感知。危険】
「フィア!!」
「きゃっ!?」
目の前に幾つもの氷の結晶が発生した。フィアの頭を下げさせ、全てを叩き落す。
分子運動制御に特化された魔法士。・・・<炎使い>
「へえ。やるじゃない」
「!」
いつの間にか、通りの10メートルほど向こうに人がいた。水色のショートヘアで、歳はおそらくこちらと同じくらい。だが、フィアと錬に5歳の違いがあるように、魔法士に外見は通じない。
「だれだ!?」
錬が叫ぶ。少女はそれを意に介さず、フィアを冷ややかに見つめて、
「あんたなら簡単にわかるでしょ?『天使』なんだから」
「・・・!」
フィアの顔がみるみる青ざめた。錬が奥歯を強くかみ締める。
知っている。フィアの正体を。
(くそっ!)
「フィアを・・・どうする気だ?」
そう言いつつ、フィアの前に庇うようにして立ち塞がる。
「もちろん、ベルリンに売り渡すわ。神戸が崩壊して、かなり取り戻したがってたみたいだから」
「させるもんか!絶対に!」
錬が敵意をむき出しにして吼えた。フィアが、すがるようにして錬の服を掴んでいる。ナイフを握る手に力がこもる。
その言葉に、明らかに気分を害した少女が答える。
「あんたには関係ないでしょ!そこをどいて!」
「関係ある!フィアが何をしたって言うんだ!!ただ生きたいって願っただけじゃないか!!」
服を引っ張られる力が増した。
すると、少女は一瞬驚いたように眼を見開き、冷たく笑った。
「『何をした?』『生きたいって願っただけ』ですって・・・?なら・・・」
「・・・?」
錬が、少女が震えていることに気づいた。
「なら、私たちはなにをしたっていうの!?4番(フィア)!!あんたが逃げたせいで、私たち他のベルリン所属の魔法士の扱いはもっと厳しくなった!危険だからって言って、使えない魔法士はみんな処理工場でばらばらにされた!ちょっと抵抗しただけで、ひどい虐めにあった!文句なんて言えなかった!なのに!なのになんであんただけ幸せに暮らしてんのよ!?そんなの絶対に許せない!私は今ベルリンから追われてる!でも、あんたと交換に見逃してくれるかもしれない!・・・絶対に、着いて来てもらうわよ!」
「・・・!!!」
フィアが口を両手で押さえた。白い手は、白を通り越して蒼白になっている。
(だからって・・・だからって・・・!!)
「だからって、フィアを渡すわけにはいかない!!」
ナイフを逆手で右手に持ち替え、もう片方の後ろ手でへたり込んでいるフィアの腕を掴んで強引に立たせる。
「こっちだって、あんたたちの恋愛ごっこに付き合う気なんてないわ」
少女の周囲の温度が急激に低下し、氷の弾丸が生成される。
錬は、少女が煌めく衣を身に纏う様子を睨み付けながら、思う。




この娘を渡すわけにはいかない。

例え、この命に代えても。




その様子を、茶色いコートの大男が、攻撃開始の許可を待ちながらじっと見つめていた。






<TO BE CONTINUED・・・・>



<作者様コメント>
いつもながら、他の方に比べて大変短いですね。すいません・・・。
今回は、オリキャラの秘密っぽいことが明かされました!
しかし、次回(もしくは次々回)、錬の生まれた秘密や大男の正体が明かされるのです!!
って、原作捻じ曲げすぎかな・・・?
・・・まあ、楽しみにしてて下さい!!
だれも待ってる人はいないでしょうが、とりあえず言っておきます・・・むなしい・・・。
戦闘シーンに踏み込めない・・・だって書けないんだもん・・・。
飼い猫様や画龍点せー異様みたく、ギャグでも書こうかなぁ・・・と思うこの頃・・・。

<作者様サイト>
『ないです(泣』

◆とじる◆