■■図書室の住人様■■

楽園ははるか遠く
序章 久遠に記憶は美しく


対戦時、シティロサンゼルスで作られた、光使い
と呼ばれる英雄たちがいた。彼らは主に、対一般
兵・対戦艦戦闘において、多大な戦果を挙げた。
それによく似た、対一般兵に特化された魔法士が
存在する。
その名は虹使い。

彼らはアポロンと呼ばれる、弓状のデバイスを使
って波動を自由に操り、光を用いたレーザーや音
を用いたメーザーをもって敵を射ち貫き、さらに
はマイクロ波での電子レンジの原理による大量虐
殺すら可能にした。
それゆえに、敵兵に最も恐れられ、そして最も忌
み嫌われた魔法士でもある。

幾重もの閃光が放たれ、何人もの兵士が断末魔の
悲鳴を上げながら虫けらのように屠られていく。
あとに累々と折り重なっているのは、シティ上海
の一般兵。
この阿鼻叫喚の地獄絵図をなしえたのは、たった
一人の青年だった。
ぼさぼさの銀髪。横暴そうでいながらも強い意思
を秘めた茶色の瞳。そして着崩した軍服。
彼の名は、シティニューヨーク軍情報制御部門所
属、ヒューイ・ヴァネット中佐。大戦中において、
戦場でもっとも多くの兵を殺した魔法士。「殲滅
士」とよばれていた。
「危ないじゃない。私にも当てる気だったの?」
「狙いが甘かったか?きちんと避けて撃ったつも
りだったが」すました顔のヒューイ。
「顔の3センチ前を通り過ぎたのを、避けて撃っ
たとは、普通言わないんじゃない?」刀を納刀し
ながら、ふんわりとした感じの声で抗議する女性
は、シティ神戸自治軍天樹機関所属、宇喜田亜矢
少佐。
釣り目とメガネが「私はキャリアウーマンですっ」
といった顔にしていて怖そうな感じがするが、ふ
んわりとした口調がそれをやわらげる。
軍服の上は、ジャケットではなく羽織を着ている。
軍内では「変人」と呼ばれている。顔と口調のギ
ャップもあるが、ヒューイと対等に会話ができる
のは彼女しかいないからだ。
そんな彼女にはもうひとつ呼び名がある。「新撰組
の宇喜田」

かつて情報制御理論者のひとり、天樹健三は騎士
を作り上げた。
身体能力制御・情報解体・自己領域という3つの
能力で成り立っているが、自己領域を使えるかど
うかは適正に依存している。
そこでこう考えられた。使えるかどうかわからな
い自己領域に、中枢を割くくらいなら、最初から
身体制御と情報解体に特化させてしまえばいいで
はないか。
そして出来上がったのが、武士。すさまじい加速
率を誇るものの、その反面、早すぎて後天性の魔
法士には使いこなせないためにすぐに実験は中止
になった。

しかし、亜矢は違った。めまぐるしい適正と適応
力で、紅蓮の魔女をこえる85倍という加速率を
完全に制御した。ちなみに呼び名は、電子書物を
漁り自分で考えたらしい。本人曰く、「苗字が沖田
だったら完璧だったのに〜」だそうだ。
「任務も終わったしとっとと帰るぜ、亜矢」
「うん。あ、そうだ。今日は、レノアちゃんと話
できるかなあ。いつも任務地がちがうんだもん」
「しらねえよ…」
軽口を叩きながら、帰還する彼らは知らない。
やがて、別れが来ることを。
そして、お互いに血のつながらない子をつれて、
再びであうことになることも。
シティマサチューセッツで。



<作者様コメント>


予告からやたらと久々です。
ていうか4ヶ月ですよ、4ヶ月。
この話は序章で、設定とかの紹介話です。
次からお話が進んでいきます。
ホントーダヨ、ニホンジンウソツカナイ(棒読み)

<作者様サイト>

◆とじる◆